東方弔意伝   作:そるとん

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家が欲しかっただけなんだけど

 

 

 

のどかな空の下、俺はふわふわと飛んでいた。ふわふわと飛んでいると、蘭に空の飛び方を教えてもらった時の事を思い出す。あの時は気がどうたらこうたらとかで、全然飛べなかったっけ。結局、力を抜けば飛べるっていう変な結果が得られた訳だけど。今となっては飛ぼうと思えば普通に飛べるようになった。自分としては歩いて人里まで向かって、色々見て回りたいところだが、寄り道しすぎて遭難しかねない。

まぁ、日光を間近に感じられるし、何しろ飛べるなんて本来あり得ないからなぁ。元いた世界でやったら完全にニュースものだ。

幻想郷だからこそ味わえるものであろうか。貴重だ。存分に味わっとこう。

しばらく春の日を感じながら飛んでいると人里が見えた。

 

「おぉ、一日ぶり!」

 

あまり久しくないような感じがするけれど、何でも1日1日の内容が濃い。

久しぶりに感じてしまうんだよ。

人里が見えると、あのおばちゃんがいる甘味屋が恋しくなって、スピードを少し上げて人里へ降りた。

 

 

 

 

 

 

 

「季節が変わっても団子の味は変わらんなぁ……」

「何ジジくさいこと言ってんのよ〜!」

 

いつもと変わらず、三色団子を頬張りながら甘味屋のおばちゃんとイチャイチャする。

三色全てゆっくり食べられたのは久々かもしれない。

ついこの間は鈴仙に会ってあれだったし、その前は鬼が人間攫ってたし……。

俺まだ幻想郷に来て一月経ってないのか……!?

ほんの数週間でこのボリューム……幻想郷に胃もたれ起こしそう。

う〜ん、数週間……。

 

「良く生きてんなぁ、俺」

 

金はあっても、家は無いし、安全性は皆無だし、4,5回死んでいてもおかしくは無いよなぁ……。

もし、幻想郷を歩き尽くして、ゆっくり休もう!とした時に自分の家がないとなると流石に辛いな。

レミリアとか輝夜とか、霊夢とか…泊めてくれそうな人はいっぱいいてくれているけれど、図々しいな……。

 

「家欲しいな……」

「なぁに?シオン君、家が欲しいの?」

「あっ、聞こえてた?」

 

ボソッと呟いたその一言を、バッチリおばちゃんに聞かれてしまった。

どうしよう……世話焼きのおばちゃんの事だ……無理をされても困るな……。

ここはやんわり誤魔化しておこう。

 

「あ、いや、別に今すぐって訳でもないし、今の発言に意味は……」

「うん、ちょうど良かったわ〜!」

「……ちょうど良かった?」

 

必死に取り繕う俺はどこはやら、おばちゃんは満面の笑みを浮かべてそう言った。

ちょうど良かった、と。

 

「えと、それはどういう……」

「いや、ね?私も主人ももういい歳でね」

「うん」

「そろそろ、のんびり暮らそうって話をしていてね」

「ほお……」

 

つまり何が言いたいのだろうか。

それを考えてみて思いつく事と言えば……。

お店は畳むって事なのだろうか……。少し悲しいな……。

 

「で、この家どうしようかって……」

「うん……えっ?この家?」

「そうなの」

「お店畳んで、ここでのんびり暮らすんじゃ!?」

「いやぁ〜、主人と一緒に違う所で住むのよ〜」

 

なっ、なにぃぃ!?

アグレッシブだな!!このじいさん、ばあさん!!

違うところに住む!?お店を畳むことに違いないがまさかのじいさんとハネムーン!?!?

はぁ〜、やるなぁ、じいさん。

 

「えっ、で、この家どうするの?」

「そう!そこで家を欲しがっているシオン君が来てくれたのよぉ〜」

「……都合良すぎない?」

「私が都合良くしてんのよ〜!」

 

やるなぁ、ばあさん!

 

「それに、シオン君!料理も上手いじゃない?」

「え、うん、まぁ…人並み程には……」

「何言ってんのよ〜、あの時作ってくれた饅頭美味しかったわ!」

「そ、そうなの……」

 

そう、そうなのだ。

前に一度、ばあちゃんの旦那さんが病気で寝込んだ時に、代わりに俺が色々と作ったのだ。

その時余った饅頭をばあちゃんにあげたのだが……。

……えっ?

