東方弔意伝   作:そるとん

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桜を見る理由

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朦朧とする意識の中、右腕の鈍痛だけが俺の意識を繋ぎ止めている。

花見会場に、モクモクと上がる土煙。空中で八雲紫の弾幕(というか列車)を食らってそのまま地上へ叩きつけられ……

 

 

 

 

 

────『あぁっ!チルノちゃん!!』

 

 

 

 

あ、そうじゃん……。

 

 

「大丈夫かチルノ…」

 

「お、おぉお……アタイ生きてる…??」

 

「い、生きてるよチルノちゃんっ…!!」

 

 

 俺の後ろで幼い少女2人が震えた声でそう言った。

いつも通り、元気そうな様子を見て安堵した。

危うく怪我人を増やすとこであった。生憎、"今ので"もう余力すらも尽きてしまった。視界がフラつく。倒れる寸前に声を出すのに精一杯であった。

 

 

「負けたぁ〜〜……」

 

 

なんとも間抜けな声を出すのに、精一杯であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が『負けた』なのよ。

 お互いボロボロだったとはいえ、病み上がりで力のコントロールもままならないというのに、

"列車丸ごと消してしまうなんて"。

列車に押し潰されている状況でも、着地地点と女の子2人の存在に気がついた。あのまま受け身を取るなりした方が楽だというのに。

瀕死の状態で2人の少女を守った。

 

 

「まるで私引き立て役じゃないっ…」

 

 

 戦闘狂いが多く存在する幻想郷で、その中でも彼は充分すぎるくらい強い。ここで軽く勝って見せて、彼をあまり目立たせないように弾幕ごっこを提案したのに。

 

 

──悔しいことに、春風に揺れるその白髪を綺麗だと思ってしまった。

本当、アイツにそっくり。

 

 

「気に食わないわ」

 

 

 弾幕ごっこには勝ったのに、全く釈然としない気分であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───

 

──────

 

 

 

 

 

 

 次に目を覚ますと、なんだか心地が良かった。温い春の夜風に、確かな重みを感じるが暖かい下腹部に、柔らかい太もも。

 

 

……?

 

 

柔らかい太もも。

太もも?

 

 

「え、誰の太もも」

「あら、お目覚め?回復早いわね」

「すげぇ聞き覚えのある声…」

 

 

 未だ微かに聞こえる喧騒の中、意識が溶けるような甘い声が一番に聞こえた。顔を見ようにも、膝枕をされている俺から見ると、やたらに豊満な胸しか見えない。でっけぇ。

いやというか、ナチュラルに膝枕をされている。

つい先日まで敵対していた西行寺幽々子にだ。それにしても何だこの柔らかい腿は。ハムにだ。

 

 

「おや、お目覚めですか」

「お、君は道中の」

「はい、魂魄妖夢と申します。あの時は助かりした」

 

 

 視界の端からひょっこり現れた少女は幽々子同様、異変の道中で見た子だ。やはりところどころ怪我をしていたから、頬に絆創膏が貼ってあったりする。絆創膏で済むんだあの傷。

ひとまずはその無事を祝おうか。

 

 

「妖夢さんね。ピンピンしてるみたいで良かっ…あぇ?」

 

 

 とりあえず幽々子の乳(大)で妖夢が見切れているので、体を起こそうとする。

 が、下腹部に何かが置かれており上手く起き上がれない。加えて幽々子も「まぁ、ゆっくりしなさいな(お姉さんボイス)」と言うものだからまた膝の上へと戻された。

 

なんか腹でも怪我したかな……。

 

 顔だけ動かし、視線を腹に持っていくと気持ちよさそうに寝ている金髪の少女がいた。

 

 

「アリス……」

「こいつ弾幕ごっこ始まった辺りからアンタが心配ってすんすん泣いててうるさかったわ」

「お、霊夢……宥めてあげてください」

「いやよめんどくさい。折角の宴会よ」

 

 泣き上戸なのかなアリスさんは……。

 相変わらず冷淡のようでなんだかんだ面倒みのいい彼女は、猪口の酒を呑みながらぶっきらぼうにそう言ってみせた。アリスにちゃっかり布団かけてるくせに……。

 

 

 

 

目覚めてすぐに、ゆっくりとした時間は喧しくなっていった。

 

 

「おー!!目覚めたかシオーン!!」

「え,酔っ払いだこわ……と、紅魔館のやつらもいんのか」

「えぇ!今回は咲夜がお世話になったわね!!」

「お、レミリア〜、ちょっと背伸びたか?」

「いやだわその親戚感」

 

 

 俺も悪魔らしいし変わらんやろ。

紅魔館のメンツに加え、魔理沙も元気な様子で─まぁ酔っているくらいだし─満面の笑みであった。こいつらが来ると一瞬で騒がしくなるからすごい。それがまぁ、楽しくもあるのだが。パチュリーと美鈴はやはりいないようだな。引き篭もりと社畜は宴会に来れないのが世の常らしい。非情である。

 

 

「あれ、咲夜は?」

「貴方の足元にいるわよ」

「足……うぁおっ!?」

 

 

 アリスに隠れていて見えなかった。見事に人の股に挟まっている。なんでよりにもよってそこなんだよ……。

 

 

「膝枕したかったのに….」

「実質俺は今咲夜を膝枕しているけれどね?」

「したいけど出来ないなら、されるしかないじゃないっ…!!」

「ごめんちょっと分かんない……」

 

 

 確固たる意思があったようで……そんなに膝枕っていいのか?足が痺れそうだが……足が痺れるよな?

 

 

「幽々子足痺れてない?」

「ちょっと動かないで」

「痺れてんね」

 

 

 動かないと治らないもんは治らない。無理に体を起こし、ついでにアリスと起こす。

 

 

「ほれ、寝るにはまだ早いぞ。宴会楽しみにな」

「貴方も楽しむのよ」

「勿論だ。ほれ、アリス〜」

「ふぃん……」

「Finじゃねぇよ、終わらせんな勝手に」

 

 

 

 

 

 

───

 

───────

 

 

 

 

 

 穏やかに過ぎていた時間があっという間に賑やかになる。そういや宴会だったね、今日。みんな楽しそうなら何よりだ。冥界の奴らも……楽しんでいそうだな。幽々子もう酔ってるし。

 

 

騒がしく、ましてや酒の席など苦手なのだ。

 

 

 でも今日は不思議と酒の匂いが不愉快ではなかった。鼻を突き抜けるような、息が詰まるような、アルコールの匂いがどこか懐かしいような気がして。

 温い春風が吹くと、胸いっぱいに息を吸った。

 

 徐々に意識が醒めていく。微かにしか聞こえなかった賑やかな声が大きくなっていく。丁度視界に雄大な満月が写っている。春風に吹かれて散る桜。

あまりにも、幻想的であった。

 

 

「……幽々子」

「…なぁに」

「桜、見れたか?」

「……えぇ、」

 

 

 

 

 

 

──とっても綺麗。

 

 

 

 

 

 

 

 いつしかの、誰かの、記憶。

可憐な着物に身を包んだ桃髪の少女がふっと微笑む。

 亡霊になろうとも、桜を見たいと思う理由が、今少し分かったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







皆さんお久しぶりです。弔意伝を書いている人です。
無事に受験が終わりましたので執筆をボチボチ始めています。待ってくれていた方には大変ご迷惑をおかけいたしました。
また変わらず作品を愛していただけると幸いです。
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