曇天の中、吹き荒れる雨風は絶えることなく神社に打ち付けていた。
ついでに、その神社の巫女も凄まじく荒れていた。
「やっっっかましいんじゃい!!!!ガタガタガタガタぁ!!!」
おもむろに布団から起き上がると同時に私はそう叫んだ。
人が寝てる時にガッタガタガッタガタ……!!
今の時刻はおおよそ正午くらいだ。
それだと言うのに外は真っ暗。厚い雲は畝りながら空を覆い、強風と雨は私を叩き起こさんとばかりに障子を打ちつける。
「どこのどいつよ…こんな異変を起こしているバカは…..」
天気の影響か、いつもより怠い体を起こす。
………。
「この中異変解決は難しいわね…」
飛ぶのにも一苦労。けれど、このまま放っておくわけには……。
どうしたもんかと考えていると、ふと、大きな音がすぐ近くで聞こえた。
外……まさか魔理沙が来た……?
そこまでバカじゃないわね。何かが飛ばされて来たんだわ。きっと。
なんて一人で納得してると突然、目の前の障子は開かれた。
「わっ!な、何よも…」
「霊夢さぁ…ん……」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然障子が開いたものだからその雨風の勢いに驚いた、
矢先に足元には幽霊よろしく水浸しの女が私の足に……。
「って、射命丸。何よこんな雨の中」
「助けてください…」
「あぁ、この異変のこと?」
「それもなんですが……」
射命丸は肩で息をしていた。ひどく疲れているみたいだけど…。
切れた息で、必死に射命丸は伝えて来た。
「し、シオンさんが……!!」
「……シオンが…?」
ふと、胸がざわつく。
悪い予感がする。
急いで巫女装束になる。自分でも焦っているのは分かる。
が、彼に何かがあった。
それは私を、何なら、
八雲紫を、動かすのにも充分な理由になってしまう。
「場所は!?」
「よ、妖怪の山の山頂です……」
「天魔のとこかっ…!」
思わず舌打ちが出てしまう。
また厄介な案件になったわね…!!
「射命丸は適当にお風呂でも入って!ここにいなさいね!」
「は、はい…ありがとうございます」
射命丸には初めて感謝出来そうだ。
この雨の中わざわざこんな端っこまで来て伝えて来たのだから。
それにしても……厄介だわ。
天魔だけならまだしも……。
「要注意人物までいるなんてっ…!」
私は降りしきる雨の中、妖怪の山へと急いだ。
ーーーーー
ーーーーーーーーーー
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
渾身の拳を怪物に打つ。
勝負を始めてからどのくらい経っただろうか。
今の幻想郷に則った弾幕ごっこはどこへやら。完全に肉弾戦にもつれ込んでいた。
実際、私は弾幕より肉弾戦の方が得意だから好都合な筈だ。
筈だったのだが……。
「グルルゥルルァァァッ!!」
「ぐっ……!!」
押し返すか…!!
気圧の能力によって、私には風の加護と言ったものがある。飛んでくる弾幕は当たる前に逸れ、拳は貫かんばかりに早い。
さっきから手応えはあるのだ。あるのだが……。
「ハァ…ハァ…全く効いていないみたいだ……」
流石に心が折れそうになる。元々ひ弱だから、既に3回くらいは折れてそうなもんだが…。
怪物も傷だらけだ。なのに倒れる気配はなく、そればかりか反撃までしてくる。
「くっ…またくるか……!」
「グルルァ……」
この怪物は人語を喋らないのだが、たまに、聞こえてくる。
スペルカードの名前のような言葉を、喋る声が。
決まってその後は非常に危険だ。
例えば今だ。
「ウナ…ヴァレーナ……」
「くるっ…!」
怪物の微かな声が聞こえた直後、地面からズドン!と音を立てて飛び上がる。
巨大な……暗いオーラを纏った…
真っ黒な…
「く、くじら……?」
アァァァァァァァと大きな鳴き声と黒い弾幕を大量に撒いて、大きな黒いクジラは曇天に飛ぶ。
黒い弾幕は水飛沫のようで、クジラは高らかに空中で吠えていた。
それを不覚にも私は、「綺麗」だと思った。
「……じゃなくて!こんな事考えてる場合じゃない!」
すぐ様怪物に突撃出来るように体制を取る。
いい加減決めないとやられる。
長期戦は苦手だ。
秒で片付ける……!
