東方弔意伝   作:そるとん

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遅くなってすみません!!


労いの紅魔館

 

 

フランとの死闘(弾幕ごっこ)はひと段落つき、火照った体を冷ますべく、俺は紅魔館の庭で涼んでいた。

 

「はぁ……涼しい…俺はまだ生きてる……」

 

涼しいという感覚に自分にはまだ触感があることを確認し、生存していることを改めて感じる。

なにぶん、ついさっきまで幼女に殺されかけていたのだ。なにそれ怖い。

 

「なんで鬼とは戦えて、吸血鬼にはボロ負けかなぁ……」

 

鬼の時は、たしかに不思議な感覚に陥ったり、自分ではなくなったような感じがしていたにせよ、多分あれは俺の力であるはずなのだ。

一応、あの感覚を俺の中では一種の『闘争本能』と定義しているわけだが……。

吸血鬼相手になるとその本能が全く出てこない。

必死で逃げるだけじゃ、フランをつまらないだろなぁ。

 

「(傷つけたくない、なんて甘い自分が出てるんだろうな…)」

 

いや誰も怪我をしないに越したことはないんだけどな。鬼の時も、人里の人間が危険だという状況下でつい怪我をさせてしまったのは良い事とは言えない。鬼子母神…桜花の時は多分死ぬ気配がしたから、必死だっただけだと思う。

 

「(う〜ん…分からねぇ……)」

 

あの時、急に湧いて出た力も、囁きかけてきた厭に気味の悪い俺も、何一つ分からない。

ずっと何かがモヤモヤしている。心の何処かに、何かが引っかかっている感覚。

 

「あ、そうだ」

 

案外、そのモヤモヤは些細なことで忘れることもあるのだけど。

 

「美鈴を労ってあげてねぇわ」

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

多く作っておいた洋菓子と甘味屋『久榮』の特性和菓子を入れた紙袋を持って、俺は紅魔館の門へと向かった。出来ることなら館内で食べさせてあげたかったが門番は仕事場から離れるわけにはいかないらしい。ちなみにby咲夜である。

だからまぁ、そこはしょうがない。せめて労ってあげよう。

俺の作ったお菓子が労いになるかは定かではないが。

と、考えているうちに紅魔館の門に着いた。

無駄にでかいな紅魔館。もやしっ子の俺にはきつかった。よく執事出来てたな、俺。

なんて思いつつ、何とも不憫な門番に話しかけることにした。

 

「よ、美鈴。元気…なのか?」

「あ、シオンさん。はい!元気ですよ!」

 

美鈴はそう言うと、何とも素敵で眩しい笑顔を見せた。本当に元気そう。看板娘としては優秀だな。門番としては……まぁ、うん。

ただ、そこそこ冷える夜に外に置き去りも可哀想なので労ってあげようって訳で。

美鈴は、この夜更けに外にいる俺に当然の疑問を問いかけた。

 

「シオンさんはどうして外に?」

「美鈴を労ってあげようと思ってな」

「へ?わ、私をですか……?」

 

まぁ、当然の反応かな。俺だって急に「労ってやる」なんて言われればビックリする。

ただ、今回の場合ちょっとした謝罪も含めている。

 

「ほら、以前の紅魔館異変の時に、お前可哀想な目に遭っていただろ。主にどっかの巫女のお陰で」

「あ、あはは……お恥ずかしい事に…。門番なのに一瞬で門通してますからね」

「あの、巫女と魔法使いがおかしいだけさ。ともかく、ほら、これ」

「これ…わぁ!お菓子がいっぱい!くれるんですか!?」

「あぁ、俺お手製だぞ。労いになるか分からんが…」

「いぃや、もう満足ですよ!!お気持ちだけでも嬉しかったのに!甘味屋さんの事は噂でかねがね聞いてますからね!!ありがとうございます!」

 

うぅむ……甘味屋開業以来、なんとも無愛想な子達ばっか来てたからだろうか。

美鈴のような喜ばれ方をされるのは初めてで、少しだけむず痒い感覚だ。決して不愉快ではないけれど。

自然とできた笑顔のまま、俺もその感情を言葉にする。もっとも、俺もその無愛想な子に含まれるであろう人種なのだけどね。

 

