甘酸っぱい話に耐性がありません
不慣れですが精一杯書きました。多分。大丈夫。
「ずっと見てたのね」
「ずっとですね」
「最初から最後まで?」
「一部始終。なんなら片付けまで」
「ーーーっ!!
言ってよ!!!!!!!!」
アリスの声は里にこだまし、鳥は羽ばたき、茶柱は波に揺れた。
多分、初めて聞いたであろうアリスの大きな声及び嘆きに若干の感動を覚えた。こんな声出るんだな……。
じゃねぇや。
「い、いや!すまん!つい見入っちゃって…まさかアリスがやってるとは知らず!」
「そ、そうだったの……?」
「うん。それにアリスがやってるって知ってても話しかけないかな」
「な、なんで…!」
「緊張して出来ないだろ」
「あ、ぅ、確かに…」
それはそれで面白そうだという言葉をお茶と一緒に飲み込んだ。
あの後アリスと一緒に俺の家へと足を運んだ。まぁ、甘味屋だな。
謝罪ついでに寒い冬にピッタリのあったかい甘味なるものを試食してもらった。ほっかほかの饅頭である。これ、あれだな。あんまんだな。
「ん…!美味しい!」
「お、マジか。こういうのなかったの?」
「うん、ないわね。新感覚〜」
アリスはハムハムと美味そうに食べてくれた。美味そうに食うな〜……ハムスターみたいになってる……。意外な光景にほっこりしつつ、そういえば、と気になっていた事があった事を思い出した。
「そういえば、幻想郷クリスマスってあるのか?」
「ん、んん〜…そういえばここ近年してなかったわね」
「してなかったって事は認知はされてるのか」
「いや、知ってる人も少ないんじゃないかしら。ここは"忘れられたモノが来る"ってとこだし」
「そういや、そうだな……」
あちらの世界で、神なんて偶像への信仰心がなくならない限りクリスマスという風習は幻想郷に入ってこない。
外からの干渉がない限り、だ。
「ケーキくらいは用意してもいいかな」
「何?やるの?クリスマス」
「参加した事なかったからな。それっぽい事をやってみたい欲はある」
「へぇ!いいじゃない!作りましょ!」
「そうだな。そうと決まれば準備を始めるか」
自分でも驚くくらい速く、段取りが決ま……ん?
「一緒に作るのか?」
「え?うん、もちろん!」
「お、おう…」
「どうして?い、嫌だった……?」
「いや!そうじゃなくて!!」
そこまで言って、祖母が言っていたある事を思い出す。
もっとも、俺自身クリスマスをよく知らないのだが……。
「クリスマスって大切な人と過ごす日じゃないのか…?」
「えっ、あっ……あぁっ…!!?」
俺の発言に数秒ぽかんとした表情を見せたかと、己が先ほど言った事の意味を理解したみたいで。
初々しい反応だった。頬を赤く染め、綺麗な瞳は混乱したように忙しなく動く。
やがて瞳はそっと伏せがちなところで動きを止め、控えめな声で……
「た、たいせつなんでぇ……」
「そ、そうですか……」
そういやアリスも友達いない子だったっけ。
本当に反省すべきは俺の無知な発言でした。まる。
「まぁ、大切な人に変わりはないわな」
「そ、そうよ!」
「予定あったら申し訳ないなと思ってな。すまん」
「あるわけないじゃん……」
「ごめん……」
俺はもう少し人の気持ちを考えられるようになろうね。戒め…っと。
2人してこの微妙な空気が妙に可笑しくなったのは多分変なテンションだったからだろう。
****
大切な人と過ごす日。
その認識はおおよそどこも変わらないものだろう。
ただ。
ただ、それでも。
家族としか過ごした事がなかった私に。
「(改めてそう言われると困るっ……!)」
先ほどの会話を少し思い出しては顔が赤くなるのが分かる。
「アリスー、ボウルくださーい」
「あっ、あっ!はい!はい!」
「うん、元気だね」
「うっ、うん…!」
さっきの謎の微妙な空気が無くなったとはいえ……。
「(くっ、くぅぅ〜……意識してしまう…!!)」
毎度毎度、対人スキルの無さや経験の薄さに、ほとほと呆れるのであった。
でも、あれよね。大丈夫よね。
シオンは友人だもの。
大切な人で相違はないはず。
大切な……。
「アリス〜、ボウル……」
「ぅ……ぇぁ…」
「しっ、死んでる……!?」
大切な友達だからっ……!!!
