東方弔意伝   作:そるとん

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春を探して

 

 

 

 

 

 

 

アリスとクリスマスを過ごしてからかなり経つ。

あれから堰を切ったようにしんしんと雪は降り続け、積もりに積もって一面銀世界。

それは今もなお。

 

 

さて、今こうして俺の目に写っている景色を大まかに伝えたわけだが…。

最初にも言った通りクリスマスからかなり経つ。

それも何週間とか、そういう規模ではない。

とっくに年は越えて、2月も過ぎて、

もちろん立春は通り越しており、桜の木の蕾が膨らみ始める季節……

すら超えている。

 

これは別に作者が遅筆だったとか、ネタが思い浮かばなかったとかそういう事ではなく、

断じてそういう事ではなく……!

ただ、ただ、今述べた通りなのだ。

もっと言ってしまえば今頃桜は散り始めて、ちらほらと新緑の色が視界に映る季節だ。

 

 

今は暦の上では五月の始め。

四季の移ろいがはっきりと目に見える幻想郷では季節毎の風物詩というものが必ず出てくる。

春なら桜。それは俺が元いた世界でも一般常識だった。

それは踏まえた上で、もう一度俺の目に映る景色を述べよう。

『一面銀世界である。』

 

 

 

 

 

 

 

そう。

 

 

 

幻想郷に、まだ春は来ていないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「鷹揚ーーー!?!?おいっ!!天魔ァ!!!!」

「な、なななな何事ですか!?」

「またヒステリックか!?!?」

「本当に何事!?!?」

 

 

今俺は妖怪の山の頂、つまり天魔の家を訪れている。

理由は明確だろう。5月の初めになっても雪が降り続ける現象なんて、異変以外の何者でもないだろう。

そして都合のいい事に、天候に関する異変となれば1人心当たりがあるやつを俺は知っている。

そいつこそ、今俺の呼びかけにガタガタと忙しなく出てきた天魔こと『威風 鷹揚』である。

ただ、残念な事に今回の黒幕は鷹揚ではないみたいだ。

如何せん、こいつはヒステリックを起こしていない。

 

 

「ん、違ったか……」

「もしかして、この雪?」

「あぁ、また鷹揚がストレス溜めてんのかと」

「お陰様でここのところ順調だよ」

「たしかに…それもそうか」

 

 

台風異変以来、鷹揚は何かある度にウチに来るようになった。何かなくても暇なときは来てくれているし、つまるとこ常連さんだ。

まぁ、考えてみればそこで判断は出来たよな。最近、雪が吹き降ろすばかりか客足が減っただけで、それまでは何事もなく甘味に世間話と至って穏やかな日常を鷹揚と過ごしていたのだ。

 

とはいえ、だ。

 

鷹揚が元気であると分かったのはいいが

そうなってしまっては黒幕が分からない。

そうと決まれば地道に事情聴取と相場が決まっている。どこで決められているのかは知らないが。

 

 

「じゃあ、何か見ていたりしてないか?怪しい奴とか…変化とか……」

「う〜ん…これといって……」

「そうか…」

 

 

鷹揚は知らない、か……。

天候にまつわるから何か知っているものかと思ったが……。

と、悩んでいると「あ」と鷹揚は声をあげた。

 

 

「どうした?」

「関係あるか分からないけど、あんまり人里で見かけない人がいた気がする…」

「本当か…!?」

「前のことだから曖昧だけど……顔を隠してたのが印象的だったなぁ…」

「そいつじゃん」

 

 

怪しい事しない奴が変に顔隠すわけがない。と思う。

ただ残念な事に手がかりはそれのみ。どこに行ったとか、どこに居るとか、さっぱりである。

地道に行こう……。

一言、そう心の中で呟いて、天魔の家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「あ゛ーーさっむいわね…」

 

 

我ながらおっさんくさいと思う。

だが、それもしょうがないだろう。本当に寒いのだから。嫌なくらいに。

 

五月の始めになっても尚、吹き降ろす雪は鬱陶しいくらいに障子を揺する。

私は寒さにめっぽう弱い。

とっとと暖かくなって欲しいものである。

しかし、そんな願い虚しく、一向に春は来ないで、桜も咲かない。

寒い中で気分は乗らないし、行きたくもないけれど、

博麗の巫女として、幻想郷にいる数少ない人間として、異変解決及び妖怪退治は避けて通れない道である。

 

そこそこ大きなため息を吐いてから、ヤケクソ気味に障子を開けた。

外に降り立つと一段と寒さが身に染みる。

雪が容赦なく降りかかる事に若干の苛立ちを覚えつつも、

紫の趣味で作られた、変に脇の空いた巫女装束に身を包んだ私『博麗 霊夢』は、

 

 

いつも通り、勘を頼りに春を探しに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇぇっくしぃ!!!!」

 

 

大きなクシャミの後にうぃ〜と特に感情の含まれていない感嘆詞を付け加える。意図的に付けたわけではないが、何故かクシャミの後には必ずつくのだ。

とはいえ、我ながらおっさんくさいと思う。

まぁ、それもしょうがないのだ。

 

 

今、暦の上では五月の始め。

私は一応五月だし…という淡い期待を抱いて、雪の積もった魔法の森をサクサク歩いていた。目的は勿論キノコ集めなのだが……。

 

 

「ないなぁ……」

 

 

当たり前である。元々淡い期待だったのだ。高い木で覆われたこの森でさえ雪が積もるほどの降雪量。キノコが生えるはずもなかったのだ。

 

 

「ま、それもそうだわなぁ…」

 

 

今日は諦めて帰ることにした。

………。

う〜ん、刺激がない………ん?

