東方弔意伝   作:そるとん

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鬼を倒した人間

 

 

「……ぁぁぁあああ!!!!」

「え、速ぐふぅう!!!!」

 

楽しい。

これは楽しいぞ。

猛スピードで向かってくる巨体を真正面から殴る。殴る。時々蹴るっ!!

流石に生身は痛いから、拳を繰り出す瞬間に妖力を纏う。

無理矢理にでも右腕から力を放出して巨体を吹き飛ばす。

まだ荒削りではあるが、力は使えている。何だか力が湧いてくる。

もう何回繰り出したか分からない拳を、ヤケになって向かってくる鬼に向ける。

自分でも不思議なくらい強烈な拳だった。

何だか、強くなったみたいだ。

急激に戦い方が上手くなったかのように、

体が自然と動く。

けれど、何故だか、

自分の意思で動いてるような気分はしなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

「あいつ本当に人間かよ……」

 

目の前で繰り広げられているのは壮絶な戦いだった。

もっとも、一方的だが。

たしかに、若者の行いに思うところがあったとはいえ、世界最強種ともあろう鬼が悉く倒されていくのは見てて面白いものではない。

いや、でも、ちょっとだけスッキリしている自分がいる。

周りで見ていた鬼達も囃し立てる気にもならず、ただ唖然としていた。

無論、俺もだ。

理由としては、ただの人間が鬼相手に不利な状況で完勝しているんだから。

それと、もう一つ。

 

「あいつ、あんな白髪多かったっけ……?」

 

真っ黒のボサボサな髪の毛は、ほとんど真っ白に染まっていた。

おまけに速すぎてチラチラとしか見えないが、目も真っ赤に充血……

にしては、淀みがない。紅い目は煌々と輝いていた。まるで好んで殺し合いをしているかのように。

ーーなんだろうな。

……どこかで見覚えが……。

 

「ぐふぉあ……!!」

 

何てブツブツ考えていたらすぐ隣に傷だらけの鬼が倒れてきた。

シオンに向き直ってみたら周りには4人の不良鬼はボロボロに倒れていた。

束の間の沈黙。

 

からの、鬼達による盛大な歓声。というか、勝負の申し込み。

わーーーーーーーっ!!!!という擬音がピッタリな歓声の中に「俺ともやろうぜ!」「兄ちゃんやるなぁ!」といったセリフも飛び交っていた。

あの巨体数人で華奢な人間に寄り集まると少々心配である。

にしても……一体何者なんだ?あいつ。

まぁ、鬼を倒す人間なんて、ヴィネアばあさん以来だな……。

 

……うん?『ヴィネア』……?

 

ふとそんな名前が浮かぶ。

あぁ、そうだ。鬼に真正面からぶつかって勝ったっつー初めての人間だったな。年相応の真っ白い髪で、人間にしちゃ珍しい紅目の…………。

 

「まさかっ……!!」

 

俯いていた顔をシオンの方へと向ける。

気づけば先程までの歓声は薄れ、鬼達の声は驚いた声や心配した声になっていた。

急いでシオンに駆け寄る。

 

「シオンっ!!」

 

シオンはうつ伏せで倒れていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

視界が一気に暗くなった。

それからの記憶は無いが、その前まではどうにか記憶がある。

突然戦闘狂にでもなったかのように闘争心が芽生えて……お痛が過ぎたヤン鬼ーを倒……

倒……しちゃったの??

俺が?

鬼を?

4人もいた鬼を?

 

いや、いやいやいや。今回ばかりは……。

怒りに身を任せた訳では無い。と思ったが違うことに気づいた。

どちらかというと、レミリアの時の方がまだ意識はあった。

大切な居場所を奪った復讐に、殺してやろう、と自分で考えていた。

だが今回は……

 

ーー自分ではないようだった。

 

第一、あまり戦えるタイプではない俺は戦闘狂でもないし、平和が一番好きだ。

なのに、違った。

さっきの俺は、俺ではないようだった。

俺の中に黒より黒い何かだった。それに何の疑問も持たず、俺は殺しを行った事を認めて、狂ったように戦った。

あれが俺の心の底にあるのだと思うと恐ろしいものである。

だが、能力は使ってないのだ。ギリギリ人間だった。

訳が分からない。一体何だというのだろうか、あれの正体は。

 

ダメだ。分からない。一旦深呼吸しよう。

完全に火照った頭を鼻孔を包む畳の香りが、火照りを冷ましていった。

 

畳?

