後半はちょっとしたプロローグ
「シャンハーイ!」
「おぉ、ありがとな」
ふわふわと飛ぶ人形は洋菓子の乗った皿をテーブルに置いた。
見事初めての友達を作れたアリスは完全に気を良くし、俺にここにいてもらうき満々である。
だからこうして、お菓子まで出してくれた。まぁ、多分誰が来ても彼女はこのくらいのもてなしはしてくれると思うが、俺に対しては友人としての対応らしい。そんなに嬉しいのか。そう思うと何だか嬉しい。
ならば、友人として人形が持ってきてくれたお菓子を美味しくいただくのが礼儀というもので……。
人形が持ってきてくれた。うん。
…………。
思えば、これ凄くないか?
「なぁ、アリス」
「ん?」
「この人形ってどうなってるんだ?機械?魔法?」
幻想郷ならあり得なくもないが、かなーり気になる。
ここまで滑らかな動きができる機械があるものだろうか?はたまた魔法で人形に魂を宿す……色々理由が挙げられるが、一番納得がいくのが、
アリスが操っている、というものだ。
人形が動く度にアリスも腕を動かしている。アリスが動くから、人形も動く。そんな気がする。
だが、このアリス邸には今動いている人形以外にいくつもの人形が棚に置いてある。全部機能が違うとかなら多く置いてある意味も分かるが、そうであるならば操るというか、魔法になる。全部同時に操るとでもいうのだろうか?
うぅむ、全部操る……?それはかなり難しいだろう。人間技ではないだろう。それとも、人間ではない?
色々疑問があがるが、人形について分かれば大体は分かるだろう。
「あぁ、自分で動かしているの。指でね」
「なるほどな……で、まさかなんだが、あの量の人形を同時に操る訳ではないよな?」
「え?するわよ。1体だけじゃ心許ないもの。10体くらいは連れていく時があるわ」
「……なるほど。分からん」
え?10体??人形10体同時に操る時がある??
待てよ?落ち着こう。
本来、人形を操るとなると凄い人でも人形1体操るのにも片手は使う。つまり、指5本は必要だ。
それを踏まえた上で考えてみよう。
アリスは人形を同時に10体操れると言った。それも生きているかのように。
1体動かすのに指が5本必要になるとしたら……
「指が50本あったりする……?」
「ないわよ……」
あ、じゃあダメだ。分からない。
いくらアリスが器用といってもここまでとは。
恐るべし、幻想郷。いや、恐るべし、魔法使い!
「器用ってレベルじゃないぞ……」
「ほ、褒めてる……?」
「無茶苦茶褒めてる……」
褒めてるも褒めてる。なんなら友人から尊敬する人になりつつある。てかなった。
魔法の使い方を習うんだとしたらアリスがいいな。到底敵わないけど。
にしても、本当に凄いな。まるで生きてるみたいに滑らかに動かすし、両手合わせて10本で操るんだとしたら1つ1つの関節も使っているのだろう。
いつか、人形に人形を操らせて20体操りそうだな。
感心していると、部屋の隅にある作業台が目に入った。
「ん?何だあの机……って腕……?」
「ん?あぁ、あそこで人形を作ったり、色々研究してるわ」
「おっ……!」
きた、研究。人形を作るに関しては机の上に転がっていた腕の部品で想像ついたが、研究ね。
一体何を研究しているんだ?まだ、何か追求しているのか?
きっと、魔法に限りはないのだろう。何と素敵なのだ!
好奇心が尽きぬ限り魔法も尽きない。まぁ、魔法使えないんだけど。
ともあれ、大人しく、温和なアリスを突き動かす好奇心の正体が気になる。
「何の研究しているんだ?」
「完全に自律して動く人形を作るための研究かしらね」
「自律……なるほどね」
つまり、全て自動。自分の意思で動く人形。
何とも夢があるが果たしてそれを人形と呼べるのか少し疑問だな。
それにしても、自分の「意思」でね……。
意思や感情は人間特有のもの。人間だけに限らず生物には見られるか。
だが、残念な事に人形は生命体ではない。あくまで"人"の"形"をした「もの」だ。
意思を持たせることは魔法でも可能なのだろうか……?
