レベルダウンについて色々と考えてみたが答えはなかなか出てくれない。
せっかく生徒が居るのだから、と植物モンスター『ぷにっと萌え』は頭を抱える事態に陥った。
対する金髪碧眼の女生徒『フリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンド』は唸るぷにっと萌えを前にしたまま話に聞き耳を立てることに集中していて、彼の苦悩には気付かなかった。――というより表情が読めなかっただけだが。
とにかく、それが功を奏して失態を彼女に悟らせない結果になったようだ。
「低位階から……」
黙って聞いているだけでは可哀相なのでメモ用紙をフリアーネの前におく。――ペンなども一緒に。
これが
彼女に渡したのは
◆
大仰な反応を示さない分、精神的な負担はかなり軽減される。
一つ息を吐いてから――振りだけでも――勉強会を始める。――暫定的にだが。
「年齢ということは若返り……、でいいのかな?」
「はい」
一つずつ確認しておかないと後々失態を犯す。
物事には確認作業が必須なのだが、それを怠る場合が多々ある。
都合の悪い事は聞きたくないという意識を持つ者に多い。
ぷにっと萌えも聞き流したりするので大きな声では言えないが、逃げてはいけない事は自覚している。
「ご希望の魔法は表裏一体……。同時に老化現象も起こす。それらは術者の意思によって選ぶ事が出来る」
言いながらフリアーネがメモし易いように言葉の速度を調節する。
自分の知識をひけらかすだけだと早口になりがちだ。それでは学問として意味が無い。
生徒に教える事が目的なのだから、ちゃんと教えておかなければならない。
「この手の魔法は専用の魔法として存在している。類似は所詮、見せ掛けだ」
「はい」
真面目で良い返事にぷにっと萌えも満足して頷いた。
これでもう少し大勢居れば教師としてのやりがいを感じる。だが今は家庭教師レベルだ。――しかも土砂降りの野外での授業――。殆どイジメか拷問だ。
傍から見たら『あのモンスター、女の子を雨降りの中に放置して何してんの』と言われてもおかしくない。
もちろん風邪を引かないように注意しているけれど、今日は天気が悪かった。更にフリアーネと出会ったのが
そういう不運が重なってしまっただけなのだが――
◆
言葉の合間に服が濡れていないか、熱っぽくないか小声でたずねたりして気にかけた。
――女の子とお喋りできて嬉しい、とかいう気持ちには――天気の都合で――なれない。
いや、こんな天気で授業する自分は正しく邪悪なモンスターだ。――邪悪の定義がいい加減だが。
「まず最初に……。年齢を操作するとどうなるか、だが……。肉体を急激に変化させるような大層なものではない。ふり幅が狭いせいもある」
「……それは数年単位、ということでしょうか?」
彼女の言葉に首肯するぷにっと萌え。
だが、自分の知識の幅は実は広くない。むしろタブラ・スマラグディナの方が広い。
メンバーそれぞれに得意分野があり、自分は指揮官系が得意分野という程度だ。
死霊系ではアインズ。
創作系はあまのまひとつ、ぬーぼー、るし★ふぁーなどのメンバーが担当している。
「使い方としては加齢による能力低下のペナルティと老衰による死を促す。逆の若化は限界があって胎児まで還元されることはない」
上限無視の場合は何が起きるのか、ぷにっと萌えでも怖いと思う。
制限があるからこそ安心して魔法を行使できる事がある。
例えば無限召喚――
延々と制限の無い効果はとても恐ろしいものだ。尚且つ対処不能では世界が崩壊するレベルである。
何ごとも対処できるからこそ人生に張り合いがあるというもの。そして、自分達の身の安全を保証するものでもある。
ゲームでいえばサーバが壊れたら一貫の終わり。
完全無敵など世の中には無用の長物だ。
