ギルガメッシュ   作:トラロック

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闇視魔法

 

 目的地に到着したもののすぐに入る事はせず、受付事務所にて手続きを(おこな)わなければならない。もちろん社会人としてのマナーである。

 魔導国の者ならすんなりと事が進むかもしれないが、最低限度の礼接は守りたいと思っている。

 必要書類を提出した後は安宿で身体を休ませる。

 異形種である『ぷにっと萌え』は精神的な疲れを人並みに備えているようで、椅子に腰掛けると気持ちが楽になった、ような気分になった。

 身体は植物だから日光を浴びればいい。それは確かに種族的に間違ってはいない。けれども精神的な部分は人間である。

 風呂に入りたいし、服も着たい。

 ――裸族じゃあるまいし、という気持ちはまだ持っている。

 

        

 

 宿泊は一人分の料金しか払っていないが影に何体かの『影の悪魔(シャドウ・デーモン)』が控えている。

 狭い室内をあてがわれた事に対し、シモベ達は苦情を述べていたが黙らせた。

 見掛けは一人なのだから間違っていない。

 無駄に広くても活用する自信が無い。

 

(見学程度はすぐに出来ると思うけれど……。まず何を教えるべきか)

 

 何を教えられるのか。今から頭の痛くなる問題に取り込む。

 実戦は物騒だ。それと低い位階は自分が物足りなさを感じる。

 出来なくはない。ただただ生徒達が呆然とするような結果にしかならないだけだ。

 自分が取得している職業(クラス)の制限もある。

 ここは二重の影(ドッペルゲンガー)の助手に頼るか、と色々と模索し始める。その間、足元の影達は宿屋周りを定期的に見回り、部屋に訪れる者の監視に勤めた。

 

        

 

 二時間ほど経過したところで来客が扉をノックする。

 安い宿とはいえ扉は頑丈に出来ている。それは『バハルス帝国』だから可能になっている――のではなく、それだけ儲けが出る宿だからこその設備と言える。

 

「ぷにっと萌え様、ナーベラル・ガンマ様が面会を求めておりますが……」

 

 と、足元から報告が来た。

 

「おや? 呼んだ覚えは無いのだが……。とにかく、通していいよ」

「はっ」

 

 その言葉の後で影は扉を覆うように広がり、トアノブが捻られる。

 この世界はドアノブが普及していて日本のような引き戸はほぼ無い。入り口が両扉になっているところもあるけれど、プライベート空間は意外と保たれている。

 

「ナーベラル・ガンマ、御身の前に」

 

 入って早々に学生服姿のナーベラルはぷにっと萌えの近くまで駆け寄り、片膝を付く。

 扉は影たちがすぐに閉めた。

 

「今の時間まだ……授業中ではないのか?」

 

 まだ日が昇っている。時間的には昼休みと言ったところだ。

 その時間を利用して学院から抜け出して来たものと思われる。

 

「アインズ様より何かしらの指示を仰ぐようにと……」

「……特に送れる指示は無いな……」

 

 というかまだ思索中だ。

 何かしらの壮大な目的があるわけではなく、ただ生徒達に授業を教えるという大雑把なものしかない。

 助手は必要だと思ったけれどナーベラルの邪魔をする気は無い。

 

        

 

 ナーベラルは名目上は潜入捜査だ。偽名を使って生徒になりきっている最中である。

 彼女の目的をぷにっと萌えは把握していない。冒険者の仕事が無い時期に差し掛かったから適当に仕事として与えたのではないかと愚考する。

 各NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)に仕事を与えるのは至高の存在とて難しい事態となっている。

 ここは『ユグドラシル』とは違う。なによりNPC達が自我に目覚めている。

 ただ突っ立っているだけのオブジェクトではない。

 命令を待つ生命体になっているので、相手をするのがとても大変だ。

 

「……とにかく許可が下りないうちは何とも言えないな」

 