「難しいな……」
「分かってくれる?」
「あぁ、人形に意思を持たせる事だろうか……まず人間の意思とか感情でさえ曖昧なのにな」
「そうなのよね……結構分かるのね」
「知識だけな……使えないけど」
「そ、それは残念ね……」
全くだよ。だけどまぁ何となく魔法について分かってきた。夢見続ければいつか使えることを願って……。
それにしても、魔法の森は本当に好奇心をくすぐる。キノコといい住人といい。魔法は無理だが、何か研究してみる、というのも楽しそうだ。
ともあれ、アリスなら自律式人形も夢ではないと思えてしまう。
だって、この魔法使い、すごいもの。
「その人形完成するといいな」
「シャンハーイ!」
上海人形が嬉しそうに言った。笑顔で、手を大きくあげて。
……これ、アリスが動かしているんだよな……。
もしかして、この人形ってアリスの心境がそのまま分かるんじゃ……。
アリスを見れば、何かを察したのか恥ずかしそうに少し俯いた。
なんだ、
感情ならもう宿ってるじゃないか。
何だか微笑ましい気持ちになった。
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
「それじゃあな」
「えぇ、またいらっしゃいね!またね!」
アリスは笑顔で俺を見送ってくれた。上海人形と共に。
2時間程アリスとあれやこれや話をした。勿論、俺の事も話したし、アリスも自分の事を話してくれた。あまり自分の話はしたくないのだが、仲の良い人には知ってもらいたい。まぁ、ここでは呆気なく認めてもらえるわけだけど。アリスに関しては出てくる疑問を全て聞いた。そんな多くの疑問はないが。
聞いてみればアリスは妖怪という区分になるみたいだ。でも、人形より人形みたいな容姿してるしなぁ。妖怪って何か合わない。
やっぱり彼女は俺の中では凄い魔法使いだ。
ともあれ、今日1日で良い経験を多くした。魔理沙も俺からしたら凄い魔法使いだしな。しかも友人も増えた。こんなに有意義だと感じる1日を送れることが大変幸せである。
時が進むのは早いもので、太陽はすでに頂点で燦々としていた。
魔法の森は満喫したから、次はどこかブラブラしよう。
これからの事を考えるとワクワクして仕方がなかった。
困った時の人里。
ブラブラしようにもどこに何があるか分からないからこうして常連になりつつある甘味屋さんで団子を頬張っていた。
とりあえず、紅魔館と魔法の森はもう行ったし……。
「シオン君何かお困りかい?」
「あぁ、おばちゃん。いやね?今どこに行こうか迷っててね」
「あら、そうなのかい?幻想郷で迷ったら飛ぶといいわ。暇なんてしないから」
「たしかに、言えてるね」
甘味屋のおばちゃんに言われた通りにしてみよう。
迷ったら飛ぼうか。良い天気だし。
「それじゃ!俺そろそろ行くね!」
「はいよぉ〜、また来てね」
甘味屋に別れを済ませ、また空へ向かって飛……
ぼうと思ったら、何やらコソコソとしている集団が見えた。
「ん?何してんだ……あれ」
「あぁ……あれね……ここ最近、鬼が男性を攫う事件が起きててね……」
「えっ、それは本当?」
「えぇ……何でも地下に追いやられてから人間と戦えなくなって退屈した複数の鬼が人間を攫うようになってね」
「地下……?」
「昔は共存してたんだけど……何やらいざこざがあってね。居場所をなくしたらしいの」
「ふぅん……」
これは見てみる必要があるかね……。
飛ばずとも、何やら起きるじゃないか、幻想郷。
もっとも、楽しくなさそうだけどな。
最後はちょっとしたモノローグだったり。