東方弔意伝   作:そるとん

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二刀の半霊

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐らく、ここ最近では最も穏やかな時間だったと思える。会場は冥界であるけれども。うっかり目を瞑って、そのまま目を覚ますことがないのでは、と思えるほどの心地良さに浸りながら、幽々子達と会話を交わしていると、

───ひとつ、御手合わせ願いたいのですが。

と、妖夢は言った。俺の目を見て、真っ直ぐ。

 

 

 

 

 

 

 と、言うわけで。

 

 

 白玉楼の、暴れるには申し分ない和風庭園に2人で降り立った。数ミリ程度の細かい砂利が敷き詰められ、隅々には程よく緑も施されていた。血で汚すのがなにぶん憚られた。

 

 妖夢が何故、突然そんなことを申し出たのか。特別な理由など特にない。妖夢は自らの腕磨きに余念が無く、戦える存在であればすぐに手合わせをしようとするそうだ。さながら通り魔である。それなら他にも色んな奴が……とも思ったが、新聞で前から俺のことを知っていた上、先の異変を通じて俺と接触をしたものだから良い機会だと思った。そういう経緯らしい。

 

 さて、前置きはこのくらいにして。

 

 

 決して景色が一変しただとか、周りに観客が沢山いる訳でもない。しかし妙な緊張感が漂っていた。幽々子の佇まいに気を取られ気づいていなかったが、妖夢のその隙のなさもかなりのものである。いざ対面してみて初めてそれを体感する。ヒリヒリするような空気感。射殺すような眼差し。

 

 冥界が如何に魔境であるか。俺はまだ知らないことが多かった。

 

 

「準備はいいですね?」

「2人ともがんばれ〜」

 

 

 その一言に、先程までの無表情で不思議なオーラを持つ少女、と言った印象は受けなかった。大きな丸い目は、さながら獲物を狙う鷹のようだった。

 ちなみに、幽々子は縁側でこの試合の立ち合いをしてくれるとのことだ。茶を啜りながら。

 

 

 

 こちらが何も反応しないことを確認すると、妖夢は左手で下緒を下げ、右手で柄を握った。

 綺麗に整えられた砂利を退けて、右足を後ろに下げた。

 これは、突っ込んでくるな。

 

 

「参ります!」

 

 

 その言葉と同時に妖夢は地面を蹴った。俺の視界には宙を舞う砂利と砂埃立ち上がる様子だけだった。

 

消えたか。

否、目で追えないだけだ。末恐ろしい。

 

 

 一瞬で姿が消えたように見せる、その速さと、体幹の強さ。

 妖夢は身を屈め、恐らくそれ以上に上体を下げたらバランスを崩してしまう程の、限界高度の前傾姿勢。それを可能にさせるのが、鍛え抜かれた体幹。それゆえに成せる、初速から最高速度。

 

 

「速いな……!!」

 

 

 一瞬で俺の懐まで潜り込むと、右足を強く踏み込み、先程までのトップスピードを一瞬でゼロにした。遅れて風圧がブワッと届く。それと同速度くらいに、手早く左手で鞘を引き円を書くように刀を抜くと、突撃の勢いそのまま───

───狙いは俺の右足。

 

 

「反転ッ!」

 

 

 到底避けきれない斬撃であることは既に分かっていた。初手から能力を使うのは些か惜しいが致し方がない。

 "斬撃は当たる"。この確定された先に起こる運命を反転させた。

 そうして、新たに発現した運命の通り、妖夢の長刀を空を切った。凄まじい風切り音が腹の底に響いた。

 

 

「一筋縄では……」

「流石にね」

 

 

 流石は鍛えているだけある。確実に取ったと思われた一撃が不意に空振れば、体は咄嗟に準備できない筈だ。しかし妖夢は驚く様子はなく、刀に体を振り回されることなど勿論なかった。

 激しく立ち込める砂埃の隙間、不意に妖夢と目が合った。

 彼女は、さながら武人の目をしていた。

 

 

 すぐさま、妖夢は刀を寄せ、間合いを取るような動きを見せた。

 その長い刀を振り回しながら弾幕を展開されたら厄介だな。

 ここは間合いを取らせないのがベターである。妖夢は想定通り後ろに飛び、間合いを取った。

 

 チャンスは逃さないようにしなければ勝ち目はない。すかさず距離を詰めた。足が地面に着く前、浮いている間に一撃加えられたら万々歳か。

 

 