年齢を偽る。または若返りを魔法で可能にする場合に避けては通れないのが『寿命』という概念だ。
見た目が若くなっても身体に刻まれた寿命まで操作する事が
答えは可能だ。理由としては現地民で実際に
魔法学院にその名を知らぬ者が居ない程の有名人――
フールーダ・パラダイン。
ぷにっと萌え達のような異邦人ではなく、現地民が成した偉業は賞賛に値する。
今は魔法の可能性を与えたお陰で本当の意味で若返りを果たしているけれど――
実例があるというのは後人にとってはありがたい事だ。――無謀な実験で身を滅ぼす危険性が低くなるという意味で。
◆
若返りを利用すれば理論上は不老不死になれる。それはぷにっと萌えも否定しない。
けれども何処まで生きていられるかは確認出来ない。
軽い気持ちで一万年生きてみました、という実例を確認するには観察者も長生きしなければならないから。
死を恐れる意味では不健康極まりない。
けれども――
恐怖を感じる毎日は送りたくない。
(異形種の特性で恐怖などは抑制される事例があるけれど……、それは抑制されるだけの話だ)
自覚したことまで消しているわけではない。
だから、何度も抑制される事態に陥る事もありえる。
「……デメリットばかり浮かんでしまうが……、だからといって一度使えば取り返しが付かない危険な魔法というわけではありません」
ただ、一度快楽を知れば二度と抜け出せない依存症のような状態になっては困る。そうぷにっと萌えは言いたかった。――けれどもうまく説明できないのは不可思議な能力のせいだと思いたい。
そもそも魔法という概念が全ての原因だ。
――それがあるから図に乗れる。まことに困ったものだと呆れつつ苦笑する植物モンスター。
◆
なにやら色々な葛藤と戦っているようだとフリアーネはぷにっと萌えを見ていて感じた。
若返りの魔法は危険なもの、というよりはのめり込んではいけないもののようだ。けれども欲深い人間なので仕方が無い。
彼のデメリットはおそらく将来を見据えてのものだと思われる。だから、それを無視する事は失礼に値する。
たかが人間に過ぎない自分達の事を本当に心配しているのかも知れないし、不死性ゆえの教訓として教授しているのかもしれない。
教えたくない秘密ならば解説の仕方に違和感を感じるものだ。だが、彼の言葉にはそれが無かった。
「……繰り返しになるけど……先ほど生命力を失うと言ってしまったけど……、実際には獲得した経験を失う、というのが正しい。培ってきた技術など……。それは使う度に起きますので永遠に使い続ける事は
「パラダイン老もそんな感じの事をおっしゃっておいででした。一日いっぱいは疲労で動けないとか……」
かの人物ですら寿命の流れを遅くするだけで精一杯だった。それを更に強化した魔法の行使ともなれば何倍に値するのか想像したくない。
「……単なる疲労で済むわけがない」
あっさりと切り捨てるぷにっと萌え。その言葉に寒気を感じるフリアーネ。
底冷えとまでは言わないが、安易な結論ではないぞ、という意味に捉えた。
◆
ぷにっと萌えの感覚では経験値を消費する魔法なのだから使用には慎重にならざるを得ない。
特に高レベルプレイヤーにとっては死活問題である。
ゲームで寿命などどうでもいい概念なのだが、相手を葬る上では必要になる場合がある。――そんなシチュエーションはそうそう巡ってこないけれど。
ネタ魔法というものがいくつか実装されていたし、この世界にもそれなりに適用されているところから無視できない問題でもある。
経験値を使う魔法は使用者が損をするのでぷにっと萌えは使いたくない。
本人自身が使う分には何も問題は無い。――実際に実例を見せろ、と言われれば拒否する所存だ。それがフリアーネの頼みであっても。
ペロロンチーノにはそもそも使えない魔法なので問題は無いのだが、使えと強引に頼まれそうで怖い。
