次の日に移り変わり、課題であった人数がどうなったかと言えば二人ほど追加されたようだ。
この調子なら更に次の日でクリアになる。
少なくとも植物モンスター『ぷにっと萌え』は楽観視していた。――だが、実のところは人数などもはやどうでもよく、五人の時点で既に満足していた。
とにかく三人以上であれば良かった。それを部下であるナーベラルに伝えなかったのは――忘れていたこともあるが――期待していたからだ。
目標数など目安でしかない。
(……目標数を達成する事にも多少の意味があるか……)
元々居た自分達の世界で言うところの『ノルマ達成』はただただ苦痛でしかない。
底辺に暮らす者達は命を懸けて仕事に従事する。それが出来ない者は無為に死んでゆくだけ。
少なくともそこまでの厳しさを部下に求めたりはしないが、何処かで傲慢さが出ていないか気になる。
自分達は大企業とは違う。使い捨てにするような真似はしない。
と、自信を持って言えたらいいのだが現実には、それが出来ていない。
実際に使い捨てにする部下が
さすがに一体一体愛着を持って接しろと言われると困る。ほぼ無尽蔵に出てくるので。
そこはやはり差別化が図られてしかるべきだと思う。
だいたい個性が無いモンスターにまで責任なんか負えないよ、と。
◆
下らない考えを投げ捨てて街に向かう。
特に目的地は決めていなかったが、昨日の広場で一休みする事にした。と言っても別に疲れてはいない。――肉体的には。
通りを歩く住民達に見られつつ空を仰ぐ。少し薄暗いので午後辺りに雨が降るかもしれない。――なんとなく、感覚的に湿度が高い気がした。
植物モンスターなので雨に当たった方が元気になれそうな気がする。それと濡れて困る装備は身に付けていない。
ここは人間でない姿に感謝する。
(そういえば……。今日は学院は休日なのか?)
制服を着た少年少女の姿がやたらと多く見られる。
普段着も居るが多くは制服のまま外出しているようだ。ここはなんとなく懐かしさを感じる。――箔付けの一環もあるかもしれない。
戦闘ばかりのゲームと違い、天然の文明たる現地の文化、風景などは都市部に住んでいたぷにっと萌えからすれば暮らしやすい環境のように思える。
もちろん文明的に物足りなさはあるけれど。それを抜きにしても
大気が汚染されていない。――残念ながら今の自分はアバターだが、もし
そう思ったのも束の間、デメリットに思い当たる。
この大気が
大気成分が地球のものと違う可能性がある。
仮に本当の肉体で転移した場合、未知の物質によって謎の病気になったり呼吸器不全を起こす事だって充分にありえる。
NPCだから平気ということもあるし、現地の人間と地球の人間が同一である保証は無い。
過去に転移してきたプレイヤーとて今のぷにっと萌え達のようにアバターであるはずだ。――姿が人間だとしても、それはそういうアバターだから。
(そういうデメリットがもし、仮にでも無かったら……)
という希望的観測はあくまで個人的なものだ。実際に都合よく事が進むはずがない。
それは『ご都合主義』でしかないのだから。
それでも大気成分の問題が解消されていれば素晴らしいの一言に尽きる。
もちろん、良い事ばかりではない。
アバターの不死性は時には必要で、時には不要に思う仕様であり概念だ。
(人の欲は果てしないものだ)
それはそれとして、折角の能力を持ち帰られないのは勿体ない。
転移者にありがちな『お約束』を覆したい気持ちが湧く。
それはそれで新たな騒動の幕開けに繋がってしまうけれど。
◆
天気予報という便利な機能は持ち合わせていないが、雨がどの程度降るのか気になった。
本降りになった場合、一人寂しく広場に残る自分を想像してみる。
雨に濡れて喜ぶのは自分ひとりだけ。かといって雨を吹き飛ばせば農家が困る。
魔法で自在に天候を操っていくと、いずれは世界規模で異常気象が起きそうだ。
(一般的な
自分たちであれば容易に世界を崩壊させうる。それは可能性の問題ではなく、確定事項のようなものだ。