 ――命令を保留にして――学院に帰るようにナーベラルに通達する。

 ぷにっと萌えにとって今は騒動を起こさずに学院に入り、教師役を務める事だ。

 強引な手は計画に入っていない。

 出来ればナーベラル以外の助手がいい。それで思いつくのは二人ほど。

 一人はオーバーリアクションするので却下。醜悪な顔ではないけれど、ただただはた迷惑な気がするので。

 もう一人は妖艶な美女だ。

 問題は生徒を食料だと認識しないかどうかだ。

 ナーベラルとはまた違う人間蔑視の思考の持ち主でもあるから連れてくる事が悩みどころだ。

 彼女の創造主である『ヘロヘロ』に言えば二つ返事で借りる事は可能なのだが。

 

(平和な世の中にナザリックはとことんはた迷惑な組織とも言える)

 

 戦闘行為が日常的なゲームであれば何も問題は無い。

 現実世界に置き換えると自分達はまさに危険人物の集まりだ。――ほぼ火薬庫に等しい。

 それを今更変更する事は出来ないし、可能ならばやっている。

 癒し系として相応しい人物を思い出し、こちらは機を見て頼む事にする。

 創造主ごとの方が説明の負担が軽減されるかな、と書類に書いていく。

 

        

 

 夕方になり、新たな来客が訪れた。今度は学院関係者だ。

 狭い室内で申し訳ない、と言いつつ訪問を許す。

 相手は植物の化け物なので一瞬面食らっていたようだが――凶悪なモンスターの雰囲気が無かったせいか――冷や汗をかきつつも差し出された椅子に素直に座った。

 拒否すると殺される――と思ったのかは考えない事にする。

 

「すみません、こんな狭い室内で」

「い、いえ……」

 

 まず社交辞令として名乗りを上げる。そこは人間社会と同じ対応だ。

 

 挨拶は大事だ。

 

 低姿勢で挨拶してきたのが意外だと思ったのか、学院関係者は大層驚いていた。

 いつも相手を見下す上位者ばかり相手にしてきたのか、それと同等に扱われるのはぷにっと萌えとしても心外だと感じる。

 けれども『至高の四十一人』と呼ばれるのだから仕方が無い。

 

「ぷ、プニットモエ……さんですか」

 

 『ぷにちゃんと呼んでください』と言おうものなら()()()騒がしくなる。

 それと外から新手のシモベが襲ってくるかもしれない。

 『偉大な者(オニャンコポン)』という神様が居るから大丈夫だとは思う。

 ここが日本なら笑われる可能性は高い。だが、異国というか異世界なら多少の変名もすぐに慣れる筈だ。

 

「そちらの常識では名前が一つだと下民扱いでしたか……」

「そ、そんな! 魔導国の者を下に見るなど……」

「貴族名は持ち合わせていないので。……そちらの用件を先にどうぞ」

 

 相手の気持ちを和らげようと穏やかな口調を心がけた。

 対人印象が悪ければ話合いは(とどこお)る。見た目は異形種だが人間は食べませんよ、といちいち説明するのも面倒だ。

 

        

 

 用件は提出した書類について。

 即日にどうにかしろとは書いていない。けれども魔導国の者を待たせると何をされるか分からない、という風潮がかすかでもあるならば対応に苦慮するのは想像に難くない。それはぷにっと萌えだとしても同じだ。

 

「授業予定は既にいっぱいで……。今から空きを作るのは……、難しいかと存じます」

「そうでしょうね」

 

 急な予定を挟み込む行為なのだから当たり前だ。

 それをどうにかしろと無理に言うつもりは無い。

 

「放課後でもいいし、一時間ほどの余裕があれば、と思った次第です。それとは別に見学が出来ると良いなと……」

「見学ならば大丈夫ですが……」

 

 担当教師が慌てるから問題だ、と口には出せないことでも思っているのか相手方は滝のように汗を流して言葉を選んできている。

 このモンスターを怒らせて無事で済む筈がない、という雰囲気が発散されている。しかし、ぷにっと萌えは別段気にならなかった。

 反応は分かるのだが人間相手は初めてではない。

 モンスターは怖い。それがこの世界の人間の素直な反応だ。

 自分は安全だと言ったところで相手がそれを素直に信じるわけがない。自分達も相手を即座に信じないのと一緒だ。

 

        

 