仮想敵にペロロンチーノを使うのは良くないとすぐに気付いて罪悪感が湧いた。
さすがに
◆
少し雨脚が緩み、魔法の効果が切れる頃、何度もかけなおすのは面倒だし、かといって永続化は金が掛かる。
ここは便利なマジックアイテムを持ってくるべきだったと反省する。
頭を冷やす為に会話を止め、そのアイテムを持ってくるように足元の影に依頼する。
「そういえば……、この辺りは雨が多い方ですか?」
「今の時期では普通だと思います。極端な乾期はありません。雪の季節が短いくらいです」
その極端な乾期があれば田畑の育成に問題が生じ、食糧難に陥り易い。それと人々の服装はもっと露出の多いものとなっていなければならない。
きちんとした身なりから四季は適度に訪れ、気候に恵まれている事が窺える。
自分達の世界では酸性雨だの土壌汚染が広がっている。まともな空気も水もありはしない。
「……我々が国を取って最初にする事は……、きっと綺麗な季節を守るところから……。水も空気も汚さないように心がけると思います」
「人心掌握……ではなくて?」
征服者はまず裏切り者を出さない処置を施す。
人民には服従を強いる――。そういう思い込みに似たものをフリアーネは持っていた。だからこそぷにっと萌えの言葉が意外に聞こえた。
「それも大事ですが……。汚い空気は吸いたくない」
この言葉は人間からすれば皆殺しと同義になる。
人間の吐く息は臭い。だから皆殺しにして綺麗にする。そういう解釈が出来てしまう。
「……魔導国は様々な種族を抱えられています。それらはどういう基準で選ばれているのですか?」
これは単純に興味からだ。
一般的には自分達の都合の良い人材だけで国を作るもの。そうだとフリアーネは思っていた。
貴族が下民を虐げているように魔導国にも何らかの上下関係などがあっても不思議ではない。
「適当。来る者は拒まず……。もちろん、うちのリーダーの采配も関係しますが……。明確な基準というものはありませんよ。……せいぜい危険生物かそうでないかくらいでしょうか?」
「……適当、でいいのですか?」
そう言うとぷにっと萌えは苦笑した。――その後で依頼していたアイテムが届いたので、すぐに起動させる。
「決めるのはリーダーと仲間ですから。一人だけ文句を言っても意味がありません。賑やかな国は夢ではありましたが……、あまり凝り固まった基準は設けたくないのが本音です」
ぷにっと萌えの話ぶりは気楽そう、というか温和な感じだった。
世間話のような気軽さがあり、耳に優しい声として聞こえた。
「基準と言いましたが……。民族浄化のような物騒な事はしませんよ。……してないよな?」
と、後半は影に問いかけた。
以前、様々な大粛清をしたとかしないとか物騒な話題があったような気がした。
要らないから大量処分した、と簡単に言うリーダーであり国王アインズに対し、三分の一ほどのメンバーは呆れ、一部は激怒したものだ。
だが、雑魚モンスターの末路など自分達には関係ない。実際にゲームではレベルアップの為にどれだけの殺戮を繰り返したことか。――それもあって
この世界の原生生物だと分かってから急に
「国として造り、自分たちも国民目線を忘れないものでいたいです」
自分達が虐げられた者達であっても逆の立場で虐げていいはずがない。
少なくともアインズは本来、優しい心の持ち主だ。――ゲームのキャラ付けが妖しいけれど、それは自分達にも言える。
――あと、NPC達がちょっと――いや、過剰な至高愛で扱いが大変なのだが――
◆
他国の実情を詳しく説明したとしても確証を持つには至らない。――直接自分の目や耳で確認する方が建設的だ。
ぷにっと萌えの言葉全てが嘘だとは思えないフリアーネとしては聞くこと全てが新鮮で、とても興味深いものだった。
もちろん、目的の魔法も大事だが――
「……お嬢さんはこの後ご予定とかあるのですか?」
