午前7:30。
夜に主な活動を行なっている吸血鬼は、完全にぐっすりな時間帯である。
今や夢の中でカリスマを発揮しているであろうレミリアはもちろん、
従者の咲夜も、吸血鬼の主人に合わせて夜に活動する。つまり、咲夜もぐっすりしている。
そんな中、俺は徹夜を決め込んで、迷惑のかからない睡眠時間でいろいろ活動しようと意気込んだ。
そう、意気込んだ。
だけ。
「ぬはぁっ!?」
「むきゅっ…!あぁ、起きたのね。もう少し静かに起きてくれないかしら」
完全に睡魔に負けた俺はたしか玄関の前で倒れた気がするのだが……。
いつのまにかソファで寝ていた。
えと…たしか霊夢を見送ったのが5:00だ。で、そこからあまり時間も経たないうちに寝たから……
2時間半、寝ていた。
「無理はするもんじゃないわよ」
「……すみません」
迷惑かけまいと日中活動しようと思ったのに、結局パチュリーのお世話になってしまった。
……ん?パチュリー?
「え!?ここまで俺を運んだの!?」
「な訳ないでしょ?美鈴が慌てて運んできたのよ」
「めい、りん…?」
「門番よ」
「あ、あぁ……」
あの、瓦礫に埋まってた。あの子か。
完全に素通りしたが大丈夫だろうか。後でお礼を言わねば。
「あっ、ごめんな、パチュリー。寝てただろうに」
「安心しなさい。私は魔法使いよ?」
「え…うん。見りゃ分かる。え?」
「魔法使いは寝なくても大丈夫なのよ」
「えぇー……なんだそりゃ…」
無理すんなよ。魔法使いってそんな能力も持ってんの?
でもさぁ、無理すんなよ。
あ、でも、紅魔館では日中に動ける唯一の人だな。あと美鈴も。
これは貴重だぞ。
少々冷静になってきたか……。
改めて今置かれてる状況を確認する。
「…ここあの図書館?」
「そうよ。一晩で直って良かったわ」
「そう……」
昨日から気になっていた図書館。魔理沙に完全にボロボロにされてたからもう行かないかぁ…と落ち込んでたが…
ホントに一晩で直していたとは。魔理沙が直々に「直したからもう帰る!」と言っていたのだがいまいち信じられなかった。
が、ホントに直していたとは。これも魔法かな。すげぇー。
「な、少し見てっていいか?」
「本は丁寧に扱いなさいよ」
「もちろん」
そう言うと、即座に立ち上がり、いろいろ見て歩く。
本はホントに素晴らしいものだ。娯楽になり教材になり本自体が先生になり得ることもある。
それが部屋いっぱいにある。ただでさえ広いのに……。
お!これとか面白そうじゃん!『やってみたくなる!イタズラ魔法100選!』。今度誰かにやってみよーっと!
あ、俺魔法使えねぇじゃん。だぁーはっはっは!
