アカメが斬る〜IFルート クロノスがKILL〜   作:ヌラヌラ

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第4話〜Assassinsとの邂逅〜

 帝都の外れにある霊園に多く並んだ暮石の一つの前にマサムネは座り込み花束をそっと置くと、両手を合わせてこの下に眠る者達への祈りを捧げた。

 

「もう、婚約者とは再会できた頃だろうか……死後の世界に天国と地獄があるかは分からないが、もし在るとしたのなら、もう貴方達は二度とオーガに会う事はないだろう」

 

 あれから数日経ったが、あの一件はマサムネの心中は曇ったままだ。

 自分はまた目の前の人を死から救う事がが出来なかった。それどころかオーガ殺害の片棒を担いだ事で、憎悪という歪ではあったが彼女にとって絶望で満たされたこの世界で生きる理由を奪ったのだ。言い方を変えれば間接的に彼女を殺したと言っても遜色はないのだ。

 

「大切な人を亡くしたが貴方は自分の出来る方法で戦った、その事実を私は忘れない。

……本当にすまない。貴方は気に病むなと言葉を残してくれたが、自分の無力さがどうしても身に染みる」

 

 そう言ってマサムネは深く頭を下げた。

 死んでしまえば全てが終わり。自分の生きていた場所もいずれ無くなり、記憶に残してくれた親しい人も死んでしまえばこの世に居たことさえ曖昧になってしまうだろう。

 マサムネは以前読んだ本の中に、亡くなった人を思い出す事がその人にとっての供養になるという一文を思い出し、ならば自分が生きている限りは自分が関わって救えなかった人を覚えていて供養すると心に決めている。自分の教え子となる筈だった子供とその一家も、イエヤスもその友人のサヨも、婚約者を殺されるが自分を犠牲にして仇を取った彼女も、全て。

 

「さて、これから行くところがあるので失礼させてもらおう」

 

 マサムネは立ち上がり、出口へと足を数歩進めると柔らかな風が背後から吹いた。その一陣の風はまるで悩む彼を励まし背を押してあげているような優しい風であった。

 

 

 

 とある建物の一室にて1人の女性が椅子に座り、5人の女と3人の男が女性を支点に扇型に広がるように少し距離を空けて立っている。

 そんな中1人の少年、タツミは少し浮かない表情ではある。

 

「みんな集まったな。

先日、ブラート達が任務へ行っている間にタツミにも初任務へと行ってもらったんだが、そこでイレギュラーが発生した。警備隊長のオーガを殺る任務だったんだが、抵抗にあって取り逃しかけたところでオーガを足止めをした人物が出たらしい」

 

 椅子に座っている右目に眼帯をつけた銀髪の女性が口を開く。顔も体型も美しく、露出は少ないが体のラインが出る黒い服が大変良いプロポーションである事を強調させている。加えてミステリアスな雰囲気を併せ持ち、その佇まいから組織のトップである事が伺える。だが何よりも目を引くものが右腕に着けられた無骨な形をした緑色の義手だろう。

 

「はぁ?ダッサ、任務の一つもマトモにこなせないなんてアンタやっぱり半人前ね」

 

 1人の少女、桃色の長い髪を二つに纏めた所謂ツインテールと呼ばれる髪型で、フリルが多く着いた髪の色と同系統の服を着た少女がタツミを嘲笑する。

 少女はその態度の大きさに反比例して身体は小さく、他の女性たちと比べると凹凸も少なめだった。

 

「まてマイン、タツミもトラブルがあったものの任務は達成してきた。それに今話す事で重要なのはそこじゃない」

 

 落ち込むタツミの意を汲んで慰めの言葉を含ませて言ったのかは分からないが、組織の長らしき女性が少女を諌める。

 マインと呼ばれた少女は少々の不満を感じたのか、フン、と吐き捨てる様に鼻で笑うと腕を組んで視線を逸らした。

 

「続けるぞ。オーガを足止めした人物というのが……仮面ライダーと名乗る黒い鎧の男だったらしい」

 

