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揺れが収まったみたいだ。1時間ほど続いた揺れは不気味な程に静まり、その静寂はフランの狂気とシオンの戦いが終わったことを確信させた。
ーー行こう。私も、姉として。
私が必要になるとシオンは言ったが、その意味は分かる事が出来なかった。
それでも、私はシオンを信じて、フランに会いに行くわ。
能力は使わないと約束もしたシオンは、ホントに能力を使わず、フランに挑んだに違いない。
その約束は、レミリアを不安にさせるには十分だったが
私は信じてる。無事だと。
覚悟を決めて、立ち上がる。
「私は行くわ。咲夜」
「……お伴します」
フラン、待っていて。
今、会いに行くわ。
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レミリアと咲夜は、足早にフランの部屋の前まで来た。
本当に静かだ。誰かいるのか疑問に思うくらいに。
話し声も、フランの声も、シオンの声も、何も聞こえない。
一体何をしているのかしら?
最悪のシチュエーションが頭を過るが、それはないだろう。
私は先程、少しだけ運命を見たのだ。
シオンも無事で、フランも笑ってる、そんな
幸せな運命を。
だから、そんな事有り得ない。
そんな事あったら、
絶対許さない。
コンコンコン。と、木の扉を三回叩く。
「フラン?私よ。レミリアよ。入っていいかしら?」
「……あぁ、はーい」
「ん?元気ないわね。入るわよ」
いつもより声は小さく、元気のない妹の声は、フランの声では無いみたいだった。
まさか、まだ狂気が?とも思ったが、何も感じない。
それに、耳をすましてみても、明らかに声が足りない。
一つ、昨日初めて聞いたあの声がちっとも聞こえない。
シオンはいるのだろうか?
もしかして、眠ってしまって、暇になったフランは不貞腐れて元気が無くなっているとか、そんな感じなのだろうか。あいつ、しっかり寝てないみたいだし、実際、顔色も悪かった。シオンは「元々だ!」なんて言うけど。
だとするのならば、シオンは何て薄情なやつだ。人の妹ほったらかしで寝るなど……
ちゃんと叱ってやらねば。
鉄のドアノブをしっかりと握り、右に回す。
あぁ、早くフランと話がしたい!
勢いよくドアを押す。
「フラン!元気ないのかしら?どうかしたの?」
「うぅん…!元気だよ!」
「そう、良かった。あの、ところで……
シオンは?」
フランは元気だなんてとてもじゃないけど思えなかった。
ぺたんとベッドに座り、濁った目をして、震えた声で無理に笑うその仕草は見ていて辛いものだった。
本当に……何が起こった?
それに、フランと一緒にいたはずのシオンがいない。
辺りを見回しても、フランが今座っているベッドに目を向けても、誰もいない。天井を見上げても、もちろんいない。
なら一体……
シオンが見当たらず、困惑する私にフランは
口だけを三日月に歪め、曇った声で、けれどハッキリと言った。
「シオンなら、そこで寝てるよ」
「え?……あら、本当ね。床でなんか寝ちゃって……」
なるほど、下か。
にしても、品がないわねぇ……いくら、絨毯が柔らかいからって床で、しかもうつ伏せで寝ることはないだろうに。
ベッドのすぐ近くで寝ているシオンに咲夜と共に歩み寄り、起こす。
肩を揺する。やけに重いわね……。
「ちょっとシオン?起きなさい!フランをほったらかしにするなんてどういう……了見…………え?」
うそ、でしょ………?