そんな事をぼんやりと考えていると足元から警戒の合図が送られてくる。
至高の存在として。また、プレイヤーとしてそれなりの実力を持っているぷにっと萌えに脅威を与えるような敵はバハルス帝国には
その上での警戒態勢の合図だ。思考をすぐさま戦闘形態に移行する。
◆
と言っても慣れ親しんだ戦闘スタイルになるだけで命の危機までは想定していないし、嫌な予感に代表されるような勘も働いていない。
さっと視線を走らせれば学生の一人が近寄ってくるのが分かった。
方向といい、背後に露天も人影も無い。
近付く人間は全て敵だ、とは言わないが過剰な警戒は相手に感づかれ易いものだ。
学生程度と侮ってもいけないのだが、ここは侮らせてもらう。
「……魔法探知の気配も無いし……。穏便にな」
ナーベラルが居づらくなる。その旨を足元に伝えておく。
距離としては30メートル。本来の肉体であればここまでの距離で警戒態勢に入る事は――空から隕石が落ちてる様子でも見えない限り――しない。
◆
この世界の人間の多くは金髪碧眼。髪型に差はあるが色に関しては黒と金。白髪がある程度だ。――一部の冒険者は髪を染めていると聞く。
ゲームであれば色々と設定で変えられるのだが、そうではない天然の世界は実に味気ない。――いや、自然そのままこそが美しいという意見もある。
近寄ってくる生徒は金髪にロール髪の貴族令嬢風。
自分達はついついゲーム的な思考でバカにしがちだが、彼らは本物の貴族としての振る舞いや服飾を着こなしているので、決してゲーム的な思考で暮らしているわけではない。
というよりゲームのプレイヤーではないし、NPCでもない。
自分達側からすればこの世界の住人は全てNPCと言っても過言ではない。彼らは実際にこの世界に生まれて暮らしている原住民だ。
――運営に設定された機械的な存在ではない。
迫り来る相手は見た目どおりならば女性。
目的はぷにっと萌え。――というか他に誰か居る様子はない。
◆
見えているのに黙っているのも結構、精神的に辛いのだが自分から挨拶するのも恥ずかしいし、違っていても恥ずかしい。
ここは黙って様子見だ。
それに自分にとっては初対面の相手でもある。知り合いなら間違えようがない。
こんな薄曇りの悪天候になりかけた日にわざわざ来るのは前日に見かけたから、か。
次の日も居たらならば声をかけてみよう。そういう事ならば理解出来る。
そんな思索で時間を潰していると数メートルまで距離を詰められた。
喋ったら殺す規則は無いので手は出さないが、ゲーム時代は大抵、武器を持つ敵ばかりだった。
アバターとして日常的に振舞えるのはありがたい反面、調子が狂う。
絶対に人間種と接触しなかった、わけではないけれど。
「……間違っていたら申し訳ないのですが……。魔導国からいらした方でしょうか?」
耳に心地よい女性の声。いや、女の子の声だ。
異形種全てが魔導国の出身というわけではない。けれども街中に平然と居座るような異形種は魔導国以外に居たら驚きだ。――ぷにっと萌えでもそう思う。
「違う国からだとすればどうしますか?」
実際、魔導国以外の異形種の国はアーグランド評議国を除けば見当が付かない。それと魔導国は人間の国の中では異質に過ぎる存在感を持っている。
――人間と平然と触れ合う異形種が住んでいるのだから。
◆
学生の少女は困惑する。
得体の知れない存在に対する切り替えし方が分からない――。そんな顔をしていた。
それでもすぐに逃げ出さなかったのは感心する。――おそらくある程度の見当をつけてきたからだと思われる。
そうでもない限り自分から声をかけようとはしないし、思わない筈だ。
「仮にそうだとして……。お嬢さんとは面識はない筈だが……。何処かでお会いしましたか?」
「い、いいえ。初対面です。……はい。人間以外の方と口を聞くのは……慣れないもので申し訳ありません」
なんて失礼な娘だ。ぶっ殺してやる。――という流れになるようだったら自分もふざけた異形種は皆殺しにしてやると思うに違いない。
