東方弔意伝   作:そるとん

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お久しぶりのパッチェさん


やっぱり気は分かんない

 

 

 

 

紅魔館にて、新たな友人を得た俺はそのまま図書館でゆっくりとした時間を過ごしていた。

本当に紅魔館の中なのかと思うほどに静かで、今までの喧騒が嘘のようであった。

 

「(たまにはこういうのもいいな……)」

 

レミリアやフラン、咲夜に会いたかったという気持ちもあり、もちろん騒がしくなることは容易に想像できた。その騒がしさもどこか心地良く、どこか暖かな気持ちにもなれた。

ただ、静かな時間もたまらなく心地が良い。

ページをめくる音だけが室内に響き、たまにカタカタとこあが本を片付けている音もする。

俺が熱心に本を読んでいるとたまにこあが話しかけてくれたりする。

そんな落ち着いた空間も、非常に好きなのである。

そんな心地良さにほっこりしていると、珍しくパチュリーが話しかけてきた。

 

「あなたずっとここにいるけど、何を見ているの?」

「えっと、魔法についての本を…邪魔だったか?」

「いいえ、うるさくされるよりマシよ。それより、なんでまた魔法なんか……」

 

なにかと思えば、俺が本を読み耽っていることが少し疑問だったらしい。元々本は好きなのだけどね。

ただ、何を今更、弾幕やら魔法やらの才能がないと蘭さんに評価を受けたようなやつが魔法の本を読んでいるのか。

そこには、才能云々関係なしに、理由があるのだ。

『なんで今更魔法の本を?』の質問に対する俺の答えはハッキリとしたものである。

 

「憧れるじゃん」

「あの泥棒と同じような香りがするわね……」

「失敬なっ!!」

 

それは俺の答えがあまりにも何かあれだってことだろ!失敬な!!

なんて言われてるその泥棒にも中々失敬である。

ただ、まぁ、本当にそれだけなのだ。

色々な本に触れていれば魔法という存在は知ることになるし、子供の頃から密かに憧れていたものでもある。それぐらいしかなかったのだけど。

だから、弾幕という形で魔法が目視できるここ幻想郷は、かなり胸熱なのである。

ましてや……

 

「目の前に偉大な魔法使いがいるわけだしな」

「お世辞が下手ね」

「ぶっちゃけ偉大かどうかは知らんけどな。俺からしたら幻想郷の住民大体偉大だわ」

「何よ、それ……」

 

『偉大な』は盛ったかもしれないが、魔法が使えるだけで十分偉大だ。元いた世界じゃ考えられないわけだし。

そこでふと、思いつく。聞こえるか聞こえないかくらいの声で思いついたことをぽそりと呟いた。

 

「パチュリーに魔法教えてもらえないかな…」

「え、私にかしら?」

「え、あぁ、ふとそんな事を思ってな」

 

どうやらパチュリーの耳に届いていたらしい。

パチュリーは俺の独り言気味の提案に、らしくもなく少し戸惑いを見せた。

戸惑いというか…まぁ、それもそうか。突然そんな事言われたら困るだろうな。

俺はすぐに弁明のように、言葉を続けた。

 

「あ、いや、別に独り言っていうか、パッと思いついただけっていうか、気にしないでくれ」

「いえ、私も突然言われたものだから反応に困っただけよ。ともかく、教える…ね」

 

パチュリーの少しの戸惑いもすぐになくなり、俺にフォローを入れてくれた。

そうするとパチュリーは俺の言った台詞を反復し、少し考え込んだ。

俺はその光栄を少し嬉しく思った。が、誰かが自分のために真剣に悩むという状況はどうにもむず痒く、けれどもその厚意を無下にも出来ず、少したどたどしく話した。

 

「あの…なにもそんな真剣に考えてくれなくても……」

「…………」

「あ、あのぉ〜……」

 

ついに黙ってしまった。ここまで考え込むとパチュリーは凄い。魔法の研究とかになると三日三晩食わず寝ずでここに籠るらしい。こあが言っていた。そんな奴の集中力は並ではなく……。

ただ今回の場合考え込んだ理由が大したことないのでーーまぁ、自分のことなんだけどーーそんなに時間はかからなかった。

ふと顔を上げたパチュリーは微笑を浮かべて優しく言った。

 

「いいわよ」

「……えっ?」

「だから魔法。教えてもいいわよ」

「ま、マジで?」

「えぇ、マジで」

 

 

それはつまり、こういうこと?

魔法のまの字も使えないポンコツが見るからに大魔法使いみたいなやつに魔法を教わると?

