東方弔意伝   作:そるとん

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紅く染まる(色々)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓を外に目を向けてみると、そこには深い藍色が広がっていた。

 夜でも些か明るい幻想郷は、夜更けであるにも関わらず仄かに空は色づいている。それもこれも、青々と輝く月のせい。

 

 

 そんな夜とは相容れない。

 

 

 俺の首からは、赤い血が首筋を伝って流れ出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あぁぁぁ、汚しちゃう……!」

「黒いパーカーだから気にすんな」

 

 

 結局、なし崩し的にレミリアの食事の練習に付き合っていた。

 

 やはり生物である以上、食事は欠かせず、その度襟元にベッタリ血が付くようでは誰も得をしない事は明白であった。

 

 レミリア本人も頑張って練習をしているようであるから、手伝わない手はなかったが……

 

 

 とはいえ、想像以上ではあった。

 

 

「顎が弱いのかな」

「なんか、口から漏れちゃうのよ……」

 

 

 首筋に牙を立てるところまでは良かった。

 

 その後、ツウっと流れた血を吸おうと口をつけ……。

 

 ジュッ、ジュルル…ジュッ、んぐふっ。

 

 

 という音と声がしばらく聞こえ、首元は、俺の血かレミリアの唾液か分からないが何やら温かった。

 

 上手く吸えてる感じはなく、吸われてるなって感覚もなかった。

 

 

「口元汚れたな」

「あ、うぇ……ありがとう」

 

 

 近くにあったティッシュで汚れた口元を拭う。

 どうやら顎の力が弱いのか、口の横から漏れてしまうらしい。一度勢いよく吸うのはいいが、すぐに疲れて唾液が混じり、じゅるじゅると吸えなくなるらしい。

 

 さながら、赤ちゃんの吸引力である。

 

 

「普段からどうしていたんだ?人を連れ込んでたり?」

「まさか!そんな品のないことはしないわ!ワイングラスに入れてくれるの」

「それだと上手く飲めるのか」

「ちょっと溢すけど」

 

 

 やはり、口元が緩いのかもしれない。

 

 

 もうちょっと密着すれば良いのかしら、徐々に穴が広がるまでゆっくり吸えば…?と、何か独り言を呟きながら、また首筋に牙を立て、素肌に血を這わせる。

 

 

「まぁ、そんな焦るな。いくらでも付き合うから」

「ん、助かるわ……」

 

 

 また、ゆっくりと、レミリアの牙は俺の首筋に立てられた。

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 一方、同所同日、部屋の外。

 

 

『ジュッ、ジュルル…ジュッ……』

『んっ……』

「は?」

 

 

 フランドール・スカーレットは激しく困惑していた。

 

 

『あ、あぁぁ……!!』

「え?」

 

 

 数百年と聞いてきた声であるから、ドアの向こうから聞こえる嬌声が姉のものであるのはすぐに分かった。

 

 

『……が弱いのか…』

『なんか……漏れちゃうのよ…』

「え、漏れ、え?」

 

 

 何?何が弱いって?性感帯?

 

 漏れるって何よ。声が?

 それとも、とてもR15タグしか付けていない小説では文字に起こすのも躊躇われる何かが?

 ドアの向こうではもう既にR18が行われているというのか。

 

 

『……汚れたな』

『ありがとう……』

「汚されてるなぁ」

 

 

 行われているな。

 R18的な何かが行われているな。敢えて口にはしないけれど。

 

 そして恐らく相手は彼だろう。

 こちらもよく聞いた声だ。幾度となく聞いて、幾度となく聞きたいと思った声だ。

 

 

「抜け駆けか……!!」

 

 

 姉様の好意は明白であったのだから、充分に考えられる事だった。

 迂闊だった。

 妹が健気に庭の水やりに勤しんでいる間に、ベッドの上で情事に勤しみやがって。

 これが寝取られってやつだというのか。寝てないけど。許せない。

 

 

『まぁ………いくらでも…』

『ほんと……』

「2回戦…ッ!?」

 

 

 しばらくするとまた卑猥な吸引音が聞こえてきた。大層なプレイではないか。音を立てるのが好きだというのか。姉の性癖など知りとうなかった。

 

 放っておくと姉の尊厳が……というか正直に、私の鳥肌と嫉妬が止まらないので突撃する事とした。

 

 

「堂々と何をしているの!!」

 

 

 バァン!と勢いよくドアを開けた。

 

 

「ん?えっ、フラン!?」

 

 

 そこには、ソファに腰掛けた彼に跨って、首元に顔を近づけ……

 

 口を真っ赤に染め上げた姉の姿がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「対面座位!!!?!?!!!?!」

「えっ、えっ、たいめ……なに?」

「しかもハードなやつだぁ!!!!!!」

 

 

 勢いと焦りに身を任せた私は、

 

 もう、2人が致しているようにしか見えなかった。

 

