アカメが斬る〜IFルート クロノスがKILL〜   作:ヌラヌラ

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第2話〜重なり始めるstory〜

 勉強会の終わった昼下がり、マサムネは露店で買った果実のジュースを飲みながら一人街路をアテもなく彷徨していた。

 普段であれば次の日の授業の準備をするか生計を立てるための金策に勤しむのだが今の懐事情は充分な潤いがあるのでその必要もない。言ってしまえば暇なのである。

 ちなみにマサムネの生計はクロノスに変身して帝都外の危険種を狩り、血抜きから解体までを行なって変身を解いた姿で商人に売るか、先日のように賊を捕らえて懸賞金がかけられていれば変身したまま受け取る事で立てている。正直な話、変身して宮殿なり高官の住居へと忍び込んで財産を奪う事など容易い事なのだが、それを行う事によって犯行がバレて税が重くなる事や犯人を捕らえるために最悪虐殺などの事態が起きかねないのでする事はない。少額なら問題は無いのだろうが、それでもマサムネは盗みで生計を立てるつもりはない。

 

「おや、アレは……?」

 

 マサムネの視線の先で金髪に白と青のワンピースを着た少女が楽しそうに歩いていた。服装や装飾の綺麗さと、護衛を連れて買い物をしている様子から富裕層のそれも貴族の少女である事が伺える。

 別段珍しくもない風景ではあるがマサムネは一つの違和感を感じた。

 確か数日前、その少女は護衛の他に共に黒髪をした10代半ばであろう少年と少女を連れていた筈だった。しかし、今日はその時にいた人物とは別の同年代であろう剣を背中に装備した茶髪の少年を連れていた。

 先日の男女と今の少年、どこか帝都慣れをしていない、悪く言ってしまえば田舎者といった印象を覚える。

 

「そういえば、立身出世を夢見て田舎から出てきた者を奴隷や人体実験、悪趣味な趣味で喰い物にしてる貴族が居ると聞いたことがあるが……まさかとは思うが、万が一の事を想定しておこう」

 

 自分が仮面ライダーの名を冠する者である以上、見えてしまった範囲で起きた事案を見逃せない事が半分、時間潰しになる事が半分でマサムネはとりあえず少女の身元を探る事から始めた。

 ただの通行人を装い彼女達へと近づき、すれ違う。護衛の男達が持っていた山のような量の荷物、恐らくは彼女が購入した物を確認するとその内の一つの包装紙がマサムネもよく利用する服屋の物があった。

 スーツの新調も考えていたため、マサムネは店へと赴き暖簾を潜ると気付いた程よく年齢を重ねた女性の店主は気さくに話しかけてくる。

 

「あら先生様、いらっしゃいませ。新しいスーツをお求めですか?」

 

「お久しぶり。そのつもりだ、よろしく頼みたい。

実は今日はこの店に来る予定では無かったんだが、先程どこか良い所のお嬢さんが護衛に持たせていた荷物の中にこの店の包み紙があったのを見てね。私もと思ってつい釣られてしまったよ」

 

「良い所のお嬢さん……ああ!

その人はこの先のお屋敷に住んでいる富豪の方の一人娘のアリアお嬢さんですよ。

よくアタシのお店にも買いに来てくれて、ホントに良いお得意様なんですよ。

それじゃあ採寸するんで上着預かりますね」

 

 マサムネはスーツの上を脱ぐと店主に預けて手を上に挙げる。店主はハンガーにマサムネのスーツを掛けるとメジャーを取り出して上半身のサイズを測り始める。

 

「それに田舎から出てきた右も左も分からない若者を保護して、ご主人に頼んで働き先の斡旋もしてあげてるらしいわ。ホント、あの年で立派な良い子よねぇ。

先生様やあの娘の様な方達を見てると、この腐った帝都もまだまだ捨てたものじゃないって思えますわ」

 

 身体の採寸を行った後、しばらく店主と話を続けて気がつけば日も沈み夜になっていた。店主の話ではアリアは天真爛漫な可愛らしい少女との事だが、このご時世、自分を含めて裏の顔を持つ人間など何人居るものか。

 

「一度違和感を覚えたら、拭わないと精神衛生的よろしくはない」

 

 人気の無い路地裏へと行き、マサムネは黒い柄を握り透明の板を取り出し、そのまま起動のボタンを押す。

 

『仮面ライダークロニクル!

