東方弔意伝   作:そるとん

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春雪異変 華やかに白く

 

 

 

 

 

 

 

激しくぶつかり合った七色も、遂に終わりを迎えた。その終わりも華々しく、大凡中ボスとの戦いにしては豪華すぎるのでは、と…

ただ1人、その場に立っていたただ1人。

魔理沙は冥界の空を見上げて、そう思うのであった。

 

 

「へ、へへ……私の火力の前では…全てが無に帰るぜ……!」

 

 

体中埃にまみれた魔法少女はそのガッツポーズに最後の力を振り絞ったばかりに、その場に倒れこんだ。

天高くに挙げた手はその向きを変えることなく、仰向きに倒れて尚、真っ暗な冥界の空に伸びていた。

 

 

「ちょっと休んでから行くか……」

 

 

遠くで倒れ伏している白髪の少女を見て、魔理沙は満足そうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ来るわね」

「えぇ、案外近いみたい」

 

 

より一層濃い霊気を感じ取った2人はそう話していた。流石に時間が危ういかと考えた咲夜と霊夢はかなりのスピードで飛行していた。桜吹雪は次第に強くなっていく。

春が咲き乱れる冥界にて、人魂が集まらんとするところへと急いだ。

長い長い桜並木を超えて、等間隔で置かれた灯篭は後ろへと流れていく。

しばらくして、その終着点が現れた。

 

 

「デッッッッカ……」

「大きな桜ね」

 

 

霊夢は驚きの声をあげ、咲夜はいつも通り変わらぬ調子で、

遥か頭上に頂点を構える桜を見上げた。

見上げてみれば、人魂はこの桜に集まっている事も確認できた。

 

一度見上げれば視界は桃色に染まる。

が、どうやらまだ満開ではない様子。先刻、飛んでいる時にも一部は見えた。その時は見事に満開に見えたが、近づいてみればまだチグハグに咲いているようだった。

霊夢が少し不満そうな声をあげる。

 

 

「なんだ、これじゃあまだ」

 

 

と、ここまで言うと、新たな声が2人の耳に届いた。

 

 

「不完全」

 

 

ふわりと舞い落ちるような、静かで、それでいて良く届く声だった。

その声は至って明るい調子だったが、どこか威圧感を感じさせた。

 

そんな敵意を感じ取った2人はすぐに臨戦態勢に入る。声の主はまだ姿を現していない。

が、すぐにその正体は現れる。

大きな大きな、桜の木から散る、桜吹雪とともに。

 

一際強い風が吹いた。

 

桜はその枝を揺らし、少女2人はその嫋やかな髪を靡かせる。

 

 

そんな風とともに現れた、1人の少女。

 

桜色の髪を風に揺らして。

 

 

「私の邪魔をするのは貴方達?」

「出やがったわね」

「早いとこ終わらせましょう」

「まぁ、そんな焦らないで」

 

 

語調は穏やかで、話すスピードもゆったりしていて、聞いてると眠くなってきそうなものだった。

しかしその様子から虚弱そうな印象は全くなく、寧ろ隙が無いように見えた。

何処からか湧き出ている「貫禄」。

その威圧感に2人の足は少しばかり竦みそうだった。

 

何か、底知れぬ嫌な予感がする。

容易には解決できない、そんな予感が。

 

 

少女は、心の何処かで少しばかり焦燥を抱えた2人を嗜めると、また温和な口調で話し始めた。

 

 

「もう少し……もう少しでこの桜は満開になるの。長い、永い時を待って過ごして、漸くこの『西行妖』に沢山の桜が咲くの」

 

 

温和に、優しく話すその言葉とは裏腹に、

 

少女の表情は少し切なそうだった。

 

 

「だからここで終わるわけには行かないの。だからお願い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消えて頂戴」

 

「その前に退治されて頂戴…ッ!」

 

 

朗らかな笑みと共に放たれたのは物騒な言葉と弾幕。

綺麗に広がっていく桃色の弾幕は、儚く散る桜のようで、

冥界で舞うには、あまりに切なすぎる。

奥で、今にも消え逝く魂がそんな印象を醸し出していた。

本当に。

 

この身ごと、消えてしまいそうで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

先程までの奥のどんちゃん騒ぎは止み、此方も此方で相手の攻撃の手は止まっていた。

ひと段落、と言ったところだろうか。

 

