東方弔意伝   作:そるとん

99 / 117
風神録 八百万の内の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらず気怠い正午過ぎ。

 随分と人気のなくなった甘味屋で落ち着きなく歩き回っていた。

 

 ここ最近のことと言えば、筒がなく、抜け落ちない毎日を過ごせている。

 以前まで何故か周囲と会話の噛み合わない事や、かなり長い期間の記憶が曖昧になっていたものだったが、パチュリーの尋問を経て自身の多重人格を認知するまでに至り、結果として、今現在こうして毎日を、本当に1日1日を生きている。

 

 過去の自分、というより、もう1つの感情と折り合いをつけてから、日々を生きられている。

 

 それはそうとして、化け物じみた能力値に変わりはなかった。

 むしろ日に日に研ぎ澄まされていく気がしてならない。今こそまさしく、その弊害を受けている。

 

 

「何かあったか……」

 

 

 根拠も確実性も信憑性もない、いわゆる第六感というものが激しく胸を騒がしてくる。

 以前にも異変の初動に際し"嫌な予感"をキャッチする事はあった。

 

 しかし今回は、どうにも尋常じゃない。

 何が起因かは分からないが筋肉が、脳神経が、反射的に俺に何かを訴えかけてくる。

 レーダーのように異変を感じ取って、アンテナのように全身を毳立たせる。

 

 

 しかし、おいそれと動くわけには行かなかった。この感覚は間違いなく異変であるが、そうすれば霊夢等が向かっている可能性が極めて高い。

 記憶が曖昧な間、何があったか知らないが俺は人里に住みながら人には煙たがられている。

 ここでまた深く関わろうものなら、霊夢達に何が起こるか分かったものではない。

 

 ここ数日のこともあって、慎重に動くべきであることを強く思っていた。

 

 

「……服を変えてみるか」

 

 

 いつも似たような服装で、しかも幻想郷では浮きがちのパーカーで歩くから目立つ。しかも持っている服ラインナップが等しくモノトーンであるから日中活動するにはこれまたよく目立つ。

 

 しかし、思い当たる事が1つあった。

 

 

「あったあった」

 

 

 ここは元来、年配夫婦が2人で切り盛りしていた甘味処であった。やはり当時から浮いていた俺を気遣い、いくつか服を置いて行ってくれていたのだ。

 手付かずだったクローゼットを開けてみれば、和服が必要最低限、セットで揃えられていた。

 

 俺は迷うことなく1着手に取り、慣れない服に裾を通し、里へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───

──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局モノトーンなものを選んでしまった。

 着てすぐに思ったが、恐らく葬式等に着ていくものではないだろうか。動きやすいから袴を選んだところまでは良かったが、結果として黒の羽織を選んでしまってはまごう事なき葬式の参列者である。

 

 

「余計目立ってるか……?」

 

 

 人目を気にするよう、(恐らく)喪服に身を包み、申し訳程度の編笠で顔を隠して足早に歩いていた。

 

 

 

 しばらくすれば、人集りが目に付く。

 人里の、いわゆる掲示板のような場所にはよく人が集まるが、それはそうとして異常な人数だった。

 流石に気になったので、遠くの物陰に身を潜め様子を見る。

 

 普段は人間とは遠く思えないこの身体能力も便利なもんだなぁと感じ、よく使ってしまう。

 

 特別なものではないが、ぐっと目を凝らせば数十メートル先の張り紙くらいは読めるし、耳に意識を持っていけば群衆の内の密語も聞こえる。

 

 

「…………神社に、妖怪の山」

 

 

 情報驚く程簡単に集まった。

 どうやら見知った顔ではなさそうだ。張り紙も、聞こえてくる話声も、特に問題がありそうな内容ではない。新しい神社が幻想郷に出来て、こういった媒介を使って布教活動をしている用にしか思えない。

 ただ1つ、勘が黙っていなかった。

 

