東方荒神伝   作:白峰

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今回は全話がかなり長引いてしまったので、早く早くと頑張ってみました。


第九話 赤より紅く、黒より暗い

「椛!ねぇしっかりしてよ、椛!」

 

文は地面に落下する前に椛を捕まえた。しかし、椛の翼は焼けて飛行することはおろか、付いているだけという状態である。

 

「…うっ…」

 

「椛!大丈夫?私が誰かわかる?」

 

すると椛はにっこり笑った。

 

「文…ちゃん」

 

「椛、あなた…」

 

文は一瞬幼少の頃を思い出していた。初めて友達になった真っ白な白狼天狗の事を。

 

「今度…一緒にお茶…しませんか?」

 

「まったく、今は休みなさい。…店は予約しておくから」

 

「あはは」

 

椛は安らかに目を閉じた。

 

 

 

 

 

ーー人里ーー

 

霊夢達は動けないお年寄りや子供達を避難先の博麗神社に運んでいた。あるける大人達は徒歩で、また大きな荷物を持っている者は慧音や自警団の助けをもらいながら避難している。

 

「助けの必要な者はいるか!」

 

「お母さん怖いよぉ〜」

 

「手を貸してくれ!怪我人がいるんだ!」

 

しかし、人里の全員が避難に納得した訳ではなかった。

 

「何で俺がこの家を捨てなきゃならんのだ!」

 

「別に捨てるわけではないだろう。ここは危険だから、一時的に避難しようって話だ」

 

「だから!その危険ってのがおかしいだろ。たかだか獣のためにここまでしなくてもいいじゃねぇか!」

 

そういった連中には神宮寺が対応していたがなかなか話が進まない。

 

「大体、さっきのでっかい蝶の方が危険じゃ無いのか?アイツが味方だなんてそんなの…」

 

男が言い終わる前に、山の方から青紫の閃光が走った。

 

「なんだ…あれ…」

 

山には奇怪な音と共に天まで届くほど高い蒼の柱が立っていた。やがて柱は細くなっていき、消え去った。遅れて凄まじい衝撃波と何かが割れるような音がした。

 

「チッ、どうやら時間は無いらしい。悪いが強制連行だ」

 

「え?」

 

男が次の言葉をつなぐ前に神宮寺が腹に一発パンチを入れた。人間兵器とも呼ばれている彼のパンチは凄まじい重さと速さを持っている。男のみぞした辺りに炸裂した拳は一瞬にして男の意識を奪った。

 

「おい、霊夢。こいつも頼む」

 

神宮寺は近くにいた霊夢に男の搬送を頼むが、霊夢は答えない。それどころか上の空で何事かブツブツ呟いている。

 

「…嘘でしょ…そんな…今ので…」

 

「おいどうした。何が嘘なんだ?」

 

神宮寺は男を一旦地面に下ろして霊夢に詰め寄る。よく顔を見ると霊夢の顔は青ざめて血の気が引いていた。

 

「…破られた…今ので結界が…破られたの!」

 

 

 

 

 

ーー妖怪の山・間欠泉センター周辺ーー

 

「被害状況を報告しろ!」

 

「光が…青い光が…ぁぁああ」

 

「医療班、来てくれ!腕が焼け落ちてる奴がいるんだ」

 

妖怪の山では天狗達が入り乱れて混乱状態であった。

 

「落ち着けぇぇえい!」

 

一際大きな声を発したのは八尺以上の体躯をほこる天狗であった。その天狗は、灰色の翼に朱で染まった顔と長い鼻を持った古典的な天狗であった。

 

その天狗とは天魔と呼ばれている天狗の長である。

 

天魔の周りには黒装束を身に纏い、仮面を被った天狗達が取り囲んでいる。

 

天魔が現れると天狗達は一切の言葉を話さなかった

 

「これより一時この山を離れる。皆、速やかに行動しなさい」

 

いかに天魔の言葉と言えども天狗達の間に動揺が広がった。

 

「て、天魔様。それはこの山を捨てると言う事ですか」

 

天魔は言葉を発した鴉天狗を睨む。その鴉天狗は何も言うことが出来ずに少し俯いて黙ってしまった。

 

「いいか、これからここで起きる事に、我々矮小な妖怪ごときの出る幕はない」

 

天魔はその朱い顔を更に真っ赤にして言った。

 

「我々が長年住み、愛してきたこの山を捨てることなどしない!だが、ここは一時身を引き、事が終わるまで耐えてほしい」

 

すると天魔はゆっくりと頭を下げて一言。

 

「頼む」

 

「て、天魔様!お顔を上げて下さい!」

 

「そんな事をせずとも私達は天魔様の言う事に背いたりなど致しません!」

 

