幻想郷は常識が通用しない、非常識な世界という認識で俺は今までここで生活してきた。まさしくその通りであった。妖怪退治する巫女しかり、吸血鬼しかり、鬼しかり。全て俺の元いた世界では存在していないであろうものだ。
そんな奴らが目の前に現れても、困惑しなかったのは
「あっ、ここ幻想郷だわ」で済ませてこれたからである。
だが時として、その考えを上回る場合がある。
例えば今のように、目の前に『お月様から来たウサ耳JK』とかいうメルヘンチックな妖怪がいたり。
本当に月に兎っているんだ……。
……うっ、うん。いいよ?幻想郷だし。
あり得るでしょう。
…………。
月にも行けんの?幻想郷。
「つまり、鈴仙は『玉兎』っつー、月で餅突いてた兎なんだな」
「餅は突いてないですよ!」
あ、突いてないんだ。
だが、本当に月に兎がいると聞けばなんか……こう、ワクワクするものがある。餅は突いておらずとも、多分平和な世界なのだろう。
なんか……こう、明るくて、楽しくて、みんなで宴やら何やら色々していたのだろうか。そんなイメージがある。
勿論、本当の月面という所はそうではない事を知っている。
だが、古来より美しいものの象徴として言い伝えられてきたものだ。
それに加え、幻想郷の中での月だもの。煌びやかな世界であってもおかしくはない。
「んで、月で何してたんだ?」
「まぁ、楽しく過ごしてましたよ。まぁ、私たち玉兎は月の都の労働力みたいな感じだったのですが……」
「へぇ〜……労働力?」
はっ、働いてんの?
え、「まぁ、楽しく過ごしていた」それは納得だ。なんか楽しそうだもん。
だって月の都っていうんだぜ?絶対楽し、
え?月の都?
「月の都?」
「月の中でも、結界の張られた世界なんです。呼吸も出来ますし、普通に生活できるんですよ」
へぇ〜、月にも結界の張られた……つまり、月面の幻想郷のような所なのだろうか。そして、その結界があるからこそ、呼吸も出来て、宇宙服も着ずに活動出来るのだろう。ただ、ずっと夜ってイメージがあるなぁ。月から見える空は青くなかった気がする。本で見た月の周りは真っ暗で、煌びやかな所はなかったし……。
「さては、都は月の裏側にあったりするのか?」
「う〜ん、物理的に裏側っていうより……幻想郷があなたが元いた世界で認識できないのと同じ事かな……?」
「はぇ〜、なるほどね。大体分かった」
やはり、月での幻想郷のようなところみたいだ。
「え、月には兎しかいないの?」
「いえ、月人と呼ばれる人達も住んでいました!」
へぇ、人?も住んでいたのか。
ともあれ、月の幻想郷だ。普通の人ではないだろうな。すっげぇ、強そう。相手にはしたくないなぁ……。
もしかして鈴仙も無茶苦茶強かったり……。その事を配慮して、怒らせないでおこう。
ともあれ、大体分かった。
鈴仙は玉兎という元『月の住民』。月の都と呼ばれる世界で他の玉兎や月人達と暮らしていた。今は幻想郷に来てこの大きな屋敷で暮らしていると。
と、簡単にまとめたつもりだったのだが。
疑問が増える。
「何で地上に来ているんだ?観光?」
「!?」
あれ?と思った。
素直に疑問を問うただけなのだが、鈴仙は胸をつかれたかのような反応をした。端的に言えば、ビクッとした。
何か聞かれたらマズイ事だったか?
慌てて今の質問をなかったことにしようとする。
「あ、聞かれちゃマズイのか……すまん」
「いえ……大丈夫です。話します」
また鈴仙は何かを話してくれるみたいだ。先程よりかは顔色は良いし、自分から話してくれるあたり仲良くはなれたかな。
ともあれ、これは書いておこうと思う。何やら、幻想郷にも関わって来そうだ。
鈴仙はゆっくりと話し始めた。
「私は、地上に逃げて来たんです」
「逃げて来た?」
その一言で月の都のイメージが変わった。
何やらただ事ではないのか?