 神社と聞けば、真っ先に思い浮かぶのは博麗霊夢。杞憂であると思いたいが、何かあったと思うのが当然な胸騒ぎだ。無関係だと言い切るには幾分早計な気がしてならない。

 

 欲しい情報が一通り出揃ったところで、再び歩き始める。

 去り際に、

 

 

「なんでも強ぇ神様だってよ」

「軍神なんて噂も───」

「すげぇデカいんだって……」

 

 

 なんだそりゃ……。

 と一蹴しかけたが、ふと思いあたる節と言っていいのか、あるシーンが頭に浮かぶ。

 

 

 あの日の、夜。

 何か。

 

 

「なんだこの違和感……」

 

 

 得体の知れない不安が襲ってきた。

 ひとまず、向かうは妖怪の山。少なくとも、射命丸を始めとした天狗達や、天魔───威風鷹揚がアクションを起こしていないとは思えない。

 しかし、彼女のヒステリックは環境を巻き込んで非常に分かりやすい。

 

 話を聞く必要がありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか……お腹減るわね」

「良い匂いするもんな」

 

 

 妖怪の山に突入してから数分、山道に沿って登っていくと、次第に香ばしい匂いが鼻腔を擽る。

 

 

「焼き芋かね」

「焼き芋かしらね」

 

 

 季節に似つかわしくない、主に秋を彷彿とさせるこの香りは山中些か不釣り合いなものだった。

 

 未だ山の麓。

 先は長いが、無視できそうにもなかった。

 

 匂いの正体は予想通り焼き芋。芋を焼いていたのは豊穣の神「秋 穣子」であった。

 彼女は目が合うや否や、

 

 

「えっ、こんな所で何をしているの!!」

「ちょっとこの先に用があるのよ」

「この焼き芋は私のなんだから!」

「聞いちゃいねぇ」

 

 

 パチパチと燃ゆる焚き木に翳された芋を守るように霊夢達の前に立ちはだかる。

 実りの季節はこれからという所、彼女は明るい性格ではあるが神としてかどうかはいざ知らず、人とはあまり対峙しない。それ故に、霊夢達への敵対意識を否定できない。

 

 こちらの事情などどこゆく風、穣子は臨戦体制に入る。

 

 

「仕方がないわね」

「お、霊夢がやんのね」

「アンタは先行ってて」

 

 

 穣子は素朴ながらも弾幕を展開する。彼女が戦闘しているシーンを見たことがない。実力はいかほどか。あまり威厳を感じないにせよ彼女も神の一柱。

 

 

「行くわよ」

「望むところよ!」

 

 

 焼き芋を死守せんと勇んでいる彼女へ目掛け最高速度で弾幕を射出する。

 瞬く間に広がっていく2人の弾幕を掻い潜るように、魔理沙は穣子の先を飛んで行く。

 

 

 

 さて、何分で片付けられるか。

 そう時間を掛けてられな───

 

 

「へぶぅ!」

「えっ」

 

 

 弾幕の隙を縫うように放った弾幕は意図も容易く穣子に着弾する。

 たった数発。激しい閃光に包まれた穣子はヘロヘロと力なく落ちていった。

 

 

「えぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひえぇぇ……」

 

 

 力なく地に伏している穣子の元に降り立つ。

 本当の本当にあの数発でダウンしてしまったのか。

 

 

「本当に神様?」

「い、一応、八百万分の一よ……」

「はぁ……もういいわ……」

 

 

 変に驕らないところも神様感はない。

 

 

「焼き芋は勝手に食べてなさい」

「ひょえぇ……」

 

 

 最後にそれだけ言って、霊夢は魔理沙の後を追った。

 

 

「私のとこの神様も弱いのかしら……」

 

 

 どうしても、懸念は拭えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






すみません、投稿遅れました。
リアルがかなり忙しいのですが頑張って書きます。
一月に何話も投稿できたらなぁとは思っております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。