 

「まさか継げっていうのか!?」

「そうなの!」

「ここを!?」

「ここを!!」

 

なぁに言ってんだばあさん!!

前から無茶苦茶な性格だとは思っていたが、もはやこれだと破天荒のレベルだ。

 

「別に継がなくてもいいのよ?ただ残されるこの家をどうにかしたくて……」

「えと……いいの?」

「シオン君なら大丈夫よ!」

「じゃ、じゃあ……貰っちゃおっ…かな〜」

「よし!交渉成立ね!」

「えっ、ちょっ、決断早くない?」

 

恐る恐る返事をしたにもかかわらず、おばちゃんは昔の若さを取り戻したかのように素早い動きで次の行動へと移っていく。

このばあさん俺より元気だろ。

最後の団子をむしゃむしゃ頬張っているうちに、ばあちゃんとその旦那さんは身支度を済ませていた。

 

「……えっ、もう行くの?」

「えぇ、もう新しい家は準備出来ているのよねぇ……」

「良くもまぁ、この家の事考えずに行動したなぁ」

 

ほんと、その行動力は感心するよ。俺も見習おう。

ともあれ、身支度を済ませた2人はもう出発する気満々だ。

それならば、見送ってあげるのが礼儀だろうか。

 

「そっかぁ…じゃ、まぁ!お元気で!」

「うん!また手紙を寄越すわ!」

「シオン君…達者でな…!」

「!!……旦那さん!」

 

ほんの数週間だったけれど、この人達とは1番多く関わった気がする。

幻想郷の多分メインである人達差し置いてこの夫婦と1番多く関わった気がする。

ちなみに旦那さんの声を聞くのはこれで3度目です。

出会った時と、手伝った時と、今。

寡黙なカッコ良い人だった……。

 

明るい別れを済まして、手を振りながら、旅立っていく2人を笑顔で見送った。

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

 

 

まさか家が欲しいと思っただけで、おさがりの立派な家を貰えるとは思わなかった。

俺のお気に入りの甘味屋は、人里からちょっと高い台地のようなところ…の、端っこに位置している。

決して人里から遠い訳ではなく、台地の端っこで人里を見回せるようなところだ。地面は芝生のようで、常に爽やかな風が吹く。

ロケーションといい団子といい、全てが大好きだったのですぐに俺のお気に入りとなったのだ。

まぁ、今となってはその甘味は食べられないのだけどね。

甘味屋は継がないでおこう……。

まぁ、気が変わったらやるかもしれないけど、まだやらないでおこう。

 

 

ある程度家の中を見て、ひと段落したところでお茶を啜っていた。

ついさっきまでおばちゃんと談笑していた外のベンチで涼しい風を浴びながら。

 

「……団子、作ってみようかな」

 

久しぶりに「暇」という感情に見舞われたので、暇つぶしにお菓子を作ってみることにした。

……あ、いや別に甘味屋を継ぐ訳ではない。

 

よっこらせと立ち上がろうとした時に、一際強い風が吹いた。

 

「どーもー!おばちゃんお団子くださーい!」

「……おばちゃんいねぇぞ。射命丸」

「あややややっ!?」

 

強い風と共に舞い降りたのは幻想郷最速を謳う「射命丸 文」。

こいつの新聞のせいで俺の情報が完全にバレたのは最近の話である。

まぁ、隠すこともないしな。ただでさえ記憶が曖昧なのに。

ともあれ、いつもの調子で元甘味屋へとやってきた射命丸は目を丸くしていた。

 

「いないっていうか、貴方しかいませんね?」

「……団子食うか?」

「えっ、作ってくれるんですか!」

「食べながら説明するよ」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

「そうですかぁ〜、もう終わっちゃったんですか……」

「あぁ、元気だよな。あの夫婦」

 

外のベンチで2人涼みながら、ぼんやりと話をしていた。

射命丸に大方説明した。こいつもここの常連だったみたいだから中々にショックらしい。

反応が少し気になって射命丸に視線を向ける。

……あれ、こいつ元気だな。

 