能力のコントロールが出来てきたとはいえ何回か意識が飛びかけたし、というかやっぱり弾幕は安定しないし何より体力の消耗が激しい。戻りかけてた髪の毛がまた綺麗に白に染まってきていた。

以前、永琳に何故白くなるのか聞いたところ「ストレスじゃない?」と雑に診断されてからストレスという事にしている。

 

 

「ストレス、かぁ……」

 

 

そんな局所的に来るストレスやだ…。

そんな小言も程々にして。

 

 

「進むか……!」

 

 

誰に言うでもなく、一人そう意気込んだ。

嫌な予感なるものが、胸騒ぎが、未だに鎮まらないのだ。

 

俺は無意識のうちに急いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

ーーーーー。

 

 

 

 

 

しばらく休めば、次第に身体は動くようになる。仰向けの姿勢から上半身だけを起こし辺りを見渡す。ぼやける目を擦り、頭は少しだけボーッとしている。激しく動いた後、急に休むからこうなる。

徐々に頭に血が上り、意識がハッキリしてくる。

意識がハッキリして、頭がちゃんと働くようになってきて、

 

 

ーーー分かる違和感。

 

 

 

「なんでこんな静かなんだ?」

 

 

妙な焦燥に駆られ、魔理沙は箒に跨り、

最高の初速で駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不味いわね……」

「えぇ……とっても…」

 

 

 

異変解決のため冥界まで赴いた少女二人は、肩で息をしながらそんな嘆息を吐く。

柄にもなく少し弱気になってきている。

もはやその巨木は禍々しく見えてきて、少女は静かに微笑むが不気味さしかない。

先程の魂魄妖夢とは異なり、弾幕は決して速くはないが、何より密度が高い。高密度で繰り出される規則的で華やかな弾幕は、明確な殺意を持って霊夢達に襲いかかる。

比喩なんかではない。

確実に、速やかに、正確に。

死へと誘っている。

 

その上スペルカードも惜しみなく使ってくる。

小娘二人、早々に片付ける気なのだろうけど、

そこは博麗の巫女と瀟洒なメイドである。

数十分の交戦に於いて、今のところ被弾はしていない。

それもそうだろう。

ずっと停滞しているままなのだから。

 

 

「いつまで休んでんのよッ…!」

「しょうがないじゃない。手の出しようがないのよ」

「そうだけど…!」

「その上時間は限られてるみたい」

「もぉぉぉ!厄介ね!」

「あら、なら私から行こうかしら?」

「ちょっと黙って!!」

「えぅ……」

 

 

相手が黒幕という事も忘れ、霊夢は激しく憤慨する。

何より今回は色々条件が厳しすぎる。

相手が強敵という事もあるが、何よりの問題がこのどんどん妖気を増していく桜である。

桃色の髪の少女が言うには「西行妖」なるものらしいが。

桜というにはおどろおどろしく、綺麗というには少し違う。

儚く、散っていく。

人魂が、春が集まってきているが、満開になる様子はない。

が、徐々に進行は進んでいようだ。

その証拠に、黒幕の少女のスペカに変化がある。

 

そう、例えば、

 

丁度、今。

 

 

 

一際強い妖気が押し寄せる。西行妖に変化が訪れたのだろう。

黒幕の少女は不敵な笑みを浮かべて、今まで口元を隠していた扇を前に突き出す。

それに釣られるように散る桜は舞い、

弾幕が展開される。

 

 

「反魂蝶-伍分咲きー」

 

 

「来るわよッ!」

「そうみたい」

 

 

ついさっき、聞き覚えのある、非常に危険な弾幕。それも名前が変わっている。

先刻、同じような感覚がした後のスペカの名前は『参分咲き』であった。

つまるとこ、桜の開花は進んでいる。

人魂が続々と集う桜。おまけに名前に「あやかし」なんて付いている。

咲かせてはいけない気しかしない。

それだというのに。

 

 

「鬱陶しい蝶ね!!」

「近づけないわね……」

 

 

少女を中心に放たれているのは極めて高密度な弾幕。どうにもこの蝶に触れてはいけない気がする。この時初めて、霊夢は解決が遅くなった事を後悔し始めた。

ただ、やられっぱなしも性に合わない2人である。持ち前の機動力と安定した攻撃。二人は華麗な身のこなしで少女へと近づく。

少々強引なりとも、相手に隙を作らせるしかない。

 

