そこそこ大きな破裂音と共に、魔理沙の声は響いた。
「ぬぅおおぉぉ!?」
「…………」
「……うん!よし!中々良い実験結果だな!」
「さっきから爆薬して作ってねぇけど」
これで十数回目の爆発だ。
え、なんで?なんでキノコすり潰したり乾燥させたり煮るだけで爆発すんの?幻想郷は人だけじゃなくキノコも物騒なの?
と、まぁ、魔理沙の魔法の研究の様子を見ていたら爆発しか起きてないもんだから流石に口を挟んでしまった。
「火力は多くても無駄じゃないからな!」
「お前いつか自分の家すら木っ端微塵にするんじゃねぇの?」
何というか、危なっかしい。魔法の研究とはこういうものなのだろうか。まぁそれもそうか。魔法も元々は人間の好奇心が生み出したもので、その魔法を夢見ていたら、いつしかスマートフォンやらパソコンやらが生まれた。
つまるとこ魔法は人間の好奇心の塊のようなものだろうか。そう考えれば、色々試したくなるのも分かる。だがな……
「お前ちょっとはそのキノコについて調べたらどうだ?」
「あぁ!たしかに!初めてみるもんだったから好奇心が上回っちまった!」
うーん、否めない。けれど俺は本で得た知識を元に色々やってみる派だ。
案外慎重な男なのか?俺。あ、いやでも好奇心でこの森に立ち寄ってるあたり魔理沙と同じだわ。まぁ、魔法の森に家を構える魔理沙程ではないがな。
とりあえず、しっかりと本で得た知識を話す。
これだけ本を盗んでいるんだからちゃんと見ろよ……。
「そのキノコは『ハレツダケ』っていうやつで、その名の通り破裂するだけ。どう足掻いても爆発する。たとえ水に入れて湿気らせようとしても、謎の胞子と水が化学反応を起こして破裂する。だから雨の少ない、もしくは当たらない木陰に生えるんだと」
「はぇ〜……お前この短時間でそんなに覚えたのか」
「まぁ、本を読むしかなかったし……それに短時間といっても1時間はいたぞ」
一通りキノコについて説明すると魔理沙は感心したような態度を見せた。
でもまぁ、これを聞けば「やりぃ!」とでも言わんばかりに爆弾を大量生産するだろう。だがそれは避けたい。何故ならばこのハレツダケ、秋口になると美味しく食べられるらしい。大事な食料だ。それは忌避せねば。
それに、俺としては化学反応で爆発する謎の胞子の方がよっぽど気になる。
まぁ、それはともかくとして。
大方、魔法の研究とやらのやり方は分かった。何とも大きな収穫だ。今度から度々寄ろうか。霧雨魔法店。
ただ、俺としてはまだ森の探索が残ってる。そろそろお暇しようか。
「んじゃ、魔理沙。俺はそろそろ探索に戻る」
「あぇ〜もう行っちゃうのか。ま!しょうがないな!ここは面白いし、色々見るといいぜ!」
「あぁ、そうさせてもらう。ありがとな」
「おう!またな!」
そう言うと、俺は魔理沙に背を向け、霧雨魔法店を後にした。
……あのキノコ、持って帰ろうかな。
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
探索を再開して1時間ほど。森は中々広くて退屈しない。この時期、どうやらハレツダケが多いみたいだ。でも魔理沙は初めて見たっていうしなぁ……。
もしかして何十年かに一度見れるレベルの希少種!?
だとするならば大事にしてやらねば。足元に生えたキノコをそっと撫でた。
「ふむ……そろそろ森も終わっちゃうかな……」
霧雨魔法店も遠く、かなり奥の方まで来たみたいだ。森は濃くなり、少し怪しい霧も立ち込めている。
ーーたしか、悪い妖怪もいるって言ってたか……。
ここに来た当初、霊夢がそう教えてくれた。
うーん、能力は何だか危ない気もするから使いたくないし……フランの時みたいに妖力で色々……いや、でも今の俺じゃ衝撃波を出すくらいしか出来ない。ちゃんと弾幕とか戦い方とか知っておかねばな。
とりあえず、怖くなりそうだから早めに戻ろう。
と、振り返ろうとすると何やら人影が見えた。
「……ん?誰だ?魔理沙?」
少し遠い人影にしっかり向き直り、目を凝らしてみる。
金髪……魔理沙か?と思ったが……違うな。
ショートカットだ。それに服が白黒ではなく……青か?
ふむ……大方魔理沙と同じ魔法使いだろうか。見るからに少女……か、魔理沙より背が高いからパチュリーと同じくらいのやり手だろうか。
まぁ、それもそうか。こんな所で一人でウロウロするなんて、そこそこに強者だろう。悪い妖怪の強さがどれくらいかは知らないが。
あれ?じゃあ俺ももしかして強者?…………
「つってね……」
空を飛ぶくらいしか出来ない奴がよく言うぜ。
ともあれ、特に心配もいらないか。ここの女性は皆逞しいしな。
……いや、でもなぁ。
流石に女性を背後から狙うのはセコイよなぁ……?