「そうか、そこまで喜んでくれると嬉しいよ。まぁ、ゆっくり食べるといいよ」

「えっ、もうはべひゃいまひは」

「紅魔館の人って食べ物吸い込んで食ってんの?」

 

レミリアといい美鈴といい、こんなに早食いだったっけ。

まぁ、少しでも休息になったのであればよしとしよう。ただでさえ不憫な扱いを受けているのに。

うん、でも……休息か。

 

「そういやさ、門番って幻想郷じゃほとんど暇じゃないか?」

「ん〜、まぁ確かにそうですね。比較的平和ですし」

「異変さえなければな」

「あの時は穏やかじゃなかったです……」

 

美鈴も異変にはうんざりしてたらしい。

それもそうだろう。活躍としては大体10行くらいだろうと思う。実際、俺が紅魔館の異変(紅霧異変と呼ばれてるらしい)で関わったのはほんの数分だ。そうであっても、あの紅魔館、主に門の荒れようを見れば美鈴は瞬殺だったことぐらいわかる。

そこで、もう一つ疑問。

 

「それで門番出来るのか……?」

「むっ、失敬な。私だって一応妖怪なんですからね!」

「それを瞬殺した霊夢は化け物かな……」

「…………」

「否定できないよな。あながち間違いでもないし」

 

ただ、ちょっと霊夢にも申し訳ない……。

ただ、そうなるとどうしても思うことがある。

 

「門番必要なくね……?」

「それ言ったら私の存在意義がっ!!」

「いや、めちゃくちゃ必要じゃん」

 

もはや存在意義『門番』だったとは……。

そう憐れんでいると、美鈴はハッとしたように言葉を続けた。

 

「あっ!でも最近だと良く本泥棒が来て大変なんですよ!!」

「本泥棒?」

「はい!!空をピューンって飛んでって、帰る時には数冊持って……」

「いや、それ門番の意味……空をピューンって…」

 

空を飛ばれたんじゃ門番の意味なくね?と思ったところで、ふと引っかかる。

『空をピューンって』。

……なんだか、イメージが湧くな。

誰というか、なんというか、

そいつしか、いないというか……。

そう考えていると、美鈴は突然あっ!と叫んだ。

それもそのはず。

なんともタイムリーに『本泥棒』が現れたのだから。

 

「あぁっ…!また貴女!!」

「よぉ、いつも悪いな。今日も借りてくぜー!」

 

不敵な笑みと共にそう言った『魔法使い』は、

予想通りの人物だった。

幻想郷唯一の白黒の魔法使いは、どうやら本泥棒らしい。

 

「やっぱりお前か魔理沙!!!」

 

当たって欲しくなかったが確信しかなかった予想が見事的中したことに思わずツッコミを入れてしまったのであった。

 

 

***

 

 

 

「あれっ?シオンじゃん!!どうした、お前も門番か?」

「かわいい本泥棒が現れると聞いていてもたってもいられずねっ…!」

「んなっ……」

 

もっとも今さっき聞いたんだけどね。

少し皮肉を言ったからか、魔理沙はほんのり顔を赤くして俯いてしまった。そんなに怒るとは思わなかった……。

少しして、魔理沙はその俯いた顔を上げてまた強気に話し始めた。

 

「と、ともかく!今日も本を借りてくぜ!」

「借りるんなら返してくださいぃぃ!!」

 

美鈴の叫びは届いたのだろうか。どちらにせよ、美鈴が言い終わる前に魔理沙は箒に跨り、紅魔館の高い壁を軽々と超えたのであった。

また、簡単に正面突破を許した美鈴はその場で萎れていた。

 

「………元気にやれよ…」

 

俺の言葉が聞こえたか分からないが、気持ちは届いてるといいな。

しょぼくれた美鈴の近くに、

そっと、

あとで自分で食べるために持っていたお菓子を置いてあげた。

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

 

