アカメが斬る〜IFルート クロノスがKILL〜   作:ヌラヌラ

1 / 7
第1話〜帝都のunknown〜

 帝都のとある広場にて、スーツを着た若い青年が十数人の子供に囲まれながら一冊の本を声に出して読んでいる。周囲に座る子供達も男の持つ本と同じ物を手に取り男が読み上げた箇所を目で追っている。

 しかし、何よりも目を引くのはメタリックブルーで丸みを帯び、四角く横長だが片方の端は楕円根元には青い丸でBと書かれたボタン、でもう片方の端は二本の短い突起で根元に赤い丸のAのボタンがあり、二つのボタンの間には四角いガラスが埋め込まれている、そんな妙な形の意匠が施されたバックルのベルトを身につけていた。

 

「そして約二十年ほど前には新たな法が制定され、異民族の迫害がより強くなったという事だ。

さて、今日の授業はこの辺にしておこう。明日は字の読み書きと算術の授業だ、皆気を付けて帰るように」

 

「先生、ありがとうございましたー!」

 

「また明日ー」

 

「帰ってお母さんのお手伝いしなきゃかー……」

 

  子供達は男に礼を言うとその後の予定を口々にその場を後にした。ある者達はまた集まり遊ぶ約束をし、ある者は家の手伝いをするようだ。

 男は子供達が散り散りと去って行く様を見ていると、一人の少女が踵を返して男の元へと戻ってくる。

 

「せんせえ、あの、その、あたしの友達もお勉強したいんだけど、お金が無くて学校行けなくてその……」

 

 言い淀む少女に対して男は膝を曲げて視線の高さを合わせてそっと彼女の頭に手を乗せて撫でる。

 

「サリア君、その子を明日からでも連れてくると良い。

本とペンは私が用意しよう、但しそれを持ち帰る手提げのような物は持ってくるように言ってくれ」

 

 サリアと呼ばれた少女は明るい笑顔を見せると、頭を下げてお礼を言い去って行った。

 男はそれを見送ると立ち上がり自分の本を鞄へとしまい込み広場を後にしようとした所で背後から声をかけられた。

 

「毎日ご苦労様です!貧しい子供達のために勉強を教えているとは……本当に頭が下がります!」

 

 男が振り返るとそこには明るい栗色の長い髪をポニーテールに纏めた印象的な可愛らしい笑顔を見せる少女が敬礼をしている。しかし彼女の身を包む服装は帝都の安全を守る警備隊の制服であり若い身でありながら一般的にはご立派な立場であるのだろうことが伺える。

 そして左手に持つリードの先には小さい危険種の様な謎の生物が繋がれている。

 

「其方こそご苦労様だ、確か貴方は帝都警備隊の……」

 

「はい、セリュー・ユビキタスと申します!

貴方の事は私達警備隊の間でも話題になっていますよ!子供達を正しい道へと導くご立派な方だと」

 

「ご立派ね……私はただ子供達には常に可能性を持たせるべきだと思っているだけだ。それが正しい道へ、間違った道、輝かしい道、暗黒の道……私は其れ等のいずれかへと導くつもりも無い。

私は事実と道があるという事を教えるだけだ。どの道を選ぶかは子供達が自分で決める事だと思っている」

 

 男は少女と視線を合わさずに自分の持参した本を鞄へとしまい込みながら淡々と語った。

 すると少女は追うように回り込んで男と目を合わせる。

 

「それでも私は、貴方は子供達を正しい輝く道へと導く正義の人だと信じています!」

 

「……それはどうも。これから私は用事があってね、失礼させてもらうよ」

 

 男は少女に一礼するとその場を離れるために歩き始める。

 

「あっ!巷ではナイトレイドなどの逆賊が暴れまわっていますので私達が断罪するまではお気を付けてくださいねー!」

 

 男は片手を挙げてそれに応えてその場を後にした。

 広場を離れた男はしばし歩き、BOOKNIGHTと書かれた看板の店の暖簾をくぐって中へと入る。

 

「はい、いらっしゃい……って先生じゃないですか。今日は週の支払いの日じゃないですがいつものですか?」

 

 店の中にはカウンターに男にしては長めの緑色の髪をして片目を隠すような髪型で、ゴーグルを頭に着けた少年がエプロンをつけて座って居た?