「仮面ライダー、どっかで聞いた事あるような名前だけどどこだったか……?」

 

「タツミと始めて会った任務の時にタツミの友が死に際に呟いた名だな」

 

 金髪の短めの髪にすれ違う男が皆振り返るような豊満な身体に露出の高い黒い服を着た女性が頭を捻りながら呟くと、足まで届こうかという程長い黒髪で金髪の女性程ではないが良い身体をしている美少女がそれに答える。

 それぞれタツミをココへ連れてくる原因となった2人の女性、レオーネとアカメ。その他の富豪の屋敷を襲撃したのとほぼ同じ顔ぶれからこの場所が何人も知ることの無いナイトレイドのアジトである事が伺える。

 

「でも待てよ、仮面ライダーって噂じゃあ帝都周りの賊を捕らえまくってるって話だろ?

言わば俺達の敵で警備隊寄りの人間なのにどうしてオーガ殺害の手伝いなんか……」

 

 頭の両サイドから黒い髪を上から前に整えて固めた所謂リーゼントと呼ばれる髪型に筋骨隆々の身体が分かる黒いシャツに胸から肩口にかけて覆われていて左肩に『漢』と書かれた緑色のアーマーを着用した男が怪訝な顔で口にする。

 

「すいません……私はそんな人の話聞いたこと無いですけど……」

 

 紫色の長髪に黒い眼鏡をかけたレオーネに負けず劣らずの身体に薄紫色のチャイナドレスを着用した女性が頰に指を当てて首をひねる。

 すると、緑髪で片目を隠し、ゴーグルを着用した少年ラバックは苦笑を浮かべてチャイナドレスの女性の言葉を返す。

 

「いやー、シェーレちゃんは単に忘れてるだけだと思うけど……。

それで、ナジェンダさん。その男について何が問題なんです?」

 

「ああ、一つはタツミの顔を見た事とナイトレイドに所属していると看破した事、そして……タツミ」

 

 組織(ナイトレイド)のボスであるナジェンダがラバックの問いに答えると、あとはお前が言えと言わんばかりにタツミへと促した。

 

「そいつ、俺たちの、ナイトレイドの名前を騙って何回か町の人を殺したらしいんだ」

 

 その一言で皆の眉間に皺が寄って自分達の誇りを汚されたような嫌悪感を持つ中、アカメとブラートだけはそのまま廊下へと通じる部屋の入り口を睨みつけて拳を握って構えを取る。

 

「どうしたブラート、アカメ?」

 

 ナイトレイドのメンバーはタツミ以外の皆それぞれが手口は違えどもプロの殺し屋である。その中でも上位に位置する手練れの2人の取った行動にナジェンダは自分は何も感じなかったものの2人を信じて周囲に気を張り警戒しつつ理由を問う。

 

「そこに何かが居るような気がしたんだが……俺1人なら気のせいで済ませるところだけどアカメも感じたんだろう?」

 

「ああ、確かに入り口に何かが居た。ラバック、結界に反応は?」

 

 アカメは入り口を警戒したままラバックの方を見る。それに応えるようにラバックは片腕を挙げて自分の装備しているリールが取り付けられた指先からは糸が伸びているグローブを見せた。

 

「見ての通り、なんの反応もしてないぜ。

2人を疑うわけじゃないけど、俺の結界にも反応せずに建物の中に入って、これだけの暗殺者がいて誰にも気付かれずにその入り口まで辿り着ける奴なんて居ないんじゃないかな?」

 

 そう言ってラバックは手を下ろした。

 ナジェンダは顎に指を当てて数秒考え込んで口を開いた。

 

「全員、武器を取って警戒態勢に入れ。アジトを知られる訳にはいかない!

