「……始まってしまったわね」
「……えぇ」
下から感じる揺れは、悲劇の始まりを確信させるには十分だった。
レミリアは静かに祈った。
ーーどうか、無事でいて。
それくらいしか出来ない。紅魔館の主人として情けない事けれど。
あの子の姉として、情けないのだけれど……。
でも、シオンは去り際に私が必要になる時が来ると言った。
その言葉を信じるわ。
だから、
どうか無事でいて。
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
明らかに雰囲気が変わった。
これは……フランじゃねぇな。
「出て来ちまったか……お前、誰だ」
「酷いなぁ…フランだよ!」
「へぇ……」
俺の冷たい問いかけに顔色一つ変えず、フランはニコッと笑う。
無論、心からの笑顔などではない。
例えるなら、詐欺師のような。裏が見え見えだ。
伊達に人の顔色見ながらビクビク生きてきたわけじゃねぇよ。
それに、俺の反応にそんな反応、フランが出来るわけない。
少女のフランは、こんな返答されたら一瞬であっても表情が固まるはずだ。
それなのに、"こっちの"フランは、反応すらしない。
「なるほどね…狂気の「フランドール」って訳か……」
「そんな事どうでもいいからさ!!お人形さんごっこしよ!」
「……あぁ、いいぜ」
無理やり自分のペースにしようとしてるな。
無理に反発したら何が起きるか分からない。ここは合わせよう。
「じゃあ!!
ーー壊れないように頑張って!」
「!?」
ーー刹那。フランは差し出した手をギュッと握ると俺が元いた場所は突如として小爆発を起こし、壊れた。
『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。ギリギリで避けてなければ今頃木っ端微塵だな。最初に見れたのは幸運だ。対処できる。
あとは、奴のスペルカードを避けきるだけっ……!!
それに、合わせる必要なんか無いな。元々こいつは狂っていた。
待つ必要はないな。
「俺"が"お人形ってことね…」
「すごいすごい!避けた!でもね!これで終わりだなんて思わないで!」
「ハッ…お手柔らかに頼むよ」
初の弾幕ごっこか。必死で避ければいいんだな。
で、程よく攻撃を当てる。
誰も傷つけやしないからな。
いつのまにか宙に浮いてるフランを見据えた。
フラン待ってろ。すぐ助けてやる!今からそいつ
ぶん殴ってやる!!
レミリアが、な。
それまで、我慢だ。
◇◇◇◇
ーーあぁぁ…ごめんなさい……ごめんなさい…。
心の中の"少女"フランはシオンに何度も訴えかけた。
もう、完全に飲まれつつある自我は、心の中で涙を流す。
完全に飲まれたら、戻るには時間がかかる。
それまで人間のシオンが避け続けるのは難しい。
きっとここでシオンを殺めてしまえば、いよいよ本当に終わりだ。
…最後に、美鈴と、パチュリーと、こあと、咲夜と、お姉様と……
お話…したかったなぁ……。
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
「禁忌!!『クランベリートラップ』!!」
「ぐっ……!!」
「あははぁ!!すごいすごい!ほらもっともっと!!」
「手加減をっ……知れっ…!」
流石吸血鬼だ。とんでもない量の力だ。これが霊夢の言っていた妖力と言うものだろうか。肌にビリビリと伝わってくる。
情けない事に少しばかり足が竦みそうだ。
だけどっ……!
「うらぁっ!!」
「!?」
全身に溜めた妖力を一気に解放して、直撃しそうな弾幕を壊す。
少しばかり、過去に頼ってみるか……。
死ぬほど苦しいけどな……。
ーーこの状態の俺にも多少なりに妖力はある。もっとも俺の場合、自分にとって一番の思い出が力を出す条件なのだと。
つまり、過去の事を思い出しては、闇を溜めてそれを外に出す。
うん、これ、自滅しそう。
「っとぉ!!」
「考え事なんてしてる暇ないよ!!」
「あぁ……全くだね」
フランは次の準備をする。
「ーー禁忌!『レーヴァテイン』!!」
「………それ…似合ってねぇよ?」
狂気の細い右手に握られているのは身の丈に合わない大剣。
それも炎を纏っている。やっぱここの少女たちはみんな物騒だ。
レミリアのグングニルに対して、炎の大剣「レーヴァテイン」か。
ビビるほどデカイ剣だが、
直線的なら避けやすい!!
「はぁっ!!」
「ふっ…!」
「うりゃぁっ!!」
「くっ……!」
嘘だろ!?こんな大剣どうやって振り回してんだ!!
と、思った瞬間、そうだ、この子吸血鬼だ。と思い出した。
そりゃ、筋力も桁外れだろうね。
狂っても吸血鬼か。狂った方が余計恐ろしいね。
右に左に、あるいは上から。かと思えば裏から切りつけられる。
「……っとぉ!!」
「すごい!これも避けるんだ!」
数発掠めたがね。気づけば腕には擦り傷がいくつもあった。
どうやら、大剣攻撃は終わりみたいだ。だんだん掴めてきたぞ。俺はそこそこ運動できる方なんだぜ。無駄にな。
次の攻撃に備えて、体勢を立て直し、フランを見る。
さぁ、次はどんな攻撃だ……!?
「なら、そろそろ本気だね!」
「…本気じゃねぇとか冗談よせよ…」
「んふふっ…それじゃあ!!
ーー禁忌!『フォーオブアカインド』!!」
「……え?」
自分の目を疑う。フランが一、二ぃ、さ
いやいやいやいや!?二って何!?二って!