 

「いつもいつもすまないね。

借りたら最後、殆ど本を返しに来ない私に本を貸し続けてくれて本当に感謝しているよラバック君」

 

「何言ってるんですか。キチンと料金を払い続けてくれる先生さんはウチにとって大変優良なお客さんですよ」

 

 ラバックと呼ばれた店主の少年は慣れたように本棚から数冊の本を取ってくる。

 男はラバックから広場で自分が読んでいた本を含む数冊の本を受け取り鞄へとしまい込み、財布から金貨を数枚取り出してラバックへと渡す。

 

「今週の分も含めて少し多めに渡させてもらう。今後とも付き合いをよろしく頼みたい」

 

「そういう事ならありがたく、確かに頂きましたよ。

ウチとしては売り上げが上がりますし、貧乏な子供達も勉強が出来て喜んでいるでしょうけど、先生はどうしてこんな事してるんです?

……先生もこの一見平和に見える帝都の惨状はご存知でしょう?」

 

「そういう性分、という訳では無いのだが。子供達には誰でも色んな道があり、未来の可能性は無限にあるという事を知ってもらいたいんだよ。

それがこんな帝都であってもね」

 

 男はラバック少年と他愛もない雑談をし、話が乗ってきたのかラバックはお茶まで出して気がつけば一時間程度も会話をすると、男は店を出て自宅へと歩き始めた。

 

 

 

 一夜明けた日の昼前、広場にて男は子供達が集まるのを待っていた。

 殆どの子供が集まり、本日は来れないと言っていた子供を除けばまだ来ていないのはサリアとその友達のだけだった。

 この教室は特に集合時間などは設定していない、それでもサリアは普段は子供達の中でもここへ来るのは一、二番くらい早い子であるが、友人を連れて来るから少し遅いのだろうと思い、男は子供達と談笑していると件の少女は現れる。

 一人で、大粒の涙を流しながら。

 

「……サリア君、一体どうしたんだ!?」

 

「せんっ、せえっ……えぐっ……あたしの、ともだち、これなくなっちゃった……ひぐっ……あのこもっ……あのこのパパもママも……ころっさっ……ううっうあああぁ!!」

 

 良い終えると同時にサリアの悲痛な叫びが溢れ出る。

 不安、哀しみ、恐怖、憤り、とてつもない負の感情に幼い少女は耐えきれなかった。

 男は全てを言い切らない彼女の言葉であるが事情を察して、昨日と同じようにサリアの元へと行き膝を曲げて頭に手を乗せた。男の手の温もりにほんの少しだけ安堵したのかサリアは泣きじゃくる顔を男の胸に埋め、男は彼女を優しく抱き寄せる。

 

「……皆、すまないが今日の授業は中止にしよう」

 

 生徒の面々も彼女の様子を見たため男の提案には賛成した。

 しかし子供達の中にはサリアの悲愴な表情に感化されて泣きそうな子供もいた。それでも子供達は1番悲しいのはサリアなのだと、涙を流す事はない。彼女にかける言葉が見つからない事に歯噛みしながら一人、また一人と広場から去って行った。

 全員が去ったのを見ると男はポケットからハンカチを取り出してサリアの涙を拭ってやる。

 

「グスっ……ごめっ……さいっ……せんせぇ……」

 

「良いんだ、私にとって大切な生徒が、皆にとっては大切な友人が悲しみに暮れているんだ。勉強なんか出来るはずもない。

家まで送ろう、しっかりと掴まっているんだよ」

 

 男はハンカチを渡してサリアを軽々と抱え上げると彼女の家の方へと歩き出した。

 泣きじゃくる少女を抱き抱えて街を歩く一人の男、本来ならそれだけで白い目で見られる物なのだろう。しかし、男は無償で子供に勉学を教える聖人、あるいは奇人として帝都で少し顔が知られているため道中で不審に思われる事は無かった。

 サリアの家は広場からそう遠くはないため15分程歩いて到着したが、未だに彼女の頬を涙が乾く事は無かった。

 彼女を地面へと下ろすが、サリアは中々男から離れようとはしなかった。男はそれを不快には思わず、彼女が落ち着くまで頭を撫で続けた。

 