天狗達は口々に天魔の頭を上げるように言った。

 

「そうか…皆、すまない」

 

天狗達は速やかに行動に移った。

 

「山の裏側に行くぞ。動けない者には手を貸してやってくれ」

 

「河童達にも伝えておきますか?」

「奴らは既に避難を始めている。心配は無い」

 

天狗達が避難を始める中、天魔は後を大天狗達に任して一人で山の麓の方へと降りて行った。

 

 

 

 

 

ーー地底・旧都の某酒店ーー

 

ここ、旧都では現在鬼と言う種族が主に住んでいる。かつては妖怪の山に住んでいたが、とある理由により地下に落とされてしまった。

 

その鬼の中でもかつて鬼の四天王と謳われた星熊勇儀と伊吹萃香は片手で酒を飲んでいた。

 

「なんだか騒がしいねぇ。萃香」

 

背の大きな体育着のような服を着ているのが星熊勇儀である。その横に座る小さな少女が伊吹萃香だが、萃香からは反応が無い。

 

「…ちょっと萃香?聞いてるのか?」

 

勇儀が萃香の小さな耳を引っ張る。

 

「痛いよぉ〜。なんだよ急に」

 

「そりゃこっちの台詞さ。急にぼーっとしちまって。一体どうしたんだい?」

 

すると萃香困ったように笑った。勇儀にはそう見えた。

 

「いやぁ、ちょいと、面倒な事が起こったみたいでさ。行ってくるよ」

 

おそらく上で何があった。勇儀はそう感じた。それは萃香の顔が本気の殺し合いの時に見せるそれと同じ、可愛い少女の顔とは正反対の形相をしていたからだ。

 

「面倒事なら、手伝うよ」

 

「いいさ。勇儀には地底を頼むよ」

 

萃香はそう言い残すと霧のなって消えてしまった。

 

「萃香…」

 

勇儀は一人呟いた。

 

 

 

 

ーー間欠泉センター・最下層ーー

 

沈んでいく。

私の体が、意識が、魂が。

 

いや、違う。

 

これは、同化していく?

私と言う存在が、何か別のモノへと。

 

いや、それでも無い。

一体何だ?

お前達は。

 

…あぁ、そうか、そうだったのか。

 

お前達は私と同じ、いや、私自身だったのだな。

 

なら、もう何も言うまい。

 

お前達を受け入れよう。

私は、いや、俺達は今この瞬間から一つになる。

 

人間共に思い出させてやろう。

 

戦争の恐怖を

俺達の存在を

 

奴らに思い出させよう。

俺達の脅威を。

 

 

 

 

 

間欠泉センターの最下層にいたその黒い塊は形を作り始めた。

 

その体は所々焼け爛れたように紅く発光している。

ワニのような頭部に裂けた口。

その口の中には純白の牙がびっしりと生えていた。

そして理性を無くしたような白目には曇りがなかった。

腕は太く、四本の爪は鋭く長い。

弧を描く独特な腹部を支えるその足は山をも蹴とばし、更地にしてしまうだろう。

自分の背よりも高い所にある尾は、それ自体が意思を持つように動いている。

頭から背中を伝って尻尾まで生えた剣山の如き背びれは常時青紫の稲妻を纏っている。

 

 

人知を超えた完全生物。

そんなものがいるのなら、おそらく彼らの事を言うのだろう。

 

破壊神 水爆大怪獣 黙示録の獣 核の落とし子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪獣王

 

 

 

 

 

満を持して、怪獣の王は楽園を征く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー???ーー

 

待っていた。

奴がやって来るのを。

 

まさかくたばったのではと心配していたが、これでまた楽しめる。

 

我が宿敵。

我らが怨敵。

 

生きてきた世界が違うとはいえ、別個体と言う訳無いようだ。

 

なら、我らがやる事はただ一つ。

 

今度こそ、我らが奴を討つ。

 

その為にこの世界を創り、待っていたのだ。

再び始まる怪獣の時代。

あの蛾如きに遅れをとってたまるか。

 

我が、我らこそが怪獣王なのだ。

 

国を護る?

天の守護神?

 

そんなものどうでも良い。

 

二千年前の戦いも、人間共など気にもしていなかった。

 

貴様だけは我らが倒す。

この、魏怒羅(ギドラ)が。




この次の話からが戦闘シーンになります。戦闘シーンは表現が難しいと聞いているので、上手く出来るか心配です。
不遇大怪獣の一匹ことバラなんとかさんがまで出ていないと心配している人もいるかも知れませんが、ちゃんと出るのでもうしばらくお待ち下さい。(待ってる人なんているのかな?)
誤字などがございましたら遠慮なくご指摘ください。それでは、これからもよろしくお願いします。

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