「今日は午後から色々と……。ですが、この天気では外出もままなりませんので……。未定……ということになりそうです」
貴族の家庭に生まれた子供は何かと忙しい。
ジルクニフ皇帝による敵対貴族の粛清があったけれど絶滅したわけではない。
あくまで抵抗勢力が激減したに過ぎない。
「水を操る魔法。風を操る魔法。……便利なものが多くあると不便な事態に対処し難くなります」
今まで当たり前だったものが突然消失した時、何をすればいいのか分からなくなる。
原始的な行動もバカにはできない。
魔法なしでサバイバルをする方法は誰も教えてくれないものだ。
誰かが居る、または誰かが居てくれる事はとてもありがたい。その小さく大きな恩恵を上位者は忘れがちだ。
「……不便を侮る者はきっと……バカなんでしょう」
しみじみとぷにっと萌えは言った。
アバターがあるからこそ調子に乗れる自分達はその恩恵を失うことを恐れてはいないか、と――
忘れてはいけない事が確かに存在する。
「可愛いお嬢さんを前にするとついつい余計な事を……」
歳なのかな、と思わないでもない。
前途有望な若者の将来は――種族問わず――楽しみなものだ。そう思う自分は今、幸せを感じている――気がした。
普通ならここで雲が晴れて日が差し込むマンガやアニメ的な表現になるところだ。――だが、現実は残酷で雨脚は今も続いている。――それどころか周りが薄暗い。
今日は一日中雨のようだ。
◆
雨は今も降っているが自分達の足元は多少濡れている程度でフリアーネの靴がびしょぬれになっていたりはしない。
冠水するようであれば一段高い位置に移動することも健闘しておく。
――個人的には裸足にでもなってほしい、と思わないでもない。
素足フェチというほどではないが、綺麗なものは何処でも見たくなるもの。――隠れているところは特に――
「………」
自分の種族はそこまで変態仕様だったかな、と疑問を覚えるぷにっと萌え。
蔦で相手を絡め取ろうとしたり出来るから仕方がない。
我が右腕が何故か蠢く事態に――、なるようだったら即刻切断だな。風紀的に――
「………」
女性の足が美しく見えるのは
生物学的に男女の差は本来無いし、ホルモンバランスをいじれば女性でも剛毛に出来る。
それでも気になるのは男の
男の子であるうちのマーレも身体的にはどこも綺麗だ。――こちらは合法的に裸が拝める。
「………」
急に如何わしい思考に占領されるとは。
ぷにっと萌えは目の前で首を傾げるフリアーネに顔を向ける。
一人で悶える植物モンスターを観賞させては悪い。
◆
ゲーム時代と違って相手に触れられるから余計な事を考えてしまう。
こうして手を伸ばせばフリアーネの腕や顔に触れられる。――もちろん、想像の中だけで実際に手は伸ばさない。だが、出来ないわけではないのは事実だ。
例えば――
「いきなりですが……」
「は、はい」
「顔を触ってもいいかな?」
突飛な要望に対し、フリアーネは驚く。
もちろん拒否してもいいし、受け入れてもいいわけだ。
相手が魔導国の者で目的の魔法の知識を持つというのであれば拒否はしにくい。それを考慮すれば出せる選択は一つしかない。
――意地悪なお願いとも言えるけれど。
「こ、こんな顔でよければ……」
それが人間というもの。
己の欲望に勝てるものは悟りでも開いた者くらいだ。
ここで安易に答えるな、とか。君にはプライドが無いのか、とか激高する事も出来る。
ぷにっと萌えが知りたいのは彼女の『反応』――そのものとも言える。
異世界ならではの無知な者に対する無茶な要望――
自分の知る限り、異世界の人間はかなりの確率で無茶を通せる――または通せてしまう。
事実、地球ではまず無理な要望が高い確率で通ってしまった。――もちろん、ゲーム内ではハラスメント行為に当たり、大きな処罰を受ける。そして、それが
◆
フリアーネが良いと言ったのに何もしないぷにっと萌えではない。