「いるな……見るからにってやつ……」
金髪の謎の少女、推定「魔法使い」の彼女の背後には5体ほどのザ!モブ!みたいな幻想郷に似つかわしくない妖怪の姿が見えた。
耳をすましてみれば、醜悪な声でヒソヒソと話している。
ここまで分かりやすいと笑ってしまうな。
まぁ、これが大方「悪い妖怪」と言ったところか。
だが不幸にも俺と遠いところをトコトコと歩いている金髪の女性は気づいていないみたいだ。誰かと話しているのか?
これは不味いな……。距離的には「俺ーーーーー妖怪ーー少女」みたいな感じだ。今にも飛び出しそうだし、多分間に合わないだろう。
どうしたものか……。女性が魔法使いってのは完全なる推測だし、もしもの事ってのもある。何か……こちらに気づいてくれれば。気づくだけでは遅いかもしれない。あわよくば、妖怪を追い払うか、怯ませたら……。
どうしたものか。少し焦り気味で俯いて、考える。
……あっ。
あった。でもどうしようかな……やろうかな……でももったいないよなぁ。
よくよく見ればあの妖怪弱そうだし……ワンチャン素手で……。
いや!ダメだ!人の命がかかっているんだ!食材なんて惜しんでる場合じゃない!
右手を前に差し出し、目を瞑る。
過去のトラウマを自分でほじくり返しては心から湧き上がる憎しみを溜めて……。
溜めて、溜めて、溜めて……
今ッ!!!
「ふっ……!!」
右手から何かが発射されるような感覚をもって、妖力を衝撃波として右手から前方に、金髪の女性の方へ飛ばした。女性に被害が及ばない程度に力を調節……なるべく広範囲に!!
すると衝撃波はどうやら女性のすぐ後ろで拡散した。
ーーと、同時に激しい破裂音が森中を埋め尽くした。けたたましい光を出しながら。
「うわぁ……ごめんなさい……」
調節出来てねぇ……ハレツダケではなく、その周辺の木の皮を所々剥いでいった。
そう、ハレツダケを狙ったのだ。そういえば、魔理沙が爆発を起こすたびに、音だけでなく、光を発しているのを確認していた。
多分、謎の胞子の正体だろうか。きっとそれは魔理沙の中とかにもある、光を出す魔力かなんかで形成された胞子なのだろう。
それが、菌糸の中にあり、ちょっとした衝撃で互いに触れ合い、破裂するのだろう。光を周囲に発しながら。
それはどうやら正解だったみたいだ。大規模な自然閃光爆弾を食らった妖怪達は目を抑え蹲り、破裂音に気づいた女性はその妖怪に気づいたみたいだ。
「よし……!今のうちに距離をつめて……」
「上海っ!!」
「シャンハーイ」
「……ん?」
ふいに、その女性は声を張り上げ、右手を前に高々しく突き出した。
すると後ろから出てきたのは……
「に、人形……?」
シャンハーイと喋る可愛らしい人形は素晴らしい加速と共に武器を持ち、妖怪に突っ込んでいく。
え?あれ人形だよね?
なんて疑問もすぐに消え失せた。
大きな槍を持った人形は瞬く間に妖怪を倒していった。
……人形が?
あまりの衝撃的光景に文字通り唖然としていた。
だって、人形が自律して俊敏な動きで1人で5体の妖怪を倒してしまったのだ。
ま、魔法使いってすげぇー……。
ま、魔法使い……?
呆然としていると、女性はこちらに気づいたようだった。
女性は綺麗な金髪を揺らしながらこちらに近づき、話しかけてきた。
「今の爆発音、もしかしてあなた?」
「えっ……あ、はい。すいません、驚かせちゃって……」
「いやいや!いいのよ?おかげで助かったし。ありがとね」
「あぁ、良かったです……助けとかいらなかった気もするけど……」
「シャンハーイ」
「可愛いですね。この子」
「そ、そう?嬉しいわ……!」
「シャンハーイ!」
良かった……優しい人だ。おまけに人形も優しい。慰められた。
にしても、近くで見るとかなり美人だ。ただ、魔法使い感はないなぁ……普通の綺麗なお姉さん感。
ともかく、助かったのならそれでいい。早めに別れを済まそう。
「あ、じゃあ、俺はそろそろ……」
「あ、あの、ウチに寄っていかない……?お礼もしたいし」
「え、えと……そんな……」
「シャンハーイ!!」
「うん、決まりね!じゃ、行きましょ!」
半ば強引に、それも人形に決められた。
これ人形かよ。中に人入ってね?これふなっ◯ー的なアレだろ。
なんて疑問を抱きながらも、金髪の女性に着いていった。
いやぁ……ともあれ、
キノコ万歳!
小脇に生えていたキノコにグッ!と親指を立てた。
シャンハーイ!(訳:シャンハーイ!)