ギルガメッシュ   作:トラロック

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疫病魔法

 

 次の授業に向けて資料を読み漁る植物モンスター『ぷにっと萌え』とお抱えメイド『ファスト』と戦闘メイド『ルプスレギナ・ベータ』の三人が狭い安宿の中に居た。

 ルプスレギナには帝国市民が着るような一般的な服装を選ばせ、ファストはそのまま。

 常に同じ服では目新しさが感じられない。かといって服装にこだわりがあるわけではないので、彼女達の自主性に委ねてみた。

 防御能力の激減は致し方ない。――それらは足元のシモベ(影の悪魔)連中に任せる事にする。

 

「ずっと側に居るのも暇だろうから、街に出てもいいぞ。戦闘行為は禁止だからな」

「え……。お側を離れるわけには……。いえ、ご命令ならば従います」

 

 ゲーム時代のNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)なら容赦する必要が無かった。だが、今は自我を持って自主的に動いている。――動ける存在となっている。

 対応が面倒臭くなった事を除けば話相手としては及第点を上げてもいいのだが――

 なんというか、可愛い女の子にあれこれ命令するのは気が引けた。

 

(中身は中年のおっさんだからな~)

 

 見た目は蔦で出来たモンスターだけど。

 色々と精神的な部分で葛藤しているぷにっと萌えであった。

 

        

 

 監視要員を付けてルプスレギナだけ外に放っておく。――そう言うと野獣を街中に放った気分になるので後々気になってしまう。しかも、これがあながち()()()()()()()のだから困ったものだ。

 無闇に敵意を振り撒いたり、問題行動を起こすようであれば別口の屈強なシモベを向かわせる事にしている。――それはルプスレギナには伝えていない。

 

「エトワルに続いてファストも大した仕事は無いと思うが……。暇を感じたりしないものか?」

 

 お抱えメイド四十一人全てがレベル1のNPCだ。

 戦闘行為も補助もほぼ出来ない。せいぜい外に居る人間より少し強い程度――異形種のステータスは人間より優遇されている。

 

「いいえ、いいえ。暇などと……」

「謙遜はいい。聞きたいのは本音部分だ。命令でもしないと聞けないのは面倒臭い」

 

 『ナザリック地下大墳墓』に設置しているNPC全てが創造主である『至高の四十一人』を神の如く敬っている。それはあながち間違ってはいないのだが――気恥ずかしさを感じる。

 それゆえか、誰もが本心を隠してぷにっと萌え達を盛り立てているように見受けられる。

 本当は面倒臭い奴とかチョロいとか思ってるんだろ、と言いそうになる事はぷにっと萌えを含めて誰もが――実は――思っていた。

 性根が腐ったギルドメンバーばかりだから仕方が無いのだけれど――

 ゲームに(うつつ)を抜かしている時点で察しがつくものだ。

 

「例えば……。お前たちは我々に何を期待している? 強大な力を奮って世界に威を見せろ、とか?」

「……それは……、実に答え難い事でございます。メイド如きの語彙能力では……」

 

 そんなことはない。ぷにっと萌えは自信を持って思った。

 自我を得たNPC達の知的レベルの高さに驚かされたものだ。

 単なる性格設定に過ぎない事をあたかも()()()()()()()()()()ように身につけている。

 特に顕著なのが階層守護者達――

 細かい情報が多ければそれに比例した感情表現を見せてくれる。

 たかが十二年ほどの運用実績しかない『ユグドラシル』なのに――

 

「……だが、君達はこれまでの人生経験を蓄積している。それは紛れもない事実だ」

 

 そうでなければ昨日の事は既に忘れていなければならない。

 新しい事を覚えられないのであれば記憶は常にリセットされるもの――、そうであるのが普通だ。

 更にこの手の話をゲーム時代に聞けないからこそ答えてくれる今がとても貴重な体験となっている。

 

「特定の『コマンド(命令)』を与えない限り、君達は行動してくれなかった。だが、今は柔軟に対応している。私はとても気になる」

「は、はい……」

「それとも……と、ここであえて意地悪を言うが……、無視してもいいからね」

「……はい」

 

 何やら難しい話題になりそうだとファストは思い、両手を拳にして力強く握った。

 至高の御方が質問してくれる機会はなかなか無い。いや、話しかけてくる機会を逃してはいけない。失望させてもいけない。

 様々な思いがメイドの脳内を駆け巡る。

 

        

 

 意地悪な言葉で思いつく『テンプレート(定型文)』をぷにっと萌えは検索する。

 使い古されているからこそ――言い慣れた言葉というものが存在し、つい口に出てしまうものだ。

 冴えない主人公が最も使いそうな代表的な言葉としては『えっ?』と『誤解だ』が圧倒的かもしれない。

 曖昧な情報の場合はやはり『かもしれない』が断トツとなる。これは致し方ない。

 確定する事は想像しているよりも難しい問題だから。

 すれ違い系だと『お前には関係ない』と『お前に何が分かる』と『お前が知る必要は無い』または『話す事は無い』などが出てくる。

 気弱な性格の主人公は『え~!?』と叫ぶ機会がとても多い。

 そんな感じで創作物の中だけだったものが現実にまで浸透してきた歴史がある。

 コミュニケーション障害――略してコミュ障――の主人公だと一人称が多くて長い。あと、理屈っぽい。それと万能感を持っていると思い込んでいる。

 後は一方的にまくし立てて相手の言葉を待たずに去るパターン。

 

「植物モンスター如きと口を利くのも憚られて答える気が無い、と……」

「そんなことはありません!」

 

 即座に否定するメイド。

 顔を真っ赤にして叫ぶ姿は実にヒステリックだ。――そういう設定は確実に持っていない筈なのに。

 意地悪だと言い置いているのでメイドの反応は無視する。――それと他の部屋に騒音を撒き散らしてはいけないので消音のマジックアイテムを展開しておく。

 音を抑える魔法(マフルサウンド)は自分の想像とは違っていたようだ。

 

(ちゃんと答えてくれないとおっぱいを揉む、と言っても異形種には通用しないし……)

 

 オヤジギャグという古典もまた通用しない。

 古き良き日本の風土は異世界やネット世界には無くなったのかな、としみじみ思うぷにっと萌え。

 

「何も求めていない、というわけではありませんが……。貴方様が居てくれる事が何よりの幸せなのです。それ以上の高望みは致しません」

「……そうであれば形だけ似せた人形でもいいよね?」

「……人形では駄目です」

 

 少し唸りながらメイドは言った。

 実はこの問答は初めてではない。事あるごとに様々なメンバーが繰り返しNPCに問いかけ続けているものだ。

 経験値の蓄積が本物ならば答え方も変わってくる、という予測を立てて――

 

 ぷにっと萌えは内心で微笑んだ。

 

 彼らはちゃんと自我を持つ生命体だ、と感じた。

 そうなるように誘導し、自発的とは言いがたいかもしれないけれど――

 それでも真剣な眼差しは本物だと感じた。

 ――諸外国では口元の動きより目元を重視したりするが、言葉の重要性は意外と低かったりする。

 異形種であるメイドは日本人が設計したものだから、性格は創作された国に依存する傾向にある。

 それと行動指針も、だ。

 

(……いや、それすらも早計か……)

 

 高性能の人工知能を育てているのと大差がない。

 しかし、それもまた新たな自我の概念だと思えば受け入れざるを得なくなる。

 高度に発達した機械は生命体と遜色が無くなる、と言われている。もちろん人間という種族も進化の過程で生まれた様々な有機物の塊だ。

 

「もう少し様子見か……。だが……私の言葉によく逃げなかった」

「……はい」

「これから調べ物で忙しくなる。その間……物凄く暇になるが……。黙っているのも辛いだろう?」

 

 しかも狭い部屋の中だ。

 いかにも暑苦しい植物モンスターと二人っきり。黙っている事に耐えられる()()はそうそう居ない。

 

「一日一杯はさすがに微動だにしない自信は……ありません」

 

 椅子に座ったまま一週間耐えられるかと言えば無理な話だ。しかし、ゲーム時代は耐え切ってきた。

 自動的に空腹を紛らわせる命令を与えていたので放ったらかしにしても問題は無かった。――それが出来る施設だからこそ成り立つ命令だ。

 飲食と睡眠を無効化する『維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)』を装備させておくのも手だが、う~んとぷにっと萌えは唸った。

 黙って見つめられるのは意外と苦痛だし、黙って居させることもまた気になって気が散る。

 

        

 

 せっかく連れて来たのに、という思いはある。だが、外に行っててと言うわけにはいかない。

 ルプスレギナと違ってひ弱なメイドは外敵に対して無力同然。

 かといって目隠しするのも可哀相だ。

 ここはじっと我慢するしかない。

 

「………。お~、そうだ」

 

 食事に関しては影の悪魔(シャドウ・デーモン)に任せよう。それで一先ずの気がかりは解決した筈だ。

 本来はこんな宿で勉強する必要は無い。夢中になって忘れてはいけないと思ったからだ。

 記憶力に関してアバターだから完璧だ、という都合の良い事は無く、人並み。

 それはさておき、アルバイトで来れなかった生徒用と次の講義用の資料をまとめておく。

 実戦についてはまだまだ検討段階だが、彼らを育てるとどうなるのか興味はある。――あるのだが仲間内からの批判が怖い。

 

(だって、お前ら育てても何の発展もしないじゃん)

 

 子孫でも残そうとか()()()()行動を取る奴が居るならまだしも。

 居もしない強敵ギルドやプレイヤーに怯え続ける毎日は不健康の極みだ。

 いや、そんな事より次の授業に集中しなければ、とぷにっと萌えは早々に思考を切り替える。

 

        

 

 そういえばと昼過ぎになってから窓に顔を向けつつぷにっと萌えは思った。

 ナザリックの中の生活から離れている今は幸せなのか、と。

 新鮮な気持ちになれたのは事実だし、悪くないという感想だ。――敵がほぼ居ないので退屈を覚える。

 普通のモンスターを倒す機会も少ないし、日常生活という意味ではのんびりした一日だ。

 慌しいイベント満載の日々より、どちらがいいのかと言えば答えに困る問題だ。

 

「………」

 

 元の世界に戻る方法を考えるのが最終目標だと思うが、異世界に永住することも一つの選択肢――

 ただ、不死性が今後の生活に引っかかってくる。

 『死』という概念を引きずったまま生き続ける事を苦痛だと思うかどうか。

 

(終活……とやらもいずれは考えなければならない)

 

 ただ、そこに至るまで百年以上はかかる先の話だが。だからといって楽観視は出来ない。

 時間の感覚がおかしい長寿のクリーチャーはうっかりすれば数十年の経過はあっという間だ。

 百年でも恐らく短く感じる。

 

(蘇生や時間を止める方法がある以上、悠久の異世界生活は場合によれば満喫し放題……)

 

 条件を色々とクリアすればの話だが――

 それらを突破した先に待ち受けるのは()()()()()との戦いだ。

 この空想じみた世界と地球が存在している現実の世界。

 果たしてどちらが『リアル』なのか――

 その探求もまた楽しみの一つだ。

 

        

 

 午後に差し掛かる頃にナーベラルに連絡を入れておく。その後でルプスレギナがどうしているのか気になったのでシモベを向かわせる。

 目の前で大人しくしているメイドの事もうっすらと忘れかけていた。

 

「動くな、とは言っていないからな」

「分かっております」

 

 力強く返答するファスト。

 資料をまとめ終わり、少しだけ暇になったのでファストの顔を撫でてみた。

 見た目は同じ形だが感触の違いでもあるのかと思った。――結果はそれほど差異は感じられなかった。

 骨があるようだから変な曲がり方はしない。それが粘体(スライム)系ならば自在に湾曲する。

 蔦で出来た自分の腕もある程度は自在に動かせる。人間の時とは確かに違うのだが自分の腕のように動かせるので、どう表現するのが適切なのか迷うところだ。

 高レベルプレイヤーでもあるので簡単にポキリと折れたりはしない。

 

「ステータス的には力が強いはずなのに皮膚を簡単に千切ったりするような事が起きないとは……」

 

 軽く触っただけでメイドの顔の皮膚がズルリと剥ける事態が起きない。ちょっと力を込めるとどうなるのか想像するのは怖いのだが――

 頭をポンポンと――もちろん軽く――しただけで鼻血や目玉が飛び出すような事になれば大慌てだ。その辺りの力加減の表現がどうなっているのか――

 だからといって試そうとすればとんでもない事態に発展するのは――ほぼ確実だと思うのでしない。

 軽い冗談でメイドの頭が木っ端微塵では洒落にならない。

 野良の小鬼(ゴブリン)で耳とか千切れないか練習するのも酷いけど。

 