沈みきったうつ伏せの体を仰向けにしようとしたところで、ようやく気づいた。
腹部から流れる大量の出血に、全身に負った火傷に傷。
真っ黒な髪がかかる、二つの黒目は半開きで、目に光は入っていなかった。
絨毯にもあちらこちらに血痕があり、部屋の所々は焦げたり、壊れたりしていた。顔を上げてベッドの上にいるフランを見れば、顔には血が付いている。
嘘だと言って…………。
「フ、ラン………?」
「壊れちゃった。でも今までで一番楽しかったよ!!ピョンピョンしてて私の攻撃ぜんぶ、
「フランッ!!!!!!」
…!?」
妹を怒鳴ったのは初めてだった。
冷たくなったシオンをそっと置き、手をグッと握りしめた。
どうして、こんな……
だって、こんなの……こんなの……
「私が望んだ運命なんかじゃないっ!!」
気づけば、レミリアは大粒の涙を流しながら、フランに掴みかかっていた。
「何のために私があなたをこんな所に入れたと思ってるの!!私たちがっ、何のためにここに来て!!異変を起こしたと思っているの!!!!」
「お嬢様!!」
とっさに咲夜が止めに入るが、レミリアの出す妖力に押し返される。
フランは少し俯き、冷たく呟く。
「私が邪魔だったからでしょ。ここに来たのは誰にも責められないように、
「違うっ!!」
………」
「ここに入れたのは、フランにもう傷ついて欲しくなかったから!!!!
ここに来たのは、ここならあなたも楽しく生きれると思ったから!!!!
異変を起こしたのは、あなたと一緒に外を歩きたかったから!!!!!」
「…………」
「またフランと一緒に遊びたかった!!またフランと一緒に美味しいもの食べたかった!!またフランと一緒に綺麗なものを見たかった!!またフランと一緒に喧嘩したかった!!
ーーまた、フランと一緒に笑いたかった!!
「!!」
「それなのにっ…!それなのにぃ……!!」
涙はとめどなく溢れてくる。意思とは関係なく、ベッドにポロポロと落とす。
ついぞ、手の力は抜け、だらん、と手は重力に従う。
そっか、
ーー間違えてしまったのね。私。
「!?」
「だからっ……ごめんっ、なざい……」
先刻より多く溢れる涙を流したまま、フランを抱きしめる。
両手で、強く、抱きしめる。
鼻声で、上手く喋れやしないけど、
貴方にだけは伝えたいの。
「寂しかったよね……私も、すごい寂しかったぁ……。
怖かったよね…暗い部屋で、ずっと一人で……。私も怖かった……いつか、フランがいなくなってしまうんじゃないかって……早くこうしてあげれば良かったね……。
辛かったよね……それなのに、私はあなた助けるどころか、ここに閉じ込めてしまった……。ごめんね……本当に…ごめんねぇ……。
今度は…お姉ちゃんらしくするからっ……!今度は…ちゃんと抱きしめてあげるからぁっ……!だからお願い………
戻って来てよぉ……!
フラン……!」
パリン!!
と、世界が弾けた。
まるで、私とフランの間にあった隔たりは無くなったかのように、地下のこの部屋に、一気に光が差し込んだかのように明るくなった。そんな気がした。
フランは、震えた細い手で、私を抱きしめ返してくれた。
「お姉ぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!
うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
「フラああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁン!!!!!!
うえええええぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!!」
◇◇◇◇
その日の紅魔館は大きな泣き声で埋め尽くされたり
吸血鬼の姉妹は抱きしめ合って大声で泣いた。
咲夜も、そんな二人を見て涙を零していた。
それはれっきとした愛の形であり、れっきとしたレミリアの本心だった。
レミリアの言葉はフランの心に深く刺さり、レミリアの愛はとても熱いものだった。冷たい氷の隔たりを溶かし、フランを暖かく包んだ。
フランもまた、姉の愛情を暖かく迎えた。ホントに優しい子だ。約500年もの間で膨らんだ狂気はすっかり無くなり、レミリアと抱き合っているのは少女フランだった。
家族の愛ってのは、こんなに温かいもんなんだね。
命を懸けてでも見た甲斐があった。
また一つ、素敵なものを見れた。
だけど、俺はここで終わりみたいだ。
「…良かったなフラン……」
ボソッと呟いた俺は、
髪を真っ白にして、
目を真っ赤に充血させていた。