 拳を握り、気をこめる。少女だからと言って油断をすると斬られる。

 

 右足を踏ん張り、思い切り地面を蹴る。

 

 狙いはただ1人。

 

 出来るだけ、思い一撃を。

 

 

「腹にッ…!!!」

「少女のお腹に渾身の一撃とは…!」

 

 

 社会通念上最悪のアプローチだがこれは試合。気を抜いたら死ぬと思っているなら定石である。

 

 

 

 腰の入った重い一撃を確実に振り抜いたと思った。鈍い打撃音と風圧をその身に感じたが、

 

 

手の甲に激痛を感じるとともに、拳は狙いの寸前で止まった。

 

 

 

 

 砂煙が視界から退くと、先の長刀とは違う、鈍い輝きが見えた。

 

 

「二刀流……!」

「とっておきのつもりでしたが、まさかこんな早く抜かせるとは」

 

 

 確かに、二振の刀を背負っているのは見えていたが、その体躯から真剣二本を振り回すことは出来ないと思っていた。自分の読みの甘さを恥じるばかりだ。

 長刀を右手に、左手には今しがた引き抜いた短刀、通称白楼剣を握り、俺の手拳に深く突き刺さっていた。力をこめていたので貫かれることはなかったが、右手から力が抜けていった。

 

 しかし、ここで逃すわけにはいかなかった。

 

 

 すぐさま左手で剥き出しの刀身を握り、動かせないようにしてから右手を抜く。

 勿論真剣であるから、左手から刀を伝って血が流れる。

 しかし、そんなことは気にも留めなかった。

 

 

「なっ……!?」

「それでも、一撃加える!」

 

 

 狙って刺したのか、手に力が入らない。そういう技術なのだろうか。いやしかし、掌でも打撃は繰り出せる。

 いつぞや、美鈴から教わっていたのだ。

 

 

「発勁ッ!!!」

「〜〜〜ッイかれてる!!」

 

 

 すぐに妖夢は、右手を構え攻撃に備えるが問答無用である。

 もう一歩左足を踏み締め、腰に力を入れる。体の捻りを利用した、渾身の一撃。

 妖夢は大きく吹き飛び、木製の柵に激突する。

 

 今の一撃でだいぶ振り絞ったものだから、少し脱力しているが、反撃が来ない。妖夢も今のは効いたのだろう。

 しかし、少しするとまた動き始めた。中々にタフ。

 

 

「ごほっ……中手骨の、隙間を突きました……激痛とともに、動かない筈なのに」

「狙ってやったのか。これ」

「う、ぐっ…げほっ……次は、"一撃"で……!」

 

 

 妖夢が突いた場所は恐らく神経が通っている場所だ。手が痺れて動かない。力を込めれば震える。暫く肉弾戦は厳しい。

 いやはや、彼女も今までのは小手調か。彼女の目は、武人というよりは狩人のようであった。

 

 

「仕留めます」

 

 

 来る。

 

 

 動きを目で追えたわけじゃないが、彼女が無意識に発する気が、一段と強くなった。それが何よりの証明であった。

 不意に殺気を近くに感じた。

 

 また目の前に突撃か……!?

 一瞬緑色のスカートが目の前ではためいたかと思い、すかさず左手で拳を振り抜いた。

 

 

 しかし、打撃があたることはなく、そもそも妖夢の姿は目の前になかった。

 

 

「……違ぇ」

 

 

 

───左ッ!!

 

 

 黙認出来た時には遅かった。

 右足で踏ん張り、刀を左の腰で構えていた。胴切りか……!

 少しでも離れられるように状態を整え、刀が動く前に軌道から外らせるように───。

 

 

「───すぅ」

「…………っ!」

 

 

 深く息を吸う妖夢と目があった。

 腰を斬るのが狙いではない?目が合うのだから、狙いは……

 

 

「首か……!」

「あぁっ!!!」

 

 

 整わない体勢を無理矢理にでも変え、首をずらす。力の篭った声と同時に、先程まで首があった場所を刀が通った。

 

 剣術がどうとか、定石の攻め方がどうとかでは無く、今の彼女は一撃で仕留める斬撃を繰り出してくる。

 殺す剣だ。

 

 

 しかしまたしても俺は読み間違えた。

 彼女は一撃で終わりではなかった。

 

 

 妖夢は、後ろへ飛び退く俺との距離を離さぬよう、一歩ずつ詰めながら連撃を繰り出す。

 鋭く、重く、速い一撃が続くように出されるようだった。

 