「悲しくないのか?」

「そりゃ、こう、感慨深いものもありますけど……」

「けど?」

「このお団子美味しいですねぇ!!」

「そ、そうか」

 

射命丸は団子をもぐもぐと頬張っては目をキラキラさせている。

え、そんなに美味い?流石に嬉しいぜ。

あっという間に一本食べた射命丸は少し忙しなく、俺の方を見て言った。

 

「継ぎましょう!」

「……え?」

「甘味屋、継ぎましょう!これならお金取れますよ!」

「えっ、マジか。さんきゅ」

「はい!なので継ぎましょう!!」

「えっ、マジか」

 

……いや、嬉しいよ?素直に褒められるのは嬉しい。

だが、継ぐかどうかとは話が別だぜ?

そりゃ、お金も稼げるし、お家は手に入るし、嬉しいけれど。

けれど……。

 

「名前とかどうします!?」

「いやいやいや、気が早いって。まだやるとは言ってないし」

「えぇ〜!もったいないですよ!食べてもらいましょ!」

「やるんだったら、細々とやっていきたい……」

「それでもいいです!私ここの常連になりますし!」

 

気が早いって……。

ただ、なぁ……。俺で大丈夫なのだろうか、おばちゃん。

って、おばちゃんなら多分やれって言うんだろうな。

まぁ、暇ではなくなるだろうか。

 

「で、で、どうします!?」

「うん、やろうかな。甘味屋」

「本当ですか!?やったー!早速新聞に……」

「早いって……載せるんならちっちゃく載せといてくれ」

 

ともあれ、楽しいと思えば本当に楽しく思えてくる。

結構、悪くないなんて思っている俺がいる。別に驚きはしないけどね。

ま、これから楽しくなりそうだ!

 

「あ、名前」

「そうだ!名前!どうします!?」

「テンションたっかいなぁ……でも、名前…センスないしなぁ……」

 

うぅん……甘味屋…シオン?なんかしょっぱそう。塩みたく思われそう。

名前は変えた方がいいよなぁ……というか変えたい。ここ俺の家になる訳だし。

にしても、うぅん……おば、おばちゃん…甘味屋 叔母……いやダメだな。

 

「何か思いつきそうですか?」

「ダメだな、ネーミングセンスが生まれた時から欠乏してるみたいだ」

「局所的ですねぇ……」

「おばちゃんならなんて付けたんだろうな……あ」

「お、何か思いつきました?」

 

おばちゃんから、おばあちゃんへと結びつく。

何とも小学生のような思いつきだが。

……悪くないかもな。

もう忘れてしまったかと思っていたが、まだ覚えているとはね。

ヴィネアではなく、普通の、「俺のおばあちゃん」だ。

俺のおばあちゃんの名前だ。

 

「で?どんなのですか?」

「悠久に、榮える」

「はい?」

 

ずっと、悠久に、榮え続ける。

 

「久榮……」

「きゅー、えー?」

「あぁ、久榮《きゅうえい》」

 

本当の呼び方は『ひさえ』なのだけれどね。

なんだか変な感覚になるから名前は辞めた。

 

「でも、悪くないだろ?」

「生憎、私もセンスないので分かりません!」

「なんじゃ、そりゃ」

「でも、何か……愛を感じます!」

「……そうか、センスあるじゃん」

「えっ、そうですか?えへへ〜」

 

実際良いかどうか分からないけど、定着してみれば違和感は無くなるさ。

実際、祖母への、おばちゃんへの愛が込められているしな。

ひと段落着いたかと思えば、射命丸はそそくさと支度を整えた。

 

「じゃ!記事作ってきますねー!」

「えっ、ちょっ、早いなぁ……」

 

数枚シャッターを切ったかと思うと、あっという間に遠いところへ行ってしまった。

うーん、結局忙しなくなったなぁ……。

まぁ、多分これから楽しくなりそうだ。

 

 

「甘味屋『久榮』……ね」

 

じゃあ、細々とやっていこうか……!!

 

 

 






ダークヒーロー甘味屋の店主になっちゃった。
かわいい〜。
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