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「まぁ、だいぶ掻い摘んで話したがこんな感じだ。漸く判明したけど、言わずもがな人間じゃないみたいだな」
「みたいだなって…そんな他人事みたいに…。大分衝撃な事実ではないの?それ」
一通り話を終え、真っ先にレミリアはそう心配してくれた。
話というのは勿論、つい先程思い出した過去の事なのだが、改めて過去を反芻してみるとその凄惨さはまぁ、衝撃的だろうな。
まぁ、もう開き直っているからどうという事はないが。
「もう開き直っているというか…考えてみれば数十年前から周知の事実な訳だし、不思議と負の感情は起こらんね。一つ懸念を挙げるとすれば、霊夢に退治されないかくらいだな」
「私ってもしかして結構野蛮に思われてる…?」
珍しく霊夢はそう言ってしょんぼりする。何だろう、誰かにも言われたのか。生憎だけど間違えてはいないからな、その認識。
ともあれ、さすがは幻想郷。こんなような話には慣れているのだろう。ずっと非常識だった分、ここでは俺でさえ常識になる。これほど居心地が良い事はない。
だが、同時に、俺はあまりここの住人──特に種族が人の奴ら──と仲良くするのは、少しだけ辛いことになってくる。
「まぁ、先にも言った通り、死ねないみたいでな。幸運にも此処は退屈しなそうだけど」
だけど。ここにいる奴らは俺より先に寿命が来る。皆、平等に今の人生の終わりを迎える。
俺だけを残して。
(また運命による永遠の別れを経験するのは、あまりにも悲しい)
退屈しない。口でそう言っても、口だけは何とか微笑んで誤魔化そうとしても、心底の寂しさというものは慣れないものである。寧ろ、思い出したら余計に感じるようになったかもしれない。
そんな気持ちは何処行く風か、霊夢はいつも通りの調子で言い放った。
「アンタが今更不老不死だとか人間じゃないとか知った事じゃないわ。毎回毎回、死に物狂いで助けに来てくれて、もうホント……!」
「あ、え、おこ、怒ってらっしゃる…?」
「お、怒ってないわよ!!バカ!もう!!」
怒ってるじゃん……。
そう思いはしたものの口にするのは憚られた。恐らくもっと怒るだろうから。
そんな、噤んだが故に生まれた一瞬の静寂に聞こえてきた声は、夢の中でも聞いた声だった。
何故か開かれた窓。
風に舞う夜桜に乗せた軽やかな声は、八雲紫のものだった。
「貴方が化け物でも私は好きよ〜って言ってるのよ、その子」
「ちょっ、はぁっ!?紫!!」
「何よ?間違えてないでしょ?」
「間違いしかっ…ぐっ…うぅ…!」
突然聞こえた揶揄いに霊夢は激しく動揺している。紫さんが突然現れた事には誰も驚いていないようだった。慣れって怖い。
ところが、訪問者はもう一人いるようで、それにおいては誰も予想できていなかったようだった。
霊夢と言い合いしている紫さんの後ろから、ひょっこりと桃色の髪を覗かせて、桜のような風に舞ってしまうそうな、甘い声を上げるのだった。
「お邪魔しま〜す」
「幽々子っ…!?」
俺がそう声を上げるより先に、同室にいた──紫は除いて──全員が素早く臨戦態勢に入る。今の今まで俺の布団に篭っていたメソメソしていたアリスまで殺気が物凄い。
流石の幽々子も慌てて誤解を解く。
「待って!別に敵対しに来たわけじゃないのよ!?」
「私は最初からずっと敵対してますが」
咲夜が俺の視界の前に入ってナイフを構える。いざこうして守ってもらえると、やっぱり幻想郷の少女達は非常に頼りになる。咲夜の後ろやばい。安心感やばい。
と、そうではなくて。
「話ぐらいは聞くよ。どうした」
「私が言うのも何だけど…一番の被害者よね貴方……」
「殺るか」
「わぁー!待って待って!」
人が助け舟を出したというのに……余計な事を…。
まぁ、冗談はさておき、幽々子がここへ来た理由を今は聞く事にした。
ただ事ではなさそうだが……。
「ちゃんとしたい事があって来たのよ!」
「へぇ…で、その用事って何なんだ?」
魔理沙の強気な問い掛けを物ともしないかのように、フフンという調子で言い放った。
「みんなでお花見しようと思って!!」
「「「………は?」」」