その大魔法つかいもポンコツに魔法教えてくれると?

通常なら門前払いされるような案件を快くパチュリーは引き受けてくれた。

それに対する、驚きと若干の戸惑いを含め、

 

「お、お手柔らかに……」

 

ご教授お願いするのであった。

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

とりあえず、基礎は教えた。

"気"だとか、性質だとか、弾幕だとか、基礎中の基礎。

そうすれば次は実際にやってみればいいだけの話。

なのに、なぜかしら。

 

「ふんっぬぬぬぬぬぬぬ……」

 

力を込めて唸っているだけで、何も起きないのは。

ついさっき、シオンから魔法を教えて欲しいなんて突然お願いされて、一応引き受けたはいいけど……。

 

「ここまで、とはね……」

「だからっ…才能が無いとかいうレベルじゃないって……ぐぬぬぬ」

「ピクリとも魔法の気配がしないのだけれど」

「なんだよっ…魔法の気配ってぇ…!」

 

さっきから手やら足やらに力を込めては何も起きないこの状況に少し面白さでさえ覚えてしまう。

実践に入ってからしばらくこれだけど、よく疲れないわね。

そこで、ふと、疑問が生じる。

 

「じゃあ、あなたどうやって飛んでるの?」

「あ、あぁ、一応藍さんって人…妖怪?に教えてもらったんだ」

「じゃあ、教えてもらった時のとおりにやってみなさいよ」

「いや、そうするとだな……」

 

そう言うとシオンは踏ん張っているようなポーズを解き、今度は対照的に、ゆったりと力が抜けた状態で立った。

そうしていると、すぐに変化は起きた。

 

「……!?ホントね。浮いたわ」

「何故だか俺の場合力を抜いたら何かしら出るらしい。もっとも、こんな状態で空を飛ぶわけだから……」

「移動速度は遅いわね」

「そうなんだよ……」

 

ふわふわと『浮く』というより『浮遊』しているシオンは、少し表情が淀んだ。

私は何かを察して、言葉を放った。

 

「あなた、憧れている以外に理由あるんじゃないの?」

「え、バレた?」

「表情でバレバレよ」

 

案外シリアス味はなく、もしくは出さないようにか、軽くシオンは返答した。

その変な優しさに呆れながらも、シオンの答えを聞いた。

 

「遅かったんだ。紅魔館異変の時に」

「遅かった?」

「あぁ、まぁその時俺はお留守番だったんだがな、あんまり霊夢の帰りが遅いからこっそり紅魔館に向かったんだ」

「霊夢……あの紅白巫女ね」

「そう、で、霊夢は負けないっていう自信もあったんだが、それでも心配で……」

 

その時を思い出すかのように、ポツポツと言葉が放たれてはシオンの顔は俯き、表情は暗くなっていく。

 

「だから、急ごうと思ったんだ。けど……ちっともスピードが出なかった。前に行こうと思うだけで、その速さは対して変わらなかった」

「で、着いた時には遅かったと?」

「っ!……あぁ」

 

奥歯を噛み締めて悔しそうな表情を浮かべた。

ただ、その俯いた瞼の中には、揺らぎのない強い意志があるようにも思えた。

その瞳に少しだけ感化されてしまった。

彼に手を貸すのも、悪くはないかもしれない。

 

「まぁ、いいわ」

「え?」

「飛べるってことは魔法は使えるってことよ。その証拠に、レミィを倒したでしょ?」

「あれは、力技というか……」

「魔力が働いたことに変わりないわよ。とりあえず、教えるわよ、弾幕」

「!!…お、おう!」

 

すっかり切り替えて笑顔を見せた彼に若干呆れつつも、どこか楽しいと感じている自分がいることを否めなかった。

いよいよ、弾幕を学べるともあって、シオンはどこかワクワクした様子でいた。

やっぱり、憧れも強いのね。

どこか、あの本泥棒と重なる。

なんだ、やっぱり、

『人間』じゃない。

 

「じゃあ、浮いた時と同じように力を抜いてくれるかしら」

「おっけー」

 

落ち着いた雰囲気でシオンは力を抜く。

すると変化はすぐに起きる。

同時にさっきも感じた、異様な感覚。

ただ彼の魔力が『闇』のそれに近いだけ。そんな妖怪いっぱいいるわ。

そう、私は自分に言い聞かせた。

シオンの中にある魔力が、

魔力なんかじゃなくて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー『呪い』であることを信じたくなくて。

 

 

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