招かれざる客(侵入者)は見つけ次第始末しろ!」

 

「その前に、先程までの話で四つ程訂正するべき事がある。

一つは私が邪魔をせずともタツミ少年はオーガを殺す事が出来ていただろう。

一つは私は別に帝都警備隊に与しているわけではない。

一つは私は君たちの名を騙った事はない。ただ無能な事なかれ主義の警備隊員が捜査を怠りそう判断してしまっただけの事だ」

 

 ボスの言葉に皆が頷き、それぞれが出口へと向かおうとしたところで遮るように男の声が発せられた。しかしその姿は何処を見回しても確認する事が出来ない。

 

「そして……帝具の結界をすり抜け、凄腕の暗殺者達の察知能力を掻い潜って此処まで来る事が出来る人間も存在するという事だ」

 

 その声が言い終えると同時に椅子に座るナジェンダの背後に黒い鎧と一体になっているかのような同色のマントにその各所に明るい緑色の配色がなされた存在が露わになった。

 その手にはなぜかバスケットが持たれていて何やら中にはフルーツが敷き詰められている。

 この場に居た全員が男の言葉とその容姿から仮面ライダーだと断定した。

 

「だが、誤解と言えども私の行いが君達の評判を下げた事に変わりは無い。

私は仮面ライダークロノス。謝罪の品を幾つか用意させて頂いた、心からお詫びを申し上げよう」

 

 そう言って仮面ライダークロノスと名乗る男はバスケットを床へと置いた。

 しかしその行動よりも速くナジェンダは身体を回して義手でクロノスに殴りかかるも、アッサリとそれは右手で受け止められてしまう。

 ナジェンダが動いたと同時にラバックはグローブの指先から出ている糸を操り男の周辺に張り巡らせ、動けば糸が絡まり体が拘束されるように罠を仕掛ける。そして残りの糸をナジェンダに巻きつけてリールを巻き、彼女を自身の元へと引き寄せた。

 アカメ、マイン、シェーレの3人は部屋を飛び出して各々の武器を取りに駆け出す。

 

「待てよみんな!確かにコイツは侵入者かもしれないけど俺はそこまで悪い奴だとはーー」

 

「タツミ、コイツはお前がどう思おうが侵入者だ。それに、コソコソ隠れて女の後ろを取るなんて漢らしくないだろ。

なによりボス直々の命令だ……速くお前も剣を取ってこい」

 

 ブラートが厳しく告げると、些か納得までは出来ていないものの自分の武器を取りにタツミは部屋を出る。

 そしてブラートは床に手をつき、閉眼して一つ深く呼吸をつくと目を見開いて叫んだ。

 

「インクルシオォォォっ!!」

 

 ブラートの背後から風が吹き荒れて、そこにコートを纏った白銀の巨大な鎧の怪物が現れる。その大きさと滲み出る闘気で見る者全てに畏怖を抱かせるような風貌ではあるが、建物に一切の影響が出ていないため幻影である事が伺える。

 そして鎧は風と共に白い光となり、ブラートの身体のふた回り程大きいサイズに収縮して装着される。だがサイズこそ元の幻影より小さくなったものの、その闘気と凄まじい威圧感は依然健在である。また背には全てを穿ち、叩き斬ると言わんばかりの大きな赤い槍が背負われていている。

 

「それじゃ私もやるとしようか……変身、ライオネル!」

 

 レオーネの腰に着けたベルトが光を放つと、彼女の短かった髪が長くなりまるで獅子の鬣のようである。そして頭頂には二つの耳と尻のやや上の辺りにはどちらも獣を思わせる物であった。

 

「ほう、君もベルトで変身するのか。

侵入者に対して警戒と容赦の無い対応、殺し屋としては満点の答えだろう……ここでは狭いし君達も後片付けが面倒だろう」

 

 クロノスはレオーネの変身を見た後そう言ってベルトに手を当てた。

 

『ポーズ』

 

 無機質な音声が流れたと思った次の瞬間、4人の目の前からクロノスの姿が消えた。

 注視していたはずなのに、皆が驚愕の表情を浮かべる中、部屋の窓が開かれる音がしたかと思うと、クロノスはそこにいた。

 

「先に行っていよう」

 

 そう残して男は窓から外へと飛び出して行った。

 

「待ちやがれ!俺たちも行くぞ!」

 

「ああ、逃すわけにはいかないね!」

 

