シオンとヴィネアの謎がかなり明かされる回
様子がおかしくなったのはこれまでに2回あった。
1回目は紅霧異変。レミリアと対峙した時。
2回目は鬼子母神。桜花と対戦した時。
そして今回の異変で3回目。
威風鷹揚と対戦した時におかしくなった。
「こんな感じだ」
「あんた鬼子母神とも……」
「え、桜花ちゃんとも戦ったの!?」
「いや、まぁ、殺されたけど」
「なんで生きてんのよ…」
まぁ、たしかに考えれば錚々たるメンバーだ。
吸血鬼に鬼のトップに妖怪の山のトップ。
おおよそ最強種と呼ばれる彼女達に喧嘩ふっかけておかしくなってんのか俺。そりゃおかしくなるわ。
案の定、今は白髪に充血した目と、お約束の姿になっている。
まぁ、それは置いといて。
今回はそろそろ確信に迫ってみようと思う。
理由はといえば、
『アンタの事が訳わからないわ。いい加減はっきりして頂戴』
と、博麗の巫女様から言われた。
それに関しては願ったり叶ったりだ。
いい加減自分も自分の事を理解しておく事が必要だ。
霊夢から警戒されてるのは気付いてる。それもそうだ。何かのきっかけにあの様になってしまっては誰かを傷つけてしまうのは時間の問題だし、実際レミリアに手を上げてしまっている。
そんな自分でも分からない自分の正体を明確にするべきだ。
俺は、自分が感じ取れる事を話す。
「自覚はあるんだ。変わっているなっていう自覚が」
「あら、そうだったの?」
「飲み込まれてるって感覚も。自覚はあってもコントロールが出来ない」
「意識のある暴走状態ね。タチ悪いわ」
そういずれの3回、全てにおいて自覚がある。
ぼんやりとした意識がある。ただし体は言うことを聞かない。というよりは…
意識的というより本能的に動いてる。そんな感じがする。
「また、見た目も違うみたいだ」
「見た目?」
「レミリアの時は…真っ黒な化け物みたいだったろ」
「ええ。私は一瞬しか見えなかったけどね」
「え?真っ黒だったの?」
俺が霊夢に1回目の様子を聞いているところに、鷹揚が割って入ってきた。
丁度いいタイミングだ。
霊夢は鷹揚の発言に疑問符を浮かべる。
「どういう事?」
「あなたが来た時、彼は人の姿だったから見てないのか」
生憎、さっきまでの出来事で自分の容姿を確認する暇はない。
ここは鷹揚に任せることにした。
鷹揚は言葉を続ける。
「たしかに、黒いと言えば黒いけど、全身に赤い脈みたいなのが張り巡らされていたよ」
「赤い脈…?」
「うん。だからどちらかと言うと赤と黒だった。曇天の下でも光ってたよ」
「おぉぉ…簡易ランプ…」
どうしてかくだらない使用方法ばかり頭に浮かぶ。
ともあれ、流石天魔だ。この雨風の中、俺の姿をハッキリ認識出来ている。余裕があった証拠だろう。っょぃ。
これでハッキリと分かった。
「つまり、3回とも姿が違うみたいだ」
「そうなの?桜花ちゃんの時は?」
「完全な人のままだった。あの時は本能だけ反応した」
「ほんと良く生きてたね…」
ほんとね。自分でもそう思う。
3回とも姿が違う事は何かの証拠になるかな……。
うぅむ、と考察し始めて直後、霊夢が先に口を開いた。
「瘴気が強くなってるわね」
「瘴気?」
「初めて出会った時より倍くらいには」
「それって良くないやつだよな…」
「そうね。あなたのは妖力もあるけれど、瘴気の方が強い」
え、何それどう考えても敵じゃん。
悪影響じゃん、こわっ、引きこもろう…。
じゃねぇな。
瘴気ね。妖力は言われた事があるが、瘴気は初めて知った。というか初めからあったのね。
霊夢は言葉を続ける。
「何かを引き金にどんどん強くなってるわ」
「多分だけどそれって…」
「そうね。多分その変身よ」
「やっぱり……」
まぁ、それくらいしか理由が見当たらないんだけどな。
元はといえば「覆す能力」で人間である事を覆すとあの姿になる。
やっぱり、無理があったみたいだ。
俺はため息混じりにそんな事を言う。
「変な能力の使い方するからかなぁ…」
「あ、そう、能力にも違和感があるわ」
「えっ、うそっ、どういうこと?」
「まぁ、簡単な話よ」
霊夢はそうニヤッと笑ってみせた。
たまーに見せるこの笑顔イケメンだなこいつ。
その様子を見て、少し安心する。深刻な内容ではなさそうだ。
霊夢は滑らかに続けて言う。
「あんた多分能力2つ持ちよ」
「深刻だ……」
