東方弔意伝   作:そるとん

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狂気の月の兎

 

 

俺は最近つくづく思う。

ーー寝てるシーン多くね?と。

鬼との戦い然り、桜花との戦い然り、ついさっき然り。

ついさっきというのは、初対面の少女に会心の一撃を喰らったことだ。

本当に、会心の一撃である。

まさか、少女の持っていた木箱で殴られるとは思っていなかった。

そんな訳で意識は吹き飛び……。

 

「知らない天井だ……」

 

目に入ったのは和風な天井。周りに襖やら畳が目に入る。

まぁ、幻想郷において紅魔館以外は和風の方が多いだろう。あ、アリスの家は洋風かな。

思考をあちらこちらに移していると街中で聞いた声がした。

 

「あっ、おっ、お、起きましたか…………?」

「……あっ、はい。起きました……」

 

遠くね?

声のした方を見てみれば濡れタオルやら水の入った桶と、頭にウサギの耳が生えた少女がいた。

濡れタオルなどからすると看病してくれたのだろう。女子力高い。

それに関しては大いに感謝している。元凶その少女だけど。

そして、その少女に問題がある。

そう、遠い。

そこそこ広い部屋だからそう思うのかもしれないが、俺がいる部屋に入らず襖でウサ耳だけを出して喋っている。

俺そんなに嫌われることしたかな……。

話しかけたからかな。街中で好奇心に任せて動いたからかな。

そんな心配を胸に抱いていると、少女が今にも消え入りそうな声で言った。

 

「も、もぅ……だっ、だだ大丈夫なんですか……?」

「おう、だだだ大丈夫だ」

「ちゃっ……!茶化さないでください!」

 

あー、やっぱこういうノリはあれかぁー。

無理なタイプかぁー。こういう人の前に限って調子乗っちゃうの本当嫌い。

空気読め!俺!

というか、本当に俺何かしたっけ?

少々躊躇われるが、聞くしかない。

 

「えと……遠くない?」

「わっ、私の国ではこのくらいですからっ……!」

 

なるほど。オーストラリアかどっか異国の出身の方か。

それならこの距離感も納得

いやいやいやいやいやいや。

そんな流暢な日本語喋っといてそれは無理があるぞ。

なら、単刀直入に聞こう。

 

「俺……嫌われてる?」

「いっ、いえいえいえいえ!そういう訳じゃ、……あ」

「おっ」

 

俺の問いかけに全力で否定を示した際、勢いよく否定したもんだから彼女は襖から勢い良く出て隠していた顔は露わになった。

上半身しか見えないが服装は現代の女子高生が着ているようなブレザーで、

薄い紫色をしたロングヘアーと、

ーー真っ赤に染まった2つの目。

結構長い時間のように感じた沈黙の中でそこまで読み取ると、ウサ耳少女は「あばばばばば」と漫画でしか聞いたことない焦りを見せた。

そうして、再び襖からウサ耳だけを出すと、彼女は恐る恐る聞いてきた。

 

「め、目……合いました?」

「うん、バッチリ」

「だ、大丈夫ですか……?」

「?」

 

目が合って、大丈夫ですか?

この一連の質問が理解できないが、大丈夫なもんは大丈夫だし、返答するべきだね。

 

「あぁ、大丈夫だよ」

「だっ、大丈夫なんですか……!?」

「別に何とも……さっきからどうしたんだ?」

 

やっぱりあれか?こっちでも赤い目っていうのは何か不吉な象徴とかされてんのかな?あ、いや、でも能力を使って白髪で目が充血した俺をレミリア達は看病とかしてくれたし……。

いまいち質問の意味が掴めない。

ともあれ、俺はお礼を言いたいんだがな。

 

「えっと……出てきてこれるんなら出てきて欲しいんだが……まぁ、無理ならそのままでもいいか。俺は君にお礼をしたくて……」

「お、お礼……?」

 