 

「速ぇ……!!くっ、そ!」

 

 

 加えて彼女は二刀流。隙を見てこの連撃を止めようにも隙がない。

 なんとかして距離を取るか、一瞬を狙うか。

 

 

 長刀の胴切り、上体を外らせど残った左足に短刀で膝口を狙う。バランスが崩れた所を長刀で大袈裟、続くように短刀で斬り下し。

 終わったかのように思わせて、その機会を狙っていた右手から繰り出される、

 

 

「突き……!」

 

 

 喉元を楼観剣が掠めていく。連撃の勢いが乗った突きは正しく神速。躱すのでやっとである。

 しかしそれも、一度終わりか。妖夢が一瞬一息吐いた。

 

 

 ならば、次の手が来る前にこちらが手を打つ。

 

 

「蛇蝎!!」

 

 

 掛け声と同時に、右手を突き出す。

 何時かの鯨のように、召喚という奴である。

 

 

 例によって、実際に見たことがないやつである。というか実在しない。文字としてしか見たことがないが、いざいたら面白いと思った。ちなみに、別に叫ぶ必要はないが、声に出すと、今一度頭の中で姿形がまとまるような気がするので叫んでいる。

 そうでもないと、蛇と蝎のキメラなど想像出来ない。

 

 

 一言大きく、実在しない生命体の名を挙げると、俺の背後からそれは現れた。

 

 

「!?……うわっ!」

 

 

 妖夢はかなり驚いたのか、止め処なく続いたすり足が止まり、大きく後ろへ退いた。

 何もないところから突如として靄のように現れた奇形の怪物。通称『蛇蝎』。読んで字の如く、ヘビとサソリである。実際見たことがないので俺の脳内で創造された生物。体は蝎のような硬い甲殻に覆われており、足は8本。終体には一番の武器とも言える毒が仕込まれた尾節がある。前体にはもう一つの大きな特徴でもある鋏のような触肢。

 

 そうして。

 甲殻に覆われた中に潜むのはヌメリと光る黒蛇。触肢の隙間から顔を覗かせては、怪しげに舌を動かす。動きは蛇のように柔軟で、しかし外殻は硬い。

 長々と説明をしたが、恐らく一般的な感想としては──

 

 

「……気味が悪い」

「せめて恐ろしいと言ってくれ」

 

 

 蛇蝎は足をカタカタと動かしながら、その規模感からは想像つかない速さで妖夢に向かっていった。

 

 

「ひっ……」

 

 

 お、表情が崩れた。それどころか体勢まで。

 しかしそれもほんの一瞬。すぐさま立て直すと短刀を握った左手を中段に構え、右手はだらんと下げた。先程慌てていたとはいえ流石の対応力。未知の存在故、出方が分からない。防御に徹する構えだろう。

 短刀の鋒を迫り来る蛇蝎に向けて、妖夢は微動だにしなかった。距離を測っているのだろう。

 そうして、蛇蝎が間合いに入った、次の瞬間───

 

 

 ドスン!と、鋏が振り下ろされる音と共に、

 キンッ!と鋭い金属音が鳴った。

 

 

「いなすか──!!」

 

 

 間合いに入って先に動いたのは蛇蝎だった。大きな鋏を妖夢に向かって振り翳したが、短刀を目安に、まさに妖夢は紙一重で躱した。

 

 

 恐れ入るほどの、集中力。

 

 

 

 

 

 

 

 その攻防がしばらく続いた。歩みを止めることなく、蛇蝎は硬い甲殻に覆われた鋏を振り回して、時折隙間から毒蛇の頭が襲い掛かる。妖夢は隙を見て、節の間を斬りながら腹の下を抜け背後に回るが、そこには猛毒を孕んだ巨大な尻尾がある。無慈悲にも鉄柱のような尾を振り下ろされるが、節を狙って尾を断ち切る。

 

 

 ここ数分の猛攻を、妖夢は全て見切っているかのように立ち回る。実際は、動きを見てから刹那的な判断でこれをやってのけているのだろう。

 

 妖夢の数倍大きな体格を持つ蛇蝎でさえ一苦労。いや、"寧ろ"というべきか。

 一撃喰らわせてやるのがどれほどの難易か痛いほどに分かる。

 しかし、この熾烈な攻防もそろそろ終わりを迎える。

 

 

「───ッ、はぁっ……ぐっ、ふっ──!」

「体力切れか」

 

 