「……ありがとっ……ござっ……ました……」

 

 サリア少し落ち着いたのか嗚咽を漏らしながら男から離れて礼を言う。

 

「……君は友達とその家族を亡くし、深い悲しみという海の底にいる。

そして、君をその海へと沈めた者は今ものうのうと穏やかに過ごしているだろう。

それでも、そんな者は必ず報いを受ける。そうでなければこんな世の中は不条理にも程がある。

君ではない誰かが、例えば帝都の役人やナイトレイドといった力を持った者がきっと君の友達を殺した者を裁くだろう」

 

「……せんせぇが……ひぐっ……話してくれた……仮面ライダーも?」

 

「……断定は出来ない、私も仮面ライダーの話は両親から聞いた事しかないからな。

だが、仮面ライダーもきっとそんな輩を許しはしないだろう」

 

 男はそう言うとサリアの真っ赤な目をしっかりと見つめる。

 サリアは思い切り花を啜って無理矢理涙を止めると、男のハンカチで涙を拭う。

 

「せんせぇ、ハンカチ……借りてても良い?」

 

 サリアの問いに男はそっと微笑んで頷く。

 

「ありがと、せんせぇ。

あたし……すぐにはできないと思うけど……大丈夫だから……ほんとにありがと、マサムネせんせぇ!」

 

 サリアは頭を下げるとそのまま家の中へと入って行った。しかし、彼女のそれが強がりだった事が外まで聞こえる感情が溢れ出る悲壮な叫び声で分かった。

 それを見送るとマサムネと呼ばれた男の顔は温和な教師としての表情から打って変わり険しい表情へと変化した。

 

「さて、まずは調査からか……」

 

 

 

 広場からそこそこ離れた一軒家、普段は人もまばらなのであろう場所なのだろうが今日は帝都警備隊の人間が5人ほどで立ち入り禁止と書かれたテープを至る所に貼られた家の中を調べていた。

 サリアの家からは結構な距離があり、おそらく迎えに来たのであろう彼女に待ち受けていた事実はさも重すぎる物だったろう。

 マサムネはそんな事を考えていたらポニーテールを揺らしながら警備隊員の一人、セリューがやって来て敬礼をしたのでお辞儀をして返した。

 

「お疲れ様です。

……今日は授業は無い日なんですか?」

 

「殺害された一家の子供が私の教え子の友人でね……今日から私の教え子になる予定だった。

一家のご冥福をお祈りします。

捜査の方は如何かな?」

 

「確かでは無いのですが……恐らく帝都近郊に潜んでいる賊の仕業かと。

3日程前に似た手口の強盗がありましたので……もちろんその悪共は粛正しましたが残党かと思われます……ですが安心してくださいっ!私達が犯人を必ず成敗しますので!」

 

 捜査の進捗の悪さに憤り拳を握り締めて己が無力さに歯がゆさを感じるセリューを横目にマサムネはそうか、とだけ呟いて家の方へと目をやる。

 すると家の中から質素な服ではあるが、どこか気品を感じる中年の男が家の中から外へと出てくる。この家の親族の者かとマサムネが思案していると、横からセリューが口を開く。

 

「あの方はこの地域の税の徴収をなさっている役人のメルツさんです。

なんでもこの家のご家族から色々とご相談を受けていたそうですが、今回の事で酷く心を痛めているみたいです……」

 

 彼女の言葉が真実であるのなら、腐りきった人間の多い帝国の役人にしては大層立派な人物なのだろう。

 しかし、マサムネは確かに見た。

 ある家族が惨殺された事に心を痛めているはずの役人の口が一瞬だけ歪な形の笑みを浮かべた事を。

 

「……私はこれで失礼させてもらう、捜査が進む事を願っているよ」

 

「ハイ!ありがとうございます!