まるで首を傾げたかのように襖から生えたウサ耳は動く。

看病してくれたのはこの人だろう。ならばお礼をすべきだ。例え看病してくれた相手がこうなった元凶でもな。

 

「看病してくれたのお前だろ?ありがとな。迷惑かけて申し訳ないけど」

「えっ、いやっ!そんな!元はと言えば私の……」

「あー、まぁ、大丈夫だ。深手でもないし。世話になったならお礼はすべきかと」

 

気のせいかもしれないが、少女の声はいくらか明るく聞こえた気がした。

 

「だから、まぁありがとうな」

「…………」

 

あれ、何かミスったか?友達作り失敗したか?返答が来ない……。

まぁ、そんな時もある。また今度にしよう。

これ以上世話になる訳にはいかないから、早急に立ち去ろう。

軽く礼を言って立ち上がろう。

と、した時に。

 

「……あの……」

「ん?……うおぉ、出てきてる!」

「な、何ですか!その反応!」

 

下を向いていた顔を上げ、声のする方を見ると、もじもじと正座をしている少女がいた。

見た目は女子高生そのもので、ウサ耳がなければただの女子高生である。

幻想郷に来て制服を見るとは……軽く自分の高校の事を思い出しトラウマが出て来そうになった。まぁ、行ってなかったんだけどね。

 

「で、ここにきて出てきてくれるとは、何事?」

「あ、あ、いえ、あの……私がやったところ以外にも怪我してたんで……く、薬塗ったんです……。だから、も、もう少し大人しく……」

「え?そんな事までしてくれたのか。申し訳ねぇ……」

「あっ、いえ、そんな……」

 

距離感と声量が何となく反比例している気がする。

ともあれ、怪我の処置をしてくれたのは素直に感謝。

 

「え、じゃあ何をそんな隠れていたんだ?特に何もやった訳でもやられた訳でもないし……」

「え、えっと……」

 

ふと思った疑問をそのまま聞いてみたが迂闊だった。

そう、内気な子に行動の意味を聞いてはいけない。また励ましてもいけない。

例えば恥ずかしさゆえに口籠ってしまった内気な子に「どうしたの?」とか「頑張って!」は禁句である。

自分の行動を一番分かってるのは自分だし、言われなくても頑張ってる。

ソースは俺。嘘です、言われた事ないわ。うるせぇ、やかましいわ。

とにかく、今の質問は彼女にとって答えづらいものだったのだろう。

 

「あー、すまん。答えづらいよな」

「……いっ、いえ、別に、そういう訳では……!」

 

そうか……そういうのならば。

 

「聞いていいか?」

「えっと……そんな大したことじゃないんですけど、私の能力の関係で……」

「能力?」

 

あぁ、そうだ、幻想郷の人達は能力を持ってるんだっけ?

というか、俺も持ってるだろ。

で、その能力が何かあると……。

 

「『波長を合わせる能力』。それが私の能力なんです……」

「波長を、合わせる……」

 

……ぬ、ぬぬぬぬぬ?

俺が馬鹿なだけかもしれないが……。

は、波長を合わせる……。

俺の微妙な顔の意味を汲み取ったのか彼女は説明をしてくれた。

 

「えっと……この世に存在するものには全て『波長』っていうものがありまして……その波長に合わせる事によって、色々できたり……します」

「あ、アバウトだな……」

「で、でも……そんな感じです……」

 

うん、彼女がそんな感じだというならそんな感じなのだ。何も言えない。

せめて例とか挙げてくれれば……。

ここは俺の想像力で色々考える事にする。

俺の思考力舐めるなよ……!

 

万物のものにある「波長」なるものと自分の波長を合わせ、その波長を操ることができる。

 

「それは人にも通用するのか?」

「はい、できますよ」

 

なるほどな。

波長は書いて字の通り"波の長さ"。

つまり長さを操れるのか……?

波長は波動の山と、谷。

または、その距離。

ーー例えば、

人のもつ波長の距離を短くしたら……?

