東方弔意伝   作:そるとん

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投稿遅れてすみません!

最近寒いです。お体にはお気をつけてください。

ーーと、病み上がりの僕が申し上げます。






妖怪の山の天魔様

 

 

 

 

『威風 鷹揚《いふう おうよう》』

天狗と妖怪と棲まう妖怪の山の頂点。

つまるところ、「天魔」。

 

空を自在に飛び回り、挙句、風や天候をも操ってしまうその様から"神"とまで言われている。

その理不尽なまでの強さと、姿がブレるほどの速さから多くの妖怪達に恐れられていた。

『風神』、『天翔ける悪魔』と畏怖され、その強さは鬼にも引けを取らず、若い頃は妖怪の山を舞台に多くの鬼と喧嘩をしていたらしい。

 

……なんて。

射命丸は多くの天魔にまつわる逸話を多く話してくれた。

異変解決の為の前情報として尋ねたのだが、今すぐにでも解決を拒否したい気持ちでいっぱいだ。

 

 

俺死ぬんじゃないの?

 

そんな不安を胸に、俺と射命丸は強風と雨の吹き付ける中、妖怪の山へと向かっていた。

 

たしかに外に出て見てみれば、妖怪の山を中心に雲が渦巻いているように見え、その雲は幻想郷を覆っている。

どうせ、話し合いじゃどうにもならんだろうなと思い、傘を差さずに結構なスピードで雨の中を飛んでいるものだから……

 

「さ、寒い……!」

「終わったらお風呂入りまひょ…」

 

顔に雨が吹き付けて、前がよく見えなかったが、妖怪の山はすぐ目の前に見えていた。

距離が近くなればなる程恐ろしさは増していく。普段のように天狗が飛び交う様子は無く、静まり返った大きな山は、ただただ威圧感を放っていた。

 

「そろそろ着きますけど、大丈夫ですか?」

「あぁ…大丈夫だ。精一杯足掻いてみせるよ」

 

射命丸も天狗と言えども、天魔レベルの強風となると上手くコントロール出来ないようで、もし弾幕ごっことかになった場合は俺が戦うことになっている。

意味ないんじゃないかな。

やっぱ死ぬんじゃないかな、俺。

それに「個人的に天魔様を相手取った後が怖いので嫌です」なんて事も言うもんだからどうしようもない。

うん、死ぬわ、俺。

 

大丈夫、なんて口では言ってみせるけど内心ガクガクである。

どんどん死期が近くなっていくことに恐怖している。

 

そんな不安でいっぱいになっていると、妖怪の山は、先程より大きく、それも目の前に見えていた。ついに着いたみたいだ。

射命丸は、どこか俺を心配するような声で言った。

 

「着きましたよ……妖怪の山です…!」

「帰っていいですか?」

「何言ってんですか」

 

言うつもりは無かったけど、無意識レベルでそう言ってしまったことを情けなく思う。

 

ただもう、後には引けない。

やると決めたからにはやるし、約束もしてしまった。

幻想郷の平和を思えば、指を咥えて待ってる訳にはいかない。

 

「……まだ、探検しきれてないからなッ…!」

 

無理にそう理由を付けて、自分で自分を鼓舞する。そうだ、そう、俺の好奇心はこんなところで留まるものではない。

惨めな15年を送った分、ここで終わるわけにはいかない。

風神だろうが悪魔だろうが台風だろうが知ったこっちゃねぇ。

 

上等だ、天魔様。

アンタのその長い鼻を……!

 

「へし折ってやるよ…!!」

 

そう、

俺は寒さで体をブルブルと震わせながら言った。

…………。

 

「カッコついてないですからね?」

「やかましいわ」

 

射命丸に呆れ混じりのツッコミをされた。

その事に若干型を落とすが、すぐに立て直す。

 

ーーどのみち、寒いから早く解決しようぜ。

 

呆れたように言った射命丸に、俺はニヤリと笑って見せた。

 

 

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

鬱蒼とした木々の中を飛んでいても、雨は弱まることを知らず、木々は水滴一つも弾きやしない。

挙句、所々で倒木している。

それもそのはず、ここはこの巨大台風の発生源だ。弱まるどころか強くなっていく。

降る雨は痛いし、風も強くなり、刺さるような寒さになってきた。

妖怪の山に入ってしばらく経つと射命丸が苦しそうに言葉を発した。

 

「す、すみません…私はそろそろ限界です……」

「あぁ、案内ありがとな。ゆっくり休んでくれ」

「いえ……頼みましたよ…!」

 

そういうと、射命丸は脇の小道へと外れていった。

本当に、ギリギリまで案内してくれたものだ。有難い。羽を持つ射命丸からしたら強烈な逆風な上にこの雨は大変だっただろう。それにこの雨の中一度俺の家まで来ているしな。

風邪でも引いてないといいんだけど……。

解決したらお見舞いに行ってやろう。

 

「まぁ、"解決したら"の話だけどな……」

 