 ブラート、続けてレオーネが窓へと走り出して後を追ってそのまま外へと飛び出す。

 2人を見送るとラバックはナジェンダから糸を外して抱き抱えて身体を起こす。本来なら役得であるこの体勢も今の状況を省みると素直に喜べないのが本心であった。

 

「ナジェンダさん大丈夫!?」

 

「ああ、私は問題無いが……ラバック、糸に反応は?」

 

「……全く反応が無かった、動けば絶対に糸に掛かるはずなのに」

 

「……次元方陣シャンバラという人間が空間を転移する帝具があるが、あれは転送する地点の記録が必要なはず……あの男の帝具はそれを不要とするあの帝具以上の物なのか……?」

 

 一人思案するナジェンダを余所に、ラバックも一つの考えが纏まろうとしていた。

 

「あのさナジェンダさん……俺、アイツの正体知ってるかもしれない……聞き覚えがあるんだ、あの声に」

 

 

 

 

「逃げないで律儀に待ってるなんて見上げた根性だな」

 

 建物の前の開けた場所に腕を組んで佇む黒い鎧の仮面ライダーに向かってレオーネは言い放つ。同時に拳を鳴らす、まるで自分はお前を倒す準備は万端だと言わんばかりに。

 

「逃げる?それは後ろめたい事をした者や、力量差の大きい者が行う手段だ。私はただ君達に挨拶とお詫びに来ただけだ、従ってその必要はない」

 

 クロノスはそう言って組んでいた腕を解いて両腕を広げて本人にそのつもりが有るのかはわからないがレオーネを煽るような態度で返した。

 

「言うじゃねぇか。生憎だが、ナイトレイドのアジトは一見さんは立ち入り禁止なんだよ!」

 

 鎧を纏っているブラートは背負っていた赤い槍を手に取り、頭上で風を巻き上げる勢いで回すと男へと接近、そのまま右手で柄の末端を持ち遠心力を利用して一気に槍を振り下ろした。

 しかし振りが大きな一撃のためクロノスは後ろへと飛んで槍を躱すが、その一撃で地面ヒビを入れられて陥没し、1メートル程の大きな穴が出来た事からその重さと威力は想像を絶するものだ。

 

「ほう、当たっていれば私もダメージを負ったかもしれないほどの良い攻撃だな」

 

 されど当たらなければ意味は無い。そう言いたそうにクロノスは言うが次の瞬間、突如側面から黄色の獅子の拳に襲われる。

 

「余所見してんじゃねぇよ!!」

 

 ブラート自身もあの大振りが当たるとは到底思っていない。最初から自身は囮でレオーネの一撃が本命だった。長き事共に任務をこなしている二人だからこそ出来る打ち合わせなぞ不要のコンビネーション。

 レオーネは完全に虚を突いた拳を顔面に当てたと思ったが、自分の拳はクロノスの手によって受け止められていた。

 

「君のパンチも中々の物だ、だが私には軽すぎる」

 

「なっ……ナメんじゃねぇぇぇ!」

 

 拳を止められた事に驚愕していたレオーネだったが、クロノスの言葉がプライドに触れたのか怒気を含んだ表情に変わり、続けざまに一発、もう一発と連続で拳を叩き込む。

 だが全ての拳が黒いの手によって阻まれて身体にまで届く事は無かった。

 拳がダメなら蹴りならどうだと、レオーネはクロノスの側頭を目掛けて蹴りを放つも姿勢を低くして躱されてしまう。そして男が下げた姿勢のまま足を払うとレオーネの姿勢は崩れて空を見上げる形で地に倒れてしまった。

 

「しまっ……」

 

 倒れているレオーネに対してクロノスは拳を握り、振りかぶる。

 自分の取った悪手に悔みながらもレオーネは腕を体の前で交差して守りの構えを取る。

 しかし、それは意味をなさない物であった。

 

「うおおおおお!」

 