人のもつ波長は感情とか、精神……。

そこまで考えてハッと思いつく。

 

「波長を短くしたら、短気になる……?」

「えっ、すごいですね……!だいたいそんな感じです!」

「うぇっ、合ってるのか……!」

 

俺の考察が的中したようで、少女は少しだけ声を弾ませた。

ここまで来たら大方分かる。

 

「つまるとこ、発動するためには目を合わせる必要があるんだな」

「す、すごいです……初対面なのに何でそこまで」

「人間観察が趣味の変人なんでな」

 

やる事なかったんでな。通り過ぎていく人をじっと睨んでは勝手に職業とか判断していた。

まぁ、それはさておき、

先程彼女が顔を出した時、目が合った事を気にしていた。

今もなお、目を合わせようとしない。

それは決して俺と目を合わせたくない訳ではなくーーそうだと願いたいーー目を合わせてしまった拍子に能力がかからないように。

目を合わせた相手が急に短気になるなんて、彼女も能力にかかった被害者側も怖いものである。それを危惧して彼女は目を合わせない。

それが街中での言動、内気な性格の所以だ。

 

「それって、ちょっと目が合っただけでも能力にかかるのか?」

「は、はい……」

「ど、どんな感覚になるんだ……?」

「視界が変になったり、気持ち悪くなったりします」

「なるほど……」

 

俺は元気だよな?特に違和感ないよな?

あれ?何で俺はかからないんだ?

 

「俺と目、合ったよな?」

「は、はい……」

「か、かかってない……」

「な、何でかなぁ〜……」

 

ほんと、何でかなぁ〜。

たしかにあの時目が合った。ばっちり赤い双眸を見た。

…………。

よし。

 

「なぁ、俺の目を見てくれないか?」

「えぇっ!?」

 

決して告白とかではない。

ただ単に気になる。

能力が発動していないのか、かからないのか。

確かめるにはこれが一番手っ取り早い。

 

「だから、目を合わせてくれ」

「何が、だからなのか分からないけど……本当にするんですか……?」

「ヤバくなったら助けてください」

「だ、大丈夫かなぁ……」

 

考察の通りならかなり強力な能力だ。

短気による怒りを通り越したら、どうなるか。

それは俺が身をもって体験している。レミリアの時にだ。短気ではないが、怒りのあまり感情に身を任せた結果、俺は「狂気」のようなものであったろう。

それを意図的に出来る彼女の能力は応用の効く強力なものだ。

 

だがね?

好奇心には勝てない。

 

一度目を瞑って、大きく息を吐くと、覚悟を決めて目を開く。

開いた目は、少女の目にぴったりと合わせる。

赤い目は、吸い込まれそうな程、

綺麗だった。

 

 

 

 

....。

 

 

 

 

 

「……まだ?」

「か、かけてるんですけど……」

「え?」

 

……え?

それってつまり、

 

「かからない?」

「そう……みたいですね。波長が……見当たらない」

「マジか……」

 

え、それは俺に感情が無いと?精神が存在しないと?

え、こわっ。

どういう理屈なのだろうか?

 

「何でしょう……暗くて……深いです」

「……ふぅん、なるほどね」

 

大体分かった。大方理由は元いた世界での事なのだろうな。

自分自身でも曖昧なところもあるもんだから、中身も曖昧ですっからかんなのだろう。故に、何も掴めない。そういう認識でいいと思う。

……デメリットしかない思い出だと思っていたが、良い事もあるもんだな。

 

「まぁ、俺とは気にせず、面と向かって話せるな」

「え?」

 

出来るだけ優しい顔をして、少女にまた少し近づく。

 

「勝手な予想だが、その能力のせいで対人関係苦労してるんだろうなーと」

「そ、そんなこと……」

 