何の面白味もない最近の日々に文句を言っている私の背後から、

 

ふと、ヒラヒラと舞うものが横を通り過ぎて、私の一歩先の雪上にヒラリと落ちた。

 

 

「何なんだこれ……桜?」

 

 

側まで行って拾い上げれば、それが桜の花びらであるとはっきり理解した。

ーー春は何処かにある。

 

何処かは今から辿って分かれば良い。

春が何処かにある事が分かれば後は楽しいものである。

異変解決といこうか。

 

 

 

私『霧雨 魔理沙』は、ヒラリと舞い落ちた春のかけらを頼りに、春を探しに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜ー?咲夜ーーー???」

 

 

どこか幼さの抜けない主人の声が館中に響き渡る。呼ばれたからには即座に反応するのがメイド長というものだ。

私は右手に握った懐中時計のスイッチを親指で押してから、ゆっくりとお嬢様の所へ向かった。

 

 

 

…。

 

 

 

……。

 

 

 

 

程なくして私はお嬢様の背後に立つ。

そうして、世界は動き出す。

 

 

「さっきゅーーーーん??」

「さっきゅんはお止め下さいお嬢様」

「ひゃうっ!?!?咲夜ぁ…また貴方背後に……」

 

 

このお方はいい加減慣れないのだろうか。毎回毎回、正面に立っていても驚かれるから面白く……申し訳なくなってしまう。

とはいえ、あくまで淑やかに、華やかに。

表情は一切崩さず、お嬢様の呼びかけに応じる。

 

 

「如何なさいましたか」

「え、あ、ううん、紅茶が飲みたくて。今日は冷えるわね」

「もう五月ですけどね」

「本当ねー…燃料切れたら大変ね……」

 

 

そうですね、とだけ答えて私はキッチンへ向かった。私は私の入れる紅茶に自信がある。何年も入れ続けたという事もあるが、

あの日以来、彼に面と向かって「美味しい」と言われたあの日から、自信がついたのだ。

 

 

 

 

紅茶が冷めぬよう、時間を止めてお嬢様の元へ向かう。

……また紅茶飲みたいわね。

長い廊下に拵えられた大きな窓から、外を眺める。鈍色の雲は何処までも続き、雪はまだまだ降り続けている。

ふと、そんな"白色"に、ある奴の面影を浮かべるのだった。

 

 

 

…。

 

 

 

……。

 

 

 

 

「お待たせいたしました」

「ありがと〜」

 

 

今度はビックリさせないように扉の前で能力を解除した。

まだまだ温かい紅茶を真っ白なカップに注いでいくと、みるみるうちに中は紅く染まっていく。

あ〜、あったけ〜…とお嬢様は声を零した。

…………。

 

 

「咲夜?」

「…っ?は、はい」

「珍しい。咲夜が上の空にいる」

「な、何を…」

 

お嬢様は足をパタパタさせてニコニコしていた。

完璧で瀟洒なメイド。

それを徹底して通してきた。それが珍しく崩れた事が何故だか嬉しいらしい。

そして、どうして上の空なのかお見通しなのだろう。

 

 

「少し…お暇をいただきますよ」

「うん、気をつけてね!」

 

 

時間を止めて、らしくもなく足早に外へ向かった。今は1秒も無駄にしたくはない。

お嬢様がすんなり承諾したのは、私がすぐに解決する事を期待しているからこその承諾だ。

その期待に応えよう。

 

だから別に、久々に会いたい奴がいるとかいう訳ではない。

異変となれば動かずにはいられないあいつの事だし、もしかして…なんて期待も抱いてなんかいない。断じてない。

 

 

雪が降りしきる中、その真白に到底似つかわしくない紅の館を出て、

 

 

 

私『十六夜 咲夜』は、その面影を求めて春を探しに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

妖怪の山の頂で、俺は何処に行こうかと考えているばかりであった。

幻想郷に詳しいわけでもないし、他に当てがある訳でもない。

さてどうしたものか……。

 

…………。

 

 

 

"当て"……と言っていいのだろうか。

妙な胸騒ぎがするのだ。4月に入った時からずっと。度々胸が締め付けられるような感覚がする。

大体、こういう時はろくな事がないのだ。ただ、もう一年経つ。胸が苦しい感覚にはもう慣れた。

なら、原因を探れば良いだけ。

"異変"と"俺の身体の異変"。偶然かもしれないし、ただの病気かもしれない。

けれど、偶然とも言えず、気のせいとも言えない。本当に、『妙』な胸騒ぎだ。

 

ふと、ひゅおっと木の枝が風を割く音がした。

音が聞こえてからすぐ後、山頂にも強い風が届く。

 

 

「うおっ……と」

 

 

……?

懐かしい香りがした。

幻想郷に来て、しばらく経った時の柔らかな香りが。

春だ。

春が風に乗って香ったのだ。

その香りは優しく、暖かいものだというのに、

無性に俺の心臓を締め付けるのだった。

 

 

行こう。

 

 

心の中で一言、それだけ呟くと一際強くなった雪の中を歩いて行った。

この妙な胸騒ぎは、俺を何処かに引き寄せるような、そんな気がした。

 

 

 

 

俺『シオン』は、春の香りを頼りに、

胸騒ぎの原因を探しに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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