紅魔館周辺をフラフラと探索していたらあっという間に日が暮れた。
にしても、ほんとここは面白いものでいっぱいだ。森で変なキノコやら植物を見つけては、パチュリーから借りた分厚い辞書でパラパラとめくって色々調べていた。幻想郷全体を調べ終わるころには、俺おじいちゃんになってないかな。そんな不安も好奇心の前では無力なのだがね。
まぁ、そんなこんなで好都合にもあっという間に日が暮れた。
「ただいま戻りました」
「あら、おかえりなさ……シオン、あなたなんでそんな泥だらけなのよ」
「冒険してました。あ、それと起きたんだね。おはよう咲夜」
「えぇ、おはよう。早くお風呂に入って。ご飯にするから」
「あぁーい」
昨日の一件に参加していた咲夜ともかなり仲良くなれた。
といっても、フランのことに関してはその時既に寝ていたので咲夜は知らない。
言うべきかとは思っているが、なるべく心配はさせたくない。
なら、今のうちに聞いておくべきかな。
「あぁ…咲夜。少し聞きたいんだが」
「ん?何?」
「フランについて、どう思う……?」
「!?……なぜそれを?」
「昨日レミリアから、少しな…」
「お嬢様……」
フランの名前を口にした途端花に水をあげる手が止まった。
そして怪しいものを見るかのような目で俺をしっかりと見据えた。
一体それはなんの感情なんだ?
聞くのは骨が折れそうだが……。
だが、問いたださずとも、次の言葉ではっきり分かった。
「……別に、妹様に関してあなたに言うことは特にないわ」
「…うん。そうかそうか。よし!分かった!ありがとな」
「何よ。急に」
「いや?咲夜の気持ちが知りたかっただけだ。じゃ、風呂借りるな」
「う、うん……」
まぁ、その反応は普通だろう。仲良くなったとはいえ、昨日の今日で仲良くなったようなものだ。そんな奴が紅魔館の隠し事を知っていたらそりゃ誰だって疑う。それでも、紅魔館のメンバーの優しさのおかげでとても活動しやすい。
ーー主人に似たな……
思わず笑みと共にそんな思考が過ぎる。
だから、きっと、
フランもレミリアに似て、良い子なんだろうな。
そう思うとワクワクしてきた。
危険な目に合わなきゃいいけど……。
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ご飯もそこそこに済ませ、今の時刻は午後の7:40程だ。
ついさっき魔理沙が紅魔館にやってきたのだが「宴会は明日になった」との事。色々察してくれた霊夢の気遣いらしい。ほんと助けられっぱなしだな。
終わったらとびきりのお酒を持っていってやろう。金ないけど。
これからの事を考えると思わず笑ってしまう。
「…んふふふ……」
「え、何どうしたの。気持ち悪いわね」
「ひでぇなレミリアさん…」
いや、でも今のは俺の笑い方が悪かった。
まぁ、これからフランに会いに行くというのに笑い始める俺はレミリアだけでなく紅魔館の人達から見ても同じ反応をされるだろう。
今俺は、咲夜がフランの部屋から戻ってくるのを待っている。
食器を持ちに咲夜はフランの部屋まで行った。そして咲夜が帰ってきたら俺はフランの部屋に向かう。
地下室に繋がる扉は開けといてもらえるようレミリアに頼んだ。
だから、咲夜は地下室への扉の鍵をかけずにしておく。
するべき事はだいたいは整った。あとは待つだけだ。
その時は案外早く来る。
廊下を、玄関の方から、奥のキッチンへと歩く音。
ーー来た。
レミリアは不安の表情を浮かべる。
「大丈夫?シオン。何かあったらすぐに逃げて来なさいよ?」
「あぁ、善処するよ。何が何でも、だ」
「うん…。待ってるわよ。ここで」
「じゃあ………」
……あ。
ふと思いついたように、閉じかけた扉を少し開け、レミリアに言う。
「最後を決めるのはお前かもしれない。一応それを分かっていてくれ」
「!!……えぇ、分かってるわ」
そんなのとっくに。そう訴えかけてるような気がした。
心強い姉を背に、俺は地下室へと向かった。
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誰か遊びに来てくれないかしら。
もうお人形遊びは飽きちゃった。
咲夜もそんなに話してくれないし。
お外にもいけない。
昨日はお姉様達で面白そうな事してたなぁ…。
私も混ざりたかった。
一緒にお外で遊びたかった。
寂しいよ。
だれか。
助けに来てくれないかしら。
コンコン。
フランにとって、鳴り響いたノックの音は、
同時に心を打ち鳴らすのであった。
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コンコン。