苦笑いを浮かべて、そんな事をポツリと呟いた。

山頂が近くなっていくに連れて弱気になっていく気がする。

ま、まぁ…弾幕ごっこって命の危険はないはずだし……。

大丈夫か…。

 

 

そんな自己暗示も虚しく。

 

 

「…ッ!?」

 

 

ふと、腕に違和感を覚えた。

違和感というか、確実に、

 

 

「痛ぇ…」

 

 

痛みだった。

その痛みを認識してから、右腕の痛みはジワジワと強くなっていく。思わず足を止めてしまう。

 

 

「マジで痛ぇ…………え?」

 

 

その場に止まってズキズキと痛む右腕を見てみれば、透明な針…にしては大きいが。

それが深々と腕に刺さるどころか、綺麗なまでに貫通していた。

 

 

「うわぁ…これ……マジかよ…」

 

 

初めて腕に何かが貫通する感覚にかなり戸惑う。

いや、それでも大分落ち着いていられてるかな。『何たってここ幻想郷だし』。この言葉でもはや悟りを開けそう。

 

状況をハッキリ把握できてみれば、痛みに多少の慣れも出てきて、案外スルリと簡単に透明な針は抜けた。針は細くて透明、そのサイズだけがかなり大きいのだが…。

その細さ故に、腕から血は出てこない。

何だろうな…これ……。

その答えは、すぐに分かった。

 

 

「え、これ氷?」

 

 

腕を見事なまでに貫通していたのは細い針のような氷柱だった。

手の中で冷気を発しているのが分かる。

その上、手の中で少しずつ溶けていく。

 

 

「何だこれ…誰の仕業だ?」

 

 

突如として腕に突き刺さった氷の出所が分からない。

まぁ、予想は出来ているのだが。

 

 

「もしそうだとしたら、怖すぎるだろ…!」

 

 

見えない凶器が、この雨風に紛れて降ってくると思うと足が竦む。さっきの痛みが、フラッシュバックのように蘇る。

 

 

「!!……っと、弱気になってる場合じゃねぇ」

 

 

もう一度、気合いを入れ直すと、手に持っている氷を捨て、山頂へと向か……

 

おうと思ったのだが。

 

 

リィィイイイン………

 

と、空気中で金属が擦れるような、甲高い音が響いた。

 

「……何かくるな」

 

直感でそう感じた。

何かがくる。タダでは済まない何かが。

その瞬間はすぐに訪れる。

 

ふいに、俺の足元に「トス…」と土に何か、それも細いものが刺さる音がした。

それは雨に紛れて上手く聞こえないが、徐々にペースを上げ、多方面から聞こえてくる。

 

刺さる細いものか。

身に覚えがありすぎて困る。

何なら刺さってる。

 

見てみれば予想通り、「あの氷」だった。

至る所に落ちてきているものは、先程腕に刺さったものと同じものだった。

 

 

…………。

え、じゃあ、こんな流暢に観察なんかしてる場合じゃなくね?

 

さっき聞こえた音から察する。

金属が擦れる"ような"ではなかった。

実際にそうだった。

まぁ、氷ではあるんだけど。

嫌な予感を胸に恐る恐る空を見上げる。

その嫌な予感は見事に的中する訳だけど。

 

「嘘だろ……?」

 

空を見上げてみれば、大量の雨に紛れて、

間違いなく死ぬレベルの尖った氷が降ってきていた。

 

「やばっ……ぅうらぁっ!!」

 

パチュリーとの幾らかの修行の甲斐あって、即座に妖気放出で防ぐことが出来た。結構成長してんじゃん、俺。

天に向かって放った妖気は空中の氷を全て弾いた。良かった…降る雨全部氷じゃなくて。

 

軌道が逸れた氷柱は俺の周囲に「ドドドドドドスッ!」と刺さる。怖い。もはや音が機関銃。

 

にしてもその速さと威力は絶大過ぎる。

全部当たってたら死んじゃうことくらいは分かる。

何なら誰の仕業なのかってのもな。

あと少しで山頂だっていうのに…!

 

「こっからずっと避け続けんのか…」

 

しかも高難易度。

よく見えない上に速くて痛い。

そりゃ反則だぜ……天魔様。

 

降りしきる雨の中、氷柱なんて降らしてくる意地の悪い奴の名前を心の中で呟いてから、

俺は山頂へと急いだ。

 

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「くっ…そ!しんどいな!」

 

飛びながら半ば無意識の様な状態で、俺はそう言った。

かと思えば、つい1秒前にいたであろうところにドスドスと多くの氷柱が突き刺さる。

普段ふよふよとしか飛べない俺にしたら相当なスピードを出して飛行している。

…つもりなのだが。

 

「あぁぁ…!くそいてぇ……!」

 

さっきから、くそとか言い過ぎかもしれないな。

でもそのくらい深刻。

当たる寸前で躱すを繰り返し意識は朦朧としてくるわ、躱せずにブスブス刺さるわでもう、ヤバイ。死ぬかもしれん。

天魔の姿を見る前に死ぬかもしれん。

ただもうあと少しで山頂なんだ。

残念なことに、諦める訳にはいかないんだよ。

例え、相手が天下の天魔様だろうがな。

 