 ナイトレイド一の戦闘能力を持つ頼れる漢が咆哮を挙げて赤い槍をクロノスへと突き刺しレオーネの窮地を救った。

 だが槍はクロノスの身体にヒットこそするものの装甲を貫くまでには至らずに足で地面を抉った跡を数メートル残してブラートの突進も止められた。

 クロノスは槍の穂先を掴みブラートの動きを封じて拳を振るおうとするも、今度はレオーネがブラートの援護に入る。飛び蹴りをクロノスの首の辺りに向けて放つも掌であっさりと受け止められてしまった。

 すかさずブラートは槍をクロノスの手から引き抜いて連続の剣戟を繰り出し、レオーネも着地と同時に拳と蹴りをクロノスへと繰り出す。

 二人それぞれお互いの邪魔にはならず、的確に相手への有効打となるように動いてるいるのだが、クロノスはその攻撃を悠々と捌ききる。優れた戦士であってもおそらく瞬殺されるであろう攻撃の嵐を前にして。

 

「素晴らしい、この戦闘能力が帝都を恐怖で震え上がらせる暗殺集団たる所以か」

 

「そりゃ、どーもっ!」

 

「クソっ、こんだけやっても、まだ効かないのかっ!」

 

 連続の攻撃も全てが無意味の状況に嫌気がさして悪態を吐くレオーネ。

 やがて、このままでは埒が明かないとブラート、レオーネは攻撃の威力を上げるために大振りの攻撃を仕掛けた。

 流石にダメージを喰らうと判断したのか、隙を攻めるためと判断したのかは分からないが、クロノスは後方へと大きく飛んで二人の攻撃を回避した。

 その瞬間、銃声が鳴り響き3発の光弾がクロノスへと発射される。仲間の接近に気付いていた二人の策に見事クロノスは嵌められたのだ。

 いくらクロノスと言えど着地直後を狙われては迫る光弾を回避することは出来ない。

 

「これなら!」

 

「どうだ!」

 

 マインの大型の銃による攻撃、戦闘をしていた二人の願望が漏れた声を置き去りに光弾はクロノスへと迫る。

 光弾がクロノスを貫く事を確信していた二人だった。しかし、クロノスは右手で2発の光弾を手で払い自身を逸れて地面へと着弾し、最後の1発は両手で触れる事で霧散し消滅した。

 

「嘘でしょ!弾が消えた!?」

 

 射線上の先で銃を構えたマインが驚愕の顔を浮かべる。マインの両隣に大きな鋏を持つマインと同様の表情のシェーレと、刀を持つ無表情のアカメが立っていた。

 

「君のその武器の事は有名だから知っている。使用者が不利になればなる程威力が上がる性能を持っているようだが、この数人がかりで私一人に挑んでいる状況……到底本来の能力は発揮できないだろう」

 

「ちっ……このおおおお!」

 

 大きく手を広げて得意げなクロノスに対して、苛立ちを覚えたのかマインは続けて銃を連射するも、いずれも悉く手で弾かれ、消滅されてしまう。

 

「葬る」

 

 ポツリと誰かに聞かれるでも無く言葉を漏らすと同時に、いつの間にかクロノスの背後へと回り込んだアカメが目にも留まらぬ速さで刀を数回振るい斬りつける。しかし刃が装甲を通る事は無く、甲高い金属音が辺りへと響き渡るのみだった。

 

「君のその刀も知っている。かすり傷で対象を絶命させると言われているが、私とはとても相性が悪い。

……普通の鎧であれば装甲が削がれる場所への的確な斬撃は見事だが」

 

 アカメの斬撃に対して防御するわけでも避けるわけでもない、ただ受けるだけの行為が彼女の攻撃の無意味を証明する。

 攻撃を終えて距離を離れたアカメだったが、クロノスは言い終えると同時に急接近し、刀を持つ手に手刀を放ち手放させるとそれを蹴り飛ばし、やや離れた場所に生えていた木に突き刺した。

 

「うおっ!!」

 

 反応したのは木の陰で様子を伺っていたタツミだ。即死の刀が自身の間近へと飛来して来たことに一瞬遅れて恐怖がやってきて足が笑い腰を着いてしまった。

 

