東方荒神伝   作:白峰

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第八話 黙示録の獣

 お空は間欠泉に落ちてしまった人間を追いかけて最下層へと向かおうか迷っていた。

 

 「やっぱり行った方が良いかなぁ。でもどうせ生きているわけないし」

 

 彼女はしばらくぽっかり空いた間欠泉の周りを行ったり来たりしていたが、不意に立ち止まった。

 

 「もし下で何かあったら、さとり様に怒られるのは…あたし!?」

 

 何を思ったのかお空は一目散に間欠泉へと入って行った。

 

 最下層まで半分ほどの所まで来た時、お空はいつもと何か雰囲気が違うことに気づく。

 

 (何か…いつもより…熱い?)

 

 底に近づけば近づくほど間欠泉内部の温度は高くなっているようで、お空は額に汗をかく。  

 

 そしてようやく最下層が見えると、お空はそこには居るはずのない人影を見つけた。

 

 その人影は、苦しみもがいている様に見えた。時には頭を抱え、唸り声を上げた。

 

 しかしお空は人影に近付こうとしない。

 

 (この高さから落ちて無事な人間なんていない。それにこの気配、怨霊か。それもかなり強い怒りと憎しみを感じる)

 

 お空が警戒しつつゆっくりと降下して来るとふと、人影の動きが止まった。

 

 否、それはもはや人とは呼べない何かに変わっていた。

 

 すると、突如それは待っていたかのように近くによってきたお空の方に異常な速さでぐるりと顔を向けた。 

 

 皮膚の無い無機質な顔。そのむき出しの歯はニッコリと笑っているかのようだった。

 

 お空は戦慄と恐怖で声を上げそうになるが、その余裕は無かった。 

 

 【ギャァァォォオ】

 

 お空は壁に叩きつけられて意識を失う。

 

 それが咆哮をあげた。

 

 その声は、音は、物理的な衝撃波を伴って間欠泉センターを全体を揺らした。

 

 それだけでは治まらず、咆哮は妖怪の山、人里、紅魔館、幻想郷全体に鳴り響いた。

 

ー人里·阿求低ー 

 

 「何だろう?さっきの音、いや、鳴き声?…」

 

 阿求邸に集まっていた

 

 「‥今のは…」

 

 コスモスの姉妹が呟く。

 

 「…どうしたの?」

 

 急に様子が変わった二人の小人に霊夢は呼びかける。

 

 するとコスモスの二人は手を合わせて何やら歌いだした。

 

 「モスラーヤ モスラ ドゥガン カサークヤン インドゥム……」

 

 「え?…どうしたの?」

 

 霊夢たちは不思議な歌を歌い続ける二人にわけがわからなかったが、少しするとコスモスの姉妹が祈りの姿勢を解いた。

 

 「皆さん、説明している暇はありません。急いでここから里の皆さんを避難させてださい」

 

 「え!?どういうこと!?」

 

 「ちょっと待てよ。避難させるにも理由が必要だ。説明してくれ」

 

 神宮寺がそう言うとコスモスの二人は「では手短に」と答えて話し始めた。

 

 「今までの話で怪獣の脅威は理解できたと思いますが、先程の声の主はそれらを遥かに凌ぐ怪獣の中の王。私達の世界では怪獣王、破壊神などと呼ばれていました」

  

 コスモスの話に六人は何も言わずに聞いていた。

 

 「その名は、呉爾羅(ゴジラ)。幾度となく人類を絶滅の危機に陥れた生態系の頂点に立つ絶対強者です」

 

 二人の話には不思議な説得力があり信じられずにはいられなかった。

 

 「今の話でゴジラの脅威が理解できましたか?」

 

 「あぁ、わかった。里の皆にはすぐに避難指示を出す」

 

 すると外が騒がしくなった。

 

 ドタドタと廊下を走る音が近づいてくる。

 

 「阿求様!い、一大事です!」

 