 延々と押し問答を繰り返しては事態は進展しない。

 学院側は即座の対応が無理だと分かった。――では、いつならばいいのか。

 相手方の事情を聞きつつ自分の意見を挟みこむ。打ち合わせはこの繰り返しとなる。

 

「身体が(ほど)けて相手に襲い掛かったりはしませんよ」

 

 怯える相手に自分の事を簡単に告げる。けれどもそれで安心するのはまだ早い。

 何ごとも相手方の信用を勝ち取らなければ意味が無い。

 

「生徒の情報は教えられませんが……、第三位階を習得している者は何人かおります」

「それでもまだ習得数は少ない筈です」

 

 優秀な生徒の話題を絡める。

 もっと上位の人間は『帝国魔法省』の者に聞くのが一番の早道だ。生徒では第三位階止まり。力不足の生徒を必要とする理由は若者だから、というのが適切な解答かも知れない。

 物事を柔軟に受け止め、新しい発想で挑戦する。それは年齢を重ねるごとに難しくなる。

 固定観念がまだ固まり切らないうちが華である。

 

        

 

 一時間ほどの協議で得た事は担当教師一人分の授業と入れ替えるのは難しいのと放課後とはいえ生徒達を集めておける時間が限られていること。

 予定変更に応じるかはまた個別に話合う必要がある。

 生徒の大半は箔付けに来ているだけなので、という理由から教える価値が無いかもしれないと言われた。それ以外には下民相手では何かと失礼ではと付け加えられた。

 下民相手でも結構だが、聞いている分には確かに教える価値がない。時間の無駄だと思う。

 

 折角ここまで来たのに黙って帰るのは勿体ない。

 

 可能性があるのは二週間後。とにかく急には予定変更が出来ない。

 飛び込み営業のようなものだから仕方が無い。だが、二週間も足止めを食らうなら学院以外での方法を考える必要がある。

 こういうアポイントメントを密にできないところは現代とは違うのだな、と感慨深く思う。

 

        

 

 今日のところは諦める旨を伝えて関係者には帰ってもらった。けれどもそれで素直に諦めるぷにっと萌えではない。

 生徒の質が低い事は承知している。その上で自分に何ができるのかを模索する。

 

「……と、その前にオーラ分析・魔法(アナライズ・オーラ・マジック)

 

 魔法のスクロールを使用し、部屋の内部を見回す。

 オーラを探知する魔法で、用途別に任意に選ぶ事が出来る。

 特にやましい気持ちは無かったので防御や対策は考えていなかったが、念のために使おうと思ったまでだ。

 この魔法は『魔法探知(ディテクト・マジック)』に効果が似ているが精神系で魔法の系統や特性を調べる事が出来る。

 現時点で外部からの干渉は確認出来ない。もしあれば何らかのオーラが見える。さすがに相手の居場所までは探知できない。それはまた別の魔法が必要になる。

 

(……疑り深い性格って……、嫌な奴だよな)

 

 何でも信じる奴は能天気か莫迦だ。

 弱肉強食の異世界ファンタジーにおいて信頼はとても価値が低い。利用し利用されるのが世の常だ。

 外交において腹の探り合いは普通。

 親友だと思っていた者が敵になることなど日常茶飯事。

 

 それが本来は正しい人間、または生物しての生き方だ。

 

 平和とは詰まるところ自分が傷付きたくない者が夢想する幻想だ。

 欲望に忠実である者は結局、弱者の痛みなど理解出来ない。

 

(自分が強者である立ち位置から下を見ても駄目なんだろうな)

 

 底辺から見るウルベルトのように。

 上に居る者を蹴落とす意志の強さ。それもまた生きる為の方法であり、それを否定する事は出来ない。

 その前に今のウルベルトも立派な強者だ。

 立場が逆転したからといって弱者イジメをしてはいけない。

 

(言動はどうであれ、ウルベルトさんは割りと大人な対応が出来るか……)

 

 なんて事を当人に言えば激怒するんだろうな。俺は大人だよ、と。

 ――じゃあ喋るたびに妙なポーズを取ろうとするのやめてくれませんかね――

 身体に染み付いたクセらしいが――パンドラズ・アクターがマジリスペクトと言って更にうざくなるので勘弁してください――

 

