結局お風呂から出た後、特に何も会話はせずに軽く挨拶だけして家へと帰ることにした。
天魔とも一応友好関係にはなれたし、ヴィネアの事を知るのにキーパーソンになる人でもある。次ストレス溜まった時にはウチに来ると言っていた。溜まってなくとも今度何か持っていこうと思っている。
また、霊夢が宴会を開こうとも提案したが忙しいから遠慮しておくとのこと。
そんなこんなで帰宅。
霊夢と肩を並べてゆっくり飛びながら帰ってる。そういえば、最初の頃は飛ぶ時に黒い靄みたいなのが出てたんだよなぁ。今ではすっかり無くなっているのだが、これも何か関係しているんだろうか。
そんな時に霊夢の一言。
「あんた、ちょっとくらいコントロール出来るようにしなさいよ?」
「こ、コントロール?」
「できなきゃ、完全に危ないやつよ。ただでさえ訳わからない弾幕も打つのに」
「確かにな……練習してみる」
「弾幕もね」
至って簡単な会話だった。
それでいて、出来る自信がないレベルには難しい話だった。
うーん…不器用に出来るかしら…。
またパチュリーとか蘭さんに相談してみようかな。
そういえば蘭さん会ってないなあ…紫さんも元気かなぁ……。
元気……。
「射命丸はどうした?」
「……あ」
ーーーーー
ーーーーーーーーーー
「射命丸ゥゥーーーーあーーー死んでるーーー!!」
「うっさいわね!静かに入りなさい!」
結局そのまま急いで博麗神社に行った。
俺が交戦中の時にも射命丸は霊夢の所にも行ったらしく、かなりヘトヘトだったと聞いた。
案の定、射命丸は居間でぐったりしていた。
お風呂に入ったみたいで、体は冷えてはいなかったが、疲れたに違いない。
「こいつ…私の寝間着を……」
「ま、まぁ、濡れた服じゃあ風邪引くし…」
「まぁ、それもそうね」
ちなみに俺の服は鷹揚が全力で乾かしてくれた。凄いよねあの能力。お洗濯物が早く乾く。
霊夢はやれやれといった様子で射命丸に近寄った。
かと思えば躊躇なく起こし始めた。
「ほら!起きなさい!解決したわよ!」
「んぇっ…?あ、あぁ?あー!霊夢さん!それにシオンさんも!」
「おう、おはよう」
「はい!おはようございます!」
「もう、こんばんはの時間よ」
どこか元気な様子で安心した。流石妖怪。人間よりも体は強いのだ。風邪を引いた様子もなければ疲れた様子も見えない。
少し寝て元気になったのだろうか。
ともあれ、一安心、ひと段落ついたな。
「お疲れ様、ナイスだったぜ射命丸」
「そうね…助かったわ。ありがとう」
「えっ、えへ、えへへへへ……」
射命丸は、ほんの少しの動揺を見せた後、にへぇと笑みをこぼした。
○○○○
さて。
台風も過ぎ去った。秋の風物詩なんて言ってはいたが、思えばもう冬なのだ。
秋の終わりに来る台風だ。ちょっとくらい怪しく思えば良かったと反省はしている。
ともあれ、これで異変は終わった。
台風が過ぎ、次に来るものと言えば冬だ。
雪が降る季節だ。霊夢が言うには毎年結構降るらしい。
そうだ。
一周忌になるのか。
祖母を弔う。そんな信念を抱いて生きてきた。
今となっては「守りたい」なんて気持ちまで芽生えた。
俺は欲張りみたいで、俺抜きでもいいから最終的にはハッピーエンドで終わらせたがる。
それで良いはずだ。きっと間違っていない。
ヴィネアにもかなり近づけた。
完全に彼女を、祖母を思い出した時に、
その時に、確かな信念を持って、お礼を含めた、弔いを祖母に手向けようと思う。
西の空は綺麗な夕暮れに染まっていた。
少し暗がりになった東の澄んだ空には、不気味なくらいに明るい三日月が登っていた。
幻想的だ。
それもそうだ、ここは幻想郷。
あちらの世界でも同じ景色を見る事は出来たはずだ。ただ、確実に、心に変化が起きている。ゆとりを持って、この空を眺めている。
秋の乾いた空気で肺を満たすと、深く息を吐く。
心地良い。
この幻想郷で見る雪はどうなんだろうな。
景色を、心情を、感覚を比較するように、
一年前の真っ白な雪を、少しだけ思い出すのだった。
●●●●
「そろそろ、幻想郷にも冬が来ます」
「そう……」
大きな枯れ木の前で、銀髪の少女は私の隣に並んで立っていた。
「長い冬になるわ…」
「…咲かせるのですね」
「えぇ、今年こそ」
本当に。本当に長い冬になるわ。
私たちが、春を奪って行くから。
幻想郷に春は訪れない。
そうしてまでも、咲かせる。
暗い暗い死の世界で、私は決意する。
「今度こそ、この"西行妖"に花を咲かせるわ」
その蕾が開く時を、
私は楽しみにしている。
これはタイトルを偽った"プロローグ"である。