東方弔意伝   作:そるとん

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芽生えた「拒絶」

 

 

 

ヴィネア・ディヴァイン。

俺の祖母の「本名」。

たしか、そうだった。名前を口にしてから、いつの間にやら忘れていた祖母の記憶がポツポツと蘇る。忘れる事はないと思っていたのだが、忘れてしまっていた。現に今の今まで名前を思い出せなかった。

俺の知っている祖母は「久榮」という名の、心優しくて、俺の唯一の理解者であった。

そして今思い出した「ヴィネア」は、祖母が亡くなる3日前に姿を見せた祖母の本当の正体。

つまり、ヴィネアは自分の姿を偽り、久榮の名前で日本に滞在していた。

そうだ。そうだった。確かそんな事を話してくれた気がする。

もっと色々話していた気がするが、それはまだ思い出せない。

本当に忘れているのだろうか……。それにしては何だか洒落にならない程居心地が悪い。

ーー忘れさせられているような、そんな感じだ。

 

「んで、お前の祖母は本当にヴィネアなんだな?」

「え……あ、あぁ。たしかそう、だった」

 

鬼子母神の返答が俺を現実に引き戻した。

ついさっきまで、謎の痛みに苦しめられていた俺を心配して、周りの鬼達が騒然としていたが今はすっかり落ち着きを取り戻した。

にしても、何で急にこんな事を聞いてきたんだろうな。

思えば、つくづく疑問である。

 

「で、祖母が何か……?」

「あぁ!そうだそうだ!ヴィネアはな私の古い友人でな!」

「は……え?」

 

もう既に疑問だ。疑問に対する回答をしてくれているのに、その回答が疑問だ。

鬼子母神とばあちゃんが友達?

と、思うとまたしても胸の奥がズキッとした。

ダメだダメだ。最後まで話を聞こう。

 

「ヴィネアはな、初めて鬼達に拳で勝った人間なんだ!」

「……なぬ?」

「で、まぁその戦いっぷりとな、お前がとても似ていたもんで!」

「……なに?」

 

疑問に疑問と疑問を重ねる疑問。この数秒で完全に思考は止まっていた。

まず一つ、鬼に勝った?あのばあちゃんが?

といっても、本当の正体はヴィネア。まだ思い出せない事もあるからそんな訳ないと言い切れない。

まぁ、多分若かりし頃だろう。若かりし頃……?

あれ?確か鬼が地底に住み始めた時にら幻想郷は出来ていたはずだ。

幻想郷が出来て何年目だ?それどころか、鬼が地上にいたのは……

何百年前だ?

そこから第二の疑問だ。

 

 

ーー祖母は人間じゃない?

 

「ッ……!!」

 

そこまで考えたら、先程より強い痛みが胸を刺した。

思い出すな……と、言っているかのように。

これもこれで疑問だが、今は祖母の事が知りたい。

 

「俺に似ているってのは……?」

「今まさしく似ているぞ!」

「今……?」

 

俺の黒髪と祖母の白髪は似ても似つかないだろう。血の繋がりとかを考えれば似るところもあるかもしれないが……。

疑問が多すぎて、無造作に頭を掻く。

似ているわけないだろうに。

深く息を吸い、長く息を吐くと共に手を下ろす。

その際に、似ていると言っている理由を実感する事になる。

 

「……あれ?もしかして俺今白い?」

「うん、白い」

 

頭を掻いた拍子に数本抜けた髪は、純白だった。

し、白髪とかじゃないのか?でも、今、白いって鬼子母神がはっきり……。

能力は使ってないぞ……?ならば何故髪が白く……。

……まさかっ!

 

「もしかして目も!?」

「あいつによく似た真紅だぞ!」

 

そう言われ、慌てて左目を隠す。

赤目になった時の症状は右目から出始める。だから右目は今頃ボヤけて見えるはずなのだ。

案の定、

 

「ボヤけてんな……」

 

鬼子母神とその周りの鬼達も全てボヤけた。

能力を知らず知らずの内に使ってしまっていたか……?

まぁ、いづれ治るだろう。そんなに体はだるくないし、すぐ戻ると思う。

落ち着いた俺は鬼子母神を見据える。

すると終始にこやかではないか。

 

「なぁ、悪鬼?シオンの戦いを近くで見ていたんだろう?」

「あぁ、ヴィネアばあさんに似た戦い方でな、強かったぜ」

「おい、お前何を……」

「そう!そこで、シオンに頼みがある!」

 

強かった、と聞いて闘争心を燃やさない鬼はいない。

必死で悪鬼の発言をかき消そうとしたが時すでに遅し。

鬼子母神の口から発せられるセリフを言われるまでもなく、分かっていた。

 

「私と勝負してほしい!!」

「いやだ!!」

 

一応最後まで聞いたんだ!