        

 

 気分を変えて今後の事を考えよう。というか何故、ウルベルトの話になったのか。

 何度か唸っていると陽が完全に沈み、夜が訪れる。

 植物モンスターの活動が停止する時間帯だ。しかし、本当の意味で植物となっているわけではないので多少眠気を感じるくらいだ。

 部屋の明かりだけでまだ充分に活動できる。

 

(仲間と離れて活動するのは久しぶりだな)

 

 と少しだけ思った。

 足元のシモベのことさえなければ完璧なのだが。

 今更無下に扱えないので無視する。

 

 そもそもハラハラドキドキするゲームではない。

 

 世界こそファンタジーだが、自分達が居た日常とさして変わらない。ただ、文明レベルが低いだけ。しかし、魔法文化はよく発達している。

 それも時代と共に移り変わり、もしかしたら消えていくものになるかもしれない。

 ただ、異空間に手を入れられる仕組みは未だに不可解だ。これ、実は物凄い技術だと思うんだけど。

 論文を書いて発表したら地球では激しい議論の嵐になるはずだ。

 

(そうなったら国の権益をかけて様々な条約と制約がセットで襲ってくるか……)

 

 未知の技術の内、有益なものだけ取得しようとするのはお約束だ。自分達の魔導国もその点では同じだと言える。

 一時の独占欲で何かを失いそうだ。

 

        

 

 物思いに耽っていると夜が深くなり、外は漆黒の闇が支配する。

 街灯はまばらに存在しているが光りがとても弱い。農家であれば完全に消えている。

 そもそも電気が無い。科学技術がまだ未発達だから。

 だが、そんな闇の中でも活動する者は居る。

 魔法や種族の特性、職業(クラス)特殊技術(スキル)にある『闇視(ダークヴィジョン)』を利用すれば真昼の如き視界で行動できる。

 ちなみに『上位闇視(グレーター・ダークヴィジョン)』もあり、こちらはより遠くまで効果範囲が伸びる。

 こういう不可思議な能力に特化した文明の行く末にはとても興味がある。これがゲームならラスボスを倒したり、運営終了と共に終わりを告げるものだ。

 だが、ここにはそれらの制約が無い。――今のところは。

 実在の文明として進んだ先に待つのは何なのか。

 大いに興味が湧く。

 それと、この魔法という概念は実は自作できる。

 新しい魔法を製作する事はとても大変な事だ。たくさんの経験値、資金、製作日数に加え、途方も無い高難度を要求してくる。

 そして、ただ闇雲に作るだけでは駄目で、世界に認められなければ不発に終わる。

 そうでなければ取り返しのつかない厄介な魔法がいくつも出来てしまう危険性があるからだ。

 

 その判断は結局のところ誰にも出来ないのだけれど。

 

 自作した魔法には自分で好きに名前を付けられる。――大抵は自分の名前だ。

 位階魔法においては第一位階が一番作りやすい。

 そういう研究もいずれは(おこな)いたいと思っている。

 少なくともゲームとは違い、ここには時間的制約が存在しない。だからこそ、この世界を手放したくないし、壊したくない。

 実に勿体ない。

 

(本当に、宝石の価値よりも遥かに値打ちものだ)

 

 とはいえ魔法に全く興味が無い者には二束三文のクズ石同然なのだが。

 特に戦闘に特化した連中などには。

 

        

 

 精神集中を交えて翌朝まで何ごとも無く時間は進んだ。

 不眠の種族は一日をどう過ごしているのか。眠れないことで起きる弊害についても色々と議論は交わされてきた。

 人間であれば精神的に疲弊するのだが、異形種は比較的平気で過ごせる。

 

「ぷにっと萌え様。ナーベラル・ガンマ様が面会を求めております」

 

 時間的には朝の挨拶だと思われるが律儀な奴だ――と苦笑を覚え、面会を許可した。

 義務は課していない。では、誰かが余計なお節介をしていることになる。

 心配性なメンバーの誰かなのは確実だ。

 