ガシャット!』

 

「変身」

 

『バグルアップ!

天を掴めライダー!刻めクロニクル!今こそ時は極まれり!』

 

 マサムネはクロノスへと変身し、帝都の家々の屋根へと飛び上がると件の少女の住まう屋敷へと足を運ぶ。屋根を伝い時には飛び移りながら移動をする。

 クロノスは100メートルの距離を1秒と経たずに走破できる。そのため屋敷までたどり着くのに数分もかからなかった。

 そして近くの民家の屋根の上から大きく跳躍して屋敷の塀を飛び越えて敷地内へと足を踏み入れた。

 

「さて、この広いお屋敷に(バグ)はあるのか……」

 

 マサムネは人差し指を立てて顳顬の辺りをトントンと二回軽く叩いて屋敷を見回した。

 マサムネは少しの間正面から屋敷を見ていたが、仮面の下で険しい表情を浮かべて母屋から少し離れた大きな倉庫の方へと足を運び戸の前で立ち止まる。

 

「無事であれば良いが……」

 

 そうポツリと呟いて扉に掛けてある大きな錠を手で握ると力任せに引きちぎり、敷地内を警備しているこのお屋敷の私兵に気取られぬようにゆっくりと扉を開いて中へと入った。

 倉庫の中は通気口の格子から入り込む光が床の一部を照らすのみの闇の空間だったが、クロノスの目の部分が光り部屋の全容が明らかになるとマサムネは思わず目を背けた。

 

「コレは……なんと酷い、空気を清浄に保つ機能には感謝しても仕切れないが、ライダーの眼の優秀さを苦痛に思う時がくるとはな」

 

 倉庫の中は悍ましく、床や壁には血の跡が残り天井からは無数の鎖が垂らされており、その先には身体の造りで辛うじて判断出来る程度に至る部分が欠損した死体が吊るされている。在るものは手足を刻まれ、在るものは腹部を、また在るものは眼、耳、鼻を削ぎ落とされている。

 他にも床には夥しい数の拷問器具、大きな車輪に鋭い棘の意匠が凝らされた物、切断するよりも叩き切るといった用途の剣、その他にも丸鋸や皮の鞭、棍棒や焼印といった数々が乱雑に置かれている。

 また棚には薬品に浸けられた人間の生首や赤子、臓器や脳味噌。またある所には大きな水槽があり数人の人間が重りを手足に嵌められて溺死している。

 

「また……来やがったのか……ちくしょう……ちくしょ……う……」

 

 今にも消え入りそうな細い声がマサムネに呼びかける。その声の主こそ、マサムネがこの倉庫へと足を運ぶ理由だった。

 マサムネの側面から聞こえた声の方は牢になっており、中には口元に血をつけて頭に白いバンダナを巻いた黒髪の少年が入れられていた。上半身は何も身につけていなかったが、顔や手足に至る身体中に黒い斑点が何より目を引いた。

 その少年は数日前に街でマサムネが見かけたアリアに連れられて歩いていた少年であった。

 

「君が、この中で唯一まだ息のある者か……私は仮面ライダークロノス、この家の者では無い。

とある悪い噂を聞いてね、真相を確かめるべく足を運んだのだが……悪い予感は的中するものだ。

私には一定の範囲内人の生体反応を把握する機能が備わっていて、それで君の事を知って駆けつけたのだが……」

 

「なんだ……助けてくれんのか……せっかく来てもらって……悪いが……変な薬……打たれて……体がおかしくなった……もう長くは……ゲホッ!」

 

 途切れ途切れに言葉を遮るように少年は吐血する。

 マサムネは少年の入れられている牢の入り口を掴んで引き剥がし、少年に近寄り牢から出して格子に背中を預けるように座らせる。

 

