東方弔意伝   作:そるとん

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更けた夜に

 

 

 

「……はぁ…あぁ…あ゛ぁ゛……」

「お疲れ様。最初と比べたらだいぶ成長したわね」

「ま、マジで……?あぁ゛……」

「虫の息じゃない……」

 

パチュリー大先生の下、魔法の勉強及び実践をして約3時間程経っただろうか。

想像以上に体力を持ってかれる上に、元々体力が無い俺は既に瀕死。だが、パチュリーに褒められ、気分も上々……

なんて事はなく。

たった3時間程で根をあげる自分の無力さを痛感し、ちょっとした絶望感に苛まれている。

 

「こんなんじゃ…何も……」

「…………」

 

何も、"救えない"。そこまで言えなかった。言って良いわけなかった。救えるまで足掻こうと、そう思っているのに、何もできない、救えない、じゃ情けないにも程がある。

もっとも、元々無力ではあったが。

と、言った具合にメソメソしている俺を半ば呆れたような態度で、それでもどこか優しさを含んだ口調で、パチュリーは俺に声をかけた。

 

「そういう事、まずは自分を救えるようになってから言いなさいよ」

「あ、え?」

「それに、ここの奴らはほとんど貴方より強いわよ」

「あ、そ、それもそっか……」

 

それもそうだ、幻想郷の少女達は皆強い奴らばっかだったな。それこそ、自分なんかよりずっと。そう思えば、俺の弱さが露呈して……。

だったら、レミリアを倒せたのも奇跡だろうか。あの時の強さは何だったのだろうか。

トリガーは何だ?大切な人が傷つくことか?

そんなの、遅すぎる。

自滅のように、また思い悩んでしまう。そうすれば、またパチュリーは言葉を放つ。

 

「だから、自分を救えるようになってから言いなさいって」

「じ、自分を……?」

「あなた、思った以上に体ボロボロよ。どういう無茶をすればそうなるのかしら」

 

言われてハッと思う。そういえばそうだ。

体がボロボロというのは外身ではなく『中身』のことだ。思えば、今までに数回魔法を使ったことがあったが、かなり"無茶な"使い方だった。

魔法の森でアリスを助けた時、魔法ではなかったが無理やり力を引きずり出した。

妹紅の弾幕を跳ね返した時も、あの時は間違いなく魔法の類だったと思う。変わらないのは無理やり出す、無茶なやり方。

 

「ちなみに、その無茶を続けるとどうなる…?」

「死ぬわよ」

「ひえっ……」

 

道理で怪我が多いと思った……そりゃ、続けてたら死ぬ様な事してりゃボロボロになるわな。

 

「ほら、そう考えればちゃんと魔法を出せるようになった訳だし、成長したって言えるんじゃないかしら」

「お、たしかに…!」

 

改めてパチュリー大先生の指導が有り難かったことを実感する。

たしかに、この数時間で怪我もなければ何も壊しちゃいない。少しだけ、コントロール出来ているようになっているのだろうか。

そう、自分の成長を少しだけ感じる事が出来た。

 

「あ、でも、さっきみたいに使えば疲れる訳だから、無理はしちゃダメよ」

「あぁ、分かってる。その辺も踏まえて練習してくよ」

 

よっこらせと立ち上がり、パチュリーに向き直る。

 

「ありがとな、お陰様で幻想郷でも無理なく生きていけそうだよ」

「ふふっ、何よそれ、また何かあったら来るといいわ」

「あぁ、そうするよ。その時はよろしくな、先生」

「やめてちょうだい」

 

最後ちょっとだけキレられたけど、パチュリーの仄かな笑みは消えなかった。

そうして、扉へと足を向けた。

思えば、パチュリーとここまで深く関わったのは初めてだった。今回改めて会話してみて、より一層情が湧いてしまった。

『自分を救えるようになってから』と、パチュリーは言った。

でもこれは俺なりの決意でもある。

俺は、みんなを救いたい。死ぬ気でも。

扉の前で振り返ると、パチュリーとこあが手を振ってくれていた。

俺は二人に手を振り返した。

今までこんな事はなかった。幻想郷に来てから、温かい感情に触れられた。

俺に大切なものを、幻想郷はくれた。

そんな幻想郷を、俺は、死ぬ気で守る。

いつのまにか薄れてしまったそんな決意を、久しく思い出した。

 

 

 

***

 

 

 

異変の時は、たしかに妖気だった。魔力でもない、一般の妖怪が持つようなあまり強くない力。それでもあれだけドンパチやれば感じるものはあった。その時は妖気だった。

だったはずなんだけど……。

 

「どういうことかしら……」

「どうかしましたか?パチュリー様」

「あぁ、小悪…こあ、大丈夫よ」

「!!パチュリー様もそう呼んでくれるのですか!!」

「えぇ、可愛くて気に入ったわ」

 

えへへーとだらしなく頬を緩ませて両手で持っていた本をどさどさと落とすこあを見て少し微笑ましくなる。

そうだ、多分勘違いだろう。考えすぎるのは良くないな。

 

そう思考を切り替えて、こあに話しかけることにした。

 