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「いつの間に……」
霊夢がうんざりとした調子でそう言った。
本当、その通りである。いつの間に宴会の準備をしていたのか。
挙句「おぉー!復活したかぁー!」と地底の鬼達まで参加する始末。百鬼夜行の様に見える灯火が綺麗に夜桜を彩っていた。
「アンタはもう平気なの?」
「ん?あぁ、不老不死に加えて治癒力も極大アップだ」
「ゾンビみたいね」
「もっとあったろ…言い方…」
そういう何気ない女子の一言で男は傷つくんだぞ霊夢さん。男って単純だから。
もう既に始まってる宴会を霊夢と二人で遠巻きに眺めていた。
「……?。行かなくていいのか?」
「い、行くわよ…行くけど…」
「うん?」
「っ……!あぁ〜もうっ!」
「ど、どうした。具合悪いか」
中々動こうとしない霊夢は突然自分の頭を無造作に掻いた。
しばらく「あぁ〜!」と叫びとも嘆きとも取れない声を上げ終わると少し黙った。
そうして、霊夢は不意にこっちを見た。
「………」
「あ、え…何…」
「はぁ…どうしてこんな奴を……」
「え、ごめん」
「なんで聞こえてんのよ…それに謝ることでもないわ!」
「えと…じゃあどうしたんだ急に…」
霊夢はまた一つ、ため息をつくと数歩だけ動いてこちらを振り返った。
瞼は少し伏せがちで、表情から感情を読み取れることは出来なかったが、
──少なくとも怒ってはなかったようだ。
「その…ありがと」
「!……あぁー、まぁ、うん…
どういたしまして」
ここに来たばっかりの時。
五百円をお賽銭箱に入れた時とは全く違うお礼だった。
そのお礼がやけにむず痒かった。
○○○
何なのよ。何なのよもう。
お礼を言うだけなのに、顔があっついわ。言い慣れてないってのもあるかもしれないけど…。
それを含めても謎に胸が痛む理由にはならなそうだ。どんちゃん騒ぎの宴会の中でも、心臓の音だけが喧しく聞こえる。お酒だって全然飲めていない。
一体なんだと言うのか。
恐らく、この感情には名前があるのだろうけど。
ふと視線を上げれば、この煩わしい感情の元凶がいる訳で。
そいつと、刹那ふと目が合う。
「〜〜〜っ!!!」
宴会が始まって、初めて手にした酒をぐいっと飲み干した。まだ、全然呑んでいないのに体温は上がるし鼓動が早くなっていく。
「もう……何なのよぉ…」
初めての感覚に、私は少しだけ泣きそうだった。
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宴会もすっかり盛り上がっていた。大きな興の中に混ざった酒の香りは、やはり少し苦手だが。
それでも、自然と綻んでいるのは明確だった。
「冥界のやつらもすっかり馴染んで……妖夢酒癖悪いんだなぁ」
あいつ一杯だけ呑んで泥酔してんのか。刀を振り回すのは純粋に危険だからやめて欲しい。
熱気に当てられ、少し火照った頬を冷まそうと、俺はまた遠くからぼーっと宴会を眺めていた。誰もが仲良く常識内にいれるのは幻想郷の良いところだよなぁ。
そんな光景を微笑ましく眺めていると、またしても背後から声をかけられた。
「貴方は、あちらへ行かないの」
「あぁ、紫さん……。少し火照っちゃって」
「呑んでないのに?」
「お酒は苦手です…」
「あらぁ…そうなの?」
そういう紫さんも呑んでいない様だった。それにしても、こんなに話しかけてくる人だったか。感謝してるとは言っていたが。
「紫さんは行かないんですか?」
「ちょっと貴方に用があってね!」
「そうなんですか」
「うん!貴方、もう体は平気?」
「完治してますよ。もう無敵」
「それは良かった!そんな貴方にぃ〜お・さ・そ・い♪」
「嫌です」
「ちょっとぉ〜!」
この人の言うお誘い、提案は詐欺師の言うそれに近いものがある。ノータイムで返事をしたが意味はないようだった。
案の定、好ましいお誘いではなかった。
「ちょっとしたお誘いよ!
───私と弾幕ごっこしましょ!!」
「………や」
「やだは無しよ!」
幽々子を倒した実力を知りたいらしい。
春雪異変第二ラウンド。
とんでもないラスボスが待ち構えてたようだ。