拒否はしたぞ!俺は逃げっ……

 

「逃がさんぞ?」

「……はやぁ〜い……」

 

立ち上がったと同時に右から聞こえた鬼子母神の言葉を認識した時には、

頭の激しい痛みと共に天井を見上げていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

 

鬼子母神の家はそこそこ大きなお屋敷で、ご立派なお庭まで付いている。

先程まで堅っ苦しく座っていた鬼達も俺の周りを囲み、ワイワイも賑わっている。中にはもちろん、悪鬼もいるし星熊さんもいる。

そして、家主鬼子母神は、俺の目の前で右手をグー、左手をパーにして、パァン!と両手を合わせていた。

やる気満々だね。

否、殺る気満々だね。

 

「俺、普通の人間なんですけど……」

「鬼を倒した奴が普通の人間?冗談よせよ」

「いや本当に、喧嘩のけの字も知らない純朴な

「いいから構えろ」

……はい」

 

不敵な笑みを浮かべて拳を突き出す鬼子母神は大変格好良くありました。

だから許して。

なんて言えない状況だ。

とはいえ、勝ち目ゼロだぞ。街中の時のような闘争心が芽生えない。

どうするべきか……。

そんな俺に、ふと悪鬼の言葉が思い浮かぶ。

 

ーー人間には知能があった。

 

……ふ、ふふ。そうかそうか。俺には能力があった……。

応用次第では最強になり得る能力だ。もっとも、応用力がないんだけど。

ともあれ、何も言わず、上手く能力を使えば、いい感じに戦えるかもしれない。

よし、覚悟を決めよう!

 

「……やろうか、鬼子母神サマ」

「キッシーでいいよ!」

「……いくぜ、キッシー……」

 

キッシーの動揺先制攻撃を食らった。

だが、残念。俺はもう覚悟を決めたぞ!

どっからでもこ、

 

「じゃあ、まずは一発」

「……は?」

 

脇腹に強烈な一撃。

を、食らいそうになった。

あっ、あぶねぇ!!あぶねぇ!!

速すぎんだろキッシー!人並み以上の反射神経があって良かった。

ギリギリのところで「腹部に強い衝撃が来る」事を覆した。

それで何とか防げたが、事象を覆したのだ。分かっての通り、消耗は多い。

こいつぁ、若者なんか比じゃねぇな……。

 

「ほう?躱すか」

「当たってるんですけどね……!」

「ふ〜ん」

「次はこっちから……!」

 

衝撃を覆しただけなので拳は当たっていた。故に俺は宙を舞ってるわけだが、

このままではやられっぱなしコースだ。

そんな運命を、「己の力」で!

覆す!!

 

幸い、この立派な庭には多くの砂利がある。

つまり、俺が入れ替われるものはいっぱいある。

鬼子母神の背後の砂利を目に入れ、

覆す!

 

「何っ……?」

「よしきた……!」

 

右手に妖力を纏い、全力の拳を……

叩き込むっ!!

 

が、そんな簡単にはいかなかった。

 

「ふんっ!!」

「嘘だ、るぅおお!!?!?」

 

俺のスピードを遥かに上回るスピードで、後ろの俺にジャストミートする完璧な位置に蹴りを入れてきた。

無論、一撃を入れる事に集中していたがために、躱せず……。

咄嗟に防御した左手にモロに食らった。

 

大きく吹き飛ばされて石の壁に背中からぶち当たる。

ここに来て、割と本気の衝撃に呼吸が苦しくなる。

思えば、鬼の力というものを体験していなかった。

ここに来て、鬼のましてや一番強い奴の攻撃を食らった。速すぎて能力なんか使う暇がなかった。左手なんか使い物にならないな。

鬼の2回目の攻撃にして左手を失うどころか意識すら失いそうなレベル。

 

「おや?案外軽いな」

「は、はは……」

 

まだ、始まって時間も経ってないが、力の差を痛い程に実感した。

心折れそう……。

だがね!俺にも意地はあるんだぜ!

簡単には負けたかねぇ!

少しだけ、無理をしてみる。

 

「ん?……お、やる気になったかい?」

「無理してるだけだ……」

 

全身にありったけの無理やり出した妖力を纏い、立ち上がると鬼子母神はまた不敵な笑みを浮かべて俺を見た。

一撃で満身創痍レベルだが、まぁ、ここでやられては、

面白くないだろ。

 

沸々と、闘争心剥き出しの俺が出始めていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

「うらぁああっ!!!」

「うぉっと!まだまだ甘いよ!!」

「……くっ、そがぁ!!」

「ぐっ!?」

 

シオンの雰囲気が変わってから数十分と均衡状態が続いている。

ただの人間に勝負を挑んだのはマズかったか……?とも思ったが

これは想像以上だ。挙句、ここに来て少しだけ私は押され始めた。己の感覚だけで戦っているようで、何ともヴィネアを彷彿とさせる戦い方だ。変な所移ったかな。

本当に、人間にしては強い。周りの鬼達も呆然としている。

だが、やはり無理をしていたようだ。

均衡状態が崩れ、シオンが優位に立った理由は、シオンがラストスパートを仕掛けたからである。大方、無理をしているのだろう。このままではジリ貧で負けると悟ったシオンはありったけの妖力を無理やり出して、倒しにきている。同じだけの傷をお互い負っているため、かなりの苦行だろう。

だが、相手は私「鬼子母神」だ。

舐めないでくれよ?