「あと…ちょっとぉ……!」

 

刺さりすぎていつの間にか滴っていた血をポタポタ落としながら、最後スピードを上げた。

 

木に雨が落ちる音も、風の音も、氷柱が刺さる音も、全てを置き去りにして、

俺は山頂へと登り詰めた。

 

「はぁ…あぁぁ……着いた…死ぬ……」

 

天魔に会う前に既にボロボロだし、肩で息をしている。幻想郷に来る前に、せめて運動でもしておくべきだったと後悔した。

……違う、そんな場合じゃない。

 

山頂で氷柱は降っておらず、立派なお屋敷がポツンと建っているだけであった。

ならばその建物が天魔の家か?

そんでもって、ここ山頂は台風の中心だ。

ここにいる事は予想がつく。

 

「おぉーい!天魔様ーー!?いるんだろ!?」

 

誰かの気配もしないので、天空に向かってそう叫んだ。

 

…………。

叫んでも気配はしない。

くっそ引きこもりめ……俺もだったけど。

もう一度、若干強めに叫ぶ。

 

「ねえぇぇーーーーー!!!てーーんーーまーーさーーまぁーーーーーー!!!!」

 

「うるさぁーーーーーーーーい!!!!!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

叫び終わると同時にヒュルルルルと風を切る、にしては不自然な音がしたかと思えば、

ズドーーンなんて効果音がピッタリな登場方法で降りてきたかと思えば、

ビュオオオオオと周りの土や葉を吹き飛ばして着地したのは、

 

「アンタが天魔様か……?」

「そ、そうよ!」

 

やたらとオノマトペの多い登場をしたのは、俺の予想通り、天魔だった。

ただ、登場しただけで俺は軽く吹き飛んでいる。とんでもなく強烈な風が吹いたもんだから驚いたが、まさか人を吹き飛ばすとは……。

それ故に天魔の姿はよく見えない。

気のせいだったかも知れないけど若干声が震えてた気がする。

まぁ、気のせいかな。相手は実質妖怪のトップのようなものだし。

大雨ということあってか少し大きめの声になる。

 

「話は聞いてるからな!要件は単純だ!台風止めて!」

「やだあ!!」

「マジかよ……」

 

単刀直入に言えばチャンスあったり…?とか思ったが一刀両断された。

それも小学生のような両断。やだあ!って…。

なら、理由を聞いてみるか…。

 

「どうして嫌なんだ!?」

「ムシャクシャしてるの」

「そんな犯罪者のようなコメントを…」

 

んんんん?なんだこの人??

なんか…なんだろう……。

 

小学生感?

 

どうやら俺の態度が気に食わなかった天魔様はツカツカと歩み寄ってきた。

流石に危ないか…?

 

「というか!さっきから私に向かって何よその話し方あ!」

「え、あぁ、それはごめ……え?」

 

凛とした声なのだが、話し方にどこか幼さがある。こちらに向かって歩いてるものだからシルエットがハッキリしてきて……。

 

ち、ちっちゃくない?

 

「仮にも天魔様だよ!?たしかに、ストレス溜まってきてもうムシャクシャしてて迷惑かけてるけどさぁ……」

 

後半にいくにつれて声が小さくなっていく。

が、バッチリ聞こえてるからな。「え?なんだって?」を期待しても無駄だからな。

 

「え、じゃあ、ストレス発散してんの?これ?」

「そ、そういうんじゃ…!」

「迷惑だからやめようね?」

「え、う、うん…じゃないわぁ!」

 

近づいてきて分かったのだが天魔様の身長、俺と頭一つ分くらい違う。

俺でも身長173くらいなのだが、それと頭一つ分くらい…いやもっと……?

 

「150…?」

「156はあるからぁ!!四捨五入したら160だからあ!!」

 

ボソッと推定身長を言うと、地獄耳なのかバッチリ聞こえてたみたいで、凄い勢いで反論してきた。う〜ん、惜しい。6cm。

それがどうにも天魔の頭にきたのかまたしてもウガァァ!!と唸り始めた。

 

「もー怒った!そんなに止めて欲しいなら私に勝つんだな!!」

「やめてくれよ。幼女に手をあげる趣味はないんだ」

「ウガァァァァ!!!!」

 

いい感じに煽れただろうか。

余裕こいてられんのもいつまでかな……。

 

遠い遠い道のりを乗り越えた先に、今回の本番だ。厳しいね、幻想郷。

 

完全に見た目幼女ではあるが、事実上妖怪のトップだ。

雨が吹き荒れる中、堂々と翼を広げるその様は、まさに神のようで。それこそ、天を翔ける悪魔のようで。

圧倒的に見えた。

 

生きて帰れるといいんだけどな。

 

苦笑まじりに、そんな事が頭を過ぎった。

 

 

 

 

 

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