「おはようございます、ぷにっと萌え様。……早速で申し訳ありませんが……、お目どおりを許していただき感謝致します」

 

 学生服姿のナーベラルが片膝を付いて礼を述べる。

 そもそも彼らの儀礼は誰が教えたのか。少なくともぷにっと萌えは知らない。

 

「学院に行く許可は取れなかった。その上で何用だ?」

「そ、そうなのですか!? それは申し訳ありません。私からも学院長にお通しするように……」

 

 慌てて弁解しようとするナーベラルの肩に手を乗せる。

 蔦で出来た手とはいえ人間的に機能するところは自分でも不思議だと思う。

 

「あまり規則を捻じ曲げる特権は使いたくない。……けれども学院には行きたい。お前の生徒達にまず……、放課後に時間的余裕がある者に声をかけてくれるか?」

「は、はい。それは構いません」

「ただし」

 

 と、力強く言っておく。

 そうする事で次の言葉が強く印象に残るはずだ。――そうなってくれないと困る、という気持ちを乗せる。

 

「任意の参加だ。全員を強引に誘っては駄目だ。……後で叱られてしまうからな」

「ぷにっと萌え様を叱る者など……」

「大人の社会では私とて叱られる立場になる。……とにかくだ。今日いきなりでは困ると思うから、明日か来週までに多く集まれそうな日をみんなで! 決めるように。それとついでに集められそうな場所を学院の教師と相談するように。……ここまでのことをナーベラル。出来るか?」

「もちろんでございます」

 

 自信を持って答えるナーベラル。けれどもぷにっと萌えは決して満足しない。

 

「強引な参加は認めない。……あくまで任意だ。私の課した条件を出来る限り飲むこと」

「は、はい。畏まりました」

「私はこの宿に滞在している。……日中は街の散策に出ようと思うから、朝か夜間に報告に来い。もちろん、予定をみんなで! 決めた後でな。無理なら無理で構わない。出来れば……七割強が参加できるようになったら報告しに来い。来週までの予定が無理の場合は……、フールーダと二人で寂しく青空授業をするさ」

 

 至高の御方が愁いを帯びた声で言ったのでナーベラルは全身に緊張が走る。

 この命令はぷにっと萌え直々のもの。それを完遂できれば戦闘メイドの誉れである。――実現にはいくつかの条件が課せられてしまった。

 強引な手はもちろん使えない。――だが、至高の御方を喜ばせたい。

 ナーベラルは今から必至に頭を働かせ始めた。

 

        

 

 部屋から退出するナーベラルに対し、少し面倒な条件を付け加えてしまったかな、と苦笑を滲ませるぷにっと萌え。

 結果がどうなろうと素直に事態は受け入れる。

 もちろん、期待はしているし、頓挫するようだったらきっとがっかりする。

 

(二人っきりの授業よりかは賑やかな方がいいな、やはり)

 

 感心ばかりするナーベラルと二人きりというのは面白くないし、フールーダは勉強熱心だが質問責めにあいそうだ。

 それはそれで授業としては間違っていない。けれどもやはり子供たちの方が教え甲斐があるはずだ。

 ――クソ生意気なガキ共ばかりでは困るけれど。

 箔付けの貴族はおそらく居るだけで邪魔だ。むしろ魔法を習いに来ている生徒が望ましい。そうでなければ何の意味も無い。というか、当たり前だろう、と自然と憤慨し始めたぷにっと萌え。

 床を強く踏みしめたせいで足元のシモベ達が慌て始める。

 至高の御方が()()()お怒りになられている、と。

 

「ぷ、ぷにっと萌え様!? 敵襲ですか? それとも何者かの監視!?」

「んっ? お、ああ、すまない。考え事で嫌な結果に腹が立ってしまっただけだ。驚かせて申し訳ない」

「そうでございますか」

 

 一人で考え事をしているならば何も問題は無い。けれども今の自分はシモベ達に守られる至高の御方だ。その一挙手一投足はシモベ達に逐一気にされてしまう。

 発言一つ間違えるだけで辞任に追いやられる政治家のようだ。

 自分はほぼ公人。私人ではない。

 自由度の低さで言えば実にもどかしい役職とも言える。――というか『至高の四十一人』はいつから役職になったのか。

 