美鈴と軽く別れを済ませた俺は、図書館へと向かっていた。

久しぶりに紅魔館に来たのだ、会わねばならない奴がまだ残っている。

そうして、俺は紅魔館内でも、一際大きな扉を開けた。

そして、俺はこの『図書館』の司書の名前を呼んだのだ。

 

「パチュリー?元気にしてた…か…え?」

 

と、本来なら落ち着いた雰囲気の中で、ただ本を読み耽っているパチュリーが「いらっしゃい」などと反応してくれるはずなのだが。

なかなかどうして、落ち着いた雰囲気がないのだ。それもそのはず、パチュリーの周囲には散らばった本、それに至る所まで散らかっていた。

見たこともない惨状に色々思考を巡らせていると、パチュリーは至って変わらぬ対応をした。

 

「あら、久しぶりね。いらっしゃい」

「おう、久しぶりだな。それよりこの状況は一体どういうこと?」

「なに、いつものことよ」

「物騒だな……」

 

考えようによれば、強盗とか、襲撃とかありうる訳で。けれどもここは幻想郷。そういうことはあまり起きない。ましてや、図書館に強盗に入ってだなんて中々奇特な人だろう。

それが現実の世界での話ならな。

悲しいことにここは幻想郷。

図書館に強襲の後に本を盗んでく奴に心当たりがある。というか、さっき話してた。

 

「魔理沙か……」

「知ってるのね」

「本泥棒が来るって門番から聞いてな。で、そいつは今どこに?」

「早々に数冊盗んで帰っていったわよ」

「それ返してもらえないんじゃ……」

「だから、いつかアイツの家に押しかけようかと……あぁ、それよりも」

「ん?」

 

魔理沙への怒りから顔を歪ませてるものかと思えば一転、「それよりも」と言葉を続けたパチュリーは図書館の1番奥に散らかって積もった本を指差した。

 

「あそこで生き埋めになってる子がいるから助けてあげて」

「いや、こわっ!!」

 

サラッと事件の香りがすることを言うのも幻想郷クオリティである。怖い。

じゃなくて、助けなければ。

俺は少し急ぎ気味で図書館の1番奥へと向かった。

 

「うわぁ……派手にやらかしたなぁ……」

 

思わずそんな声が漏れてしまう。

本を大切にしているパチュリーがこの事態に比較的落ち着いているのもこの惨状は毎回のことなのだろうか。

これ誰が片付けるんだろうな……。

そんな事を考えながら本をどかしていく。

ふいに、本ではない、何か布の感触が手に触れた。

 

「お、いた」

 

急ぎ気味に本をどかす。

と、紅魔館では門番以外に見たことない髪色が目に入った。

その上、服は黒。美鈴ではないのは確かだ。髪は長いし、多分少女だろう。

俺はうつ伏せのまま突っ伏している少女に声をかけた。

 

「おーい、大丈夫かー?」

「……う、うぅ…」

「おーおー、結構派手にやられたなぁ」

 

呻きながらゆっくりと上体を起こす少女。

その呻き声からして間違いない。

初対面だ。

髪色が美鈴と被るとはいえど、服装は紅魔館の誰とも被らない。黒色の何か制服のようなもの。

ゆっくりと顔を上げた少女は、疲れたようにお礼を言ってきた。

 

「あ、あぁぁりがとうございます……」

「お礼はいいから、魔理沙にやられたのか?」

「はい…本泥棒に……強盗に…」

 

もはや名前すら呼ばれず強盗扱いされてる魔理沙は多分紅魔館にいつか殺されそうである。

 

「ともかく、手当てしよう。起き上がれるか?」

「えぇ…本に埋まって大人しくしてたんで、だいぶ休めました」

「うん、状況ひっどいけど大丈夫だな。じゃあ、色々道具を持って…って、場所が分からんな…」

 

そういえば、ここは紅魔館だ。

知ってる人といえば咲夜くらいしか……。

 

「傷薬なら…そこに…」

「え?」

 

赤髪の少女は弱々しく俺の足元を指差した。

指が差された場所を見てみれば、小さな木箱がおいてあった。

見るからに、薬箱。

 

「……よくできたメイド長だな」

「えぇ、ホント…。私と違ってよくできた従者です……」

 