「……しかし、スルスルと動くものだな」

 

 どういう関節機構になっているのやら。――関節があるとは思えないけれど。

 攻撃の意志を持たなければメイドの柔肌を傷つけない。これは意外と便利だ。

 

「私に触られたからもう洗いません、とか言わないよね?」

「えっ? 顔はちゃんと洗いますよ。はい。至高の御方に触れられたからといって清潔を怠るわけにはまいりません」

「よろしい」

 

 この解答にたどり着くまで長いやり取りがあったのだが、やはりメイド達は学習し、それらを蓄積している。

 少し感動した。

 ただ――言っているだけで実は全然洗っていない事実があったとかだと傷付く。

 かといって女風呂を監視するわけにもいかない。

 

「耳とか取れたらちゃんと治癒されるかな?」

「聞いた話では治癒魔法はちゃんと適応されるそうですよ」

「……そうじゃないと困るものな」

「はい」

 

 回復手段の構築は何かと必要だから。

 顔に傷があったり、四肢が欠損していたりするメイドばかりではナザリックの印象が悪くなる。

 アンデッドが徘徊しているだけで手遅れ、という意見もあるかもしれないけれど。

 

        

 

 顔の他に手や腕の感触も確かめる。

 次は太もも――、というわけにはいかない。

 人間的な考えは今も残っているけれど、性欲に関してはどうなのか。

 想像は人並み。身体の反応はモンスターに傾いているのかな、と。

 そもそも臓器類は何処にあるのか。顔を形作っているけれど実は何も無い空間だ。なのに視覚がある。

 

「……私はずっと黙っている事が多い。その間待っている君達はどういう気持ちなんだ? 一度席を外そうとか思わないものか?」

「お許しを頂くまでは……」

 

 許可を出しても現場に居続ける場合がある。そういう事も含めての質問だった。

 

「仕事だと思っておりますので」

「尿意とかあれば動くのにな」

 

 大量にものを食べているのに全然トイレに行こうとしない。というかトイレに行く事があるのか。

 (しも)の事情は生物であれば避けては通れない大事な事だ。

 ぷにっと萌えは人間のような臓器は無いので飲食に類する事が出来ない。それゆえにトイレに行く必要が無い。

 風呂はどうかと言えば入れないことはない。そこは人間的に感じられるので。

 同じく植物モンスターである森精霊(ドライアード)は冷たい水ならば平気だという話だ。

 メイドに軽く運動を命じても経験値が手に入るわけではない。――レベルアップはしないがある程度の経験値は得られるらしい。だが確認していない。

 

 命令する事を考えるのが面倒クセー。

 

 思いっきり叫びたい気持ちになってきた。

 どっか超位魔法で吹き飛ばさないと精神的にすっきりしそうにない。

 ある程度の精神が抑制されるとしてもストレスは溜まりっぱなしだ。悶々とメイドのことばかり考えたくない。

 異世界に転移するなんて誰も想像できないし、NPCが自我を持つなんて分かればもう少し性格設定について考えた。

 全ては後の祭りだが――

 支配者プレイが楽しいとか言う奴の気持ちが理解出来ない。ぷにっと萌えは唸った。――当然のようにメイドが驚く。

 

(少しは気を利かせろよ~。とは言えないし……)

 

 長く研究している間、面倒を見てくれる人は何所かに居ないものか。

 メイド独自に出来る仕事は他に無かっただろうか、と。

 

        

 

 物思いに耽ると時間は容赦なく過ぎていく。しかし、メイドが黙って佇むので時間経過が把握しにくい。

 時を止められたのではないかと錯覚しそうになる。

 ゲームのキャラクターたるNPCとはいえ、可愛い顔をしている。――こういう美的感覚は人間のままのようだ。それがいい事かは分からないけれど。

 現地生物であればそれぞれ違った感じ方になるものだ。そうでなければ困る。

 蜥蜴人(リザードマン)として生まれて鏡を見たら気持ち悪い生物だ、と喚く奴は人間の転生者くらいだ。

 

(そういえばルプスレギナはどうしたのか)

 

 記憶の彼方に追いやられていたが、すぐさまシモベに尋ねると監視中と答えてきた。

 居場所を把握しているのなら放置してもいいか、と思う事にしようとしたがやめておく。

 一旦宿屋に戻るように指示を飛ばしておく。すると数分も経たずにルプスレギナが訪れた。

 

「……意外と近場に居たんだな」

「お呼びがかかるまで待っていただけです」

 

 胸に手を当てて落ち着いた調子で報告する褐色美人。

 礼儀正しい姿は見ているだけで自分の背筋も真っ直ぐに伸びそうになる。

 

「ぷにっと萌え様。質問してもよろしいでしょうか?」

 

 急に言葉をかけられて驚く植物モンスター。だが、すぐに気を取り直して首肯する。

 本来は特別な事が無い限り、ずっと黙っている仕様だ。だから、普段とは違う対応は今もまだ慣れない。

 

「人間に偽装されないのは……、何か理由がおありなんですか?」

「面倒臭い。ただそれだけだ」

 

 平和な街中を緊張感たっぷりに持ちつつ徘徊するのは精神的にかなりの負担だ。

 多少、抑制されるとしても。気持ち的に良くはない。

 あとは、偽装したからといって飲食できるわけではないから。

 

「敵地ならば偽装も考えないこともないが……。友好国で疑いを広げる行為は印象を悪くする。それに大騒ぎされては居づらくなる」

「彼らは騒ぎますか?」

「得体の知れないモンスターが街中に現われれば騒ぐものだ。……事前に顔合わせして慣れさせているからこそ私は街中で活動できる。そうでなければ兵士達に囲まれているところだ」

 

 地道な努力があるからこそ今に至れる。

 魔導国が異形種が治める国だと早期に公開したことも――

 それでもまだアンデッドには抵抗を感じるようだが――、そいつらよりマシだと思われているから平気だ、という意見もあるかもしれない。

 

「ルプスレギナは変身して街中に徘徊したい気持ちでもあるのか?」

「それは別に……。今の姿のままで充分です」

 

 大きな赤い狼を連れ歩く植物モンスター。

 見ようによってはペット連れに見えなくもない。――ルプスレギナが帝国市民を襲わなければ、だが。

 無闇矢鱈に暴れないのはありがたい事だ。

 

「言っとくが……。お前を放し飼いにする事自体、とても危険な行為なんだからな」

「……行動には慎重を期しております」

「そうしてくれないと困る。火種は小さいところから(くすぶ)るものだ。そして、それは決して侮ってはいけない」

 

 後々の言い訳とか、謝罪や賠償――。または全面攻勢にまで()()()発展する危険フラグは勘弁願いたい。

 せっかく学生達と触れ合う為の計画を始めたばかりなのだから。

 

        

 

 ルプスレギナの活発な発言に気を良くしたぷにっと萌えは内心でも機嫌が良くなってきた。

 積極的に質問を受けている。――もちろん中身が伴なわなければ駄目だ。

 今は小言レベルだが、ここまで柔軟な会話が出来るのは素直に驚いている。

 ――ここで黙って立たせておくのは可哀相なので椅子を用意させ、座るように命令する。――背中に背負っていた武器はさすがに壁に立てかけた。

 

「……そういう自主的な部分はどういう命令になっているのか……」

 

 武器を装備する。装備を外す。アイテムを選択し、適切に使用する。魔法一覧から適切な魔法を選択。魔法を使用する。

 複数の命令を事前に登録する方法は存在しているのだが、それでも限界はある。

 簡単な例が登録していない命令を遂行できるのか、というものだ。

 答えは出来る。

 実際に何度も目の当たりにしてきた。

 とはいえ、それは別段、珍しくはない。

 人工知能の発達を促進すれば――

 だが、驚くのはそこではない。

 

(急激な知能の進化は多大な負荷をかけるはずだ。その影響が今もって不明なのだが……)

 

 どんなに高性能のコンピュータが発達しようとも人の手で作られたものには限界がある。

 それを超える事は絶対に出来ない。

 人間ですら己の限界を知る生き物なのだから。

 

(たぶんエロい事が出来る。現地民が勝手に増殖しないのは……)

 

 ゲームのキャラクターではなく、生物だから――

 いや、より正確に言うならば――

 

 生物と遜色ないゲームキャラクターが成す振る舞い。

 

 と、定義すれば自分達の存在もあながち否定されるものではない。それでも『だが』と疑問に思う。

 空想生物を現実に落とし込めるはずがない。

 生物として欠陥を持つものが存在するのだから、その無理は何処かが被っている筈だ。

 その代表格がアンデッドモンスターであり、非実体クリーチャー。

 首無し騎士(デュラハン)がどうして存在しえるのか、特定しようとして今もって解決しない謎となっている。

 目の前に座るルプスレギナが変身生物であるという事実。しかも変身後は服装が何所かに行ってしまう。破れずに、だ。

 変身を解除するとちゃんと元の服装に戻る。形状記憶合金のような不可思議な振る舞いは興味が尽きない。

 そういうピンポイントな材質で基本的に服は作られないものだ。

 

 空想上の金属まで存在しているという始末。

 

 現実主義者と莫迦にされてもいい。

 何なんだ、これはと叫びたい。

 

(おいこらGM(ゲームマスター)! これらを説明しろよ! というかリアル(日本)と往復させろ!)

 

 ううむ、と力強く唸るぷにっと萌えに驚くルプスレギナとファストと足元のシモベ達。

 急に怒り出した至高の御方に戸惑いを見せる。

 

        

 

 ぷにっと萌えにとって許せないものは非現実的なものだ。

 ゲームはゲームとして割り切れるからこそ納得している。だが、それらが曖昧になった世界というのはほとほと呆れ果てる。というかふざけるな、と――

 分からない事を探求する事は嫌いではない。むしろ大好きだ。

 それにしても理不尽ではないかと思わないでもない。

 

(ストレス発散として景気良く世界でも焼くか……、という気持ちにならないとも限らない)

 

 特にモンスターとしての特性が色濃く反映されるのであれば、最悪の事態は想定しなければならない。

 常に安寧が保たれているとは限らないのだから。

 

(だが、外に出て色々と学ぶ事は悪い気分ではない。内にこもり続けるのは会議くらいにしたいものだ)

 

 苛立つ精神ものんびりとした植物モンスターの特性で抑制でもされたのか、外の景色に顔を向けていると穏やかになりつつあった。

 それが出来ない種族は大変だろうし、気の長い人生において不死性はとても厄介だ。

 

「……そういえば時計が無いな」

 

 外の景色だけで時間を計るのも悪くは無いが、天候に左右され易い。

 影の悪魔(シャドウ・デーモン)にアイテムを取りに行かせ、ルプスレギナ達に顔を向ける。すると彼女達は身体を強張らせてブルブル震えていた。

 

「? どうした? 足でも痺れたのか?」

「い、いえっ! そういうわけでは……」

「は、はいっ!」

 

 二人共何やら緊張している様子――

 ぷにっと萌えはさっぱり理解出来なかった。

 

        

 

 時計が届き、ファストに近くの壁に掛けさせる。

 学院はまだ授業中の時間帯である事が分かった。

 彼らの時間割はナーベラルにより事前に伝えられているのだが、中に入れないのは些か残念な気持ちになる。

 許可が出るのに半月かかると聞いていたので。――ずっと授業する予定は無いから、青空授業で充分ではあるけれど。

 今日の天気を確認する。

 薄曇りが目立つが所々青空がある。それが悪化するのかしないのかが問題だ。

 天候操作系の魔法で予報に関するものがあっただろうか、と資料を取り出して調べてみる。

 ゲームに実装されていた魔法は膨大だが、各プレイヤーが習得できるものには限りがある。

 

(いくら自由度が高いからといって……。いや、それだけに特化したゲームとして作り上げたと理解しなければ……)

 

 端からストーリーを度外視した多人数プレイヤーの為だけのオモチャ箱。

 隠し要素満載。――しかも最後まで解明されなかった事柄が多数――

 

(やりこみプレイがしにくい特性も合わさり、拘りの少ないプレイヤーは早期に撤退していった)

 

 今から思い出しても仕方の無いものなのだが、自分達はそれほど熱中していたのかと疑問に思う。

 仲間と共に拠点を作り上げたとしても所詮は一時的な娯楽に過ぎない。

 生活の核はネットではなく現実にある。だからこそ――

 

(それが当たり前だ。仮想空間に生きる糧を見出すべきではない)

 

 それが世間一般の主張であり真理だ。

 今はその概念が逆転している。

 現実の方が仮想的となっており、自分達は異世界風味の土壌に居る。

 それを当たり前の生活として受け入れられるものか――

 

(当然、無理な話だ)

 