 勢いよく入ってきたのは阿求邸で門番をしていた男だった。

 

 「どうかしましたか?」

 

 「そ、空に、巨大な蝶がっ!」

 

 門番はおぼつかない口調でそう告げた。

 

 その直後だった。強風が阿求邸を襲う。

 

 「うぉっ!?何だこの風は!?」

 

 障子が破け、空を舞う。

 

 その先には巨大な蝶がいた。否、独特の羽の模様から蛾とも見える。

 

 「では皆さん、私達はゴジラと戦い、時間を稼ぎます。その間に避難を」

 

 既にコスモス達の姿はなく声だけが残っていた。

 

 「あれがモスラ…怪獣か…」

 

 慧音は一人呟いた。

 

ー紅魔館ー

 

 赤で染まった館の一室。そこには一人の魔女と幼い吸血鬼がいた。

 

 「ところでレミィ、あの後どうなったの?」

 

 「あの後って?」

 

 「とぼけないでちょうだい。湖にある例のアレを見に行ったときよ。随分と遅かったけどどうかしたの?」

 

 「ん…あぁ…別に何でもないのよ?…ちょっと寄り道してただけ」

 

 (…嘘ね)

 

 二人は紅い椅子に座って紅い机の上で朱い紅茶を楽しんでいた。

 

 「それよりも外が騒がしいわね。獣の声がしたわ」

 

 レミリアが話題を変えようとする。

 

 その直後に二人の右から爆発が起こった。

 

 「おねーさまー!」

 

 厚い二重扉を破壊して出てきたのはレミリアの妹のフラン・スカーレットだ。

 

 彼女はその危険な能力から異常な精神状態になりやすく、それを危惧したレミリアから監禁されていたが、とある事件により能力の制御を出来るようになり、今ではレミリアと共に外出できるまでに回復した。

 

 フランは扉を能力で破壊し、何やら興奮してレミリアの元へと走る。

 

 「あ、パチュリーも!すごいのよ、お外に…」

 

 「フラン、扉はきちんと開けて入ってくるのよ。貴方もレディでしょ」

 

 フランの破壊した扉の破片でテーブルの上は砂漠と化していた。

 

 「あ、ごめんなさい。…それでね、お外にね、おっきな蝶々が飛んでるのよ!」

 

 フランの興奮は治まらない。

 

 「ほら!お姉様も見に行こう!」

 

 「ちょ、ちょっとフラン!」

 

 フランはレミリアの手を引っぱっていく。この部屋には窓がないので下の階へと降りなければならない。フランはすれ違った妖精メイドが吹き飛ぶほどの速さでレミリアの手を引く。

 

 レミリアも、それを拒まずにフランにゆだねている。

 

 「…本当に、良かったわね。レミィ」

 

 パチュリーは一人心の中で、自分の一番の親友とその妹の事を想っていた。

 

 「ほら見て!お姉様、あそこ!」

 

 「ほんとねぇ〜」

 

 レミリアはフランとこうしていられる事に満足していて蝶々の事は視界に入っていなかった。

 

 「もぅ〜見てないでしょう」

 

 フランがジト目で見てくるとレミリアも我に返り庭の植木鉢へと視線を動かす。

 

 そこには大きねアゲハチョウがいた。

 

 「あら、綺麗なアゲハチョウね」

 

 「もぅ〜、そっちじゃなくて…こっち!」

 

 フランに顔を両手で挟まれ、強引に動かされる。レミリアの視線は森の方へと瞬間移動し、ついにそれが視界に映る

 

 「へぇ〜これは大きい…わ…ね……え?」

 

 「そうでしょ!うふふ」

 

 フランはレミリアの驚いた顔を見て満足していた。

 

 レミリアは驚き顔を晒し続けていた。

 

ー妖怪の山ー

 

 ここ、妖怪の山は今、混乱の中にあった。

 

