東方弔意伝   作:そるとん

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俺の弔意伝

 

 

俺は、先刻の出来事の意味を良く理解できなかった。

お前は覆せやしない。

拒絶ならできるがな。

そう、奴は言った。意味なんて良く分かりもしないし、漫画で言ったら完全に悪役キャラのセリフだ。

なのに、

その言葉は酷く俺の心に突き刺さった。何か、胸の奥から、脳の海馬から沸々と蘇って来るものがあった。

記憶の奥底に眠る、何かが。

 

ーー忘れるなよ。

 

忘れないでいるつもりが、忘れていたんだ。

何もかも。

それはきっと、

大切な何かまで。

 

もう少しで思い出せそうだと考えてしまった俺は、

またしても、謎の闘争心に襲われた。

 

「う、ぁぁああああああ!!!!!!」

 

朦朧とする意識を雄叫びで振り払い、鬼子母神を見据える。

本気も出されていないのに、負けたのが何となく癪だっただけだ。

そう必死で考え、胸の奥に疼くものを抑えると、少し驚いた表情の鬼子母神に向け、強風が遅れるほどの猛スピードで、地面を蹴った。

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

 

「ま、負けた……」

「危なかったよ……流石にね」

 

訳の分からんやつの力を借りてまで、負けた。

端的に言えば、鬼子母神は圧倒的だった。何やら雰囲気がおかしくなった辺りから本気で戦ってくれたのだが、動く度に衝撃波が起きるし、パンチが当たっていないのに風圧で飛ばされそうになったり……。しかし、楽しそうな顔を見る限りまだ本気とは思えない。どっちにしろ、敵わないって訳だ。

実際身の丈は鬼子母神の方が少し大きい。俺が小さいだけかもしれないが。

だから、体格的には大差はない。なのにこの威力……。

それでも、変な感覚の中で本気の鬼子母神相手に30分は頑張れた。

また、変な事も起きた。

何度かピンチにあった際、どっかの庭の小石と入れ替わって鬼子母神の攻撃を躱そうと能力を使おうとしたのだが、発動しなかった。

そればかりか、胸の奥の疼きが強くなった。

それでも、良い勝負が出来た方であろう。今回ばかりはすごい疲れた。

 

「いやはや、シオンは凄いな。人間か?」

「もちろん……と、言いたいところですけど不安になったよ」

 

ここまで自分に関わる謎が出てくると、もはや人間かどうかも怪しくなってくる。

なぜなら、現時点で祖母が人間ではない説が浮上しているからだ。

まぁ、それも現時点では分からない。

ともあれ、この曖昧な記憶に祖母が関わっていることには変わりない。

思い出せない感覚が何ともむず痒いんだ。ちゃんと思い出しておきたい。

とは言っても、今は体がピクリとも動かないんだけどね。

ぼんやりと寝ていると地底の天井で埋め尽くされた視界の中に少しばかりツンツンした薄い金色の髪が入る。鬼子母神だ。

 

「立てるか?」

「……無理だな。満身創痍だ、こりゃ」

「まぁ、それもそうか」

 

まだまだ余裕そうに笑みを浮かべる整った顔は、勝負している時よりいくらか優しい雰囲気になっていた。

ほんっと、鬼子母神とやらは強ぇな。

 

「キッシー半端ねぇ……」

「キッシー……?あ、あぁ私か」

「そう名乗ってたぜ」

「じゃあ、ちゃんと名前を教えてやらんとな」

 

おや?てっきり名前がないものかと……。

久しぶりに本気にさせてくれたお礼だ、と言って名乗ってくれた。

本気かどうかは定かではないが、名前は聞いておこう。

 

「『岩動 桜花《いするぎ おうか》』。それが私の名前だ」

「桜花ね……」

 

岩動……強そうだな。岩どころじゃなく地球ごと動かせるかもしれんが。

何とも、鬼子母神にあった力強い名前だ。

名乗られたって事はこれからよろしくしろって事か?やだなー。

そこで、ふとある事を思いつく。

 

「なぁ、桜花」

「どうした?」

「おばあちゃ……ヴィネアについて何か詳しい事知ってるか?」

「ヴィネアについて?あ〜、強いって事ぐらいしか……」

 

まぁ、それもそうか。鬼に勝ったっつーくらいだし何か知ってるかと思ったが、そうでもないみたいだな。やっぱ、ちまちまと解決していくしかないか。

 

「あ、でもな」

「ん?」

「あいつは外来人だった気がするな」

「!!……それは外から幻想郷に来たって事か?」

「あぁ、たしかそんな事を言っていたよ」

 

外来人。

それは一体どういう経由で来れるのかは知らないが、確か俺は死んだのちにここへ来た。どういう経緯か分からないがな。

だとするならばヴィネアも死んでいた?いや、それはないだろう。

いくら記憶が曖昧だからってそれはない事ぐらいすぐ分かる。

ましてや、桜花に勝てるような人だ。無理やりにでも結界を破ったのかもな。

もしかしたら、色々聞けば分かるか?

地上に出たら早速あちこち廻ろう。

やる事が出来たような気がして、やる気が出てきた。

そうと決まれば早速立とう。

たっ、立と……。

 

「シオンは今日どうするんだ?」

「が、頑張って帰る……」

「ほう?」

 

腕に力を入れっ…られず。

動くのは眼球だけで。

ふっ……ぐぐっ……。

…………。

 

「無理だな。泊めていこう」

「いやマジで大丈夫だから。ちょっとすれば立てるから」

「じゃあ、室内に運ぶよー」

「いやほんとうに、うおぉっ!マジで!?簡単に持ち上げられちゃうの!?それ結構メンタルき、いだだだだだだ」

 

桜花に担がれ、鬼子母神さん家にまた押し込まれた。

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

結局、お風呂まで頂いてーー傷口が無茶苦茶に痛かったーー夜が更けた今、俺は縁側で街中の微かな灯りをぼんやり眺めていた。

あっちの世界では考えられないような、怒涛の1日だった。

元はと言えば、攫われた男性を助けようと地底に潜り込んで、面白いやつらに出会ったと思ったら、鬼子母神と戦うことになって、意気消沈かと思ったら、

全く面白くないやつが記憶のどっかから出てきて、意味深な事を言って消えていく。人の闘争心を煽ってくる。

忘れた事を引きずりだすように、嗾けてくる。

 

 

 

ーー上等だよ。全部思い出してやる。ヴィネアも。お前も。

お前が俺に拒絶されただか何だか知らないが、もう俺は拒絶なんかしない。

全部受け入れる。俺はヴィネアの運命も、俺が拒絶した自分も、

全部受け入れて、全部覆してやる。

それが、俺が祖母を弔える唯一の方法だ。

全部受け入れる事が、

弔意を伝えられる、唯一の方法だ。

思えば、さよならなんて言えてないし、ありがとうも伝えられていない。

大切な人を弔う事も出来ず、勝手に死んだ俺は本当に情けない。

 

けれど、

 

何もできず、何も分からない俺だけれど、

もう逃げたりなんかしない。

全部思い出して、ちゃんとお礼を言って、さよならを言う。

これからは、俺が"弔意"を"伝える"ための、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー『弔意伝』だ。

 

 

 

 





その弔意がシオンをどう変えるのかは、まだ分からない……。
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