嘆かわしい事ですが悪党が多いので先生も夜道は気を付けてくださいね」

 

 マサムネは会釈をして振り返りその場を離れた。

 この帝国の役人は大概反吐がでるような人間が多い。自分の担当する地域の人間が死んだ事に心を痛める役人なんて本当に存在するのか疑わしい。もちろん、そんな奇特な人物がいた方が良いのだろうが、メルツという役人の邪悪な笑みを見たマサムネには到底信じられない。

 しばらく考えながら歩き続けて、マサムネはやがて人の居ない路地裏へと足を踏み入れる。

 

「まずは実行犯と思わしき者たちに聞いてみるとしよう」

 

 マサムネはポケットに手を入れてある物を取り出す。

 薄い透明の板に黒い柄が取り付けられていて、握った指を保護する黄緑のナックルガードとその反対には同色の小さな突起(ボタン)が付いている。

 マサムネは黒い柄を握り、緑の突起を押した。

 

『仮面ライダークロニクル』

 

 すると、マサムネの持つ透明の板低めの音声、軽快なリズムの音楽が流れる。

 そしてマサムネは音楽が流れる中、ベルトの意匠のAと描かれたボタンを押して黒い柄から手を離した。

 黒い柄を手放した事で透明の板は地面へと落下……する事はなく、重力に逆らい急浮上するとベルトの意匠の隙間へと透明な板の部分が突き刺さる。それが想定されていたサイズのようにピッタリと。

 

『ガシャット』

 

 先程と同じ音声が今度はベルトから発せられてガラスの部分は緑色の人型のシルエットが一瞬映し出される。

 マサムネはBと描かれた意匠の上にある小さな赤い突起に指をかけて。

 

「変身!」

 

 押した。

 

『バグルアップ』

 

 再びベルトのガラスが光り出して緑の人型を写すとガラスから飛び出し、頭上で同じ絵が描かれた四角い光りの壁となった。

 

『天を掴めライダー!刻めクロニクル!』

 

 今度はマサムネの前面に針のない時計が映し出された。

 そしてゆっくりと頭上の光りの壁、前面の針のない時計はマサムネへて近づく。

 

『今こそ刻は、極まれり!!』

 

 二つがマサムネの身体へと到達すると強い光を放つ。

 そこにはスーツ姿のマサムネでは無く、黒いスマートな鎧、胸から肩に掛けてはさらに強固に見えるアーマーになっており黒地がベースのマントとも一体になった物を身につけたマサムネが立っていた。

 黒い鎧には緑色のラインのデザインが施されていて同色の髪の毛を思わせる頭頂、王冠を思わせる装飾が頭部に付いている。

 

「……フッ!!」

 

 黒い鎧を身につけたマサムネは手を数回開け閉めをすると、遠くを見つめて跳躍する。

 その凄まじい速さ、ジャンプの高さで一瞬で遠くへと移動し、路地裏は静寂を取り戻した。

 

 

 

 帝国の役人、メルツの家は民が住まうような質素な物である。

 民から税を徴収する立場である自分は、彼らと同じ目線で生活を行い同じ苦難を経験する事を信条としていると言われているからだ。

 そんな信条を謳っているメルツは自室にはとても不釣り合いな高価なワインに舌鼓をうつ。そのワインの銘柄は本来なら一介の役人が目にかかる事も困難な希少な物であった。

 

「フフフ、バカな(市民)から集めた税で飲む酒は美味い。

尤も、副業での収入が上々でなければこれ程の物は頂けないがな」

 

 グラスを傾けてメルツは極上のワインを喉に流し込んだ。

 

「ほう、そんなに良い副業があるのなら教えて頂きたいものだな悪徳役人のメルツ殿?」

 

 この部屋に入るには一つの扉を通る以外の方法は存在しない。例外的に壁や天井を壊すといった方法があるが破壊の音は存在しなかった。そして自身は扉に向かい合って酒を飲んでいる。

 そんな有り得ない背後からの声に驚いたメルツは後方に目をやると、そこには壁に背を預けて腕組みをしている黒い鎧の姿があった。

 中身はマサムネなのであるが、当然メルツはそんな事を知る事はない。

 

「なっ、何者だ!どうやってここに!?」

 

「質問に質問で返す事は正しい会話ではないな。

まあ先に答えて差し上げよう。

私は仮面ライダークロノス。その扉を開け目の前を通り背後に来たのだよ」

 

「バカなっ!そんな事はあり得ん!」

 