まるで打ち合わせでもしていたかのようにコミュケーションを取って攻撃をしかける。

 

まずは、隙を作る。

 

 

「幻符『殺人ドール』…!!」

 

 

夥しい数のナイフが咲夜の周りから絶えず放たれる。少女の弾幕を打ち破るまで。このスペルカードが壊されるまで、ナイフは止まない。

 

 

「!!……」

 

 

少女は輝く蝶の弾幕の奥で密かに吃驚した表情を浮かべた。

が、直ぐにキッと此方を睨み返す。

弾幕と妖気は勢いを増していく。

拮抗するナイフと蝶。字面はめちゃくちゃだが視界に映る攻防は実に凄まじい。

その隙に霊夢は動いていた。

 

 

揺蕩う蝶に紛れ、少女は舞うように飛び、弾幕を躱していくと、桃髪の少女の後ろ斜め上で動きを止めた。

 

 

 

「叩き落とすっ…!!」

 

 

あからさまな時間稼ぎに、殺意剥き出しの弾幕。霊夢のフラストレーションは溜まりに溜まっていた。サバサバとしている彼女にとって、こういったまどろっこしい戦いは避けたい。

が、相手は中々にやり手。魂魄妖夢の時からの焦燥もあり、

若干殺意を含んだイライラが発言に出ていた。

多分叩き落とすで済まない勢いだ。

 

 

「夢想封印ッ!!!!!!!」

 

 

霊夢の周りに展開された神札は煌き始める。

霊夢の弾幕は、華やかに彩る暗い暗い冥界でも一際輝いていた。

 

 

「セァァアアアッッ!!!!」

 

 

ここで終わらせるという意地を感じさせる雄叫び。

2人の魂胆に、桃髪の少女が気づくには少し遅すぎた。

眩い光に飲み込まれる前に、

その少女はそっと呟くのであった。

 

 

「あと…少しなのっ……!!」

 

 

その表情はどこか苦しそうで、

言葉は悲痛に歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわぁ……派手にやったなぁ」

 

 

どうせ魔理沙。

心の中でそう付け足した。

 

綺麗な石畳は深く抉れ、冷ややかな土が表面に露出している。

俺の知る限りでは、決着は弾幕「ごっこ」で決まるはずだったのだが、

 

 

「下手すりゃ死人が出るよなぁ……」

 

 

死霊飛び交う冥界で言うと冗談に聞こえないし、何ならここで死んだら色々都合が良さそうだ。

終着点近いみたいだし。

忘れかけていたが幻想郷は妖怪はそこら中蔓延ってるし神様が降臨なさってるみたいだし今回みたく幽霊だっている。異種混合、魑魅魍魎が跋扈しているこの世界で「死」なんてそう遠くない運命だったりする。

 

それでも避けて通りたい運命だし、

もしその運命を迎える危機にある人を見つければ、助けたくなってしまうのも人間というものなんだろう。

例えば今とか。

 

抉れた地面の一番先に、人を見つけた。

灯篭の灯りが髪に反射してキラリと光っている。

ふと、

異変に来ると銀髪の子が良く倒れてるなぁなんて思いながら足早に駆け寄る。

 

 

「もしもし?大丈夫か?」

「ん、んぐぅ……幽々子様…まだ食べちゃ……」

「何だか幸せそうな…悪夢か?これ悪夢か?」

 

 

てっきり好物をたらふく食べてる夢かと思ったら被害に遭っている夢みたいだ。

「あぁっ…今月の食費が…!」とか言い始めたところで流石に流石に心配になった。

 

少女は土に汚れ、服が所々焦げている。

このまま寝かせておくのも選択肢として有りかとは思ったが流石に体調を崩すだろうか。

そのモチモチな頬を軽く叩いて起こす。

 

 

「も〜し!大丈夫か!?」

「んぐえっ…!?あ、は、て、敵っ…!?」

「あ、あっ、そんな身構えんな。傷開くぞ」

「……では、お言葉に甘えて」

 

 

起こしかけた上半身をそっとまた倒す。

腰に刀なんて携えて、てっきり生真面目かと思ったが(偏見)、素直に聞いてくれた。

それ程疲弊しているのだろう。

とはいえ、この場で寝かせたままじゃ起こした意味がない。

 

 