 妖夢の動きが乱れてきた。未だ躱し切れているが、それも時間の問題だ。

 

 しかし、再生するとはいえ超速度で細かく切られてきた蛇蝎の足取りも頼りないものになって来た。

 

 体力切れは、こちらも同じのようだ。

 徐々に蛇蝎の体制が崩れてきた。いなされ続けると、嫌でも気張っていた体は崩れていく。力が入りづらくなる。だいぶ限界は近い。

 先に倒れるのは──────

 

 

「ッ……!!はぁああ!!」

 

 

 妖夢は見切りをつけて仕掛けてきた。畳み掛けるには今しかないと思ったのだろう。

 

 攻撃をいなしている間脱力しきっていた右手を構えると、蛇蝎の一撃を目測で躱す。鋭い鋏が妖夢の頬を掠めていく。

 

 

 

 

 ───次の一瞬。蛇蝎が次の手を繰り出す前に、

 

 

 妖夢は大きく地面を蹴り出し、体を大きく捻り、蛇蝎の腹の下を回転しながら通り抜けた。見事にも、関節の間を斬りながら。

 

 ターゲットを狙いすました回転斬り。

 一度捕まれば、致命傷をいくつも負わせてくるミキサーだ。

 蛇蝎も今の一撃が致命的となり、足から崩れ落ちた。流石の剣技、身震いしてしまうほどである。

 

 

 

 妖夢は肩で息をしながら、口振りは余裕綽々といった感じであった

 

 

「はぁ……はぁ……切り札は終わりですか」

「まさか」

 

 

 蛇蝎は妖夢と距離を取るため。もっと言えば、起点作りである。充分に妖夢の体力を削った。

 最後まで働いてもらうよ。

 

 

「蛇蝎!!」

「──ッ!?うぐっ!!」

 

 

 いくら蛇蝎の隙間を切り抜けても尾がある。前述した通りである。

 

 俺が叫ぶと、尾をしならせて、妖夢の横腹目掛けて振り下ろす。大振りなので、流石にガードされるが、そんなことは瑣末なことである。

 1番の目的は、妖夢を浮かせることだ。

 

 

「くっ、また……!!」

「妖夢には1秒もくれてやらない」

 

 

 隙を見せたらやられる。ならば、隙を作らないまで。妖夢と、幽々子と、相対してみて学んだ。

 例によって、俺の想像上の物を弾幕として展開する。

 

 

「烏合!」

 

 

 そう叫ぶと、大量の烏が妖夢めがけて飛んでいく。

 

 

「ひぇっ……!」

 

 

 妖夢は蛇蝎を召喚した時のような声を上げる。一度驚いてから対応するのか。

 

 新たに召喚したのは、何の変哲もない烏。自然界に生きる彼らより少し凶暴な。

 

 烏1匹ずつに蛇蝎のような力はないが、一瞬の煙幕として働く。しかし油断すれば雑食の彼らは容赦なく啄んでくる。

 

 

「結構痛いぞ」

「目障り……!!」

 

 

 身軽な妖夢は空中でさえ姿勢を立て直すとすかさず、短刀を鞘に収めた。

 長刀だけで、対応するのか。

 

 

「おりゃああああ!!!」

 

 

 先頭を行っていたカラスが真っ二つに斬られると同時に、ズバン!!と、とても斬撃とは思えない音がした。

 と、同時に、向かっていった烏よおよそ4割が霧散した。

 

 

「マジか……!」

「ふぬぬぬぬぬ……!!!」

 

 

 一度対応出来ると精神的に楽になる。妖夢は地面に降りる事なく、空中で烏と攻防を繰り広げる。

 

 しまった、どうにか落とせないものか。

 

 

 先のような素早く細かい斬撃ではないにしろ、付け入る隙はない。長刀の大振りな一撃で烏合はかなり削れていった。

 時間の問題だ。落とすとなれば。

 

 

 

 ─────上からだ。

 

 

「吹き下ろし!」

「なっ……!?」

 

 

 例外的だが、自然現象も想像上で再現できることを最近把握し切れた。見たことないのは例の如く。頭の中では至る事も想像でき、創造できる。

 ダウンバーストとも呼ばれる強烈な下降気流は容赦なく妖夢を地へと落とす。

 妖夢はその体幹から、姿勢こそ崩れていないにせよ膝をつかせた。

 畳み掛けるなら今。

 

 

「鎌鼬!!」

 

 