 出血の伴うハードなやつを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───

──────

 

 

 

 

 

 

「ごめんね」

「いいのよ」

 

 

 平手一発で和解できたのであれば安い話だ。ジンジンと痛む右頬を手で摩りながら、仲睦まじい姉妹を微笑ましく眺めていた。

 

 

「こんな時間から堂々と、その、ね?するわけないでしょ」

「ごめんなさい。そうだよね……お姉ちゃんにそんな度胸ないもんね」

「上等じゃない」

 

 

 仲睦まじい姉妹だ。(自己暗示)

 

 あの後激昂して突撃したフランをどうにか宥め、事情を説明した。冷静になってみれば、たしかに、誰が見ても吸血行為の最中であったと、素直に理解と反省をした。冷静になるまでに頬に一撃食らったのだが。

 立派に育ったものだ……。

 心も力も。

 

 しばらく間を置いて、一息つくと、フランは先までの事に興味を持った。

 

 

「ところで、どんな味だったの?」

「あ、味?」

「うん。結構熱中して吸ってたみたいだから。美味しいの?」

 

 

 確かに。

 上手く飲めていたかは別として、1回の時間はそこそこ長かった。どの吸血鬼もそんなものなのかと思い、あまり気に留めていなかった。

 おまけに半ば不死身であるものだから、いくら吸われたところで具合が悪くなることは何もなかった。上手く吸えていたかは別として。

 

 フランに率直な疑問を投げかけられたレミリアは少しバツが悪そうな顔をして、口をモニョモニョ動かしていた。

 

 

「い、いや、その……」

「その、何?健全な練習だったわけでしょ」

「そ、そうなんだけど……こう、ね?」

「うん?」

「緊張して……味とかちょっと……」

 

 

 耳まで紅くしたレミリアが目に映った。

 

 

「やっぱ卑猥なことだと思ってたんだ!!」

「ち、ちょっとフラン!?」

 

 

 あぁーあ!お姉様1人で邪なこと考えてたんだぁーーーあ!とフランはわざとらしく騒いでいた。

 

 その矛先は突如としてこちらを向く。

 

 

「もういいもん、自分で確認する!」

「えっ、フラン!?」

「おわっ……!?」

 

 

 あーむ。と大袈裟に開かれた口は一直線に俺の首に向かってきた。

 上半身に女の子1人の体重が掛かるや否や、首にチクッとした痛みが走る。

 

 

 しばらくすると、血が吸われていく感覚を抱く。なるほど、本来血を吸われると、首元が引っ張られるようだ。首から暖かい液体がとめどなく流れていく。そんな感触。

 やはり、レミリアは上手く吸えていなかったのか。

 

 

 体感にして数十分経ったようであった。

 出血に慣れてしまったものだから、いくらか耐性があったが、確かにこれを生身の人間が喰らったら意識は飛んでしまうなと思った。

 

 意識があるうちに止めねば。

 

 

「ほら、いつまで吸ってんだ」

「んっ、はっ!!ごめん!」

 

 

 しがみついているフランの背中をポンポン叩くと、パッと口を離した。

 

 スタッと華麗に着地するフランに目を向ける。

 

 口の周りに血がついていないどころか、頸筋に血が流れる感覚もなかった。手で触れてみれば、そこには2つの穴があるのみで、出血はなかった。

 

 

「おぉ、すごい……」

「普通はこれくらい出来るもんよ!」

「ぐっ……!」

「まぁ、得手不得手があるよ」

 

 

 悔しそうな顔のレミリアを前に、少し発言に迷った。

 

 

「ところで、お味は?」

「珍味??」

「美味くはなさそうだな」

「美味くはないねー」

 

 

 特別不味そうな顔をされなかっただけマシである。美味しくなさそうなのはなんとなく予想していた。

 

 

「まぁ、不健康だったしなぁ」

「あら、ちゃんとしたもの食べてないの」

「あまり記憶にないね」

「それはダメだよ!ちゃんと食べなきゃ!」

 

 

 吸血鬼に食生活を叱られた。

 

 とはいえ、その通りである。不死身になった上に、元から無気力であったものだから、食に関しては無頓着であった。

 口に物を入れて、味がする、美味しいと感じたのはここ一年のこと。

 

 幻想郷に来てからだったかと思う。

 

 

「今日はここで食べても良いか」

 

 

 血が抜かれてボーッとしていたこともあったのか。

 ふとそんなことを口に出してしまった。

 慌てて、あっ、と声を出すが、2人は何の反応も示さなかった。

 

 ただ、ごく当たり前のように、

 

 

「えっ、ハナからそのつもりだけど」

「というか、食べていかないで帰るつもりだったとは」

 

 

 いつの間にやら荒んで擦り切れていた心に、滔々と水が注がれるようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 もうしばらく緩い日常パート(^^)

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