それを抜きにしても元々は相容れない種族と口を聞くのだから怖くて当たり前だ。
どう見ても危険生物にしか見えないモンスターと話をしよう、という流れにはぷにっと萌えでもならない。――もちろん、ナザリックという条件が無かったらの話だが。
いや、その前に足元のシモベ連中が本気を出す可能性が高いか――。
念を押しておかないと危険なのはどちらなのか。
「すまないね。確認するようで……。話相手は私でいいのかな?」
「は、はい。申し遅れました。私は魔法学院にて生徒会長を務めております『フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンド』と申します」
制服のスカートを両手で摘んで足を軽く曲げ、目を伏せ気味にして挨拶する。
形式について詳しいわけではないが丁寧な所作にぷにっと萌えは思わず声に出して感心した。
可愛い女の子に挨拶された、と。それだけで精神的にどれだけ癒されることか。
暗い天気で彼女の顔が見づらいのはもってのほか。今すぐ魔法をぶっ放して吹き飛ばしてみたくなるほどだ。
「ご丁寧にどうも、お嬢さん。……生徒会長さんですか。生徒達を束ねるお仕事はさぞ大変でしょう」
「これも未来の帝国の安寧の為ですわ」
柄にもなくぷにっと萌えは胸の内が熱くなる。
それを言葉で例えるならば。
マルガレータ。
あえてこの言葉を胸の内で叫ぶ。
その言葉が意味するところは知らない者からすればまったく検討がつかないし、現地民で特定出来る者は存在しないと言い切っていい。
とにかく、
――実際に会った事は勿論無いけれど――
◆
一人で悶えている植物モンスターを奇異な目で見つめるフリアーネ嬢を混乱させてはいけないと思い直したぷにっと萌えは咳払いする仕草をしつつ居住まいを正す。
話の通じるモンスターとして。また、同盟を結ぶ国の国民に対して恥ずかしい真似は出来ない。
「……学園にて魔法をご教授するとかしないとか小耳に挟んだのですが……。それは
「門前払いを受けてしまいましたので……、野外での青空授業を計画しております。……小規模なものですが……」
門前払いと聞いてフリアーネは口に手を当てて驚いた。
魔導国の人間を追い払うとはなんて命知らずな、とでも思っているのかもしれない。
ぷにっと萌えとしては至極真っ当で反論の余地が無いと思っている。――事前にアポイントメントを取らなかった自分が悪い事は自覚していたので。
急な予定変更を下らない理由で敢行しようとすれば相手方が嫌がるのは自明の理だ。
「学院に迷惑をかける気も無いので……。それで……その噂を聞きつけた君は私の生徒候補になりたいと?」
「え、ええ。おっしゃる通りですわ。学院外の貴重な知識をご教授できる機会を逃すのは勿体ないことですので……。もちろん……秘匿事項の多い我が学院は魔導国の方から見れば幼稚かと思いますが……」
謙遜して自分を低く見るのは本来ならば悪手であり、ぷにっと萌えとしても不満を示す事だ。だが、自分の力量を理解しているのであれば詮無いことではある。
子供に出来る程度はたかが知れる――。それはそうなのかもしれないけれど――
「……自分の学院を低く見るのはやめなさい」
少なくとも魔法を教える施設は貴重であり、ぷにっと萌えも尊敬できるものだと思っている。
質がどうの言えばきりがないのだが、それでもやはり
少なくとも子供や人民に物を教える施設は通信教育一辺倒の自分の世界において廃れた文化だ。――だからこそ尊ぶべきものである。
人間を働く歯車として扱う世界から来たぷにっと萌えは生き生きとしている人間が居る世界は何よりも輝いて見える。それを悪く言うのは現地民の特権かもしれない。けれども、それでも譲れないものがある。
◆
少し声を潜めて言ったせいか、フリアーネが少し怯えた。
見た目が異形種であるため、