 質が良くても単体なら対応可能。

 量が多くても質が悪ければ対応可能。

 両立させるとこちらの負担は大きくなる。それならば、今回はその間をとってみる。

 

 

 

 

 今度はスリムな体に中々愛い顔をしたイタチ。

 普通と違うのはその体躯と、尾が鋭い鎌で出来ていること。流石に人より小さいが、二足で立てば腰より高い位置に頭がくる。また、今でこそ尾はだらんと垂れ、柔らかな毛並みを彷彿とさせるが、一度力を込めれば鋭い鎌に化す。

 そして何より───

 

 

「切り裂け、鎌鼬!」

 

 

 その疾さである。

 

 

 ふわりと、一陣の風が吹いたかと思えば、

 

 

「なっ……!?」

 

 

 鎌鼬は一瞬にして、妖夢を切り裂いた。

 

 

 

 ふっ……

 

 

 と、風が止むと同時に鎌鼬は妖夢の背後に姿を現した。まさしく、疾風。

 風に乗って繰り出された斬撃は、妖夢の関節付近を狙い澄まされていた。血は出ないが鎌で切られたようなパックリとした裂傷を生み、妖夢から踏ん張る力を奪っていく。

 筋肉に思うような力が入らなくなった妖夢はその場で膝をついた。

 

 

「ハッ……はぁ……見切れない…………」

「でも、流石だな」

 

 

 見切れないということは、幾つかは見切っていた訳か。風の如し疾さが売りなんだが目が追いつくその動体視力、反応速度。剣術の腕は勿論、天性にも近い感覚が彼女には備わっていた。修行を重ねていき、それもより研ぎ澄まされていったのだろう。

 

 それなら、こちらは修行の上では通らないような未知を繰り出していく。日本で生まれた武道は勿論、中国拳法も欧羅巴の戦略も、恐らく既知。

 

 であるならば、未知のもので対応したかった。

 対応しきれないものである必要があった。

 妖夢は既に膝をつき、虫の息であった。しかし、まだ諦めていない眼差しだった。そもそも、鎌鼬に斬られて平然と耐えているのが凄まじい。

 

 

「流石に、限界が近い……」

「無理をするなよ」

「優しいですね。しかし、情けは人の為ならず。半霊にも同じこと」

「……来るか」 

「終わらせます」

 

 

 今度こそ。歯を食いしばりながらそう言った。

 妖夢は刀を杖に、グッと立ち上がった。俺は、いかにも余裕綽々とした振る舞いをしていたが鎌鼬でかなり気力を持っていかれた。強力故に、骨身を削る。

 

 

 

 ───ここを凌げるか。

 妖夢は力の入らない足を、それでもグッと堪え、刀を下段に構えた。

 そこからは、一瞬である。

 

 

 

 

「剣技、桜花閃々──!!」

 

 

 妖夢の長刀が桃色に煌めいたように見えた。桜の花弁が軌道に沿って、

 

 

(───一直線にっ……!!)

 

 

 防御が間に合わない速度の左逆袈裟斬り。

 

 

 

「せぁあああああ!!!」

 

 

 一瞬たりとも、妖夢を目で追えることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……でも勝つよ」

「あと…………一歩なのに……」

 

 

 楼観剣の鋒は俺の喉元で止まった。

 体が痺れた妖夢は、今度は耐える事なく俺の目の前で突っ伏すように倒れた。

 

 

「『海月』……その傷に毒は染みるだろ」

 

 

 蛇蝎ほどの攻撃力も、烏合ほどの厚さも要らなかった。

 ただ一つ、彼女の技を止める何かで良かった。最も、彼女の技は超技巧。稚拙なものでは到底太刀打ちは無理だった。

 そこで思いついたのが毒である。人より幾分大きい海月は、神経に作用する毒を孕んだ何十本もの触手を妖夢に絡ませた。残りの体力からして、弱目の神経毒が限界であったが、それでも裂傷から直接作用する。即効的に効いたのは幸運だった

 しばらくすると、宙に浮いていた透明な海月も黒い靄となって姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

暫く、静寂が続いた。

 

 

「驚いた、貴方の勝ちね。中々面白かったわ!」

「長々とすみませんでした」

 

 

 

 先まで少し驚いたような表情をしていた幽々子は、静寂を破り、朗らかに笑うとそう告げた。俺と妖夢の試合は幕を下ろす。

 また、水が注がれる音、葉が擦れる音だけが庭にこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








少し、苦手なバトルシーンを頑張ってみました。
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