「私は質問に答えた、今度は君の番だ。

まあ君と癒着し、警備隊のパトロールの時間とルートの情報を流していた盗賊の一味は、纏めて帝都警備隊の詰所の前に置いて来たがね。

昨日の実行犯を特定するのに手間がかかり、こんな時間になってしまったが」

 

 マサムネの言葉にメルツは動揺するが、すぐに不敵な笑みを浮かべて空のグラスにワインを注いでテーブルに置く。

 

「ふっ……フフフ……君もどうかね、なかなかお目にかかれない上物だ。

……なるほど、あの駒供は君にやられたか。確かに君の言う通り、私は帝都近郊の賊に一家を襲わせ金や食料を奪わせていた。

奴らに情報を与えて、奪わせた金品の半分は私の懐に来る。役人をしていると色々と入り用で出資が多くてね。

君は、奴らを警備隊の所へ連れて行ったと言ったがそこから私に繋がる事はありえん。私の日頃の行いと、隊長のオーガへの賄賂のお陰でね。

事情聴取があっても切り抜ける自身もあるさ。帝具持ちの若いバカな女隊員が訪ねて来てくれれば一言二言言葉を交わせば私の潔白は証明できるだろう」

 

 メルツはワインを勧めるがマサムネはそれには無視を決め込んでいる。渋々メルツは手に持ったマサムネに用意したワインをテーブルに置いて自分の物を口へと運ぶ。

 

「そんな事だろうとは思っていた。

実際に詰所で見たが、セリュー・ユビキタスは賊の弁を聴こうともせずに惨殺したよ。

黒幕を知ろうともしないで敵は外部のみにしか居ないと思い込んで帝国に属する者(身内)は正義だと疑う事をしない。実に愚か事件を防げず、弱者である民を威圧するだけの他の警備隊員も無能ばかりだとも思う。

しかしまだ民には形ばかりだが、日々の平穏を守ってくれていると思われている。安心を提供しているから帝都警備隊もまだ商品価値はある。

……もう一つ聴きたいことがある。あくまで君は情報を流していただけで襲わせる家の指定はしなかったのか?」

 

「おかしな事を聴く男だな。

そうだな、今まではそうであったが……昨日のは違う。私とあの家族は昔からの知り合いで、嫁さんには私も恋い焦がれていたよ……しかしあの男を選んでしまったのが運の尽きだったなぁ」

 

 メルツはつまみのチーズを口に放って粗食して飲み込むと、ワインを飲み干して再度グラスへと注ぐ。

 

「若かった私は怒りに震えたと同時に、復讐心に駆り立てられ、そして死にものぐるいで下積みを重ねて帝国の役人になった。

あの男が幸せの絶頂である時に全てを壊すためになぁ。簡単なんだよ、帝国の役人が(市民)を殺す事などね。

私もあの場に居たんだ。アイツの目の前で年端もいかない娘を嬲り殺しにして、嫁さんを犯した時のあの顔ったらなかった。お陰で今日は現場に落としてしまった役人の証を取りに戻る羽目になってしまったがな。

今思い出しても嫁さんを犯した事、娘を嬲った事、最後にあいつを殺した事は気持ちが良かったなあハハハハハ!!

いやあ、お互いに年を重ねたと言っても彼女の身体は……」

 

「もういい、やめろ」

 

「おおっと失礼。

どうだね?

この際ここに侵入した事は許そう、だがその手腕は素晴らしいな。私の部下にならないか?

君の働き次第で私も上へ……大臣のお抱えになる事も夢ではない。そうなれば君の報酬も思いのままだ!」

 

 マサムネは腕組みを外すとゆっくりと歩き出してメルツの正面に回り込んで向かい合う。

 

「おめでたい男だな。

まだ自分が死ぬ事はない、商品価値のある男だと思い込んでいるとは実に滑稽だ」

 

『ガッチャーン』

 

 マサムネはベルトのバックルを取り外してAのボタンが上になる様にグリップへ取り付ける。

 そしてメルツの方へと向けるそれはまるで二問の口がある銃の様であった。

 

「まっ待て待て!この世の贅の限りを味わえるかもしれないんだぞ!」

 

