心模様は曇天であったが、幻想郷の空模様は快晴であった。鈍色に濁った心情とは裏腹に、幻想郷の夜は提灯で彩られていく。人里に多く点在する屋台や飲み屋といった店の提灯もあるが、今日は一際また別の灯りが多かった。
否。今日"も"と言うべきか。
今日も今日とて百鬼夜行は続く。言葉の綾とかではなく、文字通りである。
「こんな光景にも慣れてしまったけど…」
溜息混じりにそんなことを呟く。
金髪少女2人の言うことがやけに胸に引っかかる。無理をしたようには思ってなかったのだが。
そのはずなのだが。
知らず知らずのうちにそう思わせてしまっていたのか。
『無理をしないように』。
ふと、俺の能力の素となっているものは寿命だということを思い出した。
同時に、半永久的に生き続けられることも思い出した。
いつの間にか、この身を削ることを恐れなくなっていた。無意識のうちに。
突然だが、幻想郷は儚げだとずっと思っていた。
目眩く日々に、眩しいばかりの街並み。青空がよく似合う少女達の笑顔。
夏空に映える華奢で真っ白い肌が、幻想郷によく似合った。
それと同時に、そこに強い生命を感じた。
今にも透けてしまいそうな、白昼夢のような景色が、紛れもない現実であることを感じてしまった。
また、消えてゆくのが怖いのか。
幻想郷に連なる山々の尾根の彼方に目を据えては、その景色に祖母の面影を感じた。
幻想郷によく似合う、華奢な真っ白い肌を。
───
──────
と、まぁ回想するのは置いておいて。
幻想郷の夏を拝む前に、一つ案件を片付けておかないといけない。
勿体ぶることでもないけれど。
一歩ずつ歩みを進めるたびに祭囃子は音を増していく。大きく、高らかな笑い声は派手になっていく。春風が、より一層濃ゆい酒の匂いを孕む。
鼻にまとわりつくようなアルコールの匂いはどうも嫌いだ。一体なぜあんな液体を飲めるのか。消毒液だろう。自分の父親があれを呑んではロクなことをした試しがない。
今回も分かりきっている。
ロクな奴などいない。
「おっ!!噂の子だな〜??」
宴会場にたどり着く前に、少女の声がした。
かなり幼いその声は、仄かに酒の香りがした。
「俺のこと?」
「あれ?自覚なかった?」
「噂されるような事した覚えがないからね」
「よく言うよ〜!!地味な見た目してやる事派手なんだから!!」
「……貴方が伊吹萃香?」
やるだけ無駄な会話のような気がして、名前を聞いた。
噂というのも、良いものか悪いものか定かではないけれど、少なくとも良い気はしなかった。
名前を声の主に問いかけると「プフッ」と笑った。
「せいか〜い!!私もしかして有名人?」
「知らない人はいなかったよ」
そういうと、伊吹萃香はたちまち姿を現した。
周りに薄く広がっていた霧が集まると、徐々に人の形に象られていく。
段々と色を帯び、その姿は明確になってくる。
姿を見るのは初めてだけれど。
「え、何年生…?」
「小学生じゃねーよ!!!」
現れた鬼は、角を合わせて130cmくらいしかない女の子だった。
ひとまず、交渉をしてみた。
話が通じるかわからなかったが、変にベラベラ喋るよりはマシだと思った。
「単刀直入に、異変を止めてくれないか?里の人達が怖がっているんだ」
「えぇっ!?なんでー!?遊びに来たんじゃないの!?」
「酒飲めないんだ」
「なんだよーー!!!楽しいからいいじゃんかー!!」
その言動からも幼さを感じた。伊吹は手足をジタバタとし駄々を捏ね始めた。
子どもの扱い方は心得ていないので少し困るのだが…。
しかしそんなのは杞憂だった。しっかりモノ言える鬼だった。
「大体!何でそんな人間に肩入れするんだ!」
「理由を考えてから助けようとは思わないよ」
「なっ…!?お前仏か何かか…!?信じられねぇ!!」
「ともかく、困るらしいんだ。退いてくれないか」
伊吹は酷く驚いた様子だった。
そりゃあ、信じられないのも無理はないけれど。何でも良い話し合いだけで解決するなら安いものだ。
「くっそー!!共喰いの名は伊達じゃないか…」
「なに?共喰…」
「人間なんて助けたところで何も良い事ないぞ!」
「…………」
ふと、二人の言った事を思い出した。
クソ、ダメだ。ずっと頭の中をリフレインしている。
自分がしている行動が徐々に曖昧になっていく。
片足を突っ込んだからには、後には引けないが。
「ならこうしよう!私を楽しませてくれたら大人しく退こう!」
「は…宴会芸なんか出来ないぞ」
「そんな無茶振りはしないよー!!異変解決!楽しいこと!」
嫌な予感がした。
どうやら、『話し合いだけで』なんて思いは粉々に散ったようだ。
「しよう!!弾幕ごっこ!!!」
どうしてこう、戦う奴らしかいないのか。
少しばかり、心が重かった。
お久しぶりです作者です。
ここ数日かなり多忙で1ヶ月投稿叶いませんでした。ごめんね。
今回本編も少し短いですがご了承ください。何かご指摘ご感想ありましたら遠慮なく言ってね。
作者より