 何故、無理なのか。

 現実世界を知っているし、そこで生まれたからだ。

 だが、今は違う。

 心は人間的だが、姿は立派なモンスター。化け物だ。

 キャラ作りしていた空想の世界から本物へと変換されている。

 

(そうであっても疑問だが……。それを追い求めても一人ではどうにもならない)

 

 端から異世界人としての人生であれば自分は普通のモンスターとして生き、本能のままに振舞っているところだ。

 それが当たり前だ。

 そこに不可思議はありはしない。

 

        

 

 執務を終えて悶々とした思索の旅を終えて、気分を変えないと邪悪なモンスターと大して変わらなくなる。

 人通りの多い広場に向かい、天を仰ぐ。

 息苦しい空間より開放的な場所で無心になる事も気分的には良い事の筈だ、と信じて。

 気分がコロコロ変わるぷにっと萌えにビクビクしつつルプスレギナは彼の側で大人しくていた。命令があればすぐさま対応できるように――

 ファストは宿屋に残し――影の悪魔(シャドウ・デーモン)の護衛付き――ぷにっと萌えは数分ほど無言で佇んだ。

 

「おっ、そうそう……」

 

 忘れかけていた事を急に思い出し、ナーベラルに連絡を入れる。

 一人で考えるより、他人の顔を見たり、意見を聞くのもまた気分転換になると思って――

 遅刻していた生徒――欠席扱いだが――に声をかけるように通達し、行動を開始するぷにっと萌え。

 

「……もう帰っていいけど……、着いて来るか? 無理強いはしないぞ」

「せっかくお供ができるので……」

 

 せっかく、という言葉に苦笑する植物モンスター。

 嫌ならはっきりと言え、というのは意地悪だなと思いつつ。

 自己の欲を持つNPCというのは興味深い対象だ。だが、それを分析する方法が思いつかないのが現状である。

 質問攻めにしたところで真実味があるという確証が得られにくい。それは本人にも不可解な事だから仕方が無い。

 ここは自主性に任せて観察するしかない。

 一応、ナザリックにも連絡を入れて彼女の帰還の面倒を見るように依頼しておく。――念のために影のシモベにも。

 

        

 

 気がかりを解消した後は待つだけだ。

 それとただ教えるだけでは面白くない。実演と何かしらの魔法取得に関することも考えておかなければ――

 では、具体的にどうすればいいのか。

 

 全く分からない。

 

 ぷにっと萌えは万能の知識を持っているわけではない。分からない事の一つや二つはある。

 所謂(いわゆる)『生涯学習』というものだ。

 そこで別の考えが浮かんだ。

 

伝言(メッセージ)

 

 彼が魔法を使った時、側に居たルプスレギナは周りへの警戒に意識を傾け、影に潜むシモベ達が緊張し始める。

 

「ルプスレギナ。椅子でも持ってきて座っていてもいいんだぞ。それは自己判断で……」

「は、はい」

 

 そんな事を言いつつ対話する相手は『音改(ねあらた)』だ。

 商業系の職業(クラス)を持ち、魔導国における財政管理を担っているギルドメンバーの一人だ。

 

『はいは~い。いつもお世話になっております、音改(ねあらた)で~す』

 

 気の抜けた言い方で応答に出た彼にぷにっと萌えは『お疲れ~』と返す。

 至高の存在同士は友達感覚で話かける。ただ、それを聞かされるNPC達は意外そうに振舞う事がある。

 支配者としての威厳がまるで感じられない――、または神の言語とでも思っているのかは不明だが――

 

(偉そうな会話はこそばゆいだけだ)

 

 そう思いつつ『生涯学習』について尋ねる。

 一部の専門用語は思い込みによって意味がまるで違っていた、ということがある。ここは専門分野に素直に尋ねるのが正しいと判断した。

 聞いた範囲では自分の想像の域で留まった。

 『PDCAサイクル』は今でも分かるけれど『アイサスの法則』と『アイドマの法則』の違いが分からない場合、自分ひとりであれば思考を放棄する。

 貴重な知識を失う事は実に勿体ない。

 ついでに『パレートの法則』も覚えている。とても有名なものだから。

 

「……常に緊張している生活は辛いです」

『己の業だと思って諦めて下さい』

 

 容赦の無い言葉。だが、それは音改(ねあらた)にも言える事だ。

 気の知れた仲間と遊んでいたゲームから大勢を動かす大規模なプレイスタイルに変更させられた。

 数が多ければいいというものではない。

 ものには限度がある。

 

        

 

 通話を終えてため息をつくぷにっと萌え。

 ここしばらく精神的な疲労が溜まりすぎてはいないかと。

 そうであっても仕方が無い。どうにもならない。

 支配者層の暮らしに慣れていればまた違った感覚になれると思うけれど、早々都合よくいかないものだ。――人生とは。

 そろそろルプスレギナを戻さないと気が散って仕方が無い。もう一度、拠点に連絡を入れて戻ってもらうことにした。

 今はこじんまりとした行動を優先しているので。――それにナーベラルという助手一人居れば事足りる。

 ルプスレギナをナザリックに戻した後はガランと広がる風景が見えるのみだ。

 

「さてと……」

 

 のんびりしている暇は無い。

 仮設を用意する為にあちこちの許可を取りに行かなければ――

 場所は前回と一緒だが、常設するわけではないので終わりも想定しておかなければならない。

 そうして準備を整え、細々としたものはファストを呼び寄せて解決する。

 魔法によるものとは違い、手続きの要る事務作業は時間がかかるものだ。

 それらが終われば午後の夕暮れ。

 買い物に出かける主婦や帰宅する学生の姿が目立ち始める。

 これらの風景は実に平和的で壊すのが勿体ないと思わせる。――壊したいとは思っていない――

 今回は生徒一人。毎日忙しいようなので仕事終わりまで待ってみる事にする。

 内容は前回と一緒だ。――さすがにフールーダは来ないと思うけれど、念のために声はかけなくていい、と伝えておいた。

 

        

 

 目的の人物が何をしているのか、調査するのは無粋なのでひたすら待つ事にする。――といっても次の授業の為の資料の整理で充分に時間が潰せるので待つこと自体は苦にならない。

 事前に魔法的な監視が無いかの調査も出来るし。

 好き勝手に他国に入り浸るモンスターに対する抗議が無いか、魔導国側としてバハルス帝国に正式な文章として送ってみる。

 問題があれば改善する意識はある。

 自分としては迷惑行為はしていないと思うけれど、それぞれの国には独自の法律がある。

 

(出すものは出した。後は待つだけだ)

 

 見た目が気持ち悪いから人間に偽装しろ、というのは聞きたくない意見だが――。その辺りはどうなっているのか気になる点だ。

 大量に街中にモンスターを送り込んでいないから大丈夫だとは思う。

 足元のシモベも全住民をカバーするほど大量には居ない。せいぜい五体程度だ。

 仮設の用意が出来た後、暇になるので学生が来るまで思索に興じようかと思ったがやめた。

 

(ナーベラルがじ~っと見つめて監視するのも可哀相だしな)

 

 出来る限り気楽にしてほしい事を祈りつつ――

 適当なアイテムを机の上に乗せて魔法を唱える。

 

飛行(フライ)

 

 自分と同意するクリーチャーに効果がある魔法だが、物体にも通用した筈だ。それと『集団飛行(マス・フライ)』という上位版もある。

 効果対象がクリーチャーであるならば、それ以外には効果を及ぼせない。――それが仕様であるならば当然の結果だ。

 ここで大事な事は無機物である動像(ゴーレム)自動人形(オートマトン)に通じる事だ。

 それと浮かせる魔法には限界積載量が存在し、何でもかんでも浮かせられない。

 

「……無駄撃ちか……。何らかの定義付けが存在するのだな。ならば浮遊(レビテート)

 

 この魔法は物体も浮かせられる、と仕様にある。それゆえに重さ制限内であれば効果が発揮する。

 上位に『懸架(サスペンション)』がある。

 

        

 

 飛行に関する魔法はいくつか存在するのだが、一番の謎は重さ制限があるはずなのに巨大な物体を浮かせる仕組みだ。

 南方の砂漠にあるという『エリュエンティウ』は浮遊する大都市だ。

 何らかのマジックアイテムで浮いている、と一言で言えば楽だが――

 その仕組みを細かく分析すれば不可解な点が色々と浮き彫りになるはずだ。

 どう考えても理屈に合わない、とか。

 手持ちの知識内での浮遊に関する魔法では城一つを浮かせる事は不可能だ。

 

(徹底された重さの分散技術でも難しい。そもそも合計重量から逃れられない筈だ)

 

 それと人々を収容すれば必然的に重みが加わる。

 異世界特有の反重力物質でも存在しない限り、どう考えても建造は無理だと言わざるを得ない。

 

 だが、それはそれでとても魅力的だ。

 

 空飛ぶ城はゲーム時代にも存在しえた。

 そういう仕様だ、と言えば身も蓋も無いのだが――

 運営が実装した拠点と言ってしまうと夢が無い。実際に作れれば挑戦したいものだとぷにっと萌えは思った。

 物質一つずつに魔法をかけていったとしても持続時間が存在する。それらをまとめて制御する魔法というのはあるにはある。だが、それとて解呪魔法には弱い。

 つまり瓦解しやすくなる。

 複数のアイテムを寄せ合い、あたかも一個のアイテムとみなす『球状性質(グロビュラー・フード)』は溶接した事にはならないが浮遊(レビテート)の効果を出す時に――少し――便利になる。

 様々な制限のある魔法――一部の魔法に限られるけれど――の効果を永続させる『永続化(パーマネンシー)』は必須である。

 なんでもかんでも永続化が出来る訳ではない。しかし、転移後の世界ではより広範囲に適応出来そうで怖い。

 

        

 

 そうして時間を潰していたら辺りがかなり暗くなった。

 既に晩御飯を用意する時間帯だが目的の人物は未だに現われない。翌朝になろうと構わないが、灯りの用意だけは整えておく。

 夜間は人通りは少なくなるが誰も居ないわけではなく、何人かの兵士が見回りをしており、完全な闇にはならない。

 机の上に宙に浮く物体を眺めているとファストから報告が寄せられた。

 

「ようやく来たか」

「付き添いが居るようですが……」

「構わない。ファストは引き続き、現場に残るか?」

 

 まだ日は変わらないけれど、担当変更の為に次のメイドに交代する決まりになっていた。

 さすがに我侭は言えないのでファストは交代する旨を伝えた。

 ナザリックに連絡を入れた後は日が変わるまで引き続き仕事は継続される。

 そして、アルバイトを終えて何がしかの要件を済ませた学院の生徒が姿を現す。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

 顔を見せたのは年の頃は十代半ばほどの男子と女子の二人だけ。

 メイドがそれぞれに席につくように促す。そのすぐ後でぷにっと萌えが彼らの前に現れる。

 大人の人間程の大きさの植物モンスターにたじろぐのは男子のみ。

 女子は前回も来ていたのでぷにっと萌えに驚くことは無かった。

 挨拶もそこそこに教壇に向かう。

 普通に移動し、生徒を前にして一礼する様に異常は見られない。けれども男子は口を半開きにして驚いたまま佇んでいた。

 

「遅くまでアルバイトをしているようですね。本当なら疲れてぐっすりと眠りたいところだろうに……」

「い、いえ……」

 

 流暢に喋るモンスターにたじろぐ男子。

 ごく普通の一般的な人物に見えるが、他の生徒と違う点は眼帯をつけている事だ。

 ナーベラルから事前情報は貰っていないので、気にしても仕方がないと思う事にして無視する事にした。

 

        

 

 惚けている男子に構わず、用意した黒板に前回と同じ文章を書き記す。

 書き終えてから説明を始めるのだが、いやに静かな生徒に小首を傾げる。

 

「教える事は前回と同じ……。さて、使えもしない魔法講義は退屈かと思いますが、質問はどしどし受け付けております」

 

 説明の前に彼が習得している魔法や覚えたい系統などを尋ねておく。

 得体の知れないモンスターに自分の秘密を告げるのは抵抗を覚えるかもしれない。――というのを失念していたぷにっと萌え。

 だが、聞いておかないと授業方針が定まらないので出来る限り教えてもらわなければならない。

 

「何の才能も無くて一つも覚えていなくても結構ですよ」

「……うう」

「先生」

 

 と、隣に座る女生徒が手を挙げた。――二人しか居ないので仕方がない。

 メイドが飲み物などを無言で彼らの目の前に置いて行く。

 そういえばナーベラルの姿が見えないと思い、何処に居るのか尋ねるとナザリックだった。急用の為に向かう事になったと説明を受ける。

 急な話だからぷにっと萌えに報告が遅れた事を謝罪する戦闘メイド。

 居ない者は仕方が無い。あっさりと諦める至高の御方。

 

