東方弔意伝   作:そるとん

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短めのちょっとしたストーリーです。


季節外れです。


真白に染まる

 

 

 

 

 

 

冬の間の太陽というものは本当に短いようだ。

ケーキが売り切れる頃には既に辺りは暗く、人里には提灯の赤い光が点々としているばかりであった。

日も暮れれば外は寒く、今こそあんまんの需要が高くなるのではと思ったのだが客足も遠のいてしまった。こうなってしまってはする事もない。

元々営業時間は短いしな。といった具合に営業終了。意図せずアリスを日雇いのバイトにしてしまった事を若干申し訳なく思っている。

マジで売り切れるまで付き合ってくれるとは…。

とは言ってもケーキを作り終わってから今の今まで世間話をしていただけだから労働させていたわけではない。ついでに言えば俺の過去の事もバレた。隠していたわけではないが話しておかないのも居心地が良いものではないから話しておいた。まぁ、信頼の証としてな。

ついでに、給料はあのケーキという事にして……。

小賢しい人間になったな…。

 

 

「悪いな、こんな遅くまで付き合ってもらって」

「遅くって…まだ18:00よ。どうって事ないわ」

「いや、充分暗いし……なんなら送ってく」

「そ、そこまでしなくてもいいわよ!」

「そういう訳にもいかない。そうだ、送っていくよ。それがいい」

「なに自己完結してるのよ…。まぁ、そこまで言うならお願いしてもいいかしら?」

「むしろこっちからお願いするわ」

「ふふっ、変なの」

 

 

よく言われる。変なの。え?変なの?誰が変だとこの野郎。

冗談はさておいて、夜というほどでもないが、暗い道を女性一人で歩かせるのは如何なものかと。

最低限のマナーとして努めて然るべきだろう。

俺とアリスは外に出て、ドアの前の看板を「閉」にしてから、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「にしてもシオンの白髪が能力の所為とはねー」

「あれ?気づいてたのか?」

「うん。とは言っても白髪多いなーくらいの感情だったけど」

「あの時も白くなってたのか……」

 

 

言ってくれよ。というのも難しいか。

いかんせん幻想郷において真っ白な髪を持つ人達ーー人かどうかはさておいてーーは多くいる。

妹紅然り永琳然り。咲夜は…銀髪か?

兎に角、派手な色をした人達はいっぱいいる。特に気にしないのは当然な事なのだろう。

ただ能力のせいで髪色が変わるのは些か不思議だそうだ。

だろうね。そんなん初めて聞くだろうよ。

まぁ、アリスの反応が思いの外軽かったのが良かった。俺の過去の事でさえ謝るともなく、同情する事もなく、淡々と話を聞いてくれた。本当に素敵な人柄をしている。恥ずかしがり屋でなければ人気者なのだろうに。

そうだ、同じ魔法使いだし今度魔理沙と合わせてみようか。いや、無理やり合わせるのも良くないな。さりげなく紹介してみようか。

アリスをぼーっと見ながらそんなことを考えていれば、

もちろんアリスは何事かと俺に話しかける。

 

 

「な、何…?何かついてる?」

「んー…いや、アリス人気者計画を立ててた」

「変な事しようとしないでっ!?」

 

 

アリスは若干の困惑の顔をした。

変な事ねー……。

 

 

「友達いない事気にしてたじゃんか」

「んぐっ…!そ、そうだけど……」

 

 

しまった。また心無い事を……!!

案の定アリスの心に5ダメージくらい与えてしまった。かと思ったが……。

アリスは認めることはせず、「だけど」と反対の意見を続けて言った。

ふんわりと柔らかい笑みを顔に浮かべて。

 

 

「い、今は良いかなって……」

「?…そうなのか?」

「うん…今結構満足してるの……」

「へぇ……満足してるならいいけど」

 

 

そこまで人形劇を気に入ってるのだろうか。

それとも、俺が知らないだけで他にも友達が出来たんだろうか。

きっとそうだろう。俺の主観ではあるが、アリスは人柄良いし、容姿だって良い。すぐに人気になれるだろう。

ふと、数ヶ月前のオドオドしたアリスに思い馳せてみれば、不思議と笑みがこぼれる。

 

 

「ははっ、成長だな!」

「え、え、これ成長なの??」

「さぁ?」

「何よそれ!」

 

 

アリスは俺の発言に困惑を見せつつも次第に顔は笑顔になっていった。

俺の笑い声に釣られたのだろうか。

いつの間にかアリスの家は近くなっていた。

仄暗い森の中でも、アリスの笑顔は綺麗に見えた。

……友達できそうなんだけどなぁ…。

楽しそうなアリスを微笑ましく見ていると、ふとその背後にふわふわと落ちていくものが見えた。

え、なにこれ妖精?