鈴仙は、話を続けた。
「ある日、月に敵が攻め込んで来て、生活出来なくなってしまったのです」
「敵……?」
月にとっての敵とは一体……?
そもそも、月に攻め込んだ理由が分からない。
しっかりと2つの耳で鈴仙の話の続きを聞いた。
「そいつらは月に自分たちの"旗"を立てて、自分たちの物だと好き勝手言うんです……」
「……旗?」
「月の民も対抗しました……。それは後に『月面戦争』と呼ばれるのですが、その最中で、私は臆病になって自分勝手にも1人仲間を裏切って地上に逃げて来たんです」
つまり鈴仙は、玉兎達は対抗するための「労働力」でもあったと。
そうでありながら臆病な鈴仙は月を後にして、幻想郷のこの屋敷へと逃げて来たのだろう。とても1人でこの屋敷を建てれるとは思わない。
ともあれ、逃げて来た原因は月の民と「敵」との戦争。
そして、気になるのがその「敵」だ。
結界を張る技術や、月で生活できる程度の技術力ーー技術なのかどうかは疑問だがーーを持った月の都の事だ。恐らく負けてはいないだろう。
その、旗を立てたという敵に。
「その敵って……」
「ん?」
思わずポソリと出てしまった言葉に対して鈴仙は首を傾げた。
もしかしての話だが、口から出てしまったからには聞いてみようと思う。
「敵って、地上の人間か?」
「……その通りです」
大当たりだった。もっとも、当たっては欲しくなかったがな。
ともあれ、これで月と地上との関係性が見えてきた。
恐らく、決して良好的ではないだろう。
そんなの考えずとも分かる。勝手に自分らの領地に入ってきては、自分たちの物だと言う。俺が月側だったら敵意しか覚えない。
その敵意しか覚えない「地上」の人間。
その地上が何を意味しているのか。
もし、その地上が「俺が元いた世界」を表していたとしたら、
今聞いた事は、多分、
ーーアポロ計画。
本で読んだことのある事だ。1961年から1972年にかけて実施された、
『有人月面着陸計画』。全6回によって行われたこの計画は見事成功。
月面に降り立った印として、宇宙飛行士達は"星条旗"を月面に立てた。
鈴仙の「旗を立てた」という発言から考えるとアポロ計画は当てはまる所がある。
だが、当てはまらない所の方が多い。
月面戦争がいつ起こったかは分からないが、アポロ計画は比較的最近である。幻想郷の歴史と比較してだ。そう考えると年代は合っていない。
それに、月人が住んでいるのは結界で覆われた『月の都』。
裏側というのは、常識や認識の裏側だろう。と、いうのであれば、見つかりはしない。もっとも、認識の条件は知らないが。
以下の理由から「敵」が俺の元いた世界の人間ではない事が分かる。
さぁ、ここまで長々と「敵」の正体について考察したわけだが。
もう単刀直入に聞いてしまおう。
俺の中で、「幻想郷」の中で、一番胡散臭くて長生きの人の名前を出してみる。ごめんね。
「その戦争の中に、金髪の、ピンクっぽい傘持ってるやついなかった?」
「!?どうしてそれを」
「いたのかよ……」
いちゃってたのかよ……。やっぱり何かやらかしていた。
幻想郷の管理人。
「八雲 紫」。
そうと分かれば話が早い。
月にとっての敵は地上の人間。それも、「幻想郷」の。
おおよその憶測でかなりの技術を持っているだろう月の都。
その技術を盗むために月への侵略をした。
その結果が「月面戦争」。
んでもって、仲が悪くなった。
あれ?でも、鈴仙は月の人達を裏切って、敵の本拠地にいるんだろ?
「最悪じゃん」
「はい……最悪です」
最悪。その言葉が鈴仙ほどに合うやつは今の所いない。
だって、どう足掻こうが報われないじゃん。
今更月に帰れないし、今いるの敵の本拠地だし。
唯一救われる方法としては……
「幻想郷は全てを受け入れる」。
これに頼ることしか……。
あれ?