「君はやめておいた方がいい。彼らに比べて経験(レベル)も装備も足りなすぎる」

 

 指導をするかのようにタツミへと言い放つクロノスの背後から一対の大きな刃が迫る。どうやらアカメと対峙している間にシェーレがクロノスへ接近していたようだ。

 この世に存在する全ての物質を両断すると言われている大型鋏にシェーレは力を込めた。

 だが、手応えは無く鋏は空を斬り裂いたのみである。完全に隙を突いたと思われた攻撃は感知されていて大きく上への跳躍で躱されてしまっていたのだ。

 

「流石にその帝具は私にも有効だ。故にこうして大きく回避させてもらったよ」

 

 急加速で上昇したクロノスの身体も、言い終える頃には停止してやがて下降し始める。

 

「そうですか、でもこれで終わりですね」

 

 シェーレはそれを待っていたと言わんばかりにクロノスの落下地点で大型鋏を立てて構え、タイミングを合わせて閉じた。

 

「そうとも限らないな」

 

 誰もがクロノスを切断したと思った瞬間、重力の法則に逆らってクロノスの下降スピードが遅くなり、寸での所で刃が触れる事は無かった。

 そればかりか、クロノスは何も無い宙を蹴って方向転換と同時にスピードを上げてシェーレの持つ閉じられた大型鋏の腹を蹴り飛ばした。その強い衝撃に耐えきれず、常人よりは強力な腕力を持っているシェーレも思わず鋏を手放してしまった。

 

「さて、これで君達が私を殺す事は不可能だと分かって貰えたかな?」

 

「まだだ!」

 

 クロノスの背後に迫るブラートの槍それは最初に起こした攻撃のアクションと同じ、頭上で槍を回しての遠心力を利用した一撃。

 それは、クロノス本人が効くと言ったシェーレの武器による攻撃以外で唯一、クロノスが受け止めるのでは無く回避という選択をした攻撃。

 この世の全ての物を叩き切れるであろうと思わせる剛槍がクロノスの肩口から斜めに振り下ろされた。

 

「なっ……嘘だろ……」

 

 甲高い金属音が辺りに響いた後、驚愕の表情で言葉を漏らしたのはタツミだった。

 クロノスは無傷、装甲を凹ませる事はおろか傷一つ付いていない。

 

「残念ながら、やはり無駄だったようだな。最初の攻撃ならまだ私にダメージを与えられたろうが、今の私に効果はない」

 

 ブラートはすぐさま後方へと跳び距離を取ろうとするが、クロノスが追随してそれを許さない。

 破れかぶれとも言える拳をクロノスに放つもアッサリと受け止められてしまう。

 

「チッ!」

 

「そろそろ、私からも手を出させて貰うとする……フン!!」

 

 舌打ちをして悪態を吐くブラートに対して宣言したクロノスは拳を胸部へと叩き込む。

 受け止めて防御しようとしたブラートの手など、まるで何事も無かったかのように意に介さず拳を打ち込み、この世でも無類の強度を誇るその鎧は陥没する。

 

「ぐおおおっっ!!」

 

 屈強な戦士であるブラートが鎧の中で苦悶の声を上げる。それでもクロノスは止まる事無く、続けて今度は腹部に下から拳を一発の拳を入れてブラートの身体を宙に浮かせると続け様に蹴りを繰り出す。

 ブラートの身体は凄まじい勢いで風を切ってタツミの方へと飛び、数本の木をへし折って重力に従い地に落ちた。

 鎧から白い煙が発せられたと思うと、軈て鎧が煙と一体化して徐々に霧散してブラートの身体が露わになる。辛うじて意識はあるようだが口からは血を流し、身体中至る所が擦り切れているが弱々しい呼吸で胸を上下させているためまだ生きている事が分かるが一目で重傷だと言う事が理解できる。

 

「アニキ!」

 

「ブラート!」

 

「テメェ!」

 

「よくも!」

 

「このおぉ!!」

 

