学校にも行かず、ずっと部屋に閉じこもっていた俺の暇つぶし方法と言えば、昔から読書だけであった。
小さい頃からずっとだ。月日が経てば読む本も変わっていくのだが、今までの生涯、出会った日から今の今までずっと好きな本がある。
『竹取物語』。
竹取ってる爺さんが光る竹を見つけて切ってみたら眉目秀麗な少女がいるんだが、みたいな始まり、すくすくと成長したかぐや姫は美しくなって。
だけど、本当は月から来た人。もう帰らなくちゃいけないの……。爺ちゃん婆ちゃんと悲しい別れを告げ、月へと……といった絵本から始まった。
もっと深く読みいってみればーー幸運にも近くに図書館があったのだーー絵本「かぐや姫」では無くて、達筆に書かれた古い本。
「竹取物語」。
始まり方は同じだった。だが成長してからが違った。
かぐやを迎えてから黄金の竹ばっか取れるようになった爺さんは大金持ちに、かぐやは姫となった。
そんなかぐや姫の前に5人の貴公子、というかお見合い相手が来た。
月に帰ってしまうため嫁ぐわけにはいかないかぐや姫は5人の貴公子に無茶苦茶な試練を……。
ええい!どうでもいい!
ともかく、こうしちゃいられない!!
鈴仙が言った通りならば、すぐ近くの部屋に!!
かぐや姫が!!
なんて考えながら、襖を開けた。
「かぐや姫!?!?」
「ふぉっ!?……何よもぉ〜……」
「えっ、あっ、すいません……」
「うぅん……」
襖を勢いよく開けると同時に畳の部屋に敷かれていた1つの布団がビクッ!と動き、やがて小さな寝息をたてて動かなくなった。
しまった、人違いだった。
こんなテンションでかぐや姫にあったら失礼だろうな。ちゃんと落ち着いて入ろう。
起こさないように襖をそっと閉めた。
「も、もういいんですか?」
「え?何が?」
俺の後を追ってくれた鈴仙が小さく話しかけてくれた。
鈴仙は不思議そうな顔をして、首を傾げていた。
「俺は今からかぐや姫に会いに行くんだが……」
「今の人が『かぐや姫』なんですが……」
「……え?」
恐る恐る襖に向き直り、そぉーっと襖を開ける。
見てみれば、くかーっと寝息をたてて上下に動く布団しかない。
…………。
もう一度鈴仙に向き直る。
「動く布団しかないけど……?」
「その動く引きこもりがかぐや姫なんですって」
いや誰も動く引きこもりとは言ってな、
え、いやマジで?
かぐや姫って動くクソニートなの?
いや、引きこもりもニートも動くわ。
少し不安になっていると布団の方から寝起きの声が聞こえた。
「さっきから何失礼なこと考えてんのよ……」
布団を見てみれば眠そうな目にボサボサの長い黒髪に、真っ白な肌が、布団から出ていた。顔だけ。
あれが?
…………かぐや姫?
「嘘でしょ?」
「何がよ……」
にわかに信じ難い現実に、
文字通り、頭を抱えた。
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
「へぇ〜、貴方が最近よく聞くシオンって人なのね」
「……ぁい」
あの後、応接間のようなところで待機させられ、再び動く布団こと「蓬莱山 輝夜」が現れた。
大方の自己紹介と、輝夜の話も聞いた。幻想郷にいる理由も。
何でも、竹取物語の作中でも出てくる不老不死になれる薬「蓬莱の薬」を飲み処刑となったが、不死なため殺さず、地上への流刑となった。
たしか、月人にとってはここは穢れが多いとかで嫌われてるんだっけ。
んで、流石は姫のカリスマ性と言うべきか、今や豪勢な屋敷の主人である。しばらくしたら鈴仙との話でも出た、ここの薬師でもある『八意 永琳』さんも来るらしいのだが……。
いや、もうどうでもいいや。
目の前でお茶をズズズゥーと啜る輝夜を見ればもう何でもいい。
お盆を抱えて困った表情で俺の隣に座る鈴仙はちょっと労ってあげよう。
「……で、何で貴方は目の前に大ファンの人がいるのに目が死んでるのかしら?」
「……いや別に期待はしてなかったけど」
「え、もしかして期待を裏切っちゃったの?私?」
いや、本当に。幻想郷ならイメージ通りなかぐや姫がいるかもなんて思ってない。うん、大丈夫。
なんなら、ちょっと?……うん、ちょっとくらい欠陥があるくらいがちょうどいいと本に書いてあった。
美人で性格が良い人は大体腹黒いってのも本に書いてあった。
多少親しみやすい方が良いものかもしれない。
そう考え、多少心が軽くなった。もう一度輝夜に目を向ける。
輝夜は俺と目が合うと、笑顔を作ってどこか誇らしげに言った。
「でも、見た目はイメージ通りでしょ?」
「あ、確かに……男が寄ってくるのも分かるよ」