「フランっていう少女がいるのはここか?」
中からドタンバタンと音がする。落ち着け。
心はまだまだ子供だとレミリアは言っていた。
俺も見た目に合わない程度には子供である。好奇心という面で。
しばらくすると扉は色白な小さな手で開けられた。
「だ、誰……?」
少しだけ怪訝な目をしながらもどこか輝きをもった目は吸い込まれるように綺麗な目だった。
…………ん?おかしいな。
まぁ、考えすぎか。
膝をついて、扉を開けた金髪の少女と同じ目線になった。
「俺はシオンっていうんだ。ここ最近、紅魔館によくしてもらってね、レミリアの妹である君とも話がしたくて会いに来たんだ!」
「で、でも鍵とかかかってたでしょ!?どうやって……」
「う〜ん…気合い!」
「…ん、ふふっ……何それ」
何だか俺の方が楽しくなって来ちゃったな。
「な、中に入る……?」
「入れてくれるの!?入る入る!」
「嫌じゃない……?」
「嫌な理由が見当たらないぜ!」
何だか、久々に楽しく会話してる気がする。
ホントだな。この子凄いや。
やっぱ、狂気なんて感じない。
「じゃあ…どうぞ!」
「あぁ!お邪魔しまーす!」
この子は本当に、レミリアの言う「フランドール」だと言うのか?
少しだけ、疑ってしまうよ。
まぁ、いずれ現れるだろうか。
それまで、お話していようか。
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「でね!お姉様ったら泣いちゃったの!」
「泣いたのか!?ははは!レミリアも怖くて泣くのか!!」
「お姉様昔っからビビりだもん!すっごい可愛かったよ!!」
「それは見てみたかったなぁ!!」
俺とフランが打ち解けるのに時間はかからなかった。
予想通り優しい子で明るい子で何とも愛らしい。
会話していくとフランという人物像が強く見えてくる。眩しいばかりの笑顔に俺もつられた。
こんな笑ったの、初めてだ。
95年間。吸血鬼からしたらたった95年間。経験したことはあまり多くはないだろうに、フランの話題は絶えなかった。花壇に咲く綺麗な花、幼き日のかりちゅまレミリア、両親との思い出、幻想郷に来る前の話。
それはとても美しく、劇的で、これが映画やドラマなら今頃泣いてスタンディングオベーションでもしているだろう。腹抱えて笑っているだろう。
それ程、少女「フラン」の見ていた世界は綺麗だった。
ここ最近になって楽しいことが増えたとはいえ、ここに来るまでは俺もフランも変わりなかった。だから、彼女の話す姿が俺には眩しくて、美しくて……
俺、この子とならずっと喋ってられるぞ。
………あぁ、
「ーーずっとこの時間が続かないかなぁ……」
今になって「狂気」何か感じたくなかった。
「それは無理だよ」
幼い少女の声が冷たく響いた。
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あぁ、楽しい!!
こんなに誰かとお喋りしたの初めて!!
シオンとならずっと喋っていたい!!
突然現れて、こんな私に「会いたかった」なんて言う人は初めてだった。
彼はここ最近来たばっかだというのに、私にこの世界の美しさを教えてくれた。「じゃあ、ここを出れるようになったら、一緒に散歩しよう!」
そんな約束もした。私にとっては初めての経験ばかりで、子供のようにキラキラとした目で、話しかけては、私の話を興味津々に聞いてくれる。
夢のような時間だ。彼にずっといて欲しい。
ずっとこの時間が続かないかなぁ……
ーーそれは無理だよ。
!?
頭に激痛が走る。
来るな。お願いだから。
ーー本当に一緒にいたいの?
当たり前だ!シオンは私に必要なの!彼と一緒にお日様の下を散歩しようって約束もした!!
ーー妬ましいね。私が95年かかって出来なかったこと、そいつは簡単にしちゃうんだ。
シオンはただの人だぞ!人にも関わらずお姉様達と、それに私にまで話しかけてくれた!彼と一緒なら、私も……
ーー無理だよ。お前と奴は真逆だ。
違う……違う…!お願いだから……今だけは、やめて…!!
ーーどうせ、全部壊しちゃう癖に。
お願いだから……シオンとだけはっ………!!
虚しくも、届かなかった。
ーーごめんなさい。約束守れそうになくて。
「ずっとこの時間が続かないかなぁ……」
「それは無理だよ」
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フランちゃん登場!
シオンと同じ境遇ながらも変わってしまったフランを、
シオンはどうするのか。