「魔導国だから、という意見で言えば何でも最高峰扱いになってしまう。……けれども実際は他国や他人の事がとても気になる興味本位の集団がとても多い。この私だってそうだ。強弱の話はしたくないのだが……。お嬢さんの通う学院は私も行きたいところである事は分かってほしい」
「……はい。……暴言をお許しいただけるのであれば……」
ガタガタと震えている彼女にやさしく声をかけるぷにっと萌え。――というか街中で女の子を泣かしては世間体が気になってしまう。いや、仲間達に笑われたりバカにされる。
しつこくバカにする者の姿が何人か浮かんでしまった。
「……それでどんな御用というか……。何か聞きたい事があるのですか?」
生徒になりたい、というのは置いておく。
「はい。……その、……私は女性なので年齢に関する魔法を……。現在知られている魔法の中には殆どありませんでしたので」
「……先に言っておくけど、不老不死はやめた方がいいよ」
というか、不老不死は実に曖昧な概念である。
絶対に死なないものなど存在しない。
それは無機質にも言える。
仮に存在してしまうと未来永劫の牢獄が待っている事になる。それを無視して都合の良い部分だけが一人歩きしている。
実際の不老不死に幸せなど待ってはいない。
◆
片方が座っていて、片方が立ったまま広場で話合うのは見た
影だけが物凄い速さで移動し、数分も経たずに戻ってきた影から物品が湧き出るさまはフリアーネにとって珍しいものだったようで大層驚いていた。
隠密行動をする
この世界において自分達は設定したアバターの影響を少なからず受けている。その代表格が人間的な感覚の喪失だ。
消えるというよりはモンスターとしての感じ方にすげ代わっているとも言える。
人間が動物を殺しても気持ちが揺るがないように。モンスターが人間を殺すのと大差がない感覚と言えばいいのか――
ゲーム感覚でモンスターを殺し続けても人間は罪悪感を抱かない。ゲームキャラクターであるモンスターが人間をクリーチャと同様に殺すようなものが近いのか。
とにかく、様々な感覚が以前と違うことだけは理解出来た。
元人間であるぷにっと萌えとしては『人間性』の喪失は大問題だが、どうすることもできないのも事実。
「さあ、どうぞ」
「失礼します」
美少女を椅子に座らせた後、しばし平穏が周りを包む。
緊張感いっぱいでは相手方も困るだろうから、出来るだけ温和な方向に進みたいと思った。――それと万が一に備えて大きめの傘も設置しておく。
お抱えのメイドでも連れてくれば良かったかな、と拠点に残した専属メイドの涙ぐむ顔が浮かんだ。
だが許せ、と。
メイドは目立つし、身体は未だにクリーチャーとはいえ恥ずかしさを持っている。
人間の男性と大差の無い青春的な感覚は割りと強いのかもしれないが、これはどう説明したものか――
いつまでも新鮮な気持ちでいられるのは幸せなことではないのか。
時にはそれが幸福ではないかと思う。
飽きやすい性格より、常に興味深く何かを研究する方が自分には望ましい。
◆
改めてフリアーネと向き合う形で対峙する事になったぷにっと萌えは彼女の顔を数秒ほど見つめた。――逆にフリアーネはぷにっと萌えがどんなモンスターなのか懸命に思索してみた。
金髪碧眼も見慣れてきたとはいえ、じっくりと眺める機会はあまりなく、不思議と新鮮な気持ちでいられるのは気分がいい。特に見目麗しい女性は――
例えば
それなのに今だ人間的価値を保っているのは不思議だなと思う。
「………」
フリアーネはぷにっと萌えという存在をじっくりと見ていたのだが、植物系ということ以外さっぱり分からなかった。
他のモンスターと何が違うのか。どうして強大な力を持つに至ったのか。どうして人間を遥かに超越できたのか。
様々な憶測が渦巻いた。
人間の社会で賢いモンスターの発生はとても脅威だから。
それがどのくらいの数が存在していて帝国市民を恐怖に陥れているのか知らなければ自分達に明日は来ない。
とはいえ、学生の自分に出来る事は少しでも分析することであり、撃退する事は到底不可能に近い事は自覚している。