        

 

 ナーベラルの結果が即日出る事はないと予想しているので街中を散歩する事にする。

 大型モンスターを引き連れてこなかったから普通に歩く分には騒動も小さい。

 まずは定番の冒険者組合に顔を出し、依頼書でも眺めようか。それとも自分を討伐依頼として出してみるか。――これはもちろん冗談だが。

 そんな事を考えつつ宿から出た後、舗装された地面を歩く植物人間。

 帝国民が多く行き交い、活気自体は盛況であると言えるし、見える。

 外の世界にはたくさんのモンスターが蔓延っているというのに、この国には笑顔が多い。

 自分達の国である『アインズ・ウール・ゴウン魔導国』も最近になって国民たちの笑顔が増えてきた。

 やはり強制された表情よりは自然の笑みが一番気持ちに安らぎを与えてくれる。

 それは異形種の身体であっても。

 

「あっ、植物のおじさんだ」

 

 小さな子供が指差して言ったのを親御さんが慌てて嗜める。

 もちろん、ぷにっと萌えは手を振りつつ気にしていませんよ、と親密さをアピールする事は忘れない。

 なんだとこのクソガキ、と激高するのは黒い山羊やエロい鳥ではないかと思われる。

 あはは、禿頭~。と言われると怒る奴が数人浮かんだ。

 意外と悪口に耐性が無い者が居て困る。

 

「……シモベ達も自重(じちょう)してくれよ……」

 

 子供たちの他愛も無い言葉程度で襲い掛かるなよ、と小さく命令をしておく。そうじゃないと物陰で暗殺しそうで怖い。

 魔導国に属する自分達は帝国民とは仲良くしたい立場だ。

 

        

 

 怪しいモンスターが街中を移動している最中、後ろから攻撃されないか実はビクビクしているぷにっと萌え。

 自信満々に往来を歩けるほど心は強くない。そこは人間と大差は無い。そうでなければ警戒などしない。

 

(……敵が現われると……)

 

 先ほどまでとは打って変わり、気分はバトルモードに移行する。自分でも不思議だと思うほどスピーディーな気持ちの切り替えが(おこな)われる。

 普段は一般人と変わりがないのに戦闘の時はまた違った精神構造が構築される。

 本当は混同したくないけれど身に付いた技術や経験は意外と忘れないものだ。自然と身体が動いてしまう。

 

 一流の職人の如く。

 

 本当ならゲームの中だけの問題であれば良かった。今ではゲームの外でも適用されている。

 終わらないゲームというものは楽しいのは最初だけだ。

 この精神もいずれは磨耗するのではないかと危惧している。あまり楽観はしていない。けれどもどうしようもない。

 自分の知識を持ってしても解決できない問題に日々、四苦八苦している。

 これは膨大な魔法でも無理ではないかと思われる。

 

        

 

 目的地である冒険者組合は四階建ての四角い建物で他の都市にあるものと大差が無い。だからこそ探しやすいとも言える。

 一階部分は広い空間となっており、依頼書を貼り付けた木製ボードを眺める冒険者がたむろしている。

 それほど大勢の人数は居ないが、様々な情報のやり取りをする椅子やテーブルが並んでいた。

 一般人とは違い、戦士風、魔法詠唱者(マジック・キャスター)風のいでたちばかりだ。

 その中へ植物モンスターが闊歩すれば物凄く目立つ。

 王国ほどではないが亜人の冒険者も帝国には居るので差別的な視線はあまり無い。いや、最初ほどは少なくなった、が正確か。

 魔導国との同盟から色々な事があった。それを今更蒸し返す気は無いけれど、周りの雰囲気からは刺々しさは幾分かは和らいでいるように感じられる。

 

「……ほう。魔導国の……」

「……確か……、プニットモエ……」

 

 現地の言葉だとおかしな気持ちなのだが、今更変更する気にもならない。

 ――良い名前が浮かばなかったのが原因だが。

 いちいち声はかけず、周りに手を挙げる仕草だけ見せる。

 というより――冒険者でもないぷにっと萌えが――何しに来た、と怒られるまでの間のひと時だ。

 