「その斑点と吐血から察するに君はルボラ病に侵されている……それも末期のな。

おそらく打たれた薬が人為的にルボラ病に感染させるものなのだろう。

そして君はもう助からない……私は命を救える者(ドクター)ではない……すまないな。

私にはこれくらいしか出来ない」

 

 マサムネは本の様な形をした黒いケースを取り出して開くと、中にはいくつものメダルの様な物が整頓されて収められていた。そしてその内の一つ、白いメダルに元気良さそうに両腕を上げて内側に曲げるシルエットが描かれた物を取り出して上へと投げる。

 

『回復!』

 

 メダルが音声を発するとどんどんと大きくなり少年の胸に刺さると、彼の体が発光し少しの間が空いて収まった。

 

「これは……さっきまで苦しかったのになんともない!?

アンタは一体……?」

 

「待て。ぬか喜びをさせてしまったようだが、あくまで体力を回復させただけでルボラ病が治った訳ではない。

君に問おう。

再び先程までの苦しみに襲われる前に自分か私の手で命を絶つか、ほんの僅かだけ永らえた命を最期の最期まで燃やし続けるか選ぶといい」

 

 マサムネは少年への介錯のつもりで言ったがそれは暴論でもあるだろう。自分で勝手に延ばした命を再び苦しむからとすぐに絶とうとするなど自分勝手に命を弄び冒涜しているともとれる。

 それでも、一度死を覚悟していた少年は一つだけ心残りがあったのでそうは思わずに寧ろ感謝の念すら抱いていた。

 少年は一つ大きく息を吸って吐くとクロノス(マサムネ)の方へと向き直った。

 

「そっか……俺やっぱり死んじまうんだな……。

……吊るされてる死体の一人に長い黒髪の良い女がいるだろ?

……下ろしてやってくれないか、仲間なんだ」

 

 少年の視線の先には先日共に歩いていた少女の亡骸が吊るされていた。

 他の死体とも一線を画す程に甚振られたのであろう、身体に何も纏わずに両手を吊るされ顔は幾分綺麗なままであったがそれは他の部分に比べればと言うだけで片足を捥がれて、肌には無数の傷跡が残り傷口や身体に付着した血は黒く固まってしまった少女の死体。数日前に一見しただけだが、その可憐であった少女の面影はない。

 マサムネは恐らくこの家の一家が拷問時に返り血を受けない為に着るのであろう黒いマントを二つ見つけ、未使用であったそれらの内の一つを少年の近くの床に敷く。そして少年の仲間の少女の骸の枷を外すと敷いたマントの上に乗せ、もう一つを彼女の身体にかけた。

 

「憎い相手が使っていた物だろうが、無いよりは良いだろう」

 

「ありがとよ。

……俺達の村が凄い貧乏でさ、帝都で名を挙げて稼いで故郷を救おうって仲間と一緒に旅立ったんだけど、途中で野盗に襲われてバラバラになったんだけどソイツ……サヨと会えて帝都には辿り着けたのに、善人面して寄ってきたあの女の誘いになんか乗っちまったばっかりに……俺は婦人に変な薬打たれて……サヨはあの女にイジメ殺された……クソっ!クソっ!」

 

 少年は悔し涙を浮かべてレンガ張りの床に拳を打ち付ける。何度も、何度も。

 マサムネはそれを止める訳でも無く見続けると、やがて溜飲が下がったのか、無意味だと思ったのかは分からないが少年は目元に溜まった涙を拭った。

 

「アンタ、仮面ライダーとか言ったっけ……後生だからもう一つ頼みを聞いてくれないか?」

 

 命の炎を最後に燃え上がらせている状態の少年の強い意志の眼差しにマサムネは黙って頷く。

 

「俺はイエヤスってんだ。

……俺達にはもう一人、タツミって仲間がいるんだ。野盗に襲われた時に逸れた一人なんだけど、アイツが無事にこの帝都に辿り着けてアンタに会うことがあったら伝えて欲しい。俺とサヨはもう一緒には行けないが、お前の無事と進む道の大成を願っているって……グッ!!」

 

 イエヤスと名乗る少年は体を蝕む病に再び苦しみ始め、血の混ざった咳きをする。マサムネは再び背を摩るも仮面の下で己が無力を嘆く。

 

「やはり、少し体力が回復した程度ではもう限界か……タツミ君の特徴を教えてもらえるか?」

 

「身長は俺と同じくらいで……茶髪……少しツンツンしてる髪型で……背中に剣を装備してる筈だ……ゲホッ!