「……人間は自らを賢い生き物だと
「そうですね」
フリアーネの言葉に相槌を打つぷにっと萌え。
確かに
弱者に対する横柄な態度はモンスターに限らず、同じ種族にすら適用している。
「自分がモンスターだから言うわけではありませんが……。仮にこの世界に人間しか居なかった場合、それでもその中から優劣を決めて差別的な社会に陥っていくと思います。……だからこそ、どちらが上か談議は不毛極まりないと思います」
そう言うとフリアーネは握りこぶしを作り、反論の機会を窺う。けれども反証は浮かばず、一部は納得してしまう自分を自覚する。
このモンスターの言う通りであり、また異常に賢い部分は嫉妬を覚えるほどだ。
「植物の世界でそのような考え方は……、一般的なのですか? ……それとも魔導国特有のものでしょうか?」
「さあ? 私は人間的にものを考えられるというだけです。……さすがに植物界で同じ考えが流行っていたら私でも脅威だと思いますよ」
中には人間社会の風俗に興味を持って勉強し始める植物モンスターが居ないとも言い切れない。
現に小さな村で様々な種族が暮らして互いを理解しあっているケースがある。
「ただ、これでも私は……国の文化を尊重したいという気持ちがあります。貴族社会を潰したいわけではなく、国を潰したいわけでもない。……もちろん敵対者には容赦しない部分がありますが……」
小娘に過ぎた話をしている自覚はあるし、足元からは何度か警告を受けている。それでもやはり討論はやめたくなかった。
これもふれあいの一環だから。
対話とは対等に向き合わなければ意味が無い。
ぷにっと萌えとしては誰かに話したかった機会を得たに過ぎない。けれどもそれは決して小さくない宝石でもある。
◆
自分ばかり熱く語っても意味が無く、適度にフリアーネに発言を許した。
当初の魔法談議はおいといて――
それがどれくらい続いたのか。いつしか雨が降り始めた。
突然の大雨という訳ではないが、傘がしっかりと彼女を守っている事を確認して安堵する植物モンスター。
「天候を操る魔法がありますが……、自然法則をコロコロ変えていると自然界のバランスが崩れやすくなる。ここは……少し我慢してもらいますよ」
もちろん風邪を引かないように炎系のモンスターを配置。それと風雨を阻害するアイテムを起動しておく。――必要な物はシモベに取りに行かせた。
「様々なアイテムをお持ちなのですね」
「様々な条件を克服する為ですよ。他のメンバーもそれなりに持っています。ただ、全部持つというのは健康的ではありません。多少の不便も味わいがあるというもの……」
全てに対応しきるようなプレイヤーはまず存在しない。いくら
特に『
本当に大事なものは持ち歩かない。これはどのプレイヤーにも言える事だ。
「こんなモンスターと対話してくれるお嬢さんの為なら多少の無理は押し通しますよ」
と、苦笑しながら言うと足元ではかなり動揺が広がったらしい。――だが、無視する。
気分良く話したいのに邪魔するな、と声に出して言いたいところを我慢した。
もし、これがウルベルトだったら絶対周りに見られない対策はするな。
アインズこと
たっち・みーは何の面白みも無いに違いない。
ペロロンチーノであれば我々の
ぶくぶく茶釜、やまいこ、餡ころもっちもち。この三人は手放しだ。――相手が可愛い男の子でない限り――
死獣天朱雀の場合は対話中に相手が焼け死なないか気になるところだ。
ガーネットだと話す話題がメカに特化するから論外。
ホワイトブリムはメイドの話しかしないから論外。
源次郎は見た目が汚らしいからそもそも彼女に近づけさせない。――これは偏見だといわれても決定事項だ。
テンパランスは存在自体が鬱屈したようなものだから対話させるのが可哀相。なので論外。
ベルリバーは初見で逃げ出されると思うので論外。
「………」
やべー。まとなメンバーが思ったより少ない。
ぷにっと萌えは人間であれば脂汗や冷や汗を大量に流す事態に陥っていた。
