『あなたは本当、同じ種族なのか疑うような子ね』
『やっぱり天狗っぽくない?』
『そう言われればそうね』
『そっかー……』
『でも、お母さんはそんな子が好きよ?』
『ほんとにー!?』
『鷹が空を飛ぶように、悠然としていて、ゆったりと、上品に…素敵な意味ばっかよ』
『私もこの名前すきー!かっこいい!』
『そうね…あなたは私の誇りよ…。鷹揚』
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『本当にあんな奴が次期天魔だと…?』
『同じ種族とは思えない…あんなノロマが…』
『一体天魔様は何を考えているのか……』
『うぅぅ…なんで私が……助けてよぉ…お母さん…』
『もうやだぁああ……!!』
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変なこと思い出したなぁ…。
あの頃と比べると、私は変わっていて、天狗らしくなったと思う。
お母さんが好きだった私はもういない。
その事をうしろめたく思う。
でも、しょうがないの……!
「ここは…力が全てなのッ……!!」
「くっ……!!」
長時間に及んで私と壮絶な攻防を繰り広げるのはたった一人の青年だ。
先程は少し自分の惨めさに涙を流したが、今は調子を取り戻した。
一体誰に喧嘩を売ったのか……
「分からせてやるよッ!!」
「……くるっ…!」
何かを感じた青年は短くそう言うと、私から離れて身構える。咄嗟の反応は私でも素晴らしいものだと思う。
人間にしては、な?
青年は遠距離からでも攻撃するべく、弾幕を展開する。
私、弾幕ごっこってよく分かんないんだよなぁ…。
悪いけど、
「させないよ!!」
「なっ!?」
私は一言そう叫ぶと下に向けた右手を振り上げて高々と掲げる。
瞬く間に青年と私は強烈な風に巻き込まれる。
ふふふ…何がどうなったのか分からないって反応だね!
青年が言った通り、私は気圧を操れる。
風を起こすなんて朝飯前だ。応用次第では強力な技も出来る。
例えば今みたいな!
上昇気流とかね!!
「まっ、じか…!!」
「生憎…弾幕ごっこ苦手なんだ。だから、
許して♡」
「ぐっ…!!」
私が起こした上昇気流で一気に青年との距離を詰める。展開していた弾幕も軒並み消えていく。
こうなりゃ私のモンだ!
さっきの波動同様、手に気圧を纏う。
まぁ、風を纏うことと同じなんだけどね。
青年に触れた瞬間爆発しちゃうんだけど!
そうして、ずっと昔に、桜花と喧嘩した時にノリと勢いでつけた必殺技の名前を叫ぶ。
「『必殺!天下り!!』」
「……ッ!!」
私の手が触れる直前、青年はキッと私を睨む。
最後の反抗だろうか。だけどそれも無駄。
天魔に挑んだ勇敢さは褒め称えるに値するけど……
もう少し強くなってから来なさい!!
「破ァッ!!!」
瞬間。
私も目が閉じてしまうほどの強風が起きた。それはたしかに爆発する感覚だった。
手の平に溜めた全力の"圧"は、たしかに弾けた。
…ハズなのに。
「なっ…!?
いない!?」
じ、じゃあ、代わりに私が吹き飛ばしたのは…!?