咲夜の能力といい仕事ぶりといい本当に感心ばかりだ。そういやそうだ、完璧で瀟洒なメイドだったっけ?否定できないから凄いものだ。

そして、そんな俺に「私と違って」と返答したこの赤髪の少女の立場もなんとなく分かった。

つまるとこ、あれだ。

門番と同じだ。

 

不憫な従者。

 

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

「本当にありがとうございます!手当てまでしてくれてっ……!!」

「い、いや、もう大丈夫だから。そんなに言わなくてもいいから……」

 

先ほどの少女の手当てを軽く済ませーーあまり傷は負っていなかったーー少女は元気を取り戻したかと思えば、人が変わったようにニパーっと笑みを浮かべて全力で俺にお礼を言ってくるのである。

そしてもって、何を隠そう、お礼など言われたことが決して多くない俺はどこか褒められることやお礼を言われることに気恥ずかしさを感じてしまって。大変困っている。

そんな時に、ふと話を逸らす方法を思いつく。

 

「そ、そうだ!名前!俺まだあんたと初対面だよな?」

「そ、そうですね!失礼でしたね!すいません!!」

 

今度は全力で腰を折って謝罪してくる少女。

ボロボロの時には思いもよらないような元気ハツラツ少女である。

そうして、これまた元気よく名前を名乗るのであった。

 

「私は『小悪魔』です!日々パチュリー様のお手伝いをしています!!」

「こ、小悪魔…?名前はないのか?」

 

それにパチュリー"様"という敬称も少し気になる。従者的存在であることは分かるが、小悪魔……ね。

俺の疑問に、小悪魔は答えた。

 

「名前はないですねー。私はパチュリー様に召喚された使い魔でして、小悪魔は『通称』のようなもので……」

 

つ、使い魔…!!なんか魔法使いっぽい!!

いや、魔法使いなんだけどな。

にしても本当にそんなこと出来るのか魔法使い。危うく俺もパチュリー様と呼んでしまうところだった。ここの住民には感心しっぱなしだな。

ただ、それでもやっぱり躊躇うものはあって。

ふと、こんな事を提案する。

 

「そうなのか…じゃあせめて愛称は付けようかな」

「愛称…ですか?」

「小悪魔って言わば種名だろ?それって、俺で言えば『人間』って呼ばれてることと同じだろ?なんかやじゃん」

「そ、そんなこと言う人初めてです……」

 

 

え、そうなのか。

まぁ、それもそうか。実際紅魔館が異変を起こして、それが解決して、紅魔館が幻想郷に馴染んできてから大体1ヶ月か?

その間でどれだけ幻想郷の住民と交流をしたかは知らないが、小悪魔が関わった人といえば魔理沙くらいになってしまうだろうか。

たしかに、アイツはそんな事考えなさそうだな……。

改めて、俺の言葉に目をパチクリさせる小悪魔を見据えて、考え始める。

 

「あ、あの……何をそんな見つめて……」

「こあ、だな」

「はい?」

「小悪魔だから、こあ。うん、そっちの方が短いし呼びやすい」

「あ、愛称ですか?」

「いやだったか?」

「そ、そんなはずないです!!すごく嬉しいです!!」

 

少しホッとする。自分のネーミングセンスに自信は無かったからこの反応をとても嬉しく思う。気を遣ってるのかな…とも思うが、純粋なのだろうか、そんな感じはしない。

本当に悪魔か…?コイツ……。

初めてなんだろうか、こんな経験。まぁ俺も初めてでちょっと勇気を出したところはあるけれど。一歩成長したな、俺……。

ともあれ、俺は新しく知り合った少女に元気よく挨拶するのであった。

 

「それじゃあ、よろしくな、こあ!」

「は、はい!!」

 

俺が頑張って作った微かな笑みに対して、こあは満面の笑みで返事をする。

本当に悪魔かよ……。

そんな純粋悪魔に俺は元気よく、まだしていなかった自己紹介を…

 

「あなた達、図書館ではもう少し静かにしてちょうだい」

 

パチュリーのお叱りの言葉により、ささやかに自己紹介をさせていただきました。

 

 

 

 

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