ん?タタミ?

世界共通のtatami?

 

まて、まてまて。

本来ならば今頃、俺の鼻に香るのは地底の香りで、口はじゃりじゃりと砂があるだろう。

ならば、なぜ畳?

屋外に畳を敷く馬鹿はいないだろう。多分。

ならば、屋内だ。

地上の可能性もあるが、おそらく地底だろう。わざわざ俺のためにここまで飛んでくる地上のやつはいない。

ならば、屋内に運んでくれたのは地底の人。そして知り合い。

もう分かる。

少し驚かしてやろうと、勢いよく起き上がる。

 

「悪鬼!!俺だよ!!おはよ……あ……え……」

「おう、おはよう」

 

そこに、悪鬼の姿はなかった。いや、横目に映る景色にはいるが、一瞬分からなかった。よく見てみれば、俺に喧嘩をふっかけてきた星熊勇儀もいる。

そういや鬼の四天王だっけ……?

満面の笑みを頑張って浮かべた俺の目に映ったのは、

地底に来てからよく目にする各々の着物を着た鬼達が左右に列をなし、真ん中を開けていた。

そしてその鬼達の真ん中に堂々と座るのは、鬼達の長にして、世界最強種の頂上。

 

鬼子母神サマだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土下座を始めて数十秒経った。

さて、あと何時間耐えればいいかな!!

 

「……なんで土下座してるんだ?」

「切腹だけはお許しください」

 

いくら俺でも切腹なんて死に方は嫌です。

もう見た目がそうじゃん。着物を着たヤン鬼ーが一同に俺を見てるんだぜ?

こんな座り方極道の本でしか見た事ねぇよ。

こういう状況に陥られた俺ポジションのやつは、絶対腹切るか、殺されるかしか選択肢がない。

だから、せめてもの足掻きである。

さぁ、やれるもんならやってみろ!俺は何日でも耐えるぞ!

 

「顔を上げろ。シオン」

「は、何で俺の名前……あっ、すいません」

 

思わず顔を上げてしまった。が、即座に畳に頭を叩きつけた。

な、何で鬼子母神ともあろうお方が俺の名前を……?

その答えはすぐに言ってくれた。

 

「いやなに、私はお前に感謝したくてな」

「か、え、か、かか感謝?」

「あぁ」

 

完全に拍子が抜けた俺はもう土下座なんてしてなかった。

感謝?

俺がしたことと言えば鬼に、地底に、喧嘩を売ったこと。

手を出したらおおごとになると自分で分かっていたのに。

……え、何それやべぇ、やっぱ腹切ろう。

てっきりその事がバレて、広まる前に殺しておこうとかそういうのかと……。

鬼子母神は少し笑みを浮かべて言った。

 

「人間でありながら果敢にも複数の鬼に立ち向かい、攫われた男性を救ってくれただろう?」

「あ、いや、本当は話し合いしたかったんですけど不可抗力といいますか、その、しょうがなかったっていう感じで別に喧嘩を売った訳じゃ

「ありがとな」

…………はぇ?」

 

必死に弁明をしている俺のセリフを遮って、鬼子母神はお礼を言ってきた。

 

「私自身、このような行いはあまり良く考えていなかったんだ。そもそも地底と地上は無干渉でな、互いに関わってはいけないような存在だったんだ」

「えっ、こんな良いところなのに」

「そう思うのはお前のような頓珍漢だけだよ」

 

頓珍漢は初めて言われた。

にしても、そうか、ようやく地底と地上の関係性が分かってきた気がする。

 

「地底には、昔から忌み嫌われてきたような妖怪ばかりで地上の奴らなんかまず寄っては来なかった。だがここ最近になって、地上にコソコソと言っては、地上のましてや人間を攫ってきては勝負など、迷惑も甚だしい」