「小石だよ」
「ハッ!?」
「『イリュージョン』。久しぶりに使ったけど……」
不意に背後から聞こえた青年の声にめちゃくちゃビビる。
すぐに体制を立て直そうとするが…
青年の方が冷静だった。
「同じ手で、まさか二回目で引っかかるとはね……」
フッ、と若干馬鹿にしたような笑いを浮かべて、
「ハァッ!!!!」
「がはっ…!!」
お返しと言わんばかりの発勁を食らわしてきた。
それも特大。強力だった。
なんとか体を反らしたが脇腹にもろに受けた。
空を悠然と飛ぶ鷹は、一人の青年によって、
地に叩き落とされた。
「ふっ…ふふふふ……えげつなぁ…」
まさに一撃必殺。
それ程までに強烈だった。攻撃力だけで言ったら桜花と同じくらいだと思う。
こんなの喰らってぇ……
「燃えない訳ないじゃんッ!!」
「!?……おい、まさか今から本番?」
「当たり前じゃん」
「つくづく感じるけど……冗談よせよ」
まるでこんなような展開が前にもあったかのような口振りだが、知ったこっちゃあない。
久しぶりに楽しくなりそうだ。
形勢逆転。
空を悠然と飛び、私を叩き落とした恐ろしい青年を、
泥だらけの地面から、ただジッと睨みつけた。
昔のような、不敵な笑みを浮かべて。
***
より一層、雨が強まった。
天魔は、この強風ですら纏って、この状況でおいても楽しそうで、力強く睨んでいた。
ふっ……
し、死ぬかな……。
天魔相手にとんでもない一撃を加えた気がする。
グーで殴るのは躊躇われたからせめてものパーで攻撃したんだが……。
「ふふふふ……!」
めちゃくちゃ怒ってらっしゃる。
口こそ笑えど、目は今にも俺を殺さんとする気満々である。
天魔を中心に風は強く吹き荒れ、空中にいる俺もフラつく。俺はここ幻想郷でも例外で、力を抜いてふわふわ飛ぶタイプだ。風圧とかは結構受けやすいうえに、覆す能力無しでは天魔にスピードで追いつくなんて無理な話だ。
つまるとこ。
「くそ……結構キツイか…」
今の一発に全力を注いだ俺は、案の定右目がボヤけ始めた。
元々スタミナもないもんだから妖力もどうなるか……。
体力温存か…。短期決戦か……。
そうブツブツ考え過ぎていたもんだから、先に動いたのは天魔だった。
「覚悟しなよ…!」
「くそっ…!!」
俺はすぐに身構え……
「…え?」
「おせぇ!!」
衝撃。
全身を強烈な圧が襲った。
なに、これ?
瞬間移動?
なんて考える暇もなく、林の中に突っ込む。
バキバキと音を立てて木々が倒れる。
いってぇ……
なんて言うのも束の間。
天魔は曇天の中で真っ黒な翼を広げると、高々と叫んだ。
「天符!!『氷の雨空』!!」
「うっわ、見覚えあるやつ!」
と同時に危うくトラウマになりかけてた死の氷柱。
それそんな名前の弾幕だったのか。死の氷柱とかに改名した方がいいと思う。
っと!そうじゃねぇ!!
「躱せ…ないか!!」
重力に従って徐々に加速する氷柱を見てそう判断する。
体力温存は無理か…!!
すぐに立ち上がって、右手を翳す。
久しぶりだ、この感覚……。
心臓がズキズキする毎に、湧いてくる力。
この悪趣味な感じは変わってないのな。
ズキズキ痛む心臓を左手で押さえて、湧いた力を右手に溜めて……
「ハァッ!!」
タイミングばっちり。
降り注いできた氷の雨はパキパキと音を立てて次々と割れていく。
大量の氷が目の前で割れるし右目はボヤけるしで視界は最悪だが、この弾幕はなんとかやり過ごせそうだ。
だが、天魔の攻撃は止まらなかった。
氷が尽きて、視界がクリアになりきる前に、
その高々とした声はまた聞こえた。
「滅符!!『天下る龍』!!」
「うそだろ!?」
間髪入れず飛ばしてきたのは身の丈の倍ほどある大きな氷の矢であった。
それもさっきの氷柱軍団よりスピードが倍ほど速い。
躱しきれないっ……!?
「覆せっ!!!」
「ふぅん…躱すのか……」
「残念ながら掠ってるよ…」
寸前で直撃する運命を覆した。
だが、その能力ですら氷の槍のスピードに追いつかないようだ。逸らし切れる前に脇腹を掠った。
ちなみに掠っただけでもかなり出血している。
傷口が広かったか……。
「俺はデリケートなんだよ…容赦してくれ」
「デリケートな奴は幼気な乙女に容赦ない攻撃しないよ。それに!戦いの場において容赦なんかするもんじゃないわ!!
