東方弔意伝   作:そるとん

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風神録 開幕の吹き下ろし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喧しいくらいの快晴だった。

 こんな日は何もせずに縁側で茶でも啜りながら陽の光を浴びるのが日常における定石というものであって、面倒事からは程遠い位置で心を落ち着かせるのが今後の人生を上手く渡り歩くコツなのだと言うのが持論。

 博麗霊夢は神さびた社の境内を掃きながら、幻想郷の端にてそんな事を考えている。

 

 博麗神社在るところに悪意があるもんで、今日とて人気のない上に、居所を失った妖怪が屯する景色からはとても栄えているとは思えなかった。

 というよりは栄えてないと言い切れる。

 

 霊夢はそんな日常でも悪くないと思っていた。

 その根拠は先述した持論の通りである。

 

 

「あぁ〜………ったかいわねぇ」

 

 

 別に誰に聞かせるわけでもない間延びした声を独りあげた。

 本当に。数日間続いた悪天候が嘘のように、突然晴れたのだから、最初は少し驚いたがまぁ天気なんてこんなもんかと割り切るには数分と要らなかった。

 

 勿論、この快晴が、霊夢にとって何よりも悪天候の兆しであったかは知る由もなかった。

 

 彼女の持論には少し不足があった。

 

 面倒事は、何も一箇所に留まらないのだ。

 

 

 

「こんにちは!気持ちの良いお天気ですね!」

「ぁん?」

 

 

 所謂ダウナー寄りな霊夢にとって、不意に現れた大きな声の持ち主に怪訝な表情を浮かべてしまうのはごく自然な事だった。巫女としてどうかと思うがそれはご愛嬌であるそうだ。

 幻想郷の端に在る辺鄙な神社に足を運んだのは、これまた巫女であった。しかし霊夢とは対極間のような少女だ。

 

 

「初めまして!私、妖怪の山の上の神社から来ました!東風谷早苗と申します!」

 

 

 暑苦しいくらいに純粋な感情を向ける少女の名は早苗というらしい。

 幻想郷では見た事ないその風貌を、霊夢は訝しんでいた。

 

 

「何の用?」

「単刀直入ですね〜、話が早くて助かります」

 

 

 あまり慣れ親しむことの無い人物だった。霊夢だって年頃の少女であるが、早苗は何よりも"模範的"であった。

 

 

(外の人間だな)

 

 

 霊夢がそう勘づくのに時間はかからなかった。

 あまりにも現世的というか、若者らしい若者。言動こそ実直だが、まだ甘さが目立つ。歳をあまり重ねておらず、差し当たって苦痛という概念の解像度が低そうであった。

 

 それ故に、口調こそ慇懃だが腹の中には面倒事が詰まりに詰まっていそうであった。

 

 霊夢の予想は大いに的中する。

 

 

「我々にこの神社を明け渡して貰いたいんです」

 

 

 例に漏れず、どすの利いた声で「は?」と返したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 春の陽気に当てられて、特に訳もなく人里をぶらぶらと歩いていた。

 ここ数日の異変続きも相まって、何の魅力もない日常に幾分飽き飽きしていた魔理沙は、ひとまず博麗神社に行ってやろうと考えた。

 あいつの周りに厄介事は尽きない。暇なら足を運んでおいて損は無い。もし何もなくとも茶が飲める。

 その程度の気持ちだった。

 

 

「にしても、人が多いねぇ」

 

 

 誰に聞かせるでもなく、1人呟いた。

 

 

(春の陽気……なんてモンじゃないな?)

 

 

 道中、人集りを見た。

 特に立ち止まる事はしなかったが、側から見てその異常性は伺えた。何か催し物でもあるのか。アリスの人形劇か。いつの間にこんな人気になったというのだろうか。

 

 通り過ぎる際、少し聞き耳を立てた。

 

 

「新しく出来たんだって……?」

「あんな山に作って誰が───」

「───ロープウェイだってさ」

「なんでも相当大きな────」

「らしいな……」

 

 

 はて、何のことやら。

 ただ、既に何か起こっている事だけ、魔理沙の中で確信が生まれていた。

 

 博麗神社へ向かう足取りは、少し早くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 初対面で不動産の明け渡し請求を申し立てて来た女への返答に困っていた霊夢は、ふとじっくり考える事とした。

 

 そもそも、こんな参拝客も稀にしか見ない神社の手中に収める事のメリットが分からなかった。単純に分社としたいのか。数が多ければその分、その土地で、それなりの信仰を集められるだろう。霊夢としても、人が沢山入るに越した事はないので一瞬良いかもと思ってしまった。