……アイツは……器用な奴なんだ……俺と違って……必ず……この帝都で名を挙げられる……有名になるから……頼むっ……伝えて……」

 

 イエヤスの語る特徴は昼間にマサムネが見た少年に当てはまるものだった。勿論、似たような外見の少年なんて探せば何人もいるのだが直感的にマサムネは昼間の少年だと確信する。事実は小説よりも奇なり、運命とはかくもそのような物だと考えているからだ。

 

「イエヤス君、未来への意志を友人に託すというのだな。死に際に命が燃え尽きる事を悔やむよりも友人を気にかける君の信念は美しく何物にも代え難い素晴らしい価値がある。

……だからこそ、その言葉をタツミ君へ届けるのは私ではない。君自身だ」

 

「それは……どういう……」

 

 マサムネはイエヤスを床に寝かせると立ち上がり、バックルのAボタンとBボタンを同時に押し込む。

 

『ポーズ』

 

 無機質な音声と共に、再び倉庫の中に暗黒の闇が訪れた。

 イエヤスはクロノスが目の灯りを消したのかとも思ったが直ぐにそれは違うと分かった。

 近くにいた彼の気配が微塵も感じられなかったからだ。

 

「オイ……何処行ったんだよ……オイ……っ!!」

 

 イエヤスの声に返事をする者は何も無い、ただ虚しく自身の声が反響するのみだった。

 現実は今もサヨはその亡骸が吊るされたままで自分は今も牢屋で苦しんでいて、もしかしたら仮面ライダーというのは自分が最後に見た幻影だったのかもしれない。自分の病の発作が一時的にでも収まり、サヨの無惨に晒された骸は尊厳を取り戻し、自分達の無念と志を残った仲間へと届けてくれるそんな都合の良い幻影。

 幻影が消えてから夢物語に出てくる魔界の底ような暗闇の中で、激しい動悸と血の含まれた咳が自分の生命を削り続け意識も朦朧としてきたイエヤスの意識を覚醒させたのは分厚い鉄か何かが強い衝撃を加えられて破損して響く轟音だった。

 

「鍵が開いていたが……かけ忘れか?

まあ、そんな事はどうでも良い、見てみろ少年。これが帝都の闇だ」

 

 女性の声が外から聞こえてくるがイエヤスの耳に入るものの只々通過した。その後も何人かで話をしているようだがそれも左耳から右耳へと流れて行く。

 どうやら先程の音は扉が破られた音だったらしい。月明かりが倉庫と言う名の拷問部屋を照らすと、イエヤスは自分の体が牢屋の外にいてサヨの身体は近くにある事が分かった。

 仮面ライダーと名乗る男の存在は幻影なんかじゃない。確かに居たのだとイエヤスは確信した。

 

「う、嘘よ!私はこんな場所があるなんて知らなかったわ!タツミは助けた私とコイツ等とどっちを信じるのよ!?」

 

 仲間を、サヨを痛めつけて挙句命まで奪った女、アリアが泥のように汚い嘘を吐き捨てた言葉を聞いてイエヤスは正気に戻る。

 心の臓から怒りが湧き上がると共に、女が言った一人の名前に安堵した。

 

「タツミ……俺だ……イエヤスだ……お前……無事だったんだな……」

 

 入口の方を見ると、そこには自分達をこんな目に合わせた元凶の少女と親友のタツミ、サヨのように黒く長い髪と赤い目をした刀を持った少女、そして腕組みをした金髪の女性が立っていた。

 

「イエヤス……お前……サヨもっ!?」

 