うちのギルドにまとな人間が居ない。――全員異形種だけど。
見た目を除けばタブラ・スマラグディナが無難なところだった。
違う話題なら武人建御雷や弐式炎雷、あまのまひとつにぬーぼー。
ヘロヘロも触らなければ比較的まともな方だ。――種族的にアウトな人も中には居るし――
外部の人間と対話する機会を設けないと人間的な意識がどんどん薄れてしまう気がしてきた。
先に来ていたモモンガ――、現魔導国の王様はその点では恵まれていたからこそ人間的な部分がかなり維持――または強化されてきたのだなと改めて思った。
そうでなければ本当にアンデッドモンスターのまま世界に恐怖を振り撒いていた場合もありえた。いくつかの幸運が彼に良い方向を歩ませたのだなと一人で納得するぷにっと萌え。
◆
話を戻して年齢に関する話題をしなければならない。だが、都合が悪い事に雨脚が強くなり、言葉が聞き取りづらい状況になってきた。
普通ならば天候を理由に中止するのが一般的なのだが、ここは都合の良い魔法に頼る事にする。
音を消す魔法は数こそ少ないが意外な効果を発揮する為に莫迦には出来ない。
「……
たかが学生相手に貴重な魔法のスクロールを使う事に足元のシモベ達は慌て始める。けれども実行しているのは至高の存在自身だ。それを咎められるのは
この魔法は『
自分の周りの音を消す。
前者は後者のような対
「……その魔法は?」
「第四位階……。
本来、位階魔法は専用の
系統で言えばその他系に属する。――本来はそうなのだが魔力系とも信仰系とも取れたりする場合があるので判断が難しい。例えば
「第四位階と聞いて驚いている場合ではありませんよ。……確かに学生にとってはとんでもないかもしれない」
「……はい」
フリアーネを怯えさせる意図が無い事をやさしく説明する植物モンスター。
ここからは教師と生徒の関係として振舞う。それを邪魔する者は仲間であっても許さない。
例えばナーベが猛烈な勢いで走りこんできたとしても『黙れ』の厳しい一言で大人しくさせるほどに――
◆
魔法の効果を説明し、実際にどういう風になっているのかを話終えてからフリアーネの主目的である年齢を操作する魔法について語る
言葉巧みに交わす意図は長いのだが、流れ的に誤魔化し易い状況に苦笑を覚える。
相手が知りたい情報を素直に喋るのはバカな奴だ。――であれば今の自分は正しくバカだ。
一般的には
本末転倒だ。
間抜け以外の何ものでもない。
周りは激しい雨の音に包まれているけれど、ぷにっと萌え達の現場はとても静かだ。
互いの声もちゃんと雑音無く届いている。
「もし寒い場合は早めに言ってくれ。熱を持つモンスターを控えさせるから」
既に配置している炎系モンスターが居るけれど、これらは現場を明るくする役割で呼びつけた。――熱を持つモンスターは
野外の講義は想定していなかったので珍しく混乱している自分に苦笑を覚えるぷにっと萌え。――だが、それも良い経験だと受け止めておく。
「だ、大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」
「他人と話すのは滅多に無いからね。……興に乗って舌がよく滑るかもしれない」
植物モンスターに『舌』という器官があるとも思えないが、雰囲気的なものだ。
余計な情報の漏洩と言われるかもしれない。だが、今は自分自身で許可した事だ。
学生は学ぶのが仕事だ。何でも秘匿してばかりでは発展が望めない。
ふとした災害か何かで大事なものを失ってからでは遅いのだから。
――熱を持つモンスターを連れてきたら気温上昇で蒸し焼きになるか、湿度上昇によってフリアーネ嬢が服を脱ぐ事態になり兼ねない。
汗に濡れた美少女――。私も大好きです、と声高に言えないけれど――
ペロロンチーノの悔しがる声が幻聴として聞こえてきた。
ナザリックの女性陣の場合は行動阻害対策が万全だから雨にまず濡れる事は無い。――まったく面白くない。ついでに――濡れたとしても面白くない。
