東方弔意伝   作:そるとん

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ちょっと息抜き。


閑話 迷いの竹林のイナバ

 

 

 

風に靡き、葉と葉が擦れる爽やかな音と共に目を覚ました。

さわ、さわと涼しい風が竹の香りを運んでくる。住居に困ったら此処に住もうかと思うほど居心地の良い永遠亭で、俺は朝を迎えた。

 

幻想郷はすでに春で、日差しは暖かく、日光も優しく地面を、花を照らす。

春眠暁を覚えずといった言葉があるように、目を開けた今でも眠気は残る。

全ての景色が白昼夢のように感じる。

深い緑の竹林。

暖かな風。

優美な景色。

隣で眠る鈴仙。

 

…………隣で眠る鈴仙。

 

「ふっ…うふふふ……そこはダメですよぉ……」

 

 

……夢であってほしい。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

 

「いやぁ…はは、お見苦しいところをお見せしてしまって……」

「別にお見苦しくはないけど状況がヒエログリフ並みに理解できない」

 

結果からいうと、夢ではなかった。

リアルで鈴仙が俺の隣で寝ていた。

あまりにも謎だったので鈴仙を叩き起こすことに。

で、今事情聴取しているのである。

 

「き、気づいたらシオンさんの部屋に…いまして……」

「夢遊病とか持ってるの?」

「か、かもしれないですね〜…あ、あはは……」

 

何故、一向に目を合わせようとしないんだこのウサギは。

気づいたら別の人の部屋にとか怖すぎんだろ。いつか寝たまんま家出するんじゃねぇかこいつ。

そして返答が曖昧だな。

なんて、考察しなくても嘘であることはバラバラなのだが……。

 

「まぁ、なんか事情あるんだな。これ以上は聞かないでおくよ」

「えっ、聞かないんですか?」

「なに?聞いてほしいのか?」

「いっ、いえ!聞かないで下さるのでしたら助かります……」

 

まぁ、本当はこれ以上はめんどくさくなりそうだから、だ。

隠したい秘密くらい1つや2つあるだろう。それを無理に聞こうとする理由もないし。夜中にこっそり暗殺しようとしたら寝ちゃった、とかだったら怖いし。

今回は逃げよう。放っておこう。

 

「んじゃ、まぁ、起きるか」

「えっ、まだ朝早いのに……何か用事が?」

「ん?此処を出るんだよ。長居は良くないしな」

「……もう少し寝ていきません?」

「もう目が覚めちゃったよ」

「……あ、でもほら!怪我とか、まだ……」

「そんな深い怪我はなかったらしいから安心しろ」

「…………」

 

怪我のことに関しては永琳先生のお墨付きだ。回復速度に驚かれたけどな。

ともあれ、長居はしない主義なんだ。居心地が良いとはいえ、帰る家があるわけではないとはいえ、もう出なくてはならない。

というか、出かけたい。散歩したい。

鈴仙のお誘いをやんわり断ると鈴仙は黙ってしまった。

 

「れ、鈴仙……?」

「い、行っちゃうんですか……」

「何をそんな永遠の別れみたいな……」

 

ただお邪魔しましたーって言うだけなのに……。

困惑していると、そっと襖が開かれる音がした。

 

「何やってるのよ」

「し、師匠!」

「あ、永琳さん。おはよう」

「えぇ、おはよう。ところで、うどんげ?何やってんのよ」

 

開かれた襖の向こうには鈴仙の師匠こと永琳がいた。

柔らかい笑顔で俺に挨拶をしたかと思えば、今は呆れたように鈴仙に問いかけていた。

すると鈴仙は目をウルウルとさせ、か細い声で言った。

 

「だ、だって……シオンさんが……もう此処を出るって……」

「あら?もう行くの?」

「えぇ、だいぶ治りましたし」

「そうね。気をつけてね」

「ししょー!!?」

「……何よ」

 

鈴仙は一度師匠と叫ぶと、またか細い声で言った。

 

「シオンさんが…いてくれれば……楽しいのに……」

「鈴仙……?」

「実験とかの後でも……慰めてくれそうなのに……」

「じっ、えっ、鈴仙?」

「姫様も、シオンさんがいてくれれば…大人しくて……私に八つ当たりもしないのに……」

「……俺もう行きます」

「えぇ、そうね」

「シオンさあぁん!!」

 

永琳は泣き喚いて俺に飛びついてくる鈴仙を片手で抑えた。

うん、可哀想すぎるな。こいつ。

だけどな、後半はただの愚痴だろお前。

とは言えない。大変そうだし。

 

「労ってやって下さいね」

「……善処するわ」

「ししょぉお〜……」

 

永琳に抑えられながらメソメソ泣く鈴仙を尻目に玄関へと向かった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「じゃあ、お世話になりました」

「えぇ、気をつけてね」

「絶対また来て下さいね!人里で見かけたら声かけます!」

「立ち直り早いなぁ、お前」

 

俺は玄関を少し出た先で永琳と鈴仙に見送られた。

鈴仙は心配性なのだろうか。さっきも忘れないでください!どうか!私のことを覚えていて!とか言っていた。

初めてできた知り合いだし、仲良くしたいんだろうな。そんな簡単に忘れねぇよ。

まぁ、ここは本当に落ち着ける。また来るとしよう。

 

「まぁ、怪我したらここに飛び込むことになるんだろうけどな……」

「えぇ!すぐ来てください!その時は私が24時間看病します!」

「鈴仙キャラ変わったなぁ……ありがとな」

 

最後にもう一度お礼を言って、永遠亭をあとに……。

 

 

「シオーン」

「ん?この声は……」

「……またね」

 