 イエヤスとサヨの友であるタツミはこの拷問部屋の悍ましさに唖然とし、前方のみをまるで悪い夢を見ているような目で見ていたため声をかけられるまで気が付かなかったが、自らを呼ぶ友の声に再び驚愕する。見るからに既に息の無いサヨとすぐにでも死んでしまいそうな苦しむイエヤスの姿に。

 

「俺とサヨは……その女に……クソったれ家族に騙されて……ここに連れてこられて……サヨは……そいつにイジメ殺されたっ!」

 

 イエヤスにとって囚われてからの時間はとてつもなく永く終わることの無い地獄のように感じられた。再開した友はとても眩しく見え、話したい事は山のようにあったのに、地獄の時間とは反比例するように自分の時間は少ない。だから必死の思いで自分たちに起こった事を、サヨの無念を最初に伝えずにはいられなかった。

 

「……何が悪いって言うのよ……だいたいなんでアンタは檻から出てその女下ろしてんのよ!

それにその女が羽織ってんの私のお気に入りのマントじゃない!

最悪……もう着れない……」

 

「……アリア……さん……?」

 

 タツミ少年はイエヤスの言った事を一瞬だけ疑った。だが彼の身体とサヨの亡骸を見てそれが真実であると理解し、その一瞬の疑いを恥じた。それでも依然動揺は大きく、本性を現したアリアの事をつい呼び慣れたさん付けで読んでしまう。

 

「気安く呼ばないでよ!」

 

 アリアは叫ぶように応えると、金髪の女性に掴まれていた腕を振りほどきタツミの前へと躍り出る。

 

「だいたい何が悪いっていうのよ!

お前達は何の役にも立てない地方の田舎者でしょ!家畜と同じ!

それをどう扱おうがアタシの勝手でしょ!」

 

 次第にアリアの表情は醜く歪み、イエヤスにとってサヨを拷問していた時に見た忌まわしく、タツミにとっては昼間の気品を感じた笑顔からは想像も出来ない初めて見る物へと変わった。

 それでも、彼女の口から流れ出る泥水のような身勝手な言葉は止まらずにむしろエスカレートする。

 

「その女は家畜のくせに髪がサラサラで生意気すぎ!

私がこんなにクセっ毛で悩んでいるのに!だから念入りに責めてあげたのよ!むしろこんなに目を掛けてもらって感謝すべきだわ!」

 

 次々に出てきた罵倒の言葉もやがて止まり、その反吐の出るような醜さに刀の少女と金髪の女性は呆れ果てた。

 

「善人の皮を被ったサド家族か……邪魔して悪かったなアカメ……」

 

「葬る」

 

 刀の少女が眉ひとつ動かさずに刀を構える。

 

「待て」

 

「まさか……まだ庇う気か?」

 

 刀の少女を止めたのは他でも無いタツミだった。

 金髪の女性が怪訝な表情をして聞くが、イエヤスにはタツミが何をするのか、してくれるのかが長い付き合いで理解できて目に涙を浮かべる。

 

「いや……俺が斬る!」

 

 タツミは背負った剣を握ると、目にも止まらぬ速さと迷いの無さで抜刀し、アリアの身体を一閃する。

 アリアの身体は2つに分かれてあ、とだけ声を漏らすと切り口から血が噴き出て絶命した。

 タツミは宙に剣を振るい血を落とすと何事も無かったかの様に剣を収めた。

 

「へへ……さすがタツミ……スカッとしたぜ……グっ!」

 

「!……どうしたんだイエヤス!」

 

 親友が自分達の仇をとってくれた事に感激したのも束の間、イエヤスの身体の発作が今までで1番大きなものが起こり、口からは大量の血が流れ出る。

 もう命の炎がすぐに消える事をイエヤスは悟るが、親友(タツミ)はそう思わずにイエヤスに駆け寄り身体を起こした。

 その傍らで刀の少女と金髪の女性はイエヤスの症状を見て何が起こっているのかを察した。

 

「ルボラ病の末期だ……ここの夫人は人間を薬漬けにし、その様子を日記に書いて楽しむ趣向があった……ソイツはもう助からない……もう気力だけでもってる状態だろう」

 