「おっと、私用ですみません。どうぞ」

「はい。彼は信仰系を教わりたいそうです。……その、自分のことを言うのが恥ずかしいんだと思います」

 

 女生徒の言葉に唸るのは男生徒。

 本当にそうなのかはぷにっと萌えは判断できないが、言いたくないのであればどうしようもない。それと無理に聞き出す気も無かった。――ただ、教えてくれないと指針を示せないので迷う事になる、とは伝えた。

 

「俺は……」

「言いたい事は手を挙げてから」

 

 勝手に喋るな、というのを無言の圧力として伝える。けれども表情では相手に伝えられないので、彼がどう受け止めるのかは不明だ。

 ここはモンスターの顔ではやりにくい弱点とも言える。

 

        

 

 指摘された彼は手を挙げた。

 素直なところに感心し、ぷにっと萌えは指名する。

 

「あんたは信仰系も教えられるのか?」

 

 口の利き方に眉根を寄せるのはぷにっと萌え――ではなく一般メイド。

 若い学生のぶっきらぼうな喋り方にいきなり怒り出す事はないとしても、勇気ある発言に少し意外だと思った。

 誰も彼もが魔導国の者を恐れるのに彼は勇気ある発言をした。それは無知ゆえの事なのか、それとも――

 と、思考の海に没入しそうになったがすぐに意識を生徒に向ける。

 見れば隣の女生徒に注意されていた。

 

「敬語を使え、とは言ってなかったね。……だが、教師に対する……というか目上の者に対する口の聞き方は治した方がいい」

 

 バハルス帝国は誰も彼もが実力でのし上がれる国のようでいて、ある程度の年功序列が存在する。それと軍事国家でもあるので、彼らが帝国兵士として赴任した時、苦労する筈だ。

 

「化け物だと侮っているのかな? 今は教師として付き合っている。それを忘れてはいけません」

「はっ? 化け物を教師と呼べるかよ」

「……ジエット。突っかからないで」

(ジエット君か……。聞いてしまったものはどうしようもない)

 

 特段、生徒の名前は聞く予定に無かった。それは単に()()してしまうからだ。

 あまり特別視せず、平等に扱うとしてもシモベ達に彼らを特別だと思わせたくない。

 あくまでも赤の他人であり、授業が終われば敵か、その他大勢のモブキャラとして処理する為でもある。

 僅かな愛着も持ちたくない、とは言わないけれど――

 

        

 

 敵愾心ばかりでは前に進まないので口調については不問というか無視する事にした。

 話ぶりでは()()()()主人公のように感じたので。

 言葉の表現が拙く、一方的な思い込みで喋っている。

 この場合、何を言っても彼独自の考えで発展してしまう。というか既に色々と想像されているに違いない、というような感じで思考している筈だ。

 この手の輩は無理に相手をしないに限る。――と言いたいところなのだが、生徒として付き合わなければならないのが厄介な問題だ。

 

「事前に聞いていたと思いますが……。それでも君は私の授業を受ける為に来たんでしょう? あまり文句を言わないように」

()()()化け物だとは……、思ってなかっただけだ……」

 

 本物の、というところに引っかかりを覚えるぷにっと萌え。

 では、彼は何と勘違いをしたのか――

 考えるまでもない。

 モンスターに偽装した教師によるサプライズ。そして、彼はそれが試験の一つだと思い込んでいた。

 ――というのは(いささ)か勘ぐりすぎかな、と思わないでもない。

 

「とにかく、君は信仰系に進む……、または進みたい、でいいのかな?」

「……まあ、そうだな。……できるものなら」

 

 そう言いつつ『ジエット・テスタニア』少年は空いている机の上にある()()()()()が気になって仕方が無い。

 

(……これ何なんだよ)

 

 魔法によるものなのは理解出来た。問題はその方法が全く分からない事だ。

 どんな魔法を使えば物体を浮かせられるのか。

 空を飛ぶ第三位階の魔法の存在は聞いた事があった。それを使ったのか、と疑問に思った。

 

        

 

 魔法学院の生徒の大半は魔法未修得者が多い。

 第二位階でも驚かれる程だ。

 物体を浮かせる魔法は第二位階。空を飛ぶのは第三位階。それが通説となっている。

 細かい魔法の全てが決まった位階に収まっているわけではない。その判断基準はさすがにぷにっと萌えとて知りえていない。

 

「……あのよ……」

「発言したい場合は手を挙げるように」

 

 そう言うとジエットは舌打ちした。さすがにぷにっと萌えは僅かながら唸った。

 丁寧な対応をしているのに乱暴な態度で返されては面白くない。

 温厚なぷにっと萌えでも怒る時は怒る。苛立つ事も人並みにある。

 

(いやいや、ここで怒ってはいけない。生徒の態度が悪いのはどこの世界でも一緒だと思わなければ……。しかし、一発殴ったら確実に死ぬよね、彼……。……クソ)

 

 基礎ステータスが高いばかりに手を出したくても出せない。

 ならば蹴りで、というわけにもいかない。

 軽く殴ったつもり、と思ってもダメージ計算によればとんでもない数値に跳ね上がる気がする。――多少の加減は出来る、筈だ。だが、怒りに任せると効果が発揮されない気もする。

 人間並みのステータス調整とか出来たらいいのに、と思う反面――敵に狙われたらあっさりと殺されそうで困る。

 葛藤しているぷにっと萌えをよそにジエット少年は手を挙げた。

 

「はい、どうぞ。……あと、いちいち席を立たなくていいですよ」

 

 と、立ちかけた彼はすぐに座りなおす。

 ガタっ、ガタっと椅子が動く音で意識が現実に引き戻される。

 簡易的に整地した程度なので椅子が動かしづらいようだ。それはそれで味があるとして無視する。

 

「信仰系は回復が多いけれど、病気を治す魔法もあるんだろう? それらを身に付けるにはどうすればいい?」

「……どうするもなにも勉強するしかありません」

 

 楽して取得できる場合も無い事は無い。けれども現地の人間の場合は事前に多くの知識を得た方が効率的だと思っている。

 そういう文化を当たり前の事として受け入れている人間に違う概念をいきなり突きつけても効果薄だ。

 幸いな事に魔法の名称や効果の大部分はぷにっと萌えが経験したゲーム知識が役に立っている。――これがまるで違う概念――違うゲームの仕様――であればお手上げだった。

 そもそもでいえば、魔法文化はいつ頃から根付いたものなのか――

 

        

 

 たくさんの気になる点を一つずつ解決していくだけで数十年ほどかかりそうなので今は授業に専念する。

 いや、合間に気になる事があればメモして再検討したい気持ちが強かった。

 

「いきなり高位の魔法はどう頑張っても不可能に近い。()()()()として覚えておかなければならない魔法があったり……。まあ、とにかく、様々な知識を積み重ねておくに越した事はありません」

「……時間が無い場合でもか? 明日にでもどうにかしなければならない時でも悠長に勉強しなければならないのか?」

 

 迫力を込めた言葉だとしてもぷにっと萌えの琴線には触れない。けれども熱意は感じ取れる。

 ジエット少年は今すぐに覚えたい魔法があるという事は理解した。

 

「そうですよ。楽して得た能力は結果として君に大きな災いを呼び込みます。後悔してからでは遅いし、君の言う……()()に勉強しなければなりません」

 

 ダンっ、と机を叩くジエット。

 何らかの苛立ちは理解したが、焦る気持ちを吐露せずに勝手に怒りを溜め込まれてもぷにっと萌えとしては困るだけだ。

 今は運がいい事に質問し放題の授業だ。それを活用しない手は無い。

 

「……すみません、先生」

「気にしてませんよ。……それで君は勉強せずに結果だけ知りたい……、または身に付けたいのかな?」

「……端的に言えばそうだと言える」

 

 メイドに冷たい飲み物の用意を命令する。

 無言のまま奥の控え室に向かうメイド。それからすぐに果実水を入れたガラス製のコップを運んできた。

 

「一口飲んで落ち着きなさい。君には糖分が必要です」

 

 高級そうなコップに驚きつつも一口含むと冷たさが広がり、高まっていた熱が一気に下降する。

 隣の女子も飲み物を口にする。

 

「……妖しいモンスターからの飲み物はまず『毒探知(ディテクト・ポイズン)』で調べるべきですね」

 

 そう言われて唸るジエットと驚く女生徒。

 確かにそうなのだが、目的の魔法を習得していないのでどうしようもない。

 

「では、仮に毒を受けた場合……。どんな魔法で対処しますか? 毒消しの方が安上がりかもしれませんけれど……」

「えっ? ……えっと……」

 

 毒を探知する事は大事だ。だが、毒を受けた時の対処も同じくらい大事な事だ。

 都合のいいアイテムが無い場合、魔法詠唱者(マジック・キャスター)はとても脆弱な存在と化す。

 

「……神殿に金を払う以外に知らない。第三位階相当というのは聞いている」

 

 毒や病気を本格的に癒せる魔法は第三位階。だからほぼ絶望的な気持ちをジエットは抱いていた。

 自分で覚えるより貴族などの後ろ盾を得た方が早道だと――

 もちろん出来る事なら自分で覚えたい。――それが出来ないから困っているし、苛立っている。

 それくらいの魔法でなければ母の病気は――

 ジエットは葛藤を抱きつつも己の無力さを自覚していた。

 時間は無駄に出来ない。けれどものんびりと勉強している暇も能力も無い。

 全ては天才レベルの才能を持つ者に縋るしか自分には出来そうにないと――

 

        

 

 金で解決するなら魔法の授業など無意味だ。ぷにっと萌えでもそう思う。

 だが、今は魔法の授業をしている。金でどうこうする話はしていない。

 神殿関係者とて楽して能力を得たわけではなく、見えない部分で絶え間ない努力を積み重ねた筈だ。

 人より優勢の立ち位置に居るからこそ増長し、ジエット達のような一般人が憧れや嫉妬を覚えていく。

 それはそれで人の欲望そのものであり、自然な流れであるともいえる。

 努力に見合った報酬を貰う事は正しく、また真理でもある。

 

「明らかな毒や病気とて、まずすべき事は()()することです」

 

 闇雲に身体が不調だから魔法に頼るのは経済的とは言えない。

 時には余計な散財で終わってしまうこともある。

 黒板に文字を書くぷにっと萌え。

 

「手持ちにろくな魔法が無い事はこの際無視します。そして、大事な事ですが……。知識は宝です。覚えて損は無いと思いますよ」

「……分かってるよ、そんなこと……」

 

 聞き分けの無い少年でも何らかの事情を抱えているからこその態度――

 それはそれで微笑ましい文化(カルチャー)だといえる。

 

「魔法の前に君は信仰系の職業(クラス)を得なければなりません。欲しい魔法だけを手に入れられるほど世の中は甘くありませんよ」

 

 魔力系、信仰系の職業(クラス)を得ない方法もあるにはある。だが、それは後々の成長過程で足を引っ張る恐れが待ち構えているものだ。

 例えば専門の魔法のスクロールを調達する方法が無ければ何もできないように。

 

「それから、善と悪によって習得できる魔法ががらりと変わったりします」

「ええっ!?」

 

 なんだよ、それ。と(いきどお)るジエット。

 学院で習わなかった部分かもしれない。

 低い位階魔法から教えているのであればまだまだ教わっていない部分があってもおかしくはない。

 多少の驚きは教え甲斐があって嬉しいものだ。

 ――後で叱られるかもしれないけれど、今は無視する。

 

        

 

 一つ息をついてからぷにっと萌えは身も蓋もない事象を口にする。

 そもそも魔法を覚えるより()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ではないのか、と。

 

「はあ!?」

 

 と、呆気に取られて驚くジエットに対して、隣の女子は納得したような態度を示した。

 確かに魔法は万能かもしれない。けれども欠点もある。

 膨大すぎるものの中から適切な魔法を見つけるのが困難である点だ。

 簡単な攻撃魔法ならいざ知らず、毒と病気が違う分野扱いになっていたり――

 

「信仰系に拘るならば……、錬金術師(アルケミスト)治療師(ヒーラー)がオススメですよ。魔法以外に特殊技術(スキル)を得るという選択肢もあります」

「……なるほど」

 

 と、言ったのは女子の方だ。

 高い位階魔法にだけ拘りすぎて自分達は盲目的になってはいなかったかと自問する。

 だからといってそれで解決しなければ結局は魔法頼りになる。

 特殊技術(スキル)もまた膨大にあり、魔法と同じく経験値を積み重ねていかなければならない。

 もちろん無から知識は湧いてこない。

 