そのまんまの意味である。フランが4人いる。
そう、4人いる。
「スペカってそんなのもアリかよ…」
「じゃあ、行くよぉ〜!」
「冗談きついぜ……」
そこそこ広いフランの部屋で、フランと俺とフランとフランとフラン、合計5人での戦いが始まった。
無論、弾幕は飛んでくるし、4対1である。
「ぐっ……!!これきついぜ…」
「まだまだだよ!!ちゃんと逃げてね!!」
「言われ、なく……てもぉっ!」
本当にギリギリだった。触れたら死ぬと思うと瞬きすらできない。次々に四方八方から飛んでくる弾幕はとんでもない量で流石にこのままでは限界だった。
裏から飛んでくる弾幕は何とも避けづらい。服の色々な箇所が焦げていくのが分かる。
「うーん、これも避けるのかぁ……」
「避けれたのか?もう、一部くらいなくなってるだろ。これ」
「でも、まだ終わらないよ!!
ーー禁忌!『レーヴァテイン』!!」
「はは……ふざけんなよ」
細い腕で炎の大剣をかつぐ4人の少女。
こんなん、もうイジメだぜ?
ーー分身を倒すしかないか……。
にしても、
「うおっと!!…あぶねぇ!ぐおっ…!!どぅりゃっ!!」
「すごーい!大道芸みたぁーい!」
「はは…そりゃどうも……」
「でも余所見はいけないね?」
「な……!?」
フランが1人居なくなってた事に気付いた時には遅かった。
背後にまで迫ってたフランの分身は大きく剣を振り下ろした。
「うぐあっ!!」
剣はギリギリ避けきれなかった俺を、肩から腰にかけて斜めに切り裂く。
傷口は大剣の纏う炎で焼かれた。
怯んだところを二度、三度、四度。追撃は紙一重で体を捻って躱すがやはり斬られている。
気づけば、全身傷だらけ火傷だらけ。
ーー満身創痍ってやつか?
だけど、死なないんだ。こんなところじゃ。
でも、これキッツイなぁ……。
どうにか、分身を倒せれば……
だが、この状況で見抜くのは中々……
!!
いや…何だ…この分身
結構バレバレじゃないか。
「ふふ……」
「何?急に笑って」
「いや?別に」
「変なの!でも大丈夫!次は笑える暇なんて無いほどに追い込んであげる!!」
「もう十分だぜ……」
俺がこの状況を脱出するにはな。
大剣を持った4人のフランは横一列に並び一斉に斬りかかる。
するとしたら、
今しか!!
「うぅおらぁあ!!」
「!?」
バレないように、な。
こっそりと弾幕を背後に隠しておいたんだ。
襲い掛かられると同時に瞬時に力を溜めて、分身に黒い弾幕をぶつける。
へっ…大当たりだな。
黒い弾幕が当たった3人の分身はボン!と音を立てて消える。
「よく分かったね!」
「あぁ、だって、
めちゃくちゃデカイ魔法陣あったし」
バラしてるようなもんだった。
やはり、分身は何か魔法の類のようで、分身の背中には体の大きさ程の魔法陣があった。
やはり、それなりに欠点はある。それはこの狂気に満ちた最恐の吸血鬼にも言える。
どこだ、どこに……
なんて、考えてる暇など無かった。
「うぉっ!!」
「私今すごく楽しいの!!もう我慢できそうにないの!!だから早くさ!!
ーー壊したい!!」
「!?…ぐっ…!!」
スピードが違う。痺れを切らしたか。
…ようやくか。
だが、こっちもこっちで限界だ。案の定フランの能力を避けきれず脚の一部が焼けた。
能力を躱すと次に猛スピードで大剣が迫る。横から薙ぎ払うようにくる大剣をしゃがんで躱す。
が、体勢を戻す前にフランは俺に照準を合わせ、手を、
「くそっ!!」
バン!!
握ると一層強くなった爆発がその箇所を焼き尽くす。
足に力を纏って思い切り飛び退けたもんだから、足がビリビリと痛む。
くそ…妖力使うな……
一応、俺の能力は妖力を要さない。
が、疲れた体で使うとどうなるか分からない。
もしもの時のためにとっておきたいが……
息を切らし、全身から焦げた匂いやら血が滴る。
ようやく、フランを目に収めることが出来た。
…………
え?
「なんっ……!」
思わず、呆然としてしまった。
だから、反応出来なかった。
しまった……
「がはっ……」
「あは、あはは!!あはは!!私の勝ちだね!!シオン!!私の勝ちよ!!」
炎を纏った大剣は深々と俺の体を貫いていた。
炎は消えることなく、出血は止まることなく。
口からは大量に血が出る。
喋れる暇なんか無いが、一応言うぞ。
「だったら……もっと…嬉しそうにしたら、どうだ……?」
「え……?」
「それ……嬉し泣きなんかじゃねぇだろ……」
そうか。これは、少女フランだ。
そう直感した。
呆然とフランを見ていた時、フランは泣いていた。
全然楽しそうなんかじゃ無かった。
そうか…戻ってきたのか……強いな、フランは。
ーーでも、我慢は良くねぇぞ?
フランは、涙を抑えきれず、泣いた。
「シオ、ン……う、あ、あぁぁ……」
泣き始めると同時に、大剣は消え、出血は増える。
どうにか耐えていたが、
あぁ……もう無理だ……。
シオンは膝から崩れ落ち、フランの側で横たわった。
「うああああああああああぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」
フランは倒れる俺の肩を強く握り、大声で泣いた。
すまん、レミリア。
裏切っちゃったな。
俺は、泣いてるフランを抱きしめることも出来ず、
目を閉じた。
次回、愛とは