「じゃあ、今誰が鈴仙を匿ってくれているの?」
「師匠です!『八意 永琳《やごころ えいりん》』様!」
分かりやくすテンションが上がる鈴仙。よほど慕っている人なのだろう。
「もしかして、医者か?」
「えっ、どうして分かるんですか?って、今更疑問にもならないけど……」
「お前医者の卵みたいな事言ってたろ?そんな奴が慕う人は……医者だよなぁ」
当たり前だけど。
そう言うと、鈴仙は目をキラキラさせて少し楽しそうな声で言った。
「その観察力とか記憶力とか……本当凄いです!月でも誇れるレベルですよ!」
「そりゃ、嬉しいな。やっぱ、月って技術力とか高いのか?」
「はい、少なくとも幻想郷よりかは。師匠はその中でも「月の頭脳」と呼ばれる天才なんです」
弾んだ声を聞くと、月面戦争での事はあまり気にしていないのかもしれないな、この子。
案外能天気だったり。
ともあれ、そんな先進国でも誇れるレベルと元月の住民に言われると悪い気はしない。
あれ?
というか……。
「月の頭脳まで逃げて来てんの?」
「……面白い事に……」
「いや、笑えねぇよな。月からしたら」
最悪のケースを想定した。敵国に月が誇る頭脳がいるとしれたら今度は月が攻めて来ないだろうか。
「それ大丈夫なのか?」
「月人は穢れを嫌うんです。特に地上には穢れがあると言って、月の都で何かやらかすと地上に落とされたりします」
「だから月人が地上に来る事はないと」
「恐らくですが……」
地上が穢れだらけーー否めないがーーというのが少し癪だが、それなら多少なりとも安心である。
うん、ともあれ聞きたい事は大方聞けた。
鈴仙には質問責めで少し申し訳ない事をした。
「悪いな、質問ばっかり」
「いえ!久しぶりに誰かと楽しくお話しできて嬉しかったです!」
「そう言ってくれると助かる」
素直に感謝されると流石に照れ臭い。微笑交じりにそう言った。
開放的に開かれた俺から見て右側の襖の奥には、視界を覆い尽くさんばかりの竹林が目に入った。
あ、ここって。
俺が行きたいところリストの1つ。シオン命名『デッカい竹林』ではないか。
これは運が良かった。たまたま殴られた相手がこの竹林に住む人で、挙句知り合いにもなれるとは。この静かな和な雰囲気。堪らなく好きである。
「すげぇ、竹林だな」
「迷いの竹林っていうんです。大津波で幻想郷に流れ着いたっていう伝承があったりするんです」
「大津波で……それは分からんが、そんなにデカイのか?」
「妖精でさえ迷うみたいです。私はここ『永遠亭』に住んでるので何となくで分かっているのです」
永遠亭。それがここの名前ね。幻想郷唯一の医者がいるところ。
にしては、この竹林は酷じゃないか?
うん、たしかに迷いそうだ。
デッカい竹林は迷うレベルで、本当にデッカいみたいだ。
病気にかかっても途中で死にそう。
身を隠すにはもってこいだがね。
元月の住民が住んでいるところに、竹林ね。
昔見た本を思い出す。
「かぐや姫でもいそうだな」
「え?居ますよ?」
「ーーえ?」
いや、確かに、月の住民がいるんだ。
八意さんには出会えていないけど、その人も月の住民。
だから、居てもおかしくはないが……。
え?いるの?
「あっ、月の方にいるのね」
「いえ、向こうの部屋に」
「向こうの部屋に!?」
俺としては完全に本の世界の人なのだ。
何を隠そう、俺は竹取物語が凄い好きなのだ。
終わり方が特に好きなのだ。あの、儚い存在。不死の薬を天に近い場所で焼く。後にそこは「不死の山」通称富士山と呼ばれた……。
ストーリー構成から雰囲気まで全て好きなのだ。俺が読書好きになった理由でもある。
そんな奴が、かぐや姫がそこにいると聞けば、盛り上がらない訳がない。
「鈴仙」
「は、はい?どうしました?立ち上がって……」
「会いに行こう」
「え、行動早くないですか!?」
ここまでアクティブになったのは初めてだった。
永遠亭は既にお気に入りの場所になっていた。
うどんげ回part2になっちゃった。
永遠亭の住民は設定多くて困ります……。オリ展開しちゃおうかしらん。