(その最初に実装された知識は誰かが広めなければならないものの筈だ。またはそういう学術書を執筆する者の存在だ)

 

 実装以外にも知識は得られる。

 専門家というのは侮れない存在だが、この世界にどれだけ居るのかは分からないけれど、それでもやはり知識を積み重ねる事は無意味ではない筈だ。

 

        

 

 では、と前置きし、黒板に文字を書いていくぷにっと萌え。

 前回は書かなかった医療関係――というよりはジエットの為になりそうなものをいくつか書いてみる。ただし、専門家ではないので大した数は覚えていない。

 ()()()()()()には声をかけておいたが――

 

「聞くだけでも損は無いと思いますので……」

「……あんたらどれだけ魔法に詳しいんだよ」

 

 そもそも人間よりも豊富に魔法知識があるのは何故なんだとジエットは疑問に思うし、モンスターが人間に知識を広める意味も理解出来ない。

 いや、今の状況が幻想でないのであれば自分達人間は如何(いか)に無知であり、無力な存在であるのか、と。

 情けなくて泣きたくなる思いであった。

 女子の方は喜んでいるようだった。先生凄いと。

 周りがすっかり闇に覆われているので帰る際は自宅まで送ることを告げる。

 

「ひ、一人で帰れるよ」

「君は?」

「メイドさんになら送ってもらいたいです」

「……だそうだ。彼女を自宅まで案内してあげなさい」

「畏まりました」

 

 送った後のメイドはどうするのかといえば――。

 足元のシモベが付き添うので何も問題は無い。

 

「それと……高い位階魔法ばかり教えるわけではありませんよ」

「分かってるよ」

 

 そう言った後、ぷにっと萌えは己の蔦で出来た手を彼の頭に落とす。――もちろん加減には注意した。

 

「口の利き方に注意しなさいと言ったでしょう。ここでは、分かりました、と……」

「う……。分かり……ました」

 

 しぶしぶの(てい)でジエットは応答する。

 正直に言えばモンスターに攻撃されたかと思って怖かった。

 ぷにっと萌えとしては信賞必罰という意識ではなく、単に聞き分けの無い生徒を叱りつけただけだ。

 時には体罰も必要であると認識している。――やり過ぎると彼はきっと死ぬ。ダメージ的にも――

 

        

 

 気を取り直し、黒板に書いた魔法の解説を始める。

 まずは診断から、ということで『病気診断(ダイアグノース・ディジーズ)』を語る。

 第一位階なのだが、ジエットには聞きなれなかったものらしい。

 感知(ディテクト)系がありふれているようで、専門的な魔法には縁が無かったようだ。

 確かに膨大な魔法が存在する。しかし、その殆どはまだこの世界では未知の分野で全体像はいまだに把握しきれていない。

 

「魔法には魔力系などの四大系統の他に死霊術、防御術などの細かい系統が更に存在します。それ(ゆえ)職業(クラス)によって覚えられるかどうかも違ったりします。秘術関連は秘術の職業(クラス)しか覚えられなかったりと……」

 

 だからこそ闇雲に覚える事が出来ない――または難しい。

 細かい説明に入るとモンスターらしさが抜けて人間の教師と遜色ない雰囲気になる。

 それがジエットには不思議で仕方がない。

 事前に渡されたメモ用紙に必死に文字を書く自分に驚くまで時間がかかった。

 

「今は知識だけで充分です。特別な場合を除いて覚えられない事態にはならないでしょう」

 

 才能うんぬんの話はしたくないので無視するが、とぷにっと萌えは付け加える。

 自然に覚えさせる方法は未だに不明ではあるが、強引な方法なら覚えがある。

 彼らの可能性を否定する気は無いし、伸ばしたいと思っている。それは純然たる教師としての使命感――かは分からないが、興味はある。

 

「攻撃する魔法の方が豊富だったりします。その代表格が……」

「……それはいいよ、先生」

「そう言うと思ってましたが……。駄目です。事前に知識だけでも得ておけば対処もし易くなります。如何(いか)に高い位階魔法であっても低位階で防がれる場合というものがあります。極端な話……、第十位階は絶対無敵ではない」

「……十位階!?」

 

 素直に驚く生徒は大好きです、と胸の内で喜ぶぷにっと萌え。

 だからこそついつい口が滑りやすくなる。――口らしき器官が見当たらないけれど。

 

「例えですよ。防衛策は割りと低い位階に集中しています。だから、ちゃんとお勉強しましょうと言っているわけです」

「はい」

「よろしい」

 

 と言いながら黒板に『疫病媒介(プレイグ・キャリア)』と書いた。

 これは第四位階の魔法だ。

 細かい説明は省くが、とぷにっと萌えは事前に用意しておいた魔法についての詳細が書かれた別紙を配る。

 

「魔法なので自然界の病気とは違います。これらは所詮、相手にダメージを与える為だけのもの……。そういう理解でいいと思います。……それとこれらを使うモンスターはこの国には居ない気がしますけどね」

 

 有名なモンスターの一つである『死の大魔法使い(エルダーリッチ)』ですら第三位階がやっと、という状態だ。

 第四位階以上を行使できる存在は数が限られてくると見て――今の内は――間違いない。

 

「先生」

「どうぞ」

「はい。この世界に第三位階以上を扱えるモンスターはどれだけ居るのでしょうか? 我々が思っているよりも多いのか、どうか……」

 

 根本的な問題としてバハルス帝国の住民はモンスターの知識があまり無い。

 研究はされている。

 危険なモンスターには近づくな、というのが今のところ世間の常識となっていた。

 

「……う~ん。居ないとは言いません。けれども数は……きっと少ないと思います」

 

 第四位階以上の魔法を行使するモンスターが多ければ帝国は安泰でいられない。

 死の大魔法使い(エルダーリッチ)は――世間一般では――脅威だと言われているけれど、都市を壊滅に追いやるほどではない。

 ぷにっと萌え達から見れば雑魚モンスターに過ぎないのだが、ジエット達から見ればとても恐ろしい存在として知れ渡っている。

 

        

 

 そんなモンスターの話をいつまでもする気は無かったので授業に意識を向ける。

 疫病に関する魔法を並べていくとジエット達が驚いていく。

 位階が高いから仕方がない。

 

「……そういう魔法もありますよ、という程度ですよ」

「第三位階以上なんか……想像できない、ですよ」

 

 出来なくても存在するのだからどうしようもない。それに豊富な魔法はそれだけでわくわくするものの筈だ。――たとえ自分が使えなくても。

 魔法だけではないけれど、豊富だからこそ無数の戦略が立てられるし、大勢で様々な検討が出来る。

 ただ、攻撃して癒すだけであれば味気ないゲームで興味など持たなかった、かもしれない。

 人気作のゲームは伊達ではない。

 更に転移というおまけ付きだ。

 常識外れにもほどがあるというものだ。

 そんな事を思いつつ『疫病の嵐(プレイグ・ストーム)』、『伝染病(コンテイジョン)』、『上位伝染病(グレーター・コンテイジョン)』の他に『不調治癒(キュア・シックネス)』、『病気治癒(キュア・ディジーズ)』、『病気一時停止(サスペンド・ディジーズ)』、『病気遅延(ディレイ・ディジーズ)』と書いていく。

 黒板が埋る頃に昆虫型のシモベを呼びつけて、ジエット達の背後に書き終わった黒板を移動させ、新たな黒板を持ってこさせる。

 

「こういう魔法でも知識として身につけておけば新しい何かが発現するかもしれません。では、治療の役に立つ、かもしれない魔法の説明を始めます」

 

 究極的な癒しの魔法はぷにっと萌えの知る限りにおいて超位魔法くらいだ。

 あらゆる病魔に打ち勝てる保証は実のところ存在しないと言ってもいい。未知の病気に対して魔法は意外と脆弱である。

 世間一般に知られている魔法でも対処できないものは諦める他ない。

 

「……いっそ肉体を放棄して……、という風に……」

「非実体の存在になる、とかですか?」

「いいえ。肉体を消滅させてからの蘇生です。その方が楽ではないかと……。それもまた一案ですが……」

 

 生徒達には出来るだけ生きている内に解決できれば御の字――。しかしながら、それでもどうにもならない場合が発生するものだ。

 安易に死ねない現地の人間にとっては選びたくない方法なのはぷにっと萌えとて理解している。

 

「万能の魔法にも限界があります。だからこそ、それだけに拘ってはいけませんよ」

「はい」

 

 魔法の授業なので他の方法は教えられないけれど――

 手持ちの知識で教えられる事は出来る限り伝えたい。その気持ちに嘘は無い。

 ただ、これ以上の説明は別の専門家に任せようと判断し、説明を終える事にした。

 

(おっと……。万能薬の魔法も追加しておこう)

 

 黒板の空いている場所に『多目的万能薬(ポリパーパス・パナシーア)』を書き入れる。――それと同時に魔法の説明書を渡していく。

 位階や効果内容が主で、どういう風にすれば取得できるかは書かれていない。

 

        

 

 ぷにっと萌えが語る内容は(おおよ)そ魔法学院では教わらない部類が多数あるように思えた。

 特に高い位階まで網羅しているところは驚きに値する。

 本人が言っていたように使えもしない魔法を教わっても学生身分であるジエットには雲上の存在なのだが――

 それでも一筋の光明が見えたのは幻ではないと信じたい。

 

「先生」

 

 と、手を挙げる女子を指名する。

 ジエットは先ほどとは打って変わって大人しくなってしまった。

 

「はい。この治癒(キュア)系というのか……。低い位階ばかりなのですね。上位もあるのですか?」

「……ん~? 病気関連では……無さそうですね。単なる癒しならまだ上がありますが……」

 

 ざっと自分で用意した資料を眺めてぷにっと萌えは呟いた。

 軽くめくった程度だがジエット達にはバササっと乱暴に扱ったようにしか見えなかった。

 

「高位の魔法が必要になるような病気がありふれていたら国はとっくに滅びていますし……。低位で済むのであればそれに越した事は無いと思います」

「……理屈ではそうなんでしょうけれど……」

 

 女子の疑問は理解出来る。けれども無いものは無い。時にはそれが結論となる事もある。

 膨大な魔法の中には高い治癒魔法で一緒くたに治してしまうものもあるようなので、ピンポイントな魔法は作られなかった――または実装されなかった場合も考えられる。

 製作する事は自由なので細かい魔法を彼らが作ればいいだけだ。

 それと毒や病気に関する上位の魔法というものは――まだ上が――存在する。しかし、今回の授業では取り扱う気が無かったので『見つからなかった』事にした。――今回は綿密に資料を用意した。低い位階の中に無いのであれば現地特有のオリジナル魔法に期待するしかない。――それと、名称がまるっきり違う魔法も存在する。それらは探しにくいので、抜けがあってもおかしくない。

 

        

 

 様々な魔法を提示した後、ぷにっと萌えは細かい部分を生徒に説明していく。

 使えもしない魔法とはいえ、知識は消えない。いずれ将来的に覚えるキッカケになるのであれば――

 

 教師冥利に尽きるもの――

 

 自分はちゃんと教師として振舞えているのか、と自問する。

 出来る事なら何でも教えたいところだ。もちろん物騒なことを抜きに。

 

「座学だけでは面白くないでしょう。けれども君達は未熟……。これ以上はどうしようもありません」

 

 実戦まで行くには様々な壁を突破しなければならない。それを勝手に無視する事はぷにっと萌えには出来ない。

 仮に無視する場合はナザリックと決別する覚悟が要求される。

 それを良しとするギルドマスターであれば気が楽なのだが――

 チラリとメイドに顔を向ける。

 このまま人間側に肩入れしては彼女達が悲しむ。

 

(いや、敵対すれば態度が豹変する筈だ。……多少は至高の御方の権限が生きてくるかもしれないけれど)

 

 設定が生きていればメイド達はおそらく機械的に行動する、気がする。

 もちろん足元のシモベ達も。

 

(この辺りの話はじっくりと対話を重ねて解決を図ることとしよう。いきなりの脱退では混乱が広がるのは自明だから)

 

 だが、とぷにっと萌えは生徒達の顔を見つめる。

 彼らの成長を分析してみたい欲求があるのは事実だ。それをいつまでも我慢できるとは思えない。

 モンスターの肉体となって様々な我欲が人間の時以上に高まっているのが自覚できるので。

 今はまだ自己抑制が働いているけれど、今後どうなるかは分からない。

 

        

 

 第四位階以上の話は不毛に思えてきたので『状態確認(ステータス)』と『生命の精髄(ライフ・エッセンス)』を説明して今回の授業を終える事にする。

 実演できるところまで教えるには相当な期間が必要だというのは理解した。しかし、そこまで果たして出来るのか――、ぷにっと萌えは疑問に思う。

 素直な感想で言えば――

 

(無理じゃね?)