「悪いが少し移動させるぞ」

「へ、何を、ちょ、ちょっと!」

「あ、やばっ、腕キツっ……」

「自分で持ち上げたんでしょうが!!」

 

 

体制的に横抱きしかなかったのだから仕方ない。結構キツイんだなこれ。女の子は軽いからとか嘘だった。軽くてもこの持ち方は大変だ。

……自分の筋力の問題か。

 

すぐ脇、灯篭で仄かに明るい草叢に少女をそっと下ろす。

 

 

「ふぃ〜……」

「反応は不服でしたが、ありがとうございます」

「なんて事はないよ」

「腕が震えてますが」

「え、あ、これは、あれだよ。楽だから」

「無理しないでください…。なんで助けたんですか?」

「何でと言われても……倒れてたら無視できないだろ」

「…変な人ですね」

「よく言われる。前の異変の時に君に似た人にも言われたな」

「デジャヴって言うんですよそれ」

 

 

「そっかそっか」なんて、そんな他愛のない話で若干心が安らぐ。先程までの動機はなく、理由の分からない焦燥も少し落ち着いた。

何が不安だったのかなんていう曖昧な疑問はより曖昧に、薄くなっていった。

漸く、冷静になってきた。

 

そんな時に、銀髪の少女は当たり前の疑問をぶつけてきた。

 

 

「貴方も大方異変解決に来た人でしょう?有名外来人でしたっけ?」

「そういや、そうだったな…その話まだあったんだ…」

 

 

そう報じられたのはもう一年程前だったか。

もうそんなに経ったんだなぁなんてノスタルジーな気分に駆られる。

それはそうと。

そうか、異変解決に来ていたんだった。冷静になりすぎて本質を忘れたら元も子もない。

 

 

「とりあえず、あいつらがまだ生きてるみたいで安心してるよ」

「あぁ、博麗の……」

「そうその子。まぁ簡単に死ぬとは思ってなかったけどな」

 

 

何度も慢心だろうかと思ったが、そもそも霊夢達の方が異変には慣れてるし自分の何倍も強い。

杞憂だなんて重々承知だが……。

 

 

「心配症ってやつかな…これは…」

 

 

独り言、そう呟く。

杞憂であれ、という想いも込めての呟きは、

 

少女の発言によって、

 

不意に崩れる。

 

 

「油断は出来ませんよ」

 

胸がざわつく。

 

喉が詰まって、言葉が出てこなかった。

少し深く呼吸をして、短い声を発する。

 

 

「……というと?」

「今回は特に死が身近にあるんです」

「死が身近に…?」

「この異変の黒幕であり私の主人『西行寺幽々子』は、

 

 

 

『死を操る程度の能力』ですから」

「はっ……?」

 

 

死を操る。

『そんな存在』があると認識するや否や、

呼吸が苦しくなる。

何だこれは。

 

またしても正体不明な焦りが俺を襲う。

引き摺り込まれるかのように冥界に入った時の事が唐突に思い起こされる。

 

来るべくして来たような。

 

冷や汗が止まらない俺に、少女は言葉を繋ぐ。

 

 

 

 

「そこで、改めて問います」

 

 

 

 

 

ーーーもし。

死が避けて通れぬ運命だとしても、

 

避けて通りたい運命であるし、

 

その運命を迎える危機にある人がいれば助けたくなるのであろう。

 

それが人間なんだろう。

 

 

ならばーーー。

 

 

目の焦点が合わず、少女はぼんやりとしか見れなかったが、少女は確かにその凛とした目で俺を見つめて、

 

 

 

ハッキリと言った。

 

 

 

「貴方は敵……いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間ですか?」

 

 

 

 

 

ーーー自ら死に向かっている『俺』は。

 

 

 

 

「ッ……!!!…悪い…」

 

「えっ、ちょっと…!」

 

 

 

あまりの息苦しさに逃げ出すようにそこを離れた。少女の制止を払いのけて、俺はまたひたすらに奥を目指した。

あまりの焦燥。頭を掻き毟る。

微かに手についた髪の毛は、

遥か先で煌々と輝く弾幕に照らされ、

 

 

 

 

 

 

 

白く、白く、光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





大変時間が空いて申し訳ありませんでした…!!
夏休み明け…忙しい所をなんとか乗り切れたので更新ペース上げていこうとは思っています…!!
どうか次回も楽しみにまってて…!!!!
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