「でしょ!あれ?でも貴方、かぐや姫が好きだって言う割には興味なさそうね」
「俺が好きなのは本の中のかぐや姫で……」
「そ、そんな理由で……」
輝夜は確かに美人だ。5人の貴公子が恋をするのも頷ける。もっとも、名誉が欲しいだけの奴もいたかもしれないが。
案外俺は性格を機にするタイプらしい。だって、鈴仙が苦い顔で「動く引きこもり」って言う奴だぞ?多分まともじゃない。
ただ、この親しみやすさは少し意外だった。仲良くはなりたいな。
輝夜はというと、逆に俺に興味があるみたいだ。
輝夜は間に挟んだ机に乗り出す。さっきより顔が近い。てか怖い。
輝夜は表情は変えず、目はキラキラさせていた。
「な、何……?怖いんすけど……」
「いや、私の姿を見て迫って来ない男性なんて初めてだから……」
「へぇ、苦労してんのな……いや、だから近ぇ」
輝夜の今の感情は珍しいものを見た時のような感じだろうか。
美人ゆえに苦労してんのな。大体性格悪いとか言ってごめんね。
輝夜がどれだけの異性と関わったかは知らないが、お姫様として育った輝夜は少しばかり世間知らずなところもあるのだろうか。今の顔は俺が新しいものを発見した時と同じような顔をしている。と思う。
そして、どこか天然なんだろうな。ここまでの行動で大体は分かったと思う。
そこまで分かった時にはイメージと違うなんて事は気にならず、純粋に彼女とは仲良く出来そうな気がしていた。
嬉しいことに、輝夜も同じような気持ちだったらしい。
「私、貴方と仲良くしてみたいわ!」
「この距離感は既に仲良くなってるって事でいいのか?」
「やけに、気にするのね?」
「他人からの情はあまり慣れてなくてね……」
そう言うと輝夜は「ふぅん」と言って、元の位置に戻った。
姫の強烈な迫力から解放されると、ふっと一息ついてお茶を啜った。
ひと時の静寂が訪れると、ふいに襖が開く音がした。
と、すぐに開かれた襖の方から大人の女性を感じさせる落ち着いた声が聞こえた。輝夜とは違って。
「あら?貴方が鈴仙に殴られた人?」
「説明がひどい!」
輝夜とは違うベクトルでひどい香りがする。
「貴方が最近幻想郷入りしたシオンって人なのね」
「はい、その説明がいいです」
謎の紹介を撤回して、改めて自己紹介し直す。
目の前の赤と青の特殊な配色をした衣装に、ナースっぽい帽子を被った、白く長い髪を三つ編みに束ねた女性は、ここ永遠亭の薬師、『八意 永琳』。
何とも若々しい見た目をしているが鈴仙の話の通りなら多分最年長だろう。幻想郷怖い。美人怖い。
「私は薬師をやっているわ。怪我したらここへ来るといいわ」
「途中で力尽きません?」
「案内人がいるから大丈夫よ」
「案内人?そんな人いるんですね」
また今度会ってみようと思う。無事に出られたら。
ふと、俺が座っている場所の反対側から、つまり輝夜の場所から謎の殺気を感じた。
え、殺気?
「…………」
「ど、どうしたんですか?輝夜さん」
自然と敬語になってしまう。
すると、永琳は苦笑まじりに呟いた。
「あぁ、輝夜の前で妹紅の話は不味かったかな……」
「も、もこう……?」
ふいにそんな言葉が聞こえた。
妹紅という人がその案内人というわけなのか?
ただ、輝夜の前で…とは一体……。
するとふいに、竹林のある方から足音が聞こえた。今いる場所のと縁側は繋がっているため誰か来たことはすぐに分かった。
ただ、そんな事より、やれやれといった仕草を見せる永琳の言動が気になった。
「噂をすれば何とやら、ね」
「え?」
「逃げましょう、シオンさん」
「鈴仙?一体何が……」
そそくさと永琳はどこかへ行き、ぐぬぬぬぬと唸る輝夜を放ったらかしに鈴仙は俺を引き摺る。
え、怖い怖い怖い。何?今から殺し合いでもおきんの?
と、言おうとした俺の思考を読み取ったかの如く鈴仙は困った顔で言った。
「今から殺し合いが始まるんですよ」
「……えぇ」
思わず困惑の声が漏れる。
幻想郷の人って結構血の気多い?
怖いわ……。
え、いや、待て。
悠長に怖いとか言ってる場合じゃねぇわ!
相手が誰だか知らんけど、輝夜は不老不死だぜ!?
「と、止めなきゃ!」
「ちょっ、シオンさん!?」
襟首にあった鈴仙の手を優しく払い、さっきまでいた部屋に向か、
「!?!?」
おうとした瞬間、縁側の外から激しい炎が上がった。
燃えるような、激しい爆炎が。
よし!!
「逃げよう」
俺は流れるような見事なUターンをかました。
天然ぐーやとくーるびゅーてぃ『えーりん』。
キャラはまだちゃんと分からないかもしれないけど次回はちゃんとキャラの話作るからね