 

 もう少し画期的な方法を確立しないと不毛極まりない。

 座学だけで充分だなどと言える訳がない。

 自分だったら使いたいと熱望する。絶対に。

 豊富に存在する魔法を使わないのは勿体ないので。

 

(……しかし、どうすればいいのやら。コンソールを出せる方法を独自に編み出すとか? そんな世界のシステムに干渉するような方法を作り出せるものかな)

 

 造らなければ延々と不毛な時間が過ぎるだけだ。

 それに現地の人間にとっても悪い話ではない。

 しかし、あれこれ考えると出来ない事があって()()()事だ。

 

(万能の神のような扱いを受けていると無力な部分が微笑ましくなる)

 

 それと彼ら現地の人間の期待に応えたいという気持ちが湧くのは――きっと――悪い事ではないと思う。

 だが――、我らのギルドマスター様はどう判断するのか――

 

        

 

 予鈴は無いがひとまずの見切りを付けて授業を終える。そして、メイドの見送りを付けてジエット達を帰した後は深夜の夜空を見上げる。

 時間に追われた現代がつい恋しくなった。

 今は自分が望めばたっぷり時間を使う事が出来る。無駄に浪費するのも考え物だが――

 

(……と思っているのは自分だけで、彼らは彼らなりに時間に追われる生き物のようだ)

 

 人間は眠らなければならない生き物だ。

 ぷにっと萌えも本当ならばぐっすりと眠りたい気持ちがある。夢を見たい。

 延々と起きている事が幸せだと思うのはゲームを延々とプレイしたい者だけ。

 他にやりたい事や仕事がある者にとっては苦痛と感じる事だってある。

 

(……それは甘い毒となるか……)

 

 ため息のようなものをつきつつシモベ達に片づけを任せる。

 授業内容が安定しない今は設営と撤去を繰り返す事になっている。それはもちろん、いずれ学院内で授業する為だから。

 雨降りの中で青空授業など誰も望まない筈だ。――植物モンスターだって嫌だと思った。

 

「お疲れ様です、ぷにっとさん」

 

 優しげに声をかけてくるのはぷにっと萌え達のリーダーたる存在――

 『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』という長い国名の国王に収まっている『アインズ・ウール・ゴウン』その人だ。

 豪奢なローブに身を包み、金色で無数の蛇をあしらった異様な派手さのある杖を持つ白骨化した骸骨。

 種族は『死の支配者(オーバーロード)』だ。

 

「……そんなに疲れてはいませんよ、()()()()さん」

 

 今は部外者は無く、ギルドの仲間しか居ない。だからついアインズの本来の名前で言ってみた。

 彼は苦笑したようだ。

 仮想分身(アバター)は基本的に表情は表現できない。まして骸骨(スケルトン)の顔は顎以外全く動かせられない。

 それでも雰囲気というものは変化させられる。

 

「面白いことと面黒いことが混然一体となって、忙しい限りです」

「そうですか。いやに珍しく学生たちにご執心ですよね」

 

 アインズはそう言いながら影のシモベに二人分の椅子を用意するように命令する。――施設の撤去は継続中だ。

 用意された椅子にぷにっと萌えが座ったのを確認してからアインズも座った。ここで(ぷにっと萌え)が座らなかったら機嫌を損ねている証拠だと思っていた。

 

「……少しは先生らしく出来たのかな、と……。私は……ゲームにそれほどこだわりがあるわけではありません。ただ、今は何となくそう思っています」

 

 穏やかな口調。

 それでもどこか(うれ)いを帯びているようにアインズには聞こえていた。

 メンバーの一人が何やら物思いに耽っている。または何か悩んでいるような気がする。それをどうしたいのか学の無い自分(アインズ)は答えが出せないでいた。

 つまらない励ましはかえって失礼だ。では、どうすればいいのか悩みつつ今に至る。

 

「ただ教えるのがつまらない!」

 

 怒るように、吐き捨てるようにぷにっと萌えは言った。それに対して周りに控えていたシモベ達が一斉に何事かと慌て始めるのをアインズは宥めた。それとどうやら一人では対処できそうにないと判断し、戦闘メイドに召集を命じる。

 ここまで一分とかかっていないのではないかと。

 

「落ち着いて下さい。深夜なので……」

「すみません。……日頃のストレスでしょうか? いや、我らに深夜もクソも無いです」

(ヤベー。ぷにっと萌えさん、何やらおキレになられていらっしゃる)

 

 普段は温厚な軍師(ウォーロード)が怒る。それはただ事ではない。

 他のメンバーも居るので彼だけ特別扱いは出来ないけれど、ここしばらくのぷにっと萌えには自由を許してきた。それでも何か気に入らないことがあるとは想定していなかった。

 メンバーの精神状態の管理もアインズにとっては大事な仕事の一つだった。

 

        

 

 深夜にもかかわらず戦闘メイド達が集まり、ぷにっと萌えを囲むようにして周りへの警戒任務につく。――その中に武装したナーベラルも含まれていた。

 それから程なくして女子生徒を自宅まで送っていたファストが戻り、異常な雰囲気に驚きを(あらわ)にする。

 ほんの数分の間に何が起きたのか、と。

 急いで戻るとアインズから説明を受けるのだが、ぷにっと萌えが何かしらご機嫌斜め。それだけで自分の失態のように脂汗を流して顔を青ざめさせるファスト。

 

「出来もしない魔法を習って、生徒には大変不満が溜まっていると思うんですよ」

「は、はい。……出来もしない?」

「豊富な魔法があるのに実践できない生徒が可哀相で仕方がありません。どうにか出来ませんか?」

 

 と、顔を近づけるぷにっと萌えをアインズは何とか押し返す。

 機嫌が悪いのははっきりと感じ取ったが、だからといって自分に何が出来るというのか。

 何となく言いたい事は理解した。

 とにかく、生徒に魔法を使わせればいい。

 

(って、そんなこと簡単に出来るわけねーだろ。……あっ、だから、苛々しているのか)

 

 現地の人間にとって魔法を行使する事はとても難しい。アインズでも不可能に近いのではないかと思うほどだ。

 頭脳担当であるぷにっと萌えが悩むほどのことを自分が簡単に出来たりはしない。――『死獣天朱雀』を呼ぶべきか、と脳裏に浮かべる。

 

「彼らに教える事が不毛に終わっては私も教え甲斐が無くて寂しい限りです」

「は、はあ……」

(言い分は理解出来るけれど……。ぷにっと萌えさんもそれくらいは分かってて愚痴を言っているのかな? しかし、珍しいな)

 

 穏やかな性格だと思っていた人が感情を(あらわ)にするなんて、と。

 元々人に教えるのが好きな性格だし、戦略をまとめる事を得意としている。その事が何も出来ない事に苛立つのは何となくだが、アインズは理解出来た。

 思うように行かないのは誰でも一緒。しかし、今は魔導国という立ち位置に居るので部外者を優遇する事に関して思う事があるのかもしれない。

 少なくともぷにっと萌えは自分達の事が分からない人ではない。

 

        

 

 滅多に聞けないぷにっと萌えの愚痴にアインズは付き合う事にした。――魔導王の対応の不満であれば逃亡を選択するところだ。

 もちろん、魔法に関しては自分も興味がある。それとぷにっと萌えの話に興味を抱かないわけがない。

 シモベに戦闘メイド達の椅子の用意をさせ、それぞれ楽にするように言いつける。

 メイドのファストに関しては交代時間となったので退出してもらう事にした。

 

「学院の非常勤くらいなら……と思ってましたが……」

「それはまだ少し時間がかかるそうです」

 

 既に手続きが始まっていたのか、と納得するアインズ。

 酒に酔っているわけではないのだが、冷静に言われると驚いてしまう。

 この所、相談される事が無かったので順調なんだろうな、とは思っていた。しかしながら現場ではそれなりに問題点が浮き彫りになっていたようだ。

 問題点というか現地特有の不具合のようなものだ。

 

「どうにかして彼らに実際に魔法を教えたい。ただの座学だけでは意味がないというか……」

 

 学生が座学によって魔法を学んでも実際に行使できるかは未知数である。

 多くは気が付いたら使えるようになる。その時は自分でも感覚的に理解するらしい。

 ただ、その感覚的な事がぷにっと萌えには理解出来ない。

 明確な形として残ってくれればいいのに、と。

 そうでなければこの先に控えている属性魔法などが意味の無いものになってしまう。――少なくともぷにっと萌えは面白いとは思えなかった。

 

(生徒の将来を考えるのは教師としては当たり前だ。……しかし)

 

 疑念が湧くがぷにっと萌えもそれは理解しているはず――

 アインズとしても一概に否定しきれない。そして、ギルドメンバーの力になりたいとも思っている。

 素直に事を進められないのが頭の痛いところだ。

 

(『レベルキャップ』の解放イベントのようだ。それとも()()()()()()に来たと思った方がいいのか?)

 

 魔導国もいずれは学校などを設置して実際に魔法を教えるような事になった場合、今の状況のような問題点が浮き彫りとなる。そして、それを解決する場合は魔導国の国王として判断しなければならなくなる。

 

(……結局は俺の判断待ちかよ。……そうだよな。会社の上司が最終判断する責任を負っているものだもんな)

 

 部下を持つ上司の苦悩のようだ、とアインズは疲れを覚える。

 ぷにっと萌えとて全ての責任をアインズに押し付ける気は無い。今はただの愚痴なのだから。

 

        

 

 少ない言葉のやり取りと内に秘めた様々な葛藤の戦いが始まり、周りに控えているシモベ達は言い知れない緊張感に包まれていた。

 至高の御方はなにやら激しい戦いを繰り広げていらっしゃる、という感覚が伝わってきた。

 

(ナーちゃん。このままお二人とも戦闘に入ったりしないっすよね?)

(そんなわけ……)

(しー。無駄話してはいけません)

(……確かに。ぷにっと萌え様はこのところこの都市で色々と計画を練られていらっしゃいました。けれどもそれはアインズ様や他の至高の方々との戦いの為とは思えません)

 

 六人の戦闘メイドがギリギリ伝わる程度の小声で会話を始めた。それをアインズ達は咎めない。――というかそれどころではなかった。

 

(……ぷにっと萌え様。……普段はとても御優しい方。……でも、何かしら抱えていたのかも)

(何かって……。アインズ様に対する不満とか?)

(……話の内容からして違うと思う。……けれど……、不満である事は間違い無さそう)

(朝方ルプスレギナはぁご一緒だったんでしょうぉ? 何か知らないのぉ?)

(……えっ!? 突然、攻撃の命令を受けたくらいっすよ。その後は特に……)

(私の方は生徒を集める命令だけでした)

(至高の御方が何を考えているのか読み解けるのはアルベド様やデミウルゴス様……。そして、他の至高の御方達くらいです)

(……階層守護者に助けを求めるわけにはいきませんよね?)

 

 戦闘メイドとしての(くらい)は割りと低い。その上で自分達が助けを求められる相手は一つ上のメイド長か直属の上司たる『セバス・チャン』が浮かんだ。しかし、この状況で勝手に連絡を取るのは職務怠慢だと受け取られかねない、と様々な葛藤が生まれる。

 

(……なんだろう。振り返ると吹き飛ばされるような雰囲気は……苦手っす)

(ここは思い切って具申してみる?)

(では、長姉たる私が代表して……)

 

 黒髪を夜会巻きにした透き通るほどの肌を持つ戦闘メイド『ユリ・アルファ』は意を決して振り返る。それは職務放棄とみなされてもおかしくない規律違反である。

 規律に関して厳しい態度を取る彼女自身が破る事になるのはひとえに『ナザリック地下大墳墓』の為だと思っているからこそである。

 

「……あ、あの……。お二方に……申し上げたい議がございます」

「んっ? ユリか? いきなりどうした?」

 

 と、声をかけるのはアインズ。そして、そのすぐ後にぷにっと萌えが無言のまま彼女に顔を向ける。

 二人の視線を受けて呼吸を必要としないはずのユリが窒息を覚えるほどの緊張感が襲ってきた。次に口を開こうものならば殺される、と。

 それほど普段とは異質の雰囲気が伝わってきた。――特にぷにっと萌えから。

 

「……言われずとも聞こえていたよ。耳はいい方だ」

 

 落ち着いた口調でぷにっと萌えが言うとユリの他、ナーベラル達が一気に緊張感に包まれる。

 無駄口を聞かれた、と。

 一斉に片膝を付く姿勢を取る女性陣。それだけでアインズは何事かと慌て始める。

 

「ナザリックと決別する話ではない。それは安心してくれ。……場合によればそうなる可能性もあるかもしれないが……。私個人としては……、そこまで発展させる気は無い」

「……し、失礼いたしました……」

 

 戦闘メイド如きが愚かなことを、と小声でユリは呟く。

 自分達の危惧など至高の御方にはとっくに承知しているものであった。それが分かって安心し、次いで失態を演じた自分に深く恥じる。けれども後悔はしていない。

 自分の行動で状況が好転するならば犠牲もやむなし、そうユリは思った。

 

        

 

 戦闘メイドの突然の行動に驚いたアインズは何が起きたと状況を見定める為に辺りを見回す。けれども異常は見当たらない。というか理解出来なかった。

 ぷにっと萌えに意識を全振りしていたので。

 

(ユリはどうして(ひざまず)いている? 他も急に……)

 

 与えた命令による行動以外の動作は想定していない。だからこそアインズは戸惑った。

 彼女達とは長い付き合いがあるが未だに自主的に動き、考えるNPCの思考はよく理解出来ていない。

 プログラムされた内容であればゲーム的に理解出来るのに、と。

 

(ゲーム的であれば彼女達の事など歯牙にもかけなかっただろうけれど……。さて、ここはどういう言葉をかけたらいいんだ?)