「だからそれを止めてくれてありがとう、と?」

「あぁ」

 

ふむ、大体分かった。地底にとっては地上と無干渉である事が一番の平穏で、それを若者に壊されそうになっていた所を助けてくれた、と。

お礼を言われるのは嬉しいな。ここに来るまでお礼どころか会話すらしてなかったしなぁ……。

そんなお気に入りの場所になりつつある地底を救えたと思うと何だか誇らしい。地上と地底でおおごとにならないようで本当に良かった。

 

「攫われた男性もしっかりと地上へ返しておいた」

「そうか……!良かった。無事なんだな」

「あぁ、ギリギリのところでシオンが助けてくれていたからな」

 

ギリギリか。あそこで止めてなかったら確かに危なかったな。

ともあれ、男性が無事で良かった。

今回の件については何も心配ごとは無さそうだ。

周りに座る鬼達もどこかリラックスしているようだ。悪鬼と星熊さんだけは変わらずキリッと座っていたけど。

ともあれ、だな。

 

 

だが、ホッとした俺の耳に入ったセリフは、何故だか俺に胸騒ぎを起こさせた。

 

「ところで、だ」

「ん?」

「お前、祖母はいるか?」

「!?」

 

祖母。その言葉を聞いた瞬間心の奥が騒いだ。

なぜ、こんな事を聞いてくるのだろうか。

それでも、素直に答えておく。

 

「……いたよ」

「今は?」

「死んだ。病気でな」

 

スラスラと言葉が出てくる。

のに、その時の景色が全然浮かび上がらない。

あれ?と不思議に思い必死で思い出そうとするが、何故か浮かぶ寸前で心臓を掴まれたような痛みに襲われ、すぐに思考がシャットアウトされる。

 

「……そうか。名前は?」

「名前?……えと、『久榮』だ」

「ひさえ?」

「……あぁ」

 

間違えてないはずだ。少しだけ不安だったが、名前は流石に忘れない。

だが、祖母の顔はもう曖昧になっていた。

目に焼き付いているはずなのにな。

だが、その名前でさえも曖昧になっていた。

いや、久榮である事に間違いはない。間違いないはずだが、

何でこんなにも胸の奥がザワザワするのだろう。

挙動不審な視線を振り払って、鬼子母神を見る。

鬼子母神は一息置いて、短く言った。

 

「ーー本名は?」

「!?」

 

心臓と頭を同時に貫かれたような痛みが襲う。

本名は?

そこまで考えてふと、何かを思い出した。

痛みに負けないように、思考だけに意識を巡らす。

 

年相応の真っ白な髪に、日本人とは思えない真紅の目。

もっとだ、まだ足りない。何忘れてんだ。唯一の理解者だろ?

強くなる痛みに耐えて、記憶の奥へ奥へと意識を集中する。

 

 

 

ーー年相応の白髪。

の割には、若々しい乙女のような見た目。

ーー日本人離れした真紅の目。

西洋を思わせる鼻立ちに、真っ白な肌。

 

これは…………

 

 

「誰だ?」

「どうした?」

「祖母は、もっと、しわも深くて、平たい顔で、それでも優しくて……」

「お、おい」

 

違う。こんなんじゃない。

こんなに悲しい顔をして、俺から目をそらすな。

ばあちゃんはいつも俺を見てくれた。

寂しそうに俯くな。ばあちゃんはいつも笑顔だった。

だからそんな顔をするなよ……。

お前は……誰なんだ……?

 

ズキズキとする痛みの中、ボヤける記憶と、薄れる視界の中、

その言葉はハッキリと響いた。

 

 

 

 

 

ーー…………。

 

 

 

 

 

「おい、シオン?大丈夫か?……おい!誰か医務室に運ん

 

「ヴィネア……」

 

……何?」

 

 

 

ーー私の名前はね……

 

 

 

 

「ヴィネア・ディヴァイン」

 

 

 

そう呟くと、ズキズキとした痛みは、

どこかへと弾けた。

 

 

 






鬼子母神サマにはちゃんと名前あるので次回を待ってね
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