流れるように項垂れた。鷹揚は横で凄いね!ってテンションあがってる。可愛いなこの人。
え?2つ持ち?『覆す』と……
ふと頭に引っかかる。
それと同時に、霊夢がどこまで見抜いているのか怖くなってきた。こわっ。巫女こわっ。
巫女恐怖症になりながらも1つの可能性を提示する。
「拒絶……?」
「ふぅん、拒絶する程度の力かしら?」
「た、多分」
長らく人の心に這いずっているそいつが言った言葉だ。
『拒絶は出来るけどな』
ずっと引っかかっていた。けれどこれで分かる。
能力なのか。うん?そうなるとその前の『覆すことなんか出来ない』って言葉も疑問だな。
霊夢の怖いくらいの推理力の元を探ってみる。
「なんで分かったんだ?そんな事」
「あからさまに雰囲気が変わるのよ。多分使ってる力が違うわね」
「使ってる力…と言いますと…?」
自分の事なのに何一つ分からない事に若干の申し訳なさを感じながら霊夢に言葉の続きを促す。
「覆す時は妖力で、拒絶の時は瘴気、そう使い分けられているように思うわ」
「えぇ、いつのまにそんな高度な事が…!」
「どっちも凶悪に変わりないけどね」
「やっぱ悪影響じゃん。引きこもろ」
今一度家から出ない事を固く誓った。
にしても使い分け……。
そんな事意識した事ないんだけどなぁ……。
おまけに人柄も変わってしまうようで……。
…なんかあれだな。俺も鷹揚の事言えないな…。
別人みたいになっちゃってんじゃん。
「別人になぁ……」
「そういえば私思ったんだけどさ!」
鷹揚がふと口を開いた。
どこか懐かしむような口振りで、またどこか懐かしさが込み上げたのか遠くの山を見据えて言った。
「シオンはヴィネアにそっくりだなって思った!」
「……は?」
「ヴィネア…?」
弾むような声からは想像のつかなかった意表をつく一言だった。
霊夢は目を細めてその発言が気になっている素振りをしている。
え、だってヴィネアっていうと……
「あ、あの、ヴィネア・ディヴァイン……?」
「おー!知ってるんだ!」
「知ってるも何も……」
「ちょっと、詳しく教えなさいよ」
「ヴィネアは…」と言葉を続ける前に霊夢が俺の言葉を遮った。どうやら知らないみたいだ。
それもそうだ。かなり昔の人物だし、幻想郷での彼女を俺は知らない。
そうか。天魔も鬼子母神を知ってるみたいだ。
ヴィネアを知っていても、なんなら深い関係であってもおかしくない。
とりあえずは霊夢の言葉に応えて、詳しく話すみたいだ。
「私がまだツンツンしてた時に出会ったの!」
「そういやアンタ昔は悪ガキって聞いたわね」
「色々ありまして……」
ヴィネアとの出会い、ついでに鷹揚の事も知れそうだ。その頃から人格は2つあったんだな。
鷹揚はまた遠くの山を見つめて、淡々と語った。
「同じような天気でね、真っ白い長い髪を靡かせて、紅い2つの双眸でスッと見てきてね」
「どいつもこいつも雨の中…」
「変だよね」
変とはなんだ変とは。
にしても、ばあちゃんもね……。
ばあちゃんは人ではない可能性ーーというかほぼ確定ーーも頭にあったが、ふとした所で血の繋がりを感じる。
家族、なんだろうか。
2人はそんな俺の感情も知らず、鷹揚は続ける。
「洗濯物が乾かないじゃないの!って…」
「変なやつだな」
「雨の中来た君もだよ?」
前言撤回。変だわ。
なんで優先順位『安全性<洗濯物』なんだよ。
確かに同じような事は考えたけど。考えたけど。
変なところで血の繋がり感じてしまったわ。
霊夢は鷹揚に続きを促す。
「で?その後どうなったのよ」
「案の定喧嘩してね。私は負けた。自信満々だったんだけど…」
鬼に続き天魔に勝つか…。我が祖母ながら化け物だな……。
それに比べ孫の俺は……。何一つコントロール出来てないし、強くない…。実際鷹揚には負けたようなもんだ。
鷹揚は視線を俺に移すと、ふっと微笑んだ。
「で!今日シオンと会って、ふと彼女を思い出したの!」
「ふ〜ん…」
「そうか……」
そりゃそうだろうな。桜花にも似てるって言われたし。
霊夢はどこか疑問があるような反応だ。それに重ね俺も微妙な反応しか出来ないもんだから鷹揚は「あれ?」とか言っている。やべ、可哀想。ほっといてはいけない。
「いや、良い事を聞けた。ありがとう」
「う、うん?どういたしまして」
「良い事ってどういうことよ?」
流れるように言い出しづらかった事が口から出た。え、ここに来て言うの?しんどくない?