 

 最善の選択肢が記されたマニュアルや解説サイトが今はとても欲しくてたまらない。

 楽ばかりするのは良くないと思っているけれど――

 

「人材が豊富なのに十全に使えないのはストレスというかフラストレーションが溜まって仕方がない。それと一緒です」

「……確かに」

「目の前に希望が転がっているのに……。我々は手にする事を躊躇ってばかり……」

(だからこそ面白くない)

 

 何ごとも波風立てずに過ごすなど愚の骨頂。

 ぷにっと萌えは自分でも珍しく熱くなっている気持ちに驚く。

 それはきっと知識欲がなせる業だ、と。

 

「アインズさんが考えられなければ私が勝手に判断してしまいます。……それは時間の問題になるかもしれません」

「……そうですね。貴方を留め置くのは骨が折れそうです」

(アンデッドギャグじゃないけどな)

 

 アインズは自分の発言に突っ込みを入れつつ大事な事から逃げ出したい気持ちと戦っていた。

 自分が選ばなくても至高のメンバーは独自に判断する。それが出来るほど彼らは賢く、また一人ひとりが自己責任を負える。

 NPCのように上司が存在するわけではない。

 ギルドマスターに意見を通すのは一種の義理だ。本来ならば必要の無い手続きと言ってもいい。それでもアインズに許しを請うのはメンバーの事やNPC達を心配している気持ちがあるからではないのか。

 

(突発的な謀反であれば落ち着いて話など出来ないけれど……。今は話が通じている。彼とて冷静な態度で付き合ってくれている)

 

 メイド達の行動に驚かないところは流石だとアインズは思った。

 正直、ユリ達が何を相談していたのか、実は分からなかった。

 

「……冷静さを欠いていたのは……私の失態だ」

 

 ぷにっと萌えは静かに言って戦闘メイド達に楽な姿勢になるように言いつける。

 ユリ以外は直立し、それぞれ胸下辺りで手を合わせる。

 

「無欲でいられない(さが)かな。その辺りはアインズさんもお持ちではないんですか?」

「えっ!? 俺も……アンデッドだからといって何にも興味を示さないわけじゃありませんよ。宝を集めたくなる気持ちはあります」

「……この辺りは上級者にはキツイ環境です。それをどうにかしろ、というのは無茶なんでしょうけれど……」

「……充分に無茶ですよ」

 

 ここはちゃんと言っておく。

 バハルス帝国の環境を上級者向けにした場合、真っ先に魔導国が狙われ、同時にそれは時間の問題となってしまう。

 この国は曲がりなりにも軍事国家。今も多くの兵士達が鍛錬を積み重ねている。

 自らの敵は粉砕すべし。毎年のように隣国と戦争を続けていた国だ。何もしない方がおかしい。

 

        

 

 アインズとぷにっと萌えが対話を始めて三十分ほど過ぎた辺りで周りに明かりが灯り始める。しかしそれは就寝を始める時間帯ではありえない光景だ。

 現地の人間の大半は早寝早起きタイプ。一部を除けば健全な生活を営んでいる。――健全でないところもまた文化である。

 既に日は跨ぎ、後数時間もすれば空は薄っすらと青く色味を差してくる。

 

「……様子を見に来てみれば……」

「案の定ですか?」

 

 と、呆れつつ姿を見せたのは山羊の風貌を持つ強大な魔法詠唱者(マジックキャスター)と無数の口を持つ魔法戦士(マジックファイター)だ。

 灯りは彼らが連れて来たシモベ達だったが、既に姿を消していた。

 

「どういう意味ですか?」

 

 ぷにっと萌えの言葉に山羊は肩をすくめる仕草をするのみ。

 アインズとしては助っ人が来た、と喜んでしまった。

 知恵者を相手にする場合は同等の存在か、数でねじ伏せるに限る。――仲間に対して不謹慎とも不敬とも取られそうだが仕方がない。強敵に対する攻略は一人より多いに越した事がない。

 

「話は聞かせてもらった」

「……嘘をつけ」

 

 体色が毒々しい無数の口を持つ――いや、口だけで構成されているような種族だ――『ベルリバー』の言葉に呆れ気味に言い返すぷにっと萌え。

 剣と魔法を操る職業(クラス)構成なので器用貧乏になっている、と本人は自覚している。その上でメンバー入りしてからも己の戦闘スタイルを維持したまま今に至る。

 仲間が居るから無理して変更するのも面倒くさい、と思っているのかもしれない。

 それと口は無数にあるのだが、声は一つから出ているように聞こえている。

 中身が人間なのだから全て違う言葉を発する事は常識的に無理だ。それは転移後も変わらないようだ。――変わってなくて逆に安心する。

 

「深夜なのに何してるのかなと思って……」

「この世界を(うれ)いていただけですよ」

 

 何処からともなくシモベが現れてベルリバー達用の椅子が用意された。

 その椅子にそれぞれ座ると戦闘メイド達はほっと息をつく。

 

        

 

 至高の存在が四人も雁首を並べる事態に緊張感は更に高まってしまった様な気もするのだが、当の本人達は周りとは無縁に穏やかであった。ぷにっと萌え以外――

 メンバーそれぞれが敵対しているわけではないので、いきなり殺し合いに発展するわけが無いのだが雰囲気的には攻撃が始まってもおかしくない。

 それは邪悪な悪魔を率いる黒山羊のモンスター『ウルベルト・アレイン・オードル』の存在があるからだ。

 

「それで……。何を言い争いしていたんですか?」

 

 と、最初にウルベルトが口火を切る。

 彼が喋るだけでメイド達に言い知れない圧力が襲ってくる。それだけ何がしかの迫力を持っているとも言える。

 神経質ともいえるようなピリピリとしたものだが、アインズ達からすれば普段通りなのでメイド達の慌てぶりが理解出来なかった。

 

「愚痴ですよ」

「おや? 珍しい。好々爺みたいなジジィのくせして、溜めているものは人並みってわけですか?」

「……私も善人ってわけではありませんからね。……見た目でジジィは勘弁してください。本物のジジィ(死獣天朱雀)に失礼ですよ」

 

 発言するたびにとんでもないことを口にしているとメイド達が慌て始めた。それをアインズが小声で心配するなと落ち着かせる。

 ここは口出しせずにウルベルト達に任せようと思い、野次馬として見守る事にした。

 

「な~に、魔法を教えても発現に難があって苛々していただけです」

「……あー。コンソール出せませんものね。……自然と覚える彼らがどうして魔法文化を学んでいるのか……。それは興味があります。それをぷにっと萌えさんが思い悩むのはお門違いではありませんか?」

 

 メンバー同士だと敬語になりがちだが、ウルベルトもテンションが高まると相当口が悪くなる。そうなると妙なことを口走るようになるのをアインズと他のメンバーはよ~く知っている。

 ベルリバーは()()を少し楽しみにしていたりする。

 

「せっかく生徒が出来たんだから気にするのは自然ですよ。ウルベルトさんも生徒を持ったらどうですか? 悪魔達と遊んでいないで」

「遊んでいるわけではありません。純然たる研究ですよ。……あれらが天使でも同じですが……」

「……え~と、俺の知らないところでヤバイ研究は勘弁してください」

 

 魔導王として言わなければならないことを言っておく。そうしないと後々とばっちりを受けてしまうので。

 その時の言い訳を考えるのが非常に面倒くさい。というかやりたくないし、関わりあいたくもないので。

 その事を薄っすらと思い出そうとすると()()()、精神が強制的に抑制された。

 自分(アインズ)にとって思い出したくない嫌な想い出だったようだ。

 

        

 

 ウルベルトとぷにっと萌えが思いのほかヒートアップしてきたので冷却用として階層守護者の一人『デミウルゴス』と守護者達を統括する『アルベド』に助けを求める事にしたアインズ。

 仲間内だけでは心許ないがNPC同伴ならば少しは落ち着くかと考えた。

 戦闘メイドだけでは影のシモベ程度にしか思われないようなので。

 それからベルリバーに彼女達の面倒を頼んだ。

 

(……こんな深夜に大人気(おとなげ)ない連中が言い争うなんて……)

(ベルリバーさん。俺たち無事に帰れますか?)

(……たまにはいいかもしれませんが……。これは困ったな)

 

 戦闘民族とはまた違った厄介さが研究者にはあった。

 彼らはそれぞれ専門的な話題になると豹変するようだ。

 ゲーム以外には疎いアインズには窺い知れない概念に――正直に言えば――ついていくのがやっとの思いだった。――メイド達は至高の存在の討論自体受け止める事が困難なようだが――

 

(心配するな。俺もついていくのがやっとだ)

 

 小声でユリ達に言うアインズ。――普段は『私』という一人称で部下に接しているが、メンバーの前だと()の『俺』が()()出る。そして、それは今では治そうとは思っていない。自然のままに喋るのが気が楽だし、そうする、と部下にも伝えていた。

 そのすぐ後に待望のデミウルゴスとアルベドが姿を見せる。

 自分達が作り上げたNPCの中でアインズは知恵者として優遇している者達だ。

 悪魔たちを束ねるデミウルゴス。

 種族は女淫魔(サキュバス)で、個人設定がこれでもかと詰め込まれた守護者統括アルベド。――彼女は(タブラ・スマラグディナ)公認の嫁でもある。

 彼女と子作りの方法を長年研究するはめになっているのは内緒――いや、国家機密レベル――である。

 

「お待たせいたしました」

「うむ。……早速だが、ウルベルトさんの補佐を頼む。アルベドはぷにっと萌えさんを」

「畏まりました。……しかし、我々でよろしいのですか?」

 

 疑問の為に首を傾げるアルベド。

 正直に言えば分からない。この際、救いの手は誰でも構わないという風で呼びつけてしまったので。――ベルリバーも異論は無かった。

 

        

 

 ウルベルトは背後に自分が作り上げたNPC(デルウルゴス)の存在に気が付いていたが、顔を少し向けるだけで何も指摘しなかった。

 ぷにっと萌えの方はアインズに顔を一度向けて元に戻す。

 後で覚えておけよ、という風に受け取れるような雰囲気を感じたのでアインズは顔をすぐに逸らした。

 逆恨みするようなキャラではないと思うが今は何もかもが怖かった。それほど彼らは熱心に討論しているので。

 

(うん。ベルリバーさん。逃げましょう)

(合点承知之助)

 

 手を挙げつつ引き上げようとするアインズの足にぷにっと萌えは自らの腕を絡みつかせる。

 

(ひぃ!)

「……帰る時は一緒ですよ、アインズさん」

「この植物お化けを討伐したら九階層で打ち上げしましょう」

「……そういう戦いなんですか!?」

 

 魔法が飛び交う戦闘ではないようだが、生きた心地がしない。

 身体はアンデッドだが、息苦しい雰囲気は苦手だった。

 

「聞き訳が無ければ極大スキルで吹き飛ばす予定です」

「やめてください!」

 

 ここは魔導国ではないけれど対外的に廃墟にするのはとても不味い。というか、珍しくウルベルトが怒っているようなので近付きたくない。

 彼を激高させるぷにっと萌えも凄いのだが、どういうレベルの戦いなのか――アインズは――全く想像出来なかった。

 ベルリバーの方に顔を向けると――いつの間に召喚したのか――無数の悪魔のシモベ達に囲まれていた。――当然、悪魔たちは戸惑っていた。

 

        

 

 深夜に化け物が謎の戦いを繰り広げている現状――

 アルベドは誰の味方をすればいいのか――頭では国王たるアインズなのだが――戸惑っていた。

 至高の御方同士の争いは滅多に起きないので対処が浮かばない。そしてそれは知恵者で名高いデミウルゴスも同様で脂汗を流していた。

 戦闘メイド達も足元のシモベも窒息寸前のようなありさまだ。

 

(呼ぶ人間違えたな)

(……ここはぶくぶく茶釜さんかやまいこさんだったな)

 

 いつの間にかウルベルトとぷにっと萌えは互いに顔を突き合わせて睨み合う始末。

 討論から一触即発へと移り変わっていた。

 

(変な対抗意識を持たないで下さい!)