 

「ぁぁあああっ!!!」

 

完全に一撃を決めにきている拳は恐ろしく早かった。

だがな、シオン。

私にも能力はあるんだよ?

満身創痍で拳を繰り出すシオンの顔の前に、右手をそっと翳す。

 

私は

ーー全てを「跳ね返す」。

 

刹那、シオンは大きく吹き飛んだ。

猛スピードで、庭の壁にぶち当たったシオンはガラガラと崩れる石に埋もれた。

うん、久々に楽しかった!鬼でもこんなに傷は負わないのに人間相手に本能力を使うとは……。

うん!強かった!

まぁ、ヴィネアには及ばなかったがね。

 

「久々に楽しい喧嘩だった!大丈夫かぃ?シオン」

「…………ってに、終わんな」

「なに?」

 

まだ喋れるのか?満身創痍の上ありったけの妖力をつぎ込んでいたのだぞ。いくら丈夫でも気絶くらいはするだろうに。

石が崩れ、砂埃の奥に倒れているであろうシオンに目を凝らす。

……また雰囲気が変わった?

これは、悪鬼が街中で見たという奴と同じだ。

ヴィネアと同じ感覚だ……。

だが、それより、ヴィネアの白い迫力とは違った。

もっと、黒く、黒より暗い。

 

剥き出しの闘争心が溢れ出ていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

痛ってぇ……。

あれは衝撃波か?にしては、速すぎた。

一瞬で俺の力は抜け、気づいたら吹き飛んでいた。

怖いくらい冴えていた頭で導いた答えは、能力だった。

どんな能力か分からんけど、怖いね。

もう、いいか。十分だろ。意識なんてもうほぼ無い。

頭はグラグラするし、おまけに崩れた石が追撃してくる。あんま痛くないけど。

とりあえず、鬼子母神相手に良い勝負した方だろう。

諦めて、寝よう。

ふと、俺の意識は白い光で包まれた。

すると、またしても心地の悪い声が聞こえた。

 

 

 

ーー本当か?

 

 

……うるせぇな。また出てきやがって。

闘争心なんて湧かないレベルで完敗なんだよ。

 

 

ーーまだ、俺が残ってるぞ。

 

 

なに根拠もない事言ってんだ。別に、ただの勝負だったんだ。相手だって本気なんか出しちゃいない。

 

 

ーーそれはお前が本気じゃないからだ。

 

 

俺は本気だった。それで負けたんだ、何も言うことはない。

 

 

ーー…………。

 

 

何だ?ついに何も言えなくなったか?じゃあ早く帰ってくれ。

俺はすごく休みたい。

 

 

 

ーー俺の正体について、だ。

 

 

 

は?お前の?

 

 

 

ーー俺は、本当のお前だよ。

 

 

 

なに言ってるんだ……?

 

 

 

ーーお前が、昔に殺した、お前の本当の姿だ。

 

 

 

昔に……殺した?ふざけたことを……

 

 

 

ーーお前が「拒絶」した、お前だよ。

 

 

 

!?

うっとおしい痛みがした。

今回は胸の奥にグサッと。

拒絶……した?

 

 

 

ーーいい加減気づいてんだろ?お前はずっと……

 

 

 

「黙れ!!」

 

 

気味の悪い声で無理やり引き摺り出されそうな記憶は、多分良いものではないと悟った。大声で振り払って、顔を上げる。

 

!?

 

顔を上げた先には、俺がいた。

いつしか、鏡で見た、

死んだような自分。

 

 

 

『よお、久しぶりだな』

「……今更出てくんな」

 

敵意を最高に剥き出しにして、死んだ目をした俺を睨んだ。

悲壮感が漂う目をした俺は、厭らしく口角を上げ、まとわりつくような声で言った。

 

『勘違いすんなよ?俺が本物だぜ?』

 

「過去なんかいらない。俺の居場所はここだ」

 

『ばあちゃんを忘れんのか?』

 

「……ばあちゃんは死んだんだ」

 

そうだ、それは紛れもない事実で、覆せない事象だ。

 

 

「だから今更お前なんか、

 

『勘違いすんなって言ったろ』

 

……なに?」

 

 

『お前は何も覆せやしない』

 

「……いや、覆せる。レミリア達や、霊夢達と出会って俺は変わった」

 

『ばあちゃんなら覆せたさ』

 

「ばあちゃん……なら」

 

また胸の奥が痛む。

本当に、なんなんだ……。

何が目的なんだ。

 

 

『でもな、お前は覆すよりもっと強力な事が出来る』

 

「……何だと?」

 

 

 

 

『ーー拒絶しろ。己の思いを貫くために、邪魔なものは拒絶するんだ』

 

 

「拒絶……だと?」

 

 

そう、俺が拒絶したという自分が言う。

胸は張り裂けそうだった。

 

 

 

『お前が拒絶した俺は、お前を受け入れるぜ?』

 

 

 

俺はその誘いを、

拒絶はしなかった。

 

 

 

 






次回から東方感出ますので待っててね。

思えばこいつら嘘ついてばっかだな。
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