「実は〜」とか言うのか今から?霊夢は何か勘付いている様子だったし。流石博麗の巫女。怖い。
逃げれそうにないので、素直に言おう。
「ヴィネアは、俺のばあちゃん…なんだ…」
「「え?」」
「と、思う……」
「そこは自信持ちなさいよ」
反応に押され、若干濁した。ま、まだ久榮=ヴィネアと分かったわけじゃないし…。
霊夢には突っ込まれたが、鷹揚は爛々と目を輝かせている。
「そそそそそうなの!?」
「そうだと思う。まだはっきりそうだと言えないんだが…」
「いや、多分そうかも!すごい似てるし!」
「そんなにか」
今までに見たことないくらい鷹揚はテンションが高い。年齢そこそこいってると思うのに言動が若々しいんだよなぁ。
鷹揚のそんな所にほんのりと可愛さを感じながら、俺は今日一番聞きたかったことを聞いた。
それでさ…と言葉を続ける。
「ヴィネアは…その、どんな人だった?」
「とても明るくて社交的な人だったよ。よく人里にいたなぁ…!」
「へぇ…!そうなのか!」
「うん!八百屋さんの野菜とにらめっこしてた!」
「あ、なんか身に覚えが……」
またしても変なところで血の繋がりを感じる。
桜花より鷹揚の方が関わりが多かったのだろう。情報が多く得られた。
少なくとも、俺の印象に残ってる祖母とは全く違うイメージだ。若い時だったのだろうか。
ふと、頭の中に過去の映像が流れる。
怒号と嘆きが家に響く中、祖母は、久榮は優しく俺に微笑みかけていた。
優しく、皺くちゃな顔で、真っ白な髪で。
そこに若々しさはなく、しっかり老いていた。
鷹揚と同じく、きっと彼女に懐かしさを感じた。
そういえば、そろそろ一年が経つ。俺がここに来て。祖母が死んで。もう一年だ。
過去に浸っていた頭は鷹揚の声で現実に戻された。
「ヴィネアは、まだ元気?」
「え、あ、いや、丁度一年前くらいには、亡くなってる」
「あ…そっか、そりゃあ寿命来るか」
寿命。その言葉がどうにも引っかかる。
聞けばわかるかと思っていた。だが、どうにも泥沼に嵌るだけで謎は深まる。
ーー思い切って聞くべきか。
いずれは触れなければと思っていたが、勇気が出なかった。
これはチャンスだ。聞くべきだ。
今日だけじゃない。ここに来てからずっと誰かに聞きたかった事を、鷹揚に向け、
初めて口にした。
「あ、あの、ヴィネアは…人なんですか?」
これを聞けば全て分かると思った。
思い出せると思って。
そうだ、口に出せなかった理由。
思い出そうとすると苦しくなったんだ。心臓を掴まれるような、頭蓋骨を割られるような、そんな感覚がした。
けれど、今はしない。
前よりも痛みがない。胸のズキズキは小さく、
代わりに、
全身を飲み込まれる、妙な吐き気がした。
鷹揚は俺の質問の意図が分からないみたいな表情をして、当たり前のように、スッと言い放った。
「ヴィネアは魔女だよ?」
「だ、あ、魔女……?」
「かなり有名なね!西洋生まれの通称『呪いの魔女』!!」
「あぁ、それ私も聞いたことあるわ」
「あ、え、は…?」
言葉を失う。この感覚がきっとそうなんだろうな。
基本そう言ったことに興味を示さない霊夢でさえ知っている。
『魔女』。
意識した途端頭痛の胸の痛みは強くなる。
そんな中でも霊夢の声はしっかり聞こえた。
「じゃあおかしいわね」
「ん?何が?」
「魔女は不老みたいなものなんでしょ?」
「あ!捨虫の魔法ね!」
「はっ…?捨虫の…魔法……?」
「老化を止める魔法よ…って苦しそうね…」
「大丈夫だ……」
呼吸も苦しくなってくる。
これ以上思い出すなと、全力で記憶を否定してくる。頭がガンガンと内側から叩かれる。そんな感覚だ。
2人は不思議な顔をしつつ話を続けようとする。
「最初から幻想郷にいたのにいつだったかな、パッといなくなっちゃって…」
「そんなに前からいたの?」
「私や桜花ちゃんよりも先に。なんなら」