自身の蔦でできた腕というか手で彼女の顎や頬、額に触れていく。――当然のように警告音は鳴らない。いや、
しようと思えばこのまま首をへし折ることも口の中に手を入れて舌に触ることも――可能だが、しない。あと、鼻にも入れない。
鼻くそを取って食べさせるとか浮かんだけど――
「人に触れたのはいつ以来だろうか……」
他人に触れる機会は地球ではあまり無い。
ゲームでもそうだが、握手意外で他人の体に触れられるのは夫婦関係にある者くらいかもしれない。
それほど他人との接触に敏感な国に生まれてしまった。それは日本に限った話ではなく、世界規模とも言える。
「……いや、失礼した……」
長く感じていたい他人のぬくもりではあるが、延々とは出来ない。
手を引っ込めて軽く頭を下げるぷにっと萌え。
フリアーネは触れられた場所を確かめるように触っていた。――かぶれるような事態にならないと思うけれど、肌の弱い人間であれば何らかのアレルギー反応を示すかもしれない。けれども、異世界にアレルギーという病気があるのかは確認した事が無いけれど――
異常が出れば治癒する用意は整えておく。――場合によればアイテムの使用も。
得体の知れないモンスターに触れられる事は人間にとってとても怖いことの筈だから彼女が小刻みに震えているのは寒さの為ではないと思う。
それを分かっていないぷにっと萌えではない――それでも興味本位が優先してしまう。
◆
気丈に振舞うフリアーネをしばらく眺めたが泣き出すことはなかった。家に帰った瞬間に号泣することも想定内だが、それはそれで傷付くし、当たり前や仕方が無い、といった意見が出ることも致し方ない。
最悪、この場で失禁してもおかしくはないが、そこまでの恐怖を抱いてほしくない。
確認する為に股を触らせろ、とはいくら植物モンスターでも言えない。――もし、言える性格なら教師として最悪だ。いや、失格だ。
顔を触った事は合法とでも言うのかよ、という幻聴が――
「………」
様々な常識的、倫理的な葛藤などと戦いつつぷにっと萌えは冷静さを装うことに努めた。――人間であれば様々な気持ちが
冴えない主人公であれば色々と叫ぶのがお約束なのだが――
ぷにっと萌えは精神年齢が高いのでそのような失態は
――なんてキザったらしく声に出して言ってみたい。
若さは時には憧れである。それは否定しない。
「うまそうとか……、そういうことではなく……。可愛いお嬢さんの素肌に
肌触りと言えば良いのか迷ったが、表現に大差はない筈だ。
蔦でできたモンスターの娘はやはり蔦の塊だ。それを可愛いと表現しても人間には通用しないし、ぷにっと萌えも――たぶん――分からない。
フリアーネは返答に困ったが相槌は打っていたようだ。
◆
貴重な体験をさせてもらった事だし、しっかりと対応しなければ沽券に関わる、と判断したぷにっと萌え。
雨脚は未だに変化は無いが今日いっぱい降り続くかもしれない。
こういう時、便利な道具で天気予報を確認するところだ。
「順を追って話を進める。……自宅まで送ってあげるから周りの天気は気にしなくて良い」
「ありがとうございます」
「まず魔法は秘匿しなければならないようなご大層なことは無い。けれども危険なものが中にはある。その乱用だけは防ぎたいわけだ。使い方次第では君にこれから教える魔法も充分脅威になるからね」
だからといって曖昧にぼかしては意味が無い。
間違った情報が後々重大な事件を引き起こすことも無いとは言い切れない。
「それを使えるようになるかどうかは君達次第だ。……強引な方法が無いわけじゃないけれど……、今の段階で言える事は学生は座学から始めた方がいい」
ぷにっと萌え達は攻略サイトなどを調べる手法があったからこそ
この世界の住人はそういう便利なものが無いまま学んでいく。
世の中にどれだけの魔法があり、どれだけの種類と取得条件がどんなものか知らずに――