そうやって、煩悩を全力で振り払うのであった。
ーーーーー
ーーーーーーーーーー
「さぁ!やってくわよ!!」
「なんかテンション高くね?」
「きっ、気のせいよ!!」
珍しくアリスのテンションが高めである。
というか、勢いがあると言った方がいいのか。なんか吹っ切れたのかこいつ。
まぁ、多少のアリスのみ意識の離脱があったとはいえ準備も程なくして終わり、あとは調理するだけ。ふっ、材料など元から揃っている。
だって甘味屋だし。
その上、俺も料理は元いた世界のあれやこれで人並み程には出来るし、アリスなんて暇つぶし程度にお菓子を作っているし。
だから「2人で作るのか?」と聞いたのに。絶対片方手持ち無沙汰になるじゃんか、これ。
だが、どうしてもアリスは作りたいみたいで。
今考えてみればその気持ちも分かるかもしれない。
「(誰かと特別な日を過ごしたいんだろうな)」
俺だって少しは憧れたりもした。今までずっと1人だったから。
なるほど。イベントっていうのは良いものだ。
「なんか変な感覚だ」
「へっ!?なっ、なにが!?」
微笑交じりに俺はそう言った。
アリスも反応をしてくれた。お互い調理は既に始めていて、喋っていてもその手は止まらない。
こうして、今自分が置かれた状況を考えてみれば、どうにも妙な気分になる。
なんて言ってもこんな経験は初めてだし、今まで関わってこなかった日だ。
もっといえば、いつ、どんないかなる日でも特別な事なんて何もなく、ずっと味気ない日を繰り返していたのだ。
だから、どうにも妙な気分になる。
「でも嫌じゃねぇなー」
「ほ、本当にどうしたの?」
「クリスマスを誰かと過ごす事が初めてでな」
「あぁ、なるほどね……ふふっ」
不意にアリスは笑みをこぼした。
「どした、ニヤニヤして」
「いやぁ…私も初めてでさ」
「そうなのか」
「うん。だから、何というか…む、むず痒くて」
「えっ、アレルギー反応…!?」
「ち、違う!!」
びっくりした。
ついにぼっちも極まってアレルギーでも発症したのかと思った。
だったら俺今頃ショック死してるんじゃ……。
そんなバカな事を考えてると、ぽしょっと控えめなアリスの声が耳に入った。
「う、嬉しくて……」
「…………」
俺は調理をする手を止めた。
嬉しい…ね。
そんなの言われた事あったっけ。
自分が誰かの心に彩りを与えたと言うのだろうか。もしそうなら。
ふと、胸がじんわり温まるのを感じた。
この感情に見合う言葉を俺は持ってなく、アリスの言葉を反復するしかなかったのだ。
「俺も嬉しいのか……」
「え?」
ついでに、行動にも出るのだった。
「…………」
「えっ、ちょっ、何!?」
「…………」
「ね、ねぇ!無言で撫でてこないでよ!?」
「ありがとう」
「え、ど、どういたしまし…って、喋ればいいわけじゃないから!な、撫でるのをやめっ…」
そこまで言って、「もぉ〜〜〜!!!!!」と本日2回目のアリスの大声とともに、俺の手は止まった。
無論アリスも手を止めた。
作業が進まなかったのは言うまでもないだろう。
ーーーーー
ーーーーーーーーーー
「終わったな」
「えぇ、そうね。完成したわ」
「1ホールな」
「1ホール。そうね、1ホール完成したわ」
「俺ら2人でな」
「合計2ホールね」
一通りの調理及びトッピングが終わり、一息ついていた俺たちは夢中になっていたあまりに、完成してから気づいたその事実に暫し呆然としていた。
恐らくお互いが思っているであろう事を俺は口に出した。
「食えなくね?」
「こんなに食べられないわね」
「だよねぇーーーー!!!」
俺は勢いそのまま膝から崩れ落ちた。
ヤバイ!!俺もアリスも没頭するタイプみたいだ!!気づかなかった!!