 

 出来る事なら叫びたかった。

 ここまで結構な回数の精神抑制が働いているが、気持ち的には継続中だった。

 

「悪魔の本領を暢気なジジィに否定されたくはありませんね」

「生け贄など前時代的な文化だと言っているだけです。この世界に悪の神でも居るって言うんですか? あれは悪ではなく死を司る神ですよ」

「どちらも似たようなものです。神への信仰によって未知の恩恵が得られるか……」

 

 悪魔が神とか笑わせてくれますね、という言葉が聞こえてきたが二人がどんな戦いを繰り広げているのか、それは結局のところ本人達にしか分からず――

 戦いは日が昇るまで続いた。その間、魔法を撃たれる事が無かったのが奇跡だとアインズ以下メイドやシモベ達は心底思った。

 

        

 

 破壊力ではウルベルトは国を滅ぼせるほどの力を持っている。けれども、それをあざ笑うように躱すのがぷにっと萌えの恐ろしいところだ。

 各メンバーはそれぞれ得意とする戦法や趣味を持っている。それらを十全に扱わせれば誰もが強者と言えるし、決着はなかなかつかないものとなる。

 後に残るのは荒廃した世界だけ、という事も決して絵空事ではない。

 

「……朝になりましたか」

「ぷにっと萌えさん。いずれは貴方をぎゃふんと……」

「いい加減にしてください!」

 

 とうとう怒ったアインズにウルベルトとぷにっと萌えは驚いた。

 言いたいことを出し尽くしたためか、気持ちが随分と落ち着いた為に意外そうな雰囲気を振り撒いた。

 どす黒いオーラをまとわせてアインズは二人の頭に拳を落とす。

 滅多に怒らず、手も出さない人間(死の支配者)の行動に呆気にとられる悪魔と植物。

 ダメージは軽微かも知れない。それでも行動を止める事には成功した。

 

「深夜からいきなり怒り出して何してるんですか。それはこんな処ではなく、ナザリックの個室とかでして下さい」

「……はい」

「……ごめんなさい」

 

 いやに素直になったので逆に気持ち悪いですよ、と呟きつつ場が収まった事に安堵する一同。

 被害はほぼ無いけれど精神的には甚大であった。特にメイド達は脱水症状でも起こしたようにげっそりとしていた。

 デミウルゴスとアルベドも疲れを見せていたが、時間経過が短かったお陰で無事であった。

 それを好機と見たベルリバーが撤収を指示する。すると息を吹き返したシモベ達が元気溌剌(はつらつ)と行動を開始した。

 アインズは今後二人が出会ったら関わらないようにしようと心に決めた。――こんな事で引き下がるような二人ではないような気がしたが――

 

 




付録:作中に登場した魔法 vol.10

不調治癒(キュア・シックネス)

系統:召喚術(治癒) 位階:信仰〈一〉、その他(森祭司(ドルイド))〈一〉
構成要素:音声、動作
距離:近距離(約10m+2m×術者レベル×2) 目標:クリーチャー1体 持続時間:10分×術者レベル
備考:目標の病気や吐き気を鎮め、士気ボーナスを与える。元々の名称は『不調除去(リムーブ・シックネス)』である。


病気治癒(キュア・ディジーズ)

系統:召喚術(治癒)(正) 位階:信仰〈三〉、その他(森祭司(ドルイド)野伏(レンジャー))〈三〉
構成要素:音声、動作
距離:接触 目標:接触したクリーチャー 持続時間:瞬間
備考:この魔法は対象がかかっている全ての病気を治癒する。病気にはそれぞれ難易度があり、成功しない限り治ることはない。この魔法はいくつかの災厄や寄生体を排除することも出来る。それと予防効果が無いので再感染時には改めてかけ直す必要がある。元々の名称は『病気除去(リムーブ・ディジーズ)』である。


球状性質(グロビュラー・フード)

系統:変成術 位階:魔力〈五〉
構成要素:音声、動作、物質(ユグドラシル金貨250枚)
距離:中距離(約30m+3m×術者レベル) 目標:3立方m1個×術者レベル分の体積を持つ物体の山1つ 持続時間:24時間×術者レベル
備考:目標となった物体はお互いにくっつきあって大きな塊となる。合計の重量と体積は変化しないが、まとめて物体1つとして扱われる。


伝染病(コンテイジョン)

系統:死霊術(悪) 位階:魔力〈四〉、信仰〈三〉、その他(森祭司(ドルイド))〈三〉
構成要素:音声、動作
距離:接触 目標:接触した生きているクリーチャー 持続時間:瞬間
備考:目標に様々な病を起こす。それらの病気は即座に発病するので、潜伏期間は無い。

上位伝染病(グレーター・コンテイジョン)

系統:死霊術(病気)(悪) 位階:魔力〈六〉、信仰〈五〉、その他(森祭司(ドルイド))〈五〉
構成要素:音声、動作
距離:近距離(約10m+2m×術者レベル×2) 目標:生きているクリーチャー1体 持続時間:瞬間
備考:この魔法は魔法なしに治癒される事はない。それ以外は『伝染病(コンテイジョン)』のように働く。


懸架(サスペンション)

系統:変成術 位階:魔力〈五〉
構成要素:音声、動作、物質
距離:接触 目標:接触した重量が450kg×術者レベル以下の生きていないクリーチャー1体か物体1つ 持続時間:1日×術者レベル+約4日
備考:目標となった生きていないクリーチャー1体または物体1つは『浮遊(レビテート)』と同様に空中浮遊する。10秒毎に約15mまで上下に浮遊移動できる。更に持続時間内に位階分のMP――約5ポイント――を費やす毎に450kgの荷重と15mの上下の浮遊移動を累積させられる。


病気一時停止(サスペンド・ディジーズ)

系統:防御術 位階:魔力〈一〉、信仰〈一〉、その他(森祭司(ドルイド))〈一〉
構成要素:音声、動作、物質
距離:接触 目標:接触したクリーチャー1体 持続時間:24時間
備考:目標のクリーチャー1体が既に感染している『非魔法および魔法の病気』の進行が一時的に停止する。ただし、魔法の効果中、新たな病気の害や感染には効果がない。


状態確認(ステータス)

系統:占術 位階:信仰〈二〉
構成要素:音声、動作
距離:接触 目標:接触したクリーチャー1体×術者レベル×3 持続時間:1時間×術者レベル
備考:仲間と別行動する場合、見失わないように相対的な位置と状態などを精神的に把握しておく事が出来る。対象の方向と距離、作用している様々な状態(傷を負っているか、よろめき、気絶、瀕死、吐き気、恐慌、朦朧、毒、病気、混乱など)を知る。一度発動すれば同じ世界である限り距離は無制限となる。対象が死亡すると魔法は停止する。


病気診断(ダイアグノース・ディジーズ)

系統:占術 位階:信仰〈一〉、その他(森祭司(ドルイド)聖騎士(パラディン)野伏(レンジャー))〈一〉
構成要素:音声、動作
距離:近距離(約10m+2m×術者レベル×2) 効果範囲:クリーチャー1体、物体1つ、2m立方体 持続時間:瞬間
備考:術者はクリーチャー、物体、病気か汚染を媒介する空間などを選択する。不調や吐き気、様々な病気が存在すれば効果などを知る事が出来る。この魔法は障害物を通り抜ける事が出来ない。


病気遅延(ディレイ・ディジーズ)

系統:召喚術(治癒)(正) 位階:信仰〈一〉、その他(森祭司(ドルイド))〈一〉
構成要素:音声、動作、信仰
距離:接触 目標:接触したクリーチャー1体 持続時間:24時間
備考:効果は『病気一時停止(サスペンド・ディジーズ)』と同様である。


永続化(パーマネンシー)

系統:総合術 位階:魔力〈五〉
構成要素:音声、動作、物質(ユグドラシル金貨20000枚)
距離:永続化させたい魔法によって異なる 効果範囲:永続化させたい魔法によって異なる 持続時間:永続
備考:特定の魔法(『自身』、『場所1ヶ所』、『目標1体』)を永続化する。自身に対して永続化させた場合、発動時の術者レベルを超える相手にしか解呪されない。


疫病媒介(プレイグ・キャリア)

系統:死霊術(病気)(悪) 位階:魔力〈五〉、信仰〈四〉、その他(森祭司(ドルイド))〈四〉
構成要素:音声、動作
距離:接触 目標:接触したクリーチャー 持続時間:1時間×術者レベル
備考:熱を持つ病気を媒介させる。


疫病の嵐(プレイグ・ストーム)

系統:死霊術(病気)(悪) 位階:魔力〈七〉、信仰〈六〉、その他(森祭司(ドルイド))〈六〉
構成要素:音声、動作
距離:中距離(約30m+3m×術者レベル) 効果範囲:半径6m、高さ6mに拡散する雲 持続時間:1分×術者レベル
備考:悪臭のする病的でおぞましい灰色の雲を作り出す。範囲内ではクリーチャーが無数の病気の内の1つに感染する。この病気は速やかに発症する瞬間の効果である。このまほうによって作り出された雲は地表に沿って移動する。雲は液体を通過出来ず、水面下では発動できない。


多目的万能薬(ポリパーパス・パナシーア)

系統:変成術 位階:魔力〈一〉、その他(錬金術師(アルケミスト))〈一〉
構成要素:動作
距離:自身 目標:術者 持続時間:
備考:この魔法は術者の健康、幸福、娯楽に関係する1つの低位階魔法の効果を作り出す。この万能薬は副作用を持たない。効果は次の通り。『鎮痛』1時間の効果、関節炎、風邪、二日酔い。『明快』1分の効果、技能判定にボーナスを得る。『幻覚』1時間の効果、快い幻覚を見る。『酩酊』1時間の効果、アルコールを飲んだかのように快適な酔いを感じる。『明晰夢』1時間以内に眠りに落ち、自分が望む夢を見る事が出来る。『抵抗』1分の間に抵抗ボーナスを得る。『睡眠』少なくとも1時間、快い安らかな眠りに落ちる。『節制』1時間、完全に酔いを醒まし、飲酒による様々なペナルティを無視できる。『頑強』1分間、1ポイントの一時的なHP(ヒットポイント)を得る。『覚醒』2時間、眠気を感じず、睡眠に関する魔法による抵抗ボーナスを得る。継続使用すると効果はどんどん薄まる。


集団飛行(マス・フライ)

系統:変成術 位階:魔力〈七〉
構成要素:音声、動作、焦点(翼の羽毛)
距離:近距離(約10m+2m×術者レベル×2) 目標:約18m以内の距離に収まっているクリーチャー1体×術者レベル 持続時間:10分×術者レベル
備考:この魔法は『飛行(フライ)』と同様に機能し、複数のクリーチャーを目標に出来、より持続する。


生命の精髄(ライフ・エッセンス)

系統:死霊術 位階:信仰〈二〉
構成要素:音声、動作、信仰
距離:約10m 効果範囲:円錐形の放射 持続時間:10分×術者レベル
備考:範囲内に居る相手の以下の情報を得る。死亡、瀕死(HPマイナス1以下)満身創痍(HP0)、重傷(HP1から最大HPの半分以下)、負傷(HP半分以上)、無傷。毒、病気(種類は識別不可)。生存、死亡、アンデッド、不死、生きても死んでもいないのいずれか。見せ掛けの生死、または魔法的効果。元々の名称は『生命視覚(ライフサイト)』である。


浮遊(レビテート)

系統:変成術 位階:魔力〈三〉
構成要素:音声、動作、焦点(革で作った輪、曲げた金の針金)
距離:近距離(約10m+2m×術者レベル×2) 目標:術者あるいは同意するクリーチャー1体か物体1つ(合計45kg×術者レベルまで) 持続時間:1分×術者レベル
備考:術者は自身や物体、同意するクリーチャーを望む通りに上下移動させる事が出来る。術者の思考によって指示し、約10mまで移動させられる。ただし、水平移動は出来ないが物理的に押して移動させる事は出来る。更に効果時間内に位階分のMP――約3ポイント――を費やすごとに45kgずつ荷重と10mの上下の浮遊移動を累積させられる。
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