って……

 

 

「雪か…!!」

「え?…わぁぁ…!ホントだ!雪ね!」

「なんて言うんだっけ?」

「ん?何が?」

「あぁ、思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーホワイトクリスマスか。」

 

「!!…ふふっ、そうね」

 

 

都市伝説には聞いていたけど、本当にこんなカップルの聖典みたいな舞台があるとは思わなかった。アリスは相手が俺で些か不満だろうけれど。彼氏じゃなくてゴメンね。

ともあれ、誰かと過ごした初めてのイベントである。最初こそパッと思い出したような雰囲気を醸し出していたけれど、ばっちりカレンダーを見て思い出したのだ。

そろそろ、とか、もう過ぎた、とかではなく。

まさしく今日こそクリスマス。

12月25日だ。

ホワイトクリスマスで違いないだろう。

 

幼い頃の俺は、雪を妖精と信じて疑わなかった。

とある昔、「神様が降らした」と祖母は言った。

今思えば、魔女が神様などと変な話である。

でも、きっと何処かで、信じていたのだろう。

神の存在を。

俺も。祖母も。

 

いや。

あながち偶像でもないな。

 

 

「幻想郷も、神様の誕生日祝えば良いのに」

「たくさんいるわよ?」

「楽しそうじゃん」

 

 

空をぼーっと見上げながら俺は呟いた。

アリスと他愛もない会話を一往復だけする。

落ち着いた雰囲気が心地良く、

冷たい空気が容赦なく手を冷やす。

 

祖母もこんな気分だったのだろうか。

自分が人かどうかも怪しくなってきた。挙句魔女の孫で、記憶も曖昧。

ぽっかりと何かの記憶が、心が失われて尚、

幼き日の、神様なんていう偶像に想いを馳せる、そんな陳腐な思い出がどうしてか残っている。

その後にも何か言ったんだよなぁ。俺。

しばらく経ってもまだぼーっと空を見ている俺に、アリスは少し綻んだ。

 

 

「ふふっ……」

「ん、ん…?」

「んふふ、いや、ね?」

 

 

屈託もなく、見てるこっちが眩しくて目を細めてしまうくらいの優しい笑顔で、アリスは言った。

 

 

「シオンの髪、雪みたいで綺麗ね!」

「あ……!!」

 

 

 

 

 

ふと、あの頃の発言がフラッシュバックする。

 

 

『おばあちゃんの髪の毛、この妖精みたいだね!』

 

 

 

その後おばあちゃん笑ったっけ。

本当に、変な発言である。

……魔女でも。

信じていたんだろうか。そんな偶像を。

信じてみたかったんだろうか。そんな奇跡を。

 

 

「はっ、ははっ…!!」

「ど、どうしたの?」

「いや、嬉しくて…!」

「ふふふ、そっか」

 

 

こんな気持ちだったのだろうか。

もし同じなら、祖母も嬉しかったことになるなぁ。

その時の風景が、香りが、声が、鮮明になっていく。そんな感覚がした。

嬉しそうな祖母を思い出して、こっちも嬉しくなってくる。

そんなどうでも良いことを、ふと祖母に聞いてみたいなと思って。

ふと、祖母に会いたいなと思った。

クリスマスの日に、そんな祖母という偶像を胸のどこかで想っていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「送ってくれてありがとね」

「いや、いいよ。またおいで」

「じ、じゃあお言葉に甘えて…」

「また何か用意しておくよ」

 

 

あれから、ほんのちょっとだけ歩いて、すぐにアリスの家に着いた。

少しアリスが名残惜しそうに見えたのでーー自意識過剰だろうがーーまたおいで、と一言添えておいた。

本当に楽しかったし、また新たな世界が開けたように思える。元はと言えば、俺の好奇心が原因なのだろうけどね。

ただ、それを伝えるには、少し、時間が足りないし、少なすぎる。

 

 

うん。

最後に1つだけ。

感謝の気持ちを込めて、初めての単語を口にする。

生まれて初めて、俺はそれを誰かに言うのだ。

ゆっくりと家に入るアリスを呼び止める。

 

 

「アリス」

「ん?」

「メリークリスマス」

「!!……え、ええっ!メリークリスマスッ!」

 

 

きっと何気ない一言なのだろうけど、言い慣れてないからどうしようもない。

寒空の下、勢いの増した雪は容赦なく頭に降りかかる。

それなのに、俺はその灰色の空を見上げる。

 

 

遠い昔の事だ。

 

 

降りしきる真っ白な雪を見て、

愛おしい真っ白な魔女を、

 

 

ふと、思い浮かべるのであった。







次回からまたちょっと長めの話に入ったり……
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