「気力だけ……か……違う……俺は……生き延び……させて……もらった……仮面ライダー……に……」

 

「オイ!イエヤス!しっかりしろよっ!」

 

「……よく……聞いてくれ……俺とサヨは……一緒に……行けねぇ……でもな……二人で向こうから……お前の無事と……大成を……願ってるから……あとは……頼んだぜ……タツミ……っ!」

 

 イエヤスは振り絞る様に、自分の口で伝えたかった事を告げると拳を握りしめて、一度タツミの胸を叩くと天へと伸ばした。

 

「サヨはさぁ……あのクソ女に最後まで屈しなかった……かっこよかったぜ……だからこのイエヤスさまも……最後は……かっこよく………………ありが……」

 

 全身から力が抜け、天に掲げていた腕も地へと落ちてたった今、一人の少年の命の炎が燃え尽きた。

 だが、道半ばで倒れた少年の死に顔は恐怖でも怒りでも無く健やかに眠る様な顔。

 そした誰へ向けたのかは分からないが、最期に出たのは礼の言葉だった。

 

 

 

 本来であれば豪華な装飾が各所に施され、上質な絨毯の敷かれた廊下だが、至る所が血に染まり床には身体が何分割にも分けられた者、首を真後ろに曲げられた者や腹に大きな風穴を空けられた者の死体が転がり絢爛だったその姿は見る影も無かった。

 マサムネは幾つかある死体のうち、上体とそれぞれの腕、下半身に分断された者の近くに落ちていた一冊の本を血溜まりの中から拾い上げる。ドレスのような服装から察するに死体はこの家の夫人だったのであろう。

 

「彼は、死んでしまったか……最期に友人に看取ってもらえたのなら良いが……私が命を救える者(ドクター)なら彼の運命を変えられたのだろうか……」

 

 誰に問うわけでも答えられるわけでもない事をマサムネはポツリと呟いて窓際へと移動した。

 そしてそこから少し遠くで糸を足場にしてまるで宙に浮いている様に見える6人の人影を見据えている。

 その内マサムネは4人ほど見覚えがある。一人は昼間にみたタツミ少年、もう二人は街に貼られている手配書の特徴と記憶が合致する。

 そして一人は片方の目を隠すように整えている緑髪、見間違えるはずもない自身がよく利用する貸本屋の店主の少年ラバックだった。

 

「まさか、彼がナイトレイドの一員だったとはな……もっとも、私が人の事を言えないか」

 

 帝都を恐怖で震え上がらせている殺し屋集団ナイトレイド。主に国の重役や富裕層を狙うと広く噂されているが、あまり知られていないもう一つの噂がある。

 彼らが殺す標的は弱者である国民を食い物にして虐げる存在、帝都に巣食う邪悪な薄汚い心を持った者のみだと。

 彼らはそのまま糸の上を駆けて屋敷から離れて行く。そして足場にしていた糸は後を追うように消えていった

 

「いずれ一目見たいと思っていたが、こんな場所で会えるとは」

 

 マサムネは彼らを見送ると足を進めて暖炉のある部屋へと入る。薪が燃えるパキパキという音に耳を傾けながら血だまりの中にあった本を開いた。

 本はこの屋敷の夫人の日記だった。

 先ほどの倉庫の中に入れられた人間が薬漬けにされて病が発症してから経過と共に苦しみ、そして死ぬまでの様子が事細かに書かれている。

 マサムネはイエヤスの事が書かれたページまで読むと本を閉じて乱暴に暖炉の中へと投げ入れた。

 

「なぜ……前途有望な商品価値のある少年が死に、この家の人間のように心が腐り果てた廃棄すべき輩が闊歩するような世の中なのだろうな……」

 

 日記が燃え尽きるのを見届けていると、なにやら屋敷の外で大声が飛び交い屋敷の中でも足音やドアの開け閉めをする音が聞こえてくる。

 

「……役に立たない最低限の商品価値しか持たない警備隊員達がやっと入って来たか」

 