一歩引いた右足に力を込める。
水飛沫のように規則性のない黒い弾幕は怪物の周りを舞っている。
ただ、それもずっとではない。弾幕が薄くなる時を待つ。
怪物の姿が見えればいい。
一瞬でも見えれば。
勝てる。
…。
……。
見えたッ!
「貫けッ!!『神風の槍』ッッ!!!」
右手にありったけの風圧を込める。
風の加護は無くなるが、右手に集中した圧は鋭く、鋼ですら貫く。
怪物との距離は少し遠いが、私は天魔。
一歩で足りる!
一際煌々と輝く心臓に向けて……!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」
右手は確かな感触がした。
貫いた感触が確かにして、実際にその右手はしっかりと怪物を貫いていた。
これで、何とか……勝て、
「……え?」
ふいに右の腕を、つまり体を貫いた腕を、
掴まれた。
どうして……動いて……!
真っ黒に変色したその左手は力強く私の腕を握る。
数センチにまで迫った怪物の顔は……
否、その時だけだろうか。
白目が真っ赤に充血し、病的なまでに白い髪をボサボサと生やした、
青年の顔だった。
数センチにまで迫った青年の顔は、酷く悲しそうな淀んだ目で、
いやらしく口角を上げていた。
「お前っ…なぜ動いて……!」
「は、ははは……!」
ふいに青年は笑った。
その後、絡みつくような負を孕んだ声で、確かに言い放った。
「道連れだ…!」
「なにを……!!しまった!!」
咄嗟に上を向く。
が、回避する暇もなかった。
「くじら……」
黒いオーラを纏ったクジラは、雨のように黒い弾幕を引いて、
一直線に落ちてきていた。
完全に油断していた!!
すぐに回避をすれば……!
「くそっ……風のか…ご……」
は、使えない。長期戦の上、神風の槍を使ってしまった。
もう体に力は残っていない。
万事休すか……。
私らしくもない。諦めるような事はしないつもりだったんだが……。
異変も弱まった。
静かに降る雨の中、二人で、
クジラが落ちる時を待っていた。
「霊符!!『夢想封印』!!」
「へ?」
激しい衝突音。
閉じていた目を開いた直後、けたたましい光が視界を覆った。
しばらくの間光は続いた。
光が晴れた頃には……
「くじらは……!?」
「もういないわよ」
先程まで視界を覆っていた黒いクジラは綺麗さっぱり消えていた。
思わずそう言うと、聞き覚えのない少女の声がする。
「は、博麗の巫女…!」
「ったく…どっかのバカと天魔止めに来たら、なんでクジラが空飛んでるんだか……」
「は、はぁあぁ……助かったぁ…」
「ちょ、ちょっと!」
思いがけない救いに私はその場に膝をついた。
ついでに右手も青年の体から抜け……
そうだ!
「おい!青年!!」
「………」
「せ、青年?」
どこかボーッとした顔で立ち尽くしていた。
ただ目は濁ったままで、全身傷だらけ。そこに怪物らしさは微塵もなく、ただただ、青年であった。
「あ……」
「晴れてきたわね」
私の能力も収まったようで、雨は止み、台風は空から消えた。
台風の過ぎた後、
必ず快晴になる。
雲の切れ間から差し込んだ日の光が山頂を照らす。
そんな時間がほんの数秒。
経つと博麗の巫女が口を開いた。
「ちょっと、シオン?また無茶して……」
どうやらこの青年を心配しているようだ。
それに応えるように青年は首だけゆっくり霊夢に向けて、苦しそうな声で、けれど先程のような負の感情は孕んでいない声で言った。
「……おっせえよ…」
「は、ちょ、ちょっとシオン!」
暖かい陽だまりの中、少し微笑んだ青年は、
ふっと、その場に倒れた。