殆どが手探りで解き明かさなくてはならないし、自分達の強さの秘密も解明されていない。
ただ、本能のみで生きている。
「……では、意図的に目的の魔法のみを取得するにはどうすれば良いのでしょうか?」
至極当然の疑問だ。
正しい答えは解説サイトを参照せよ、だ。
「……秘匿事項だ。残念ながらそれを成すには様々な障害がある」
とはいえ、今の言い方では『意図的に取得する方法がある』と認める事になる。――もちろん、わざとそう言った。
油断して口を滑らせたわけでも顔を触らせてくれたお礼でもない。
「それを知る事が人類の……。我々の秘密を解き明かす結果になると?」
「それは君たちの感じ方だ。私からはどうこう言うつもりは無い」
つもりは無くても――いずれは――言う時が来るかもしれない気はする。
現地の人間が強さの秘密に気付いて何を思い、何を感じ、どういう結論を得るのか。
飽くなき探求に限界があれば壁を前にして絶望する。または突破する方法を無駄に探し続けるのか――
それはぷにっと萌えでも迂闊に言えない問題だ。
◆
これ以上の問答は仲間からの警告で止められてしまう気がするので、本来の軌道に戻す。
現地民との楽しいふれあいを邪魔されるのは面白くない。
一気呵成に立場が逆転するほど都合の良い方法などありはしない。――未知の
しかし、そのアイテムとて有限だ。
攻略出来ないものなどこの世の何処にも存在し得ない。
これは真理であり、ゲーム時代であっても同じ事だ。
絶対無敵など存在しないと言い切れるほどに――
すぐ脱線する事を反省しつつ魔法についての講義を始める。――と言っても魔法名と内容を伝えるくらいしか出来ない。
(数式とか細かい事があったと思うけれど……。自分達は選択肢から選ぶだけなんだよな)
もちろん条件によって取得できるものは変わっていく。
闇雲に何でもかんでも魔法を覚えられるほど簡単ではなかった。
「まずは……基本から。基本と言えば若作りだ」
「……はあ」
気の抜けた返事は想定内。――もちろん聞きたいのは別にある事は百も承知だ。
目的の魔法だけ知りたい気持ちが強い現われかもしれない。
無駄な会話を我慢してきた気の緩み――
失望の色が濃いが
決して落胆はさせない。ぷにっと萌えは不敵に微笑む。――残念ながら植物モンスターなのでフリアーネには伝えられなかった。
◆
見掛けを偽装する魔法が実際に存在している以上、年齢査証もお手の物――などという都合の良い事が簡単にあるとは言い切れない。
たまたま都合よい魔法があっただけだ。
「第一位階魔法『
名前だけで効果が
ネーミングに関して秘密めいたものが少ないのはありがたい反面、音声でバレる危険性が考えられていない。
完全秘匿だとゲーム的に困るから仕方が無い部分はあると理解出来るが、この世界の場合はどういう認識なのか。
分かり易いから管理しやすいともいえるけれど――
不明な魔法ばかり増えては困るか、とぷにっと萌えは一人で納得していく。
「外見を偽る魔法と一時的に若返るもの……。……説明は……省きましょうか?」
「すみません」
両手を組んで次に行ってほしい気持ちとちゃんと説明を聞きたい気持ちがフリアーネの中で鬩ぎあっているようだ。
目的の魔法
「そうですね。ちゃっちゃっと進みましょう。次はメインに近い『
説明が雑になってはいけないのだが美少女がとても困っているので仕方が無い。
書面にはちゃんと記して渡すことに決めた。
「少し上位の『
そう言った時、初めてフリアーネの表情が輝いた。
早速メモを取る姿勢になる。その変わり身は並々ならぬものに感じた。
◆
今まで告げた魔法も知識としては大事なのだが、それらは時間をかけて説明する。
最後の上位魔法は確かに効果としては彼女の御眼鏡に適うものだ。その代償は決して小さくない。
更に効果が