声のする方を見てみると、体をずるずる引きずったように乱れた毛布に、縁側から上半身だけ出して、力の抜けた手で俺に手を振る輝夜がいた。

 

「輝夜が、起きてる…!?」

「姫様が……!!」

「今日はは槍が降るわね」

「何よぉ…みんなしてぇ……」

 

あの引きこもり姫がこの時間に目を覚まして別れの挨拶をしてくれるなんて、思っていなかった。

それはみんな同様で、全員驚いた。輝夜はむっとした表情を浮かべた。

なんだか締まらないなぁ……。

そんなやりとりに思わず笑みが溢れる。

 

「ははっ……」

「何笑ってんのよぉ……」

「いやぁ、別に。じゃ、またな!輝夜!」

「うん、またね……」

 

最後に輝夜は少し微笑んで、俺を見送ってくれた。

ほんと、槍が降りそう。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

 

 

 

早速槍が降った。ような出来事が起こった。

つまりは、何かしら困ったことになった。

俺は先程永遠亭をあとにして、大きな竹林へと入っていった。

そう、「迷いの竹林」へと。

 

「うん、迷った」

 

そう、迷った。

どこを見ても同じような景色で、どう歩いても同じような景色しか見えない。

マジで迷いの竹林じゃん。冗談抜きで迷いの竹林じゃん。名前のまんまじゃん。

さぁ、どうしよう。

ここは案内人の妹紅がいないと抜けられないうえに、俺が迷いの竹林に入るのは初めてだ。永遠亭に行った時は鈴仙に運ばれたし、完全に初見だ。

それを踏まえた上でもう一度言う。

さぁ、どうしよう。

 

「洒落にならないよなぁ……」

 

ボソボソと1人で喋りながら同じ景色を歩き続ける。

側から見たら変質者だが幸い周囲に人はいない。

運良く妹紅に会えないだろうか。

思えば、周囲に人がいないのは生憎だな。いて欲しかった。独り言聞かれててもいいから。

そう思い、周囲を見回してみる。

 

「……いないよなぁ」

 

と、肩を落とす。

瞬間、地面が無くなるような感覚に襲われた。

 

「うおっ!!っと!」

 

反射的に左の竹に捕まり大きく飛び退ける。

即座に体制を立て直し、顔を上げて声を張る。

 

「誰だ!!」

 

一体誰がこんな……能力……。

ん?違うな。

 

地面が無くなった感覚がしたところ、つまりさっきまで自分がいたところを見ると、魔法の形跡があるわけでもなかった。

普通の、

 

「お、落とし穴……?」

 

何とも古典的な罠で拍子抜けしてしまった。

幻想郷だから能力とか魔法とかだと思ったのだが、何ともアナログな落とし穴。

だがまぁ、どっちしろ……。

 

「誰だ!?誰かいるのか?」

 

適当な方向へと叫んだ。

俺の声が竹と空気を伝って少し響く。

自然の落とし穴というわけではないし、完全に人工物。それに深い。

誰かいるはずなのだが……。

 

「!!、いるな……」

 

背後で草を踏む音がした。ガサガサと、1つだけ。

もう一度意識を集中してみる。

 

 

…。

 

……。

 

………!!

 

 

「そこか!!」

「ぎゃっ!?」

 

一瞬、足音がした場所へと弾幕紛いなものを飛ばした。

すると大当たりのようで強い衝撃音とともに小さな断末魔が聞こえた。

弾幕をぶつけた場所へと急いでみる。

 

竹を掻き分け、弾幕が当たった場所を見てみると、

 

「またウサギか……」

「弾幕当てといてその発言は何なのさ……」

 

そこには、鈴仙とはまた違ったウサ耳に薄ピンクの服に人参のネックレスをつけた幼い少女だった。

まぁ……人間じゃないわな。

よっこいせ、と立ち上がった兎少女には尻尾も生えている。

そして身長も随分低い。本当に幼い見た目である。

 

「あたしは因幡 てゐ(いなば てい)!見ての通り兎さ!

「俺はシオンだよ。見ての通り人間だ」

「こんなところで迷うなんて…命知らずな人だね」

 

ごもっともでございます。

ともあれ、ここで誰かに出会ったのはラッキーだ。ここの地形にも詳しそうだし。

 

「なぁ、てゐ?」

「んー?」

「出口まで案内してくれないか?」

 

初対面の迷子の切実なお願いだ。

忙しそうには見えないし、暇ではあるだろう。あの落とし穴作ってるくらいだし。

 

「いいよー!シオンは罠にかからないし、面白くない!」

「何だその理由……ん?俺は?いつも誰に仕掛けてんだ?」

「鈴仙」

「っ……あぁ〜」

 

マジかぁ……労ってやろう……。

 

「じゃあ、いくね?」

「え?何を……」

「……はい!終わり!じゃあ、あとは歩くだけでいいよ!」

「は!?一体何を、あれ……いねぇ……」

 

てゐはむむむと何か念じているかと思えば、特に何も起こらず、俺自身、何も起きなかった。

結局嘘かよ……案内どころか目を離した隙にとっとと何処かに行ってしまった。

はぁ…自力かぁ……。

少し落とした肩を上げて、顔を上げて、もう一度歩き出した。

……あれ?

 

「目の前出口だったっけ……?」

 

少し歩いたかと思えば、すでに出口の目の前にいた。

目に映る景色は、竹は無く、のどかな一本道となっていた。

これ、もしや、てゐの……。

 

「幻想郷すげぇ〜……」

 

改めて不思議なことを体感すると、テンションってあがるんだな。

 

 






ちょっとした息抜き回でした……。
次回はストーリーに入ります。
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