 マサムネは黒いケースを取り出し、黒いシルエットが消えかかった様な絵の描かれた青いメダルを取り出して指で弾く。

 イエヤスに使用した『回復』と同じようにメダルは肥大化した後クロノスの身体へと入り込むと、姿が頭から背景と同化してすぐに視認できなくなる。

 そのまま不可視の存在となったマサムネは窓を蹴破って外へと飛び出し、庭へと降り立った。

 名も知らない、覚えるつもりもない警備隊員達が音がしたマサムネの方を警戒しながら近寄るも当然その存在は認識出来ない。

 マサムネはそのまま悠々と歩を進めて正面の門から敷地外へ行き帰路へとついた。

 

 

 

 翌日の昼、マサムネは食事を終えて服屋へと赴く。

 昨日の事件は倉庫の存在こそ伏せられていたものの新聞で取り上げられており、それが店主の耳に入り落ち込んでいないかが気になったからだ。

 入口のドアにはcloseと書かれた札が下がっていたがノブを握ると回り、鍵はかかっていなかったようなのでそのままドアを開けて中へと入った。

 

「ああ、先生様……いらっしゃいませ。

すいませんが……今日はおやすみなんですよ」

 

 カウンターに突っ伏していた女店主は目を丸くして起き上がり、暗い疲れたような表情でマサムネを出迎える。

 どうやら彼女も何らかの手段で事件を知ってしまったようだ。

 

「すまない、失礼は重々承知だが、気になってしまってね。

……その様子だと、昨日の事件の事を……」

 

「あはは、分かっちゃいました?

……商売人がこんな顔してちゃダメなのは百も承知なんですけどね……どうしてあんな良い子がねぇ……ホント、こんな理不尽な世の中嫌になりますねえ」

 

「……それには同感だ」

 

 店主が得た情報とマサムネが得た情報は当然真逆のものだ。それでも店主にとってはアリアは自分の店を懇意にしてくれて、行くアテも無い者たちに救いの手を差し伸べる心優しい少女だったのだ。

 

「……先生様も気をつけてくださいね。どうせアタシみたいなしがない商売人は眼中に無いけど、先生様がやってる事知られたら、あんな非道な奴等には気に入らなくて狙われちゃうかもしれませんし。

……あの子の家の財産も全部ナイトレイドが持ってったみたいですからね」

 

 その情報も大きな間違いだった。

 確かに新聞や噂でもそう言われているが、現場を見ていたマサムネは真相を知っている。ナイトレイド(彼等)は屋敷の人間は確かに何人も殺した。しかし金品はおろか食料にも手はつけていない筈だ。そんな物は持っていなかったし、何より余分な時間は無かっただろう。

 大方財産は悪徳警備隊員が着服したか、国が、正確には大臣かそれに準ずる悪党の懐にでも入ったのだろうとマサムネは邪推する。

 

「ご忠告は心に刻んでおきましょう。

……今回の事を気に病むなとはとても言えない。

しかし貴方の腕を気に入って服を仕立ててもらう人間は沢山いる筈だ。気分が晴れたら少しずつで良い、仕事に手をつけてみたらどうだろう。

少なくとも一人、貴方の作り上げた商品を気に入っている者がここにいる」

 

 そう言い残してマサムネは店から出た。

 マサムネは一人歩きながら思案する。

 富の無い者は心が寂れ、富の有る者は心が歪む。

 力の無い弱者は虐げられ、力の有る者は弱者を足蹴に我が物顔で歩き回る。

 弱肉強食がこの世界のルールであるという事は理解しているが、このあまりにも腐敗しきった国の現状には納得はできない。

 クロノスの力ならば、この国に大きな変化を及ぼす事ができるだろう。しかし、それを行った後に良い状態を維持する術も力もマサムネには無いのだ。

 だから、自分は見える範囲であれば弱者を救う。

 聞こえる範囲で助けを求められたのなら手を差し伸べる。

 力を得る術のない未来の希望のために勉学を教える。

 自分の出来る事とやれる事を再度胸に刻み込んでマサムネは帝都の街に消えた。

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