 というより、早苗にも早苗の信仰する神がいる筈だ。

 同じく巫女として、神を信仰する立場にある霊夢だが、あまりにも早苗のセリフは怪しすぎた。

 何より、博麗神社に座す神が黙っていないのではないか。

 考え抜いた結果、霊夢の返答は極めてシンプルだった。

 

 

「胡散臭いから嫌だ」

「詐欺師かなんかだと思ってます?!」

 

 

 言い得て妙であった。

 霊夢の勘はよく当たる。早苗は碌なことを考えてない。

 そして何より、いつの間にやら妖怪の山の上なんて魔境に建てられた神社なんて気になってしまう。素性の知れぬ神ほど人々を恐怖させるものなどない。

 

 しかし、この手の連中は諦めが悪い。話が拗れる前に様子を見るのも手だと考えた。

 

 

 

 一方で霊夢の思考とは裏腹に、そして思いの外、早苗の思考は極端で野蛮であった。

 早苗の声から穏やかさが消えた。

 

 

「それなら力づくで神社ごと潰しましょうか」

「……ふぅん」

 

 

 霊夢は、早苗に若干の苦手意識を抱いた理由が分かった。

 

 

 彼女は自信に満ち溢れている。

 本気で、この幻想郷でひと暴れ出来ると確信した目をしている。

 

 

 苦手だ。

 面倒ごとは避けたいが、こうも実直だとへし折りたくなってしまって仕方がない。

 否応なしに、こちらにも火がついてしまう。

 

 

「信仰を集められない神社は、その土地が風化していった象徴に成り果てるだけです」

「…………」

「幻想郷の調律という大層な名目だってあるでしょうに、こう協力が少ないと霊夢さんにも負担がかかります!」

 

 

あくまで、こちらの為を貫くらしい。

 

 

「これは博麗神社の、ひいては、幻想郷の為の交渉なんですよ!」

 

 

 

 

 確かに、最初にも思った通り信仰をたくさん集められれば、人里は今より活気付くかもしれない。大きな神様に守られるのだって、幻想郷にとっては有難い話なのかもしれない。

 ただ、しかし、

 

 

「それでもお断りよ」

「なっ……!」

「最初に言った通り、胡散臭い」

 

 

 肝心の神の正体も、巫女の正体も、真相も分からぬまま。この土地を任せられるだけの信頼など勿論無い。

 それに、何より、

 

 

「こんな寂れててもね、返しきれない程の信頼貰ってんの」

「……信仰はあると」

「さぁ?そんなこと知らないわ」

 

 

 賽銭なんてしないで帰る連中ばかりだから儲かっては無いけれど、過ごした年月の分だけ、巡り合わせの数は増え、妙な縁は容易く切れぬほど強くなった。

 そう易々と明け渡せるほど薄情になったつもりはない。

 

 

「自分の居場所くらい自分で守るわよ」

 

 

 早苗の飄々とした表情がその時だけは強張った。

 すぐに笑顔を取り繕うと、

 

 

「…………また、数日後来ます。それまでに答えが変わっている事を期待しています」

 

 

 具体的に回答期限を付してきた。どうやら厄介な客だけで済まなそうだ。

 早苗の確固たる自信は潰えなかった。

 最後吐き捨てるようにそう言うと、踵を返しすぐ階段の向こう側へと姿を消した。

 

 霊夢は一気に疲れたような気がして、はぁと溜息一つ吐いた。

 

 

「こっちから向かってやるわよ。ね、魔理沙」

「お、バレてた」

「目立つ格好してるからよ」

 

 

 呼ばれると、魔理沙は境内の林の中から姿を現した。

 

 

「話は聞いてたよ。行くんだろ、妖怪の山」

「天気が良いうちに片付けましょ」

「お、いいねぇ、面白そうだから着いてくよ」

 

 

 あくまで魔理沙は好奇心の為に動く事とした。

 早苗も、あれだけの自信だ。山の天辺に踏ん反り返っているのは相当名の在る神に違いない。

 人数は多いに越した事がない。霊夢にとっても都合が良かった。

 

 箒を納屋へ片付け、装備を整えてから今一度魔理沙に声をかける。

 

 

「さ、行きましょ」

「よし来た」

 

 

 麗らかな初夏の昼下がり。

 山から微かに吹き下ろし始めた風を浴びながら、2人は妖怪の山へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








遅くなってすみません( ; ; )

追記:毎度毎度誤字が多くてすみません……。
  その都度直してくださってる方本当にありがとうございます……すいません……助かってます……。
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