いや、いやね?
俺は小さめのものを1ホールだけ作ろうとして、それはアリスと一緒に作る事になっても変わらない考えのはずだったのだが!!
忘れていた。完全に。パーフェクトフォゲット。
それはアリスも同様、というかアリスが先に気づいた。「あっ」とか言っていた。
あぁ、まさしく「あっ」だ。
見事なケーキが、しかもそこそこな大きさのもの2ホールだ。
俺は、ただただアリスに問う事しか出来なかった。
「どうする…?」
「どうしましょ……」
アリスも問いに問いで返す事しか出来なかった。
俺だってそんな大食らいな訳でもなく、むしろ少食だったりする。
アリスに至っては飲み食いしなくても平気な体であったりするし、食べるにしてもあまり多い量は食べれないみたいだ。
と、なれば……。
「あっ、そうじゃん」
「ん?何か思いついた」
「ウチ甘味屋じゃん」
「……あっ」
とてつもなく簡単な問いであった。
簡単に解が出るものだった。
「売るか!!」
「そうしましょ!!」
そこからは素早い反応だった。
いやまぁ包丁持って等分するだけだけど。
そこそこ立派ということもあって10個に切り分けられた。限定10個か……来年はもうちょい作るか……。
あ、いや、9個か。
「うん!中々に良い出来ね!」
「初めて作ったけど良い感じだ。んで、はい、アリス」
「え、えっと、売るのよね?」
「全部売ったらアリス食う分なくなるだろ」
ケーキを満足気に見ていたアリスに一切れ差し出した。何でか疑問を投げかけられたけど、元はと言えばアリスと食べる用に作ったのだからアリスが食べないのはおかしな事だ。
「元々アリスに作ろうとしてたものだしな」
「そ、そうなの?」
「言ってなかったっけ?」
「言ってない……」
「じゃあ今言った。食べてくれ」
「ありがと……」
う〜ん……アリスが照れ屋なのは分かるけど、今どのタイミングで照れたのかは分からなかった。
恥ずかしいこと言ったかな……。
まぁ、それよりもアリスのコミュニケーションに対する免疫のなさは考えようである。もう1人くらいは友達ができたらなぁ…。
そんな心配を他所に、俺らは椅子に座り、アリスはケーキを食べていた。
「んふふ…」
「?どうした」
照れていたかと思えば、今度はケーキを頬張りながら笑みを浮かべた。
人形劇の時しかり、今然り、ふとした時に彼女の美麗さを実感する。
ただ、そうだな。
今はちょっと例外だ。
満面の笑みで感想を口にするアリスは、どこか幼く、
なんだか可愛らしかった。
「美味ひい!」
「…………そうか」
「ん〜?」
「クリーム付いてんぞ」
アリスの事を言ってる場合ではなかった。
考えれば俺もコミュ力は低いし、あまり誰かと関わろうとするタイプではなかった。
そのせいなのだろう。
そんな満面の笑みで褒められてしまっては、
どうにもこっちが照れてしまう。
そうだ。きっと俺も対人に慣れてないだけだ。
少しの気恥ずかしさと仄かに熱を持った顔を隠すため、
俺は頬杖ついた右手を机から離せずにいた。
お正月の話はまたの機会にします…(遅筆でごめん)