獄符!!『地獄送り』ィ!!」
「!?…うそだろ!?」
なにやら物騒な技名を叫んだかと思えば、
次に俺を襲ったのはちょっと不愉快な浮遊感だった。
それもそのはず、本当に浮いてた。
ホントに。
まさか!?
「上昇気流か!!」
「今気づいても遅い!」
気圧を操るからもしかしてとは思ったが……。
人を浮かすほどの上昇気流なんて始めて聞いたわ!
猛スピードで天魔に迫る。
天魔を見れば、彼女の右手は親指以外の指をピンと伸ばしていた。
それを全力で、下から浮かび上がってくる俺に向けて突き立てる。
「ぅぁあああっ!!!」
「くっ…覆せ!!」
天魔の右手には最初の波動同様、風を纏っていた。
思えば波動も気圧差から作り出された強風の塊だったのだろう。喰らえば死ぬ、そう思った。
「ぐっ、あぁぁ!!」
「落ちろぉ!!」
咄嗟に直撃を避けようとまた能力を使う。
が、天魔の突きは速かった。今度は左手の二の腕を切り裂いた。何とか躱せたか……?
と安心するのも短く、天魔は追撃をする。左手をパーにして俺の胴体を狙ってくる。
「刃ァッ!!」
「うっ、ぐぁああ!!」
能力の影響もあって、地面に落ちるほどの威力ではなかったが、今度は胴体が大きく切り裂かれた。
カマイタチか…?いてぇなぁ……。
空中でダラダラと血が出る腹部を抑えて、ボンヤリした目で天魔を見据える。
マズイ……やられ放題だ…!!
すぐに反撃に……
が、天魔はそれすら許さないほど速かった。
それは空気が霞むほど、
強風すら遅れるほどの、
音速。
「これで終わらせるっ!!
天符!!『颱風の目』!!」
「……マジかよ」
天魔が右手を高々と掲げると、途端に周りに強風が吹く。
俺に何の被害もなく、ただただ周りに強風が吹き荒れる。
台風ってたしか低気圧の塊。
そんな事を射命丸に言ったっけ?
そして、追加情報。台風の風は中心に反時計回りに吹き込む。
最強の下降気流かと思えば上昇気流だったり。
とにかくめちゃくちゃなやつだ。
そんでもって、こいつは今「台風の目」って言ったか?台風?目?
朦朧とする意識の中で1つ思いつく。
「俺が台風の目か!?」
「周りに吹く風はさっきと同様体を切り裂く上に、台風の目は徐々に狭くなっていくぞ」
「それなんてバラエティだよ!くそっ!!」
「それに、これで終わりだと思うなよ」
「はっ?」
天魔は高々と掲げた手を右にフッと一振りすると、お馴染み。
トラウマ的氷柱が夥しい数現れる。
……え、うそだろ!?
「言ったはずだ。これで終わりだと!!」
「殺す気満々かよっ…!!」
人斬り風の檻に囚われたうえに、風の中に大量の針を投下しやがる。
どうする……!!
「ちなみに、その風の檻は私が手をグッとやればノータイムで閉じるぞ」
「考える暇すらないってか!」
「ふっ!久々に楽しかった!!」
天魔は若々しい見た目で、満面の笑みでそう言った。
くそっ…シャレになんねぇよ。
こちとら天魔の暇つぶしに来たわけじゃない。
麓のみんなが危ないから。
射命丸が必死に来てくれたから。
俺はこうして命をかけてる。
それが最終的に楽しかったです、で終わりか?
あぁぁ…情けねぇ……。
あれから変われたと思っていた。
けど結局こうだ。
あの時と同じ、惨めなままだった。
力でのし上がった天魔の方が強くて偉いだなんて分かってた。
けれどっ……!!
最後に天魔の声がポツリと聞こえた。
「じゃあな、青年」
天魔は右手をグッと握る。
それと同時に大量の氷柱が、吹き荒れる風に乗って、
一気に台風の目に吸い込まれていった。
誤字脱字があったらごめんなさい…
天魔のキャラ最高に書きづれぇ…