そこまで聞こえていた。その先は聞きたくはなかった。そろそろ頭がおかしくなるんじゃないかってレベルで頭が痛み、視界が回る。
よせ。もういい。
さっきそう言えば良かった。
そんな願いも虚しく、その言葉は聞こえた。
「幻想郷ができるずっと前から生きてるって」
「ーーッ!!」
「へぇ〜…って、シオン本当にやばいわよ」
「うん、そうだね。瘴気が凄いよ?大丈夫?」
"フラッシュバック"
その現象はまさしくそう呼ぶべきものだった。もっとも、記憶はまだ塞がれていて、所々だけ。
猛スピードで頭を駆け抜けていく。
とんでもない情報量は、心臓と頭の痛みを無視して流れていく。
紅い目に。
ハリのある指で。
若々しい彼女は。
仰向けで横たわる俺の胸にそっと手を翳した。
涙ぐんだ彼女は最後に震えた声で、消え入るように言った。
『ーーーごめんね。』
「アァァァァァァッッ!!!!!!!」
「博麗ッ!!」
「くっ……!!」
「ガァッ!…ハァッ…ハァッ……ハァァ…」
「な、にごともないみたいね」
「そうだね……」
一抹の悪夢から目が覚めた感覚だった。
深く息を吐くと、周囲を見た。
鷹揚は臨戦態勢で、霊夢もお札を構えている。
が、俺の様子を見るとそっとそれを解いた。
やべぇ…やらかしたかな…。
すぐ様謝ろう。
「あ、あの、悪い…迷惑かけた」
「何もないならいいわよ」
「そうだよ。それより凄い汗」
「服も軽く乾かしただけだし、お風呂はいってくれば?」
「え、あ、あぁ、そうする。ありがとう…」
何だか不自然に優しい気がしてしまって落ち着かない。2人は善意なんだけどな。経験が少ないからしょうがないね。
兎に角、今は1人になろうと思い、霊夢の勧めを素直に聞いた。何でこいつ人ん家の風呂をさも当たり前のように……。
すぐに風呂へ向かおうと体を布団から出す。
「あ、やべ、包帯が…」
「片付けとくからいいよ」
「何から何まで、ごめん」
「いいんだよ。それに、そこはありがとうって言ってよ」
「あ、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
鷹揚もとてつもなく優しい。その優しさがとても有り難く、どこか不安さえ覚えてしまう。
ハラリと解ける包帯そのままに、
俺は足早に風呂場へと向かった。
ーーーーー
ーーーーーーーーーー
「傷、治ってたわね」
「うん。服は破れたままだったのに」
「服もどうにかしてあげなさいよ」
「すいません……」
だいぶ、核心に近づいた。
その上、危険度も上がったように感じる。
『呪いの魔女』の孫で、とんでもない瘴気と妖力と数。
今回の天魔との弾幕ごっこで余計に不安は募る。
けれど彼は無害。
優しいままで、結局誰も傷つけちゃいない。
私はどうすればいいのだろう。
もし彼が、シオンが敵になった時……
らしくないわね。
止めれるか止められないか、なんて。
暴走した暁には止める。博麗の巫女として。
紫は「用心して」とは言っているけど、彼の優しさがあればきっと心配はない。
私が止めるべきは、紫が気をつけてと言っているのは、
『シオンが自らの力で身を滅ぼす』こと。
それだけはさせたくない。
結局、アイツがくれた500円、いまだに使えずにいるのだから。
「そういえば」
「ん?」
天魔がふと思いついたように話し始めた。
「シオンと悪鬼君の関係はどうなるんだろ?」
「は、悪鬼?」
「うん、地底の」
聞いたことあるな。
いつだか地底で鬼子母神相当の強さとまで謳われた鬼だっつってたっけ?
「それとシオンがどう関係するってのよ」
「うーん、だってシオンがヴィネアの孫っていうなら」
天魔はそこで一息ついて、
さも当たり前のように言い放った。
「悪鬼はシオンのお父さんってことになるよね?」
「は?」
どうして、アイツのいないところで爆弾発言をしたのか。
いささか私は疑問だった。
この物語史上最強の爆弾投下
悪鬼については地底の話をご覧くだせぇ…