 銃口に緑の光が集まり、身の危険をようやく感じたメルツは先程までの余裕が消え去り醜く狼狽えて椅子から転げ落ちる。

 その様を見てもマサムネは動じずにメルツの動きに合わせて銃口を追う。

 

「近しい者の消失は人に大きな影響を与える」

 

「そうだ!だから私はこれで大きく前に進め……」

 

「貴様の事などでは無いっ!!」

 

 メルツの反吐の出るような腐った実態を知ってなお温厚に接していたマサムネが始めて声を荒げる。

 

「近しい友人が無惨に殺される……彼女がその衝撃を受けるには幼すぎる!

いずれは来る経験かもしれないが今である必要などない!

……審判の刻だ。

善人面で税の徴収を行う裏で賊の手引きをして街の治安を乱し前途ある者の命を奪った貴様に、商品価値は……無い」

 

「ひっ……ヤメ、ヤメロおおおお!誰かあああ!」

 

 メルツの叫びが部屋に響き渡る。しかし、隣家とは離れているため、この事に気付いた人が居たとしてもこの場に間に合いはしないだろう。

 

「あの世で一家に……いや、今まで加担した悪事の被害者全員に謝罪するんだな」

 

 銃口から緑の光のエネルギー弾が発射され、一瞬のうちにメルツの腹部には大きな風穴が二つ空く。

 メルツは絶命すると同時に穴からは血が止めどなく流れ出る。

 ピクリともその身体が動かなくなった事を見届けてバックルをベルトに戻してマサムネはその場を後にした。

 

 

 

 一夜明け、街は心ある役人が命を落としたとして騒然としていた。

 それでも人々は動かなければならない、嘆き悲しむ者がその件で話しながら仕事をする喧騒の中、いつもの広場へと向けて街路をマサムネは一人歩く。

 

「あっ、おはようございます!」

 

 前方に居た警備隊員の少女、セリュー・ユビキタスは悲壮な空気を飛ばすかのように元気な声をマサムネにかけた。

 

「やあおはよう。

……そしてお疲れ様といったところかな?」

 

「はい……実は昨日メルツさんが賊に殺されてしまいました。犯行から恐らくナイトレイドの仕業だと思れます。

また一人、悪の魔の手によって帝国の要人の命が……っ!

でも、悪い事ばっかりじゃないんです!

一昨日の事件の犯人が成敗されました。

……捕まえたのは私たち警備隊では無いのですが。

ここだけの話、仮面ライダーって腕の立つ民間の方が捕らえて来てくれたんです!

私達以外にも正義の味方がいたなんて!」

 

 相変わらずの狭すぎる視野ではあるが、真っ直ぐな感想を漏らすセリューに内心ため息をついたマサムネはその後、一言二言言葉を交わして別れた。

 

「仮面ライダーが正義の味方か……確かに大体の仮面ライダーは正義の味方だ。

だがクロノスはそうではないのだがな」

 

 色々と考え事をしながらポツリと言葉を漏らすと、マサムネは広場へとたどり着いた。

 

「せんせぇ!おはようございます!」

 

 今日は自分より早く来ていた生徒は一人。

 昨日悲しみに暮れていた件の少女、サリアだった。彼女は元気に挨拶を笑顔をマサムネへと向けた。

 

「ああ、おはようサリア君。

その……大丈夫かい?」

 

 思いもよらない人物がそこに居たのでマサムネは目を丸くする。そして少し言葉を詰まらせるものの自分には気の利いた言葉はかけられないと悟り、シンプルに彼女へとたずねる。

 

「ううん……すっごく悲しいよ……でもねでもね、あたし決めたんだ、あの子の分まで勉強を頑張ってあの子とあたしがやりたかった事をやるんだって!」

 

 目に涙を浮かべるが、それを拭って少女は気丈に笑い強く言い放つ。

 

「そうか……皆が集まるまで待とうか。集まったら……勉強を始めるよ」

 

「うん!」

 

 悲劇を味わった少女の心が擦り減り、壊れてしまわないかを懸念していたマサムネであったが、少女は強い。

 前に向かって進める力を持っていた、小さい身体と心でも強く。強く。前へと。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。