        

 

 依頼の多くは要人警護と近隣のモンスター退治。それと『カッツェ平野』に発生するアンデッドモンスターの討伐だ。

 それ以外は本当に何でも屋のような細かい仕事ばかりになる。

 ざっと見た中で自分を討伐、または植物系モンスターの討伐依頼は無かった。あったとしても別に気にしないけれど。

 事前に察知した関係者が剥ぎ取っていることも考えられる。――それはそれで面白い。

 

(共に冒険する仲間が居るというのはありがたいものだ)

 

 一人で遊ぶことも出来るが同じ趣味を共有し合える仲間が居るだけでも嬉しいものだ。だから、その仲間を失うことはとても悲しい。

 自分はそういう気持ちを随分前から無くしている気がする。

 

(……登録だけでもして……、は無理か……)

 

 というより魔導国で登録すべきだ。

 至高の御方が冒険者などという卑しく夢も希望もない仕事をするなどもってのほか、とシモベ達が慌てるのは火を見るより明らか。

 個人的にはそういう騒動はきっと――楽しいと思う。

 

        

 

 苦笑交じりの吐息を吐きつつ外に出る。あまり長居しても仕方がないのと新しい発見は無さそうだと判断した。

 異様な存在が退出してから組合の中では息苦しい空気を吐き出すような音がかすかに聞こえる。

 異形種である事と魔導国の重鎮である事が災いしたようだ。

 気にしても仕方が無いので次は魔術師組合に顔を出すことにする。

 そこは討伐依頼が張り出されていないので幾分かは緊張されないはずだ。むしろ質問攻めを期待している。

 帝都を混乱させたい気持ちは無いけれど、多少の賑やかさは必要だ。

 なにせ、ここは異世界ファンタジー。

 何らかのイベントが起きないと他の人間達と同様に息苦しさを感じる。

 中身は彼らと同じく人間だ。だからこそ人並みの気持ちはとてもよく理解出来る。

 

 




付録:作中に登場した魔法 vol.5

オーラ分析(アナライズ・オーラ)

系統:占術 位階:精神〈三〉
構成要素:音声、動作
距離:近距離(約10m+2m×術者レベル×2) 目標:クリーチャー1体または物体1つ 持続時間:精神集中(10秒×術者レベル)
備考:目標のクリーチャーまたは物体のオーラに目を凝らし、状況や有益な情報を得る。オーラは4種類の中から1つ選択する。属性(アライメント)オーラ、効果は『悪探知(ディテクト・イービル)』と同様に働く。感情(エモーション)オーラ、目標のオーラが持つ色から有益な洞察を得る。健康(ヘルス)オーラ、目標の中で動く生命力の流れが見えるようになり、肉体的状況を理解する。ダメージ、毒、病気、様々な状態異常、気絶、恐慌、混乱、吐き気、瀕死、満身創痍、朦朧、よろめき。ただし、不死者(アンデッド)クリーチャーは健康(ヘルス)オーラを持たない。魔法(マジック)オーラ、効果は『魔法探知(ディテクト・マジック)』と同様に働く。
――――――――――――――――――――――――

闇視(ダークヴィジョン)

系統:変成術 位階:魔力〈二〉、その他(野伏(レンジャー))〈三〉
構成要素:音声、動作、物質(干しニンジン一掴みか瑠璃1つ)
距離:接触 目標:接触したクリーチャー1体 持続時間:1時間×術者レベル
備考:完全な闇の中でも約20mまで見通す。ただし、明るく見えるが基本的には白黒の風景として映る。

上位闇視(グレーター・ダークヴィジョン)

系統:変成術 位階:魔力〈四〉、その他(錬金術(アルケミスト)反聖騎士(アンティパラディン)野伏(レンジャー))〈四〉
構成要素:音声、動作、物質(干しニンジン一掴みか瑠璃1つ)
距離:接触 目標:接触したクリーチャー1体 持続時間:1時間×術者レベル
備考:暗視の有効距離は約40m。効果は『闇視(ダークヴィジョン)』と同様。
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