◆
魔法によって静寂に満たされた空間を解除する方法はもちろんある。
動作のみで行使する『
ゲーム感覚だからこそ不可思議なことも不可思議と思わない――。けれども何故、それが出来るのかに疑問を持つべきである。
というより魔法を簡単に扱うのもおかしいし、本来ならば魔法という概念自体絵空事だ。
異世界だから、という理由は強引な暴論だと改めて思う。
(それを良しとする世界に秘密がある筈だが……。それを解明するにはどれだけの時間が必要になることか)
そもそも魔法を解説することも荒唐無稽――
時々自分は何を言っているのか疑問に思うし、後でたくさん思い悩む事になる。
だけれど、元の世界よりは充実している。
(……恵みの雨か……)
大気汚染の進んだ有害な雨はここには無い。それを思い出す。
魔法で何でもかんでも解決してきて忘れていた事実――
この世界の四季がとても美しい事に。
それも後何十年、維持できるのか。文明の発達は既に始まっている。
「……それで……」
「はい」
居住まいを正すフリアーネ。覚悟は決めた、という引き締めた顔を見せてくる。
楽しい女のことの会話が魔法談議で良いのか――気になるところだが――気にしては先に進めない。
「君が知りたい魔法は生命力を失うものだ。それでもいいかい? ……いや、そんなことを言われても困るか……」
高い位階魔法の知識がそもそも無いのであれば仕方がないし、知る事によって絶望を味わうこともある。
では、デメリットの無い魔法だけ教えてくれ。――と言われたら、それはそれで困る。
「……知ってから……考えたいと思います」
想定していたことと違えば身体に緊張が走るものだ。
フリアーネは迂闊な事を聞こうとしている自分を自覚し、少しずつ恐怖を感じてきた。――けれども後には引けない。
生命力を失う魔法――。それはいかなりものなのか。様々な思索が彼女の脳内に渦巻きだした。
「すまないね。……生命力と言っても……失敗して老化する、というものではないのだが……。培ってきた経験を失うという意味だと思ってくれ。もちろん一気に全部というわけじゃない。蘇生に失敗すると灰になるようなものと一緒……」
(灰にしてどうすんの。……やべーな、上手い例えが浮かばねー。タブラさ~ん。ヘルプミー)
ゲーム的な話が通じるのか疑問だ。だが、それ以外で説明する事がとても難しい。
生命力の減退とはレベルダウンのことであり、一定のステータスを失ったり、新しく覚えた魔法や技術、
現地の人間だとどんな言葉が適切なのか――
少しバカになる、とか。分かり易い例えが欲しいと思った。
〈
系統:幻術(幻覚) 位階:信仰〈二〉、その他(
構成要素:音声、動作
距離:長距離(約120m+12m×術者レベル) 効果範囲:ある地点を中心とした半径6メートルの放射 持続時間:10秒×術者レベル
備考:発動すると効果範囲内の全ての音が消える。会話は不可能。音声要素のある魔法は発動させられない。外部から音を入れる事は出来ない。この魔法は空間の一点にかける事が出来るが移動させられる物体でないのであれば効果範囲を移動させることは出来ない。魔法をクリーチャーにかけた場合、効果はクリーチャーから発する事になるので効果範囲も伴なって移動する。
〈
系統:幻術(幻覚) 位階:その他(
構成要素:音声、動作
距離:自身 効果範囲:術者を中心とした半径3メートルの放射 持続時間:1時間×術者レベル
備考:この魔法は術者の周りに特殊な音波を発生させ、効果範囲内であれば普通に会話する事が出来るが範囲外からは中の声や物音は聞こえないようになる。効果範囲は術者が移動すれば一緒に移動する。音を遮断する事は出来るが読唇術には効果が無い。
〈
系統:防御術 位階:信仰〈二〉
構成要素:動作、信仰
距離:中距離(約30m+3m×術者レベル) 効果範囲:クリーチャー、物体1つに対して半径6メートル 持続時間:瞬間
備考:目標、または効果範囲のどちらかの解呪を