「いや違ぇ」
こんな事しに来たんじゃなかった。いや、たしかに見て周りたかったが、今回は少し用事があった。ゆっくりとするのはまた別の日にしよう。
本を戻し、先程まで座っていたソファに座る。
そして、詳しい趣旨は話さず、単刀直入に聞いた。
「なぁ、パチュリー
「…何かしら。今はあまり邪魔しないで…」
"フラン"について、何か教えてくれるか?」
「!?」
申し訳ないがパチュリーの意見を遮って、俺はそう聞いた。
俺が昨日知ったのは、幽閉されたフランドールについてと、レミリアの本心だ。だが、それだけじゃあ足りない。いや、フランにとっては十分かもしれないが、同じ「家族」である、こいつらにも聞いておきたい。
何か思う事があるのか、案の定パチュリーは反応した。
「なんで知ってるのかしら」
「レミリアから聞いた。で、お前はどう思ってるんだ?」
「どうって言われても……生憎、引きこもってずっと本を読んでいたから、具体的には言えないわ」
「そうか…」
「でも」
「?」
でも、というとパチュリーは少し寂しそうな笑顔を見せた。
「ここまで賑やかじゃないと、それはそれで調子狂うわ」
「……そっか、そっか」
「な、何よ。急に」
思わず笑みが零れる。何だ、やっぱり大切なんだな。そう思っている時点でその人は既にかけがえのないものなんだよ。
そう思うと、思わず笑顔もほころんでしまう。
今の一言で、フランへの愛は強く伝わった。
ほんとだ。パチュリーは良い奴だよ。レミリア。
「いいや、何でも。急に悪かったな、パチュリー。ほんと助かる」
「そ、そう……」
悟られる前にお礼だけ言って去る事にしよう。歩いて扉へと向かう。
ーーバレてしまってはきっと心配される。
昨日会ったばかりだが、紅魔館のメンバーは基本優しいとレミリアが言っていた。それもそうだろう。主人があれだ。自然とその優しさは移るだろう。
じゃなければ、俺をここまで運ばないし置いてもくれない。
なので、なるべく心配はさせたくはない。
意味不明な俺の質問に素直に答えてくれたパチュリーに今一度感謝する。
「ありがとう。次来るときは本読ませてもらうよ」
「……えぇ、待ってるわ」
そう言って、図書館の扉を閉めた。
うーん、パチュリーの事だし、多分頭いいだろうし、悟られたかな。
まぁ、止めてこないのは優しさだろうか。
うん、ありがとう。
心の中でパチュリーにそう言った。
よし、次は……
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
「は、フラン様ですか?」
「うん」
「そうですね〜…」
次に話を聞く限り、なにかと不憫な門番さんこと美鈴。
昨日のレミリアが色々と話してくれたのだが、美鈴の話があまりに不憫で可哀想で忘れられない。まぁ、その時レミリアは「中国」と呼んでいたので名前自体はさっきのパチュリーとの話で知った。
もっと門番さんを労ってあげようね。メイド長さん。
そんなこんなで話自体は今日が初めての美鈴。軽く挨拶をすまし、パチュリーと同じように、単刀直入に聞いた。
一瞬驚きはしたが、特に聞いてくることもなかった。好都合だ。
「私自身、門番としてずっと紅魔館に仕えておりますが、あまり深くは関わらなかったですね」
「そ、そうか……」
まぁ、美鈴が仕えてから何年か分からないが、幽閉された時間から考えると関わってこれたのは約90年。十分多いが、これといった接点は無かったか…。
「あ、でも」
「ん?」
「結構な頻度でお庭の花を見に来てました!楽しそうにお庭を走り回ってましたね!!」
「へぇ…!そうなのか!」
「はい!ですから…その姿が見れないとなると、かなり寂しかったりします。何せ、誰とも関わりが薄い役職ですし……」
想像通り、フランは元々は活発な子だった。それもそうか、吸血鬼にも関わらず、積極的に人などに関わろうとしていたんだしな。あまり関わりのない門番にこれほどの表情をさせるほどフランは愛されている。そして、フラン自体も紅魔館を愛してる。
それじゃあ……
ーー地下はさぞつまらないだろうな……。
「うん、分かった。ありがとな美鈴!」
「あぁ、いえいえ!お役に立てたなら光栄です!」
「…今度、一緒に色々話そうな……」
「何を急に……あぁ、まぁ、話し相手がいると多少楽ですし…助かります…」
全部終わったら、美鈴を全力で労ってあげよ…。そう心の中で誓った。
魔法使いにまた来ると言ってしまったし、
門番とも新しい約束もしてしまったし……
ーーこりゃ死ねないなぁ…
命くらいくれてやると考えていたが、揺らいでしまうよ。
ほんと、ここの人達はお人好しばっかだ。
なおさら、失敗できないな。
美鈴にもう一度お礼を言って、紅魔館の中に入る。
だいたい分かった。紅魔館の人達の気持ち、フランの明るい人柄、それを蝕んでいく『狂気』。
助けると誓ったからには、全員救ってやる。意地でも、ハッピーエンドにしてやる。
俺は今一度決意を固めた。
あとは、
ーー夜を待つだけだ。
次回、フランドール。
ついに登場です。