「にしても、だいぶシオンと仲良くなったわね」

「はい!私にもすごく優しくしてくれるんですよ!」

「珍しいわね、あなたが懐くなんて」

「なんででしょうね……私と同じ感じがします!何がは分かりませんが」

 

笑い混じりにこあはそんな事を言う。

そんな言葉に、ふと思う。

本来なら何を言ってるのかしらと呆れながら答えるのだが、今回ばかりはそれでスルー出来そうにもない。それもそのはず、気になる台詞があった。

"同じ感じがする"。

それも小悪魔と。

使い魔という身であっても、彼女の種族はれっきとした『悪魔』だ。

同じ感じというのは何とも見過ごせない発言だ。

見過ごせないというのも……。

 

 

 

私も実際にそう感じたからだ。

 

「パチュリー様?」

「え、あぁ、何かしら」

「大丈夫ですか?ぼーっとしてましたけど…」

「えぇ、大丈夫よ」

 

心配そうにこあは顔を覗き込んできた。

すぐに対応は出来たが、少しの不安は拭えない。

もし、

もし本当に人間ではないのなら、

 

「……かなり危険ね」

 

そう、ぽそりと呟いた。

 

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

 

だいぶ夜も更けた。本来の目的のお菓子作り…美鈴の生存確認と労いを終えたことだし。

 

「よし、帰るk」

「こあと仲良くなったのね」

「おっ、お、おぉ…咲夜か。いつもちょっとビックリする登場だな」

「えぇ、ビックリさせるつもりだもの」

「悪趣味だな」

「あなたにだけよ」

 

咲夜は意地悪にウインクした。

どうしてだろう、ときめかない。

それよりも、と咲夜は話を本題に切り替えた。

 

「もう帰るの?」

「あぁ、やりたいこともやったし。レミリア達もそろそろ寝るだろ?」

「もう少し居ればいいのに」

「いやあ、悪いよ。俺も少しは寝たいし」

「ならここで寝ていけばいいわ。ここを出るのは明日の昼とかでもいいから」

「いや、でも」

「それに、夜は危ないわ」

 

たしかに、と俺は咲夜の意見に賛同した。

だがしかし、どうにも違和感がある。

というのも、咲夜の意見に対してじゃない。無愛想な彼女にしては……。

 

「やけに食い止めるな?」

「!!……それは、お客様としての対応もかねてよ」

「そういうもんなのか…有難いけど……」

「そうよ、人の厚意よ?有り難く受け取っときなさい」

「うん、そうするか。じゃあ、一晩だけ泊めてもらうよ。ありがとう」

 

それもそうか。咲夜にしては珍しくーー表情にこそ出さないがーー必死に食い止めるものだから、何かあったのかと思ったが……。

ここは素直に咲夜の厚意を受け取っておこうと思う。

自然と笑みを浮かばせ、ありがとうと言うと、咲夜は少し俯いて『どういたしまして』と少々下がった声量で言った。眠いのかな。

ともあれ、泊めてくれると言うのであれば、ゆっくりと紅魔館で寝かせてもらうとしよう。

 

「えと、部屋は…」

「あそこの扉よ。もう準備してあるわ」

「えぇっ……!?早くない?」

 

既に準備してあったのだろうか。完全に泊まらせる気満々だったじゃないか。

あ、いやでも、能力って可能性があるのか……。

そういえば……俺、咲夜の能力知らないな…。

 

「なぁ、咲夜」

「なあに?」

「咲夜の能力ってなんだ?」

「何よ急に」

「いや、ふとね。迅速すぎる仕事ぶりだったりを見てたらそう思って」

 

そうだ、何気にずっと気になっていたことだった。聞くタイミングというか、聞くことを後回しにしてた節があったなぁと感じる。

今こうして聞いてみれば、めちゃくちゃすぐ解決する悩みというか疑問であったなと気づく。

咲夜は、今更能力を聞いてきた俺に呆れ混じりなのか少し笑みを浮かべて答えた。

 

「そうね、私の能力は『時間を操る程度の能力』かしら」

「時間を操る……あ、まさか」

 

迅速すぎる仕事ぶりも納得がいく。

 

「時間を止めてた……?」

「あら、ネタがバレちゃったわね」

「ひえぇ…まじか……」

 

自分から聞いたこととは言え、あまりのチート振りに若干の恐怖を覚える。

完全で瀟洒なメイドね……間違っていないのは確かだった。

そう思うと、咲夜に勝った霊夢はとことん怖いなって改めて思うんだけどね。幻想郷怖い。

なんて考えていると、ふいに欠伸が出る。

 

「ふあぁ……」

「ふふっ、眠いかしら」

「そうだな、だいぶ眠くなってきた」

「ベッドも準備してあるから、ゆっくり休むといいわ」

「あぁ、ありがとう」

「いいえ、こちらこそ今日はありがとうね」

「どういたしましてー」

 

瞼が重くなった目を擦りながら部屋へと向かい、そんな会話を最後に俺は部屋へと入っていった。

その豪華絢爛な客室に驚くこともなく、そのままベッドへとダイブした。

 

「魔力使ったから…疲れてんのかな……」

 

弱々しく、そう呟いて、俺は目を閉じた。






次回は長めに書けるといいな…

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