対人関係苦手なやつとか、コミュ障とか、親近感しか湧かないわ。

そして、その苦しみを和らげるには、皮肉な事に人が必要なのだ。偏見だけれどな。まぁ、その必要な人が、相手の事を分かってやれるなら尚良い。

それに、彼女の反応からして能力の通じない俺は珍しいだろう。もっとも、幻想郷じゃあどうか分からんが。

それでも、行く先々で知り合いが出来るのは良い事だ。

この調子で友達100人出来るかな。

 

「下手に他人と関わったら怖い事になるもんな。突然狂い出したら怖いわな」

「わ、私……」

 

少女は目を伏せながらポツリと言った。

 

「昔は能力の制御なんて出来なくて……だから、周りから怖がられて……『狂気の月の兎』なんて言われたり……外を出歩くと、周りの目が怖くて……」

 

少女は俺の目の前で少しずつ震え始める。

 

ど、どうしよう。どうしてあげるのが正解?

泣き出しそうな少女を前にパニクった俺は少女の手をそっと握る。

 

「安心しろ。ここは幻想郷だ」

「……はぇ?」

 

そう、何を隠そうここは幻想郷だ。

いかなる超常現象も、「ここは幻想郷だし」で片付く。

幻想郷は、全てを受け入れる。

それはここの管理者の有難いお言葉だ。

彼女が何であれ、ここの人達は全てを受け入れてくれる。

 

「ここの人達は、怖くもないし、お前を怖がったりもしない。現に、俺はあんたが怖くはないぜ」

「ほ、本当ですか……?」

「あぁ!本当に!肝の座った巫女とか、破天荒魔法使いとか、座って微動だにしないおばちゃんとか、少なくともお前が恐れている事は起きないだろうな」

 

おばあちゃんに関してはただの人間でした。

ともあれ、人里の人達でさえそのレベル。悪い妖怪もいれば、度々異変が起きるとかいう幻想郷で生きていく人は逞しいものだ。

内気な少女1人受け入れられずに何が幻想郷だ。

 

「幻想郷は全部受け入れてくれるよ」

「…………」

 

紫さんのこの言葉に俺が救われたように、彼女も救われる事を祈る。

何やら困っていたし、放ってはおけない。

少女はしばらく沈黙してから、口を開いた。

 

「……だ、大丈夫なんですか?」

「あぁ、少なくとも俺は受け入れる気満々だ!」

「そ、そうなんですね……そう、ですか……」

「おう、仲良くしてこーぜ」

 

少女は俺の手を握り返した。

その行動は、ちょっとした安心感だろうか。力が抜けたように感じる。

どうだろうか、これでちょっとは活動しやすくなったろう。

そして、今更気付く。受け入れるって言っているのに、

名前を知らないとはこれいかに。

 

「んで、これから仲良くするにあたってなんだが……すげぇ、今更なんだが」

「名前……ですよね」

「名乗るの遅れてごめん。俺はシオンだ。普通の人間です」

「私の能力が通じない時点で普通ではないかと……」

 

気にせんといてー。

苗字がない事に疑問を持たれたが「みなまで言うな」とそっと流した。

さては、こいつも好奇心旺盛か?

ともあれ、これで少女の名前を知れる。

 

「えっと、鈴仙です」

「うん?終わり?」

「えっと……フルネームは『鈴仙・優曇華院・イナバ』です」

「あ〜、なるほどねぇぇえええええ??ん?」

 

苗字とか名前とかじゃなかった。

もはや、え、何?

疑問を浮かべる内に1つ思い出した。

ーー彼女の2つ名だ。

 

『狂気の月の兎』。

月の……兎?

 

「……何者?」

「申し遅れましたね……『玉兎』で、医者の卵といいますか……弟子の鈴仙・優曇華院・イナバです!」

 

俺より複雑じゃないか?

 

玉兎は、確か月に住むウサギの妖怪だっけか?

そんでもって、医者の弟子?あ、だから薬を塗ってくれたりしたのか……。

月出身で、お医者さんの弟子……。

ふぅ〜ん……。

…………。

 

 

マジか。

 

 

 

 





うどんげ回になっちゃった。
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