 「厳戒態勢!全白狼天狗は間欠泉に集まれ!」

 

 山の周りには山の警備を司る白狼天狗が忙しく動き回っていた。白狼天狗は警備の際、五人一組を一部隊として行動している。

 

 「隊長、一体何事ですか?」

 

 「分からないわ。でもさっきあった唸り声が関係しているのは確実ね」

 

 「何でも天魔様直々のご命令らしいですね。一体どうしたんだろう」

 

 「今はそんなこと考えなくていいのよ。私達は上から言われた任務を遂行するだけなんだから」

 

 これはその中の一つ、犬走椛の指揮する部隊『イ組』である。

 

 い組は言われたとおりに間欠泉センターに到着した。

 

 間欠泉の穴からは蒸気と火花が吹き出していた。

 

 (一体これは…)

 

 椛はこの異様な光景に驚いたが部下の前でもあり、ここは感情を表に出さなかった。

 

 「イ組、ただ今到着いたしました」

 

 椛は、そう上司に報告した。

 

 「よし。では少しここで待機しろ。もうじき天魔様が直々にいらっしゃる」

 

 「天魔様が、お越しになるのですか?」

 

 天魔というのは天狗達の長でこの山の社会関係を築き上げた者である。また、この幻想郷の創造主である『龍神』とも何らかの関係を持っているとの噂もある。

 

 「えぇ、そうですよ」

 

 「おわっ!文様」

 

 「文…様…」

 

 「何ですか、椛だけそんな蔑むような目をして」 

 

 射命丸文は椛とはまた違う鴉天狗と言う天狗で、主に報道等を担当している。文は『文々。新聞』と言う新聞を発行しており、各地で起きた幻想郷の事件等を面白おかしく記事にしている。椛はその度に連れわされている。

 

 「いえ、そんなことは。と言うかどうしてここに?」

 

 「何にか面白そうな事が起きそうだから、来ちゃった」

 

椛の額のシワが深くなった。

 

「お、おい!あれっ!」

 

近くにいた男性の天狗が森の方を指差す。その顔は恐怖と驚愕に染まっていた。

 

椛達は何事かと思ってその方向を見るとそこには巨大な蛾がいた。

 

その大きすぎる羽には蛾特有の派手な模様かあり毒々しくも見えたが、椛は美しいと思った。

 

「あれは…」

 

文がそう呟くのを椛は聞き逃さなかった。

 

「何か、知っているんですか?」

 

「いいえ、でも…」

 

文の次の声が届くことはなかった。

 

蒼白い閃光が走る。

前が見えない。

焦げた匂い。

誰かの、いや聞き慣れた声の悲鳴。

 

(なんだろう何があったの?)

 

目がなかなか開かない。

「…み…じ…もみ…じ…椛!」

 

誰かが私を読んでいる

この声は…文様?

 

やっと目が開いた。

空が見えた。

どうやら上を向いているようだ。

文様が叫びながら、泣きながら、手をこちらに伸ばして追ってくる。

あれ?飛べない。

落ちてる?なんで?

 

椛は自分の翼を見る。

白い筈のその翼は真っ黒だった。

椛の呼吸が荒くなっていく。

 

「ああ、ああああ、ああああああ!」

 

椛の翼は焦げて今にも取れてしまいそうだった。

 

「熱い、熱ぃぃいいよぉ!」

 

椛は自分の翼を見る。

これは夢では無いのかと。

しかし、伝わってくる痛みと熱さはどれも本物だった。

 

そして見てしまった。

白い煙のその先にいる、ヤツを。

間欠泉の穴の中からこちらを覗く真っ黒なバケモノ。

その顔は嗤っているように見えた。




遅くなってすみません。なかなか手につかず、進行が遅れてしまいました。また、慌てていたので途中修正などもあるかもしれません。誤字やおかしな表現などが有りましたらご報告お願いします。毎話ご愛読ありがとうございましす。
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