 この場にいた見習いを含めたナイトレイドが叫び、各々が行動に移す。

 自分達の攻撃に効果は無いと分かっていても、自分達のホームで仲間を目の前でやられてしまい、理屈ではなく心に従ってレオーネと武器を再び手に取ったシェーレはクロノスへと突撃する。そして二人を援護するようにマインはクロノスへと銃弾を放つ。

 同じことを思っていても自分の攻撃はクロノスには通用しない。激昂しても冷静さを失わないアカメは今は自分が出来る事、即ちブラートの安否の確認と手当を優先するために駆け寄り、また同じ理由でタツミもアカメと同じ行動を取る。

 

「フム……コレはいけない、やり過ぎてしまったようだ」

 

 クロノスポツリと呟くと、大きく跳躍してレオーネ、シェーレから逃れる。そして上空でどこからか本のようなケースらしき物を取り出して、一枚の硬貨のような何かをブラートへと向かって投げつける。

 その何かはブラートへと駆け寄るアカメの脇を通り抜け、既にブラートの側にいたタツミは反応すら出来ずにブラートの身体へと入り込んだ。

 

『回復!』

 

 その何かから音声が発せられてブラートの身体が発光し近くにいたタツミとアカメは思わず目を顰めてしまう。

 

「なんだ、この光は!」

 

「今、回復って……?」

 

 軈て光が収まると、ブラートは自分の力でゆっくりと身体を起こした。服こそ至る所が擦り切れたままであったものの、そこから覗かせる肌に傷一つ無くまた、先程まで弱々しかった呼吸も健全な状態を取り戻し意識もはっきりと覚醒していた。

 

「傷が治ってやがるだと……さっきまで死ぬかと思ってたのによ……お前は一体……?」

 

 確かにブラートの身体の傷は元から何もなかったかのように塞がっていた。それが一番信じられなかったのは当の本人であるブラートであり、次点で残りの五人である。その表情は皆驚きを隠せずにはいられなかった。

 

「少し、私も気分が高揚してしまっていたようだ。すまないな」

 

 そう言ってクロノスの身体はゆっくりと、空中から下降する。そして着地するとそのまま両手を広げて言葉をつないだ。

 

「私の目的は君達と殺し合う事では無い。それでも君達は違い、侵入者である私に刃を向けることは当然だと言える。だから私はある程度の抵抗をせざるを得なかった訳だが、少しは落ち着いてもらえたかな?」

 

「ふざけないでよ!それならアンタの目的はなに!?」

 

 銃を向けたままマインは怒声をあげる。

 

「最初に建物の中で言った筈だ。詫びを入れに来た、とね」

 

「テメェ、おちょくってんならアタシ達も考えがあるぞ!」

 

「ほう、聞かせてもらいたいものだな。単純な戦闘能力で私に劣る君のこの場を打開できる考えとやらを」

 

 獅子の怒りに触れてしまった。

 レオーネは弾ける様に飛び出して一発、二発とクロノスへと拳を見舞うがどちらも手であっさりと受け止められてしまい、反対に背後に回られて腕の関節を取られてしまった。

 

「ガッ!クソっ!離せっ!」

 

「この程度が君の考えとやらか……良いだろう」

 

 言葉の通り、レオーネを解放するとまた殴られてはかなわないと、クロノスは彼女と距離を空けた。

 

「皆、待つんだ!命令は変更する、奴の警戒は怠るな。だが、話を聞こう」

 

 建物の入り口でナジェンダが叫ぶ。

 そして彼女の隣で立っていたラバックは怪訝な表情をしてクロノスへと問う。

 

「アンタ……その姿は……なんで此処に……いや、聞くことは色々ある!なにしてんだよ!マサムネ先生よぉ!」

 

「やはり、君は気づいたか。

さて、君達のボスもああ言っているんだ。落ち着いて話をしようか」

 

 ナイトレイドのメンバーの全員が納得しない中、クロノスは悠々と建物の中へと入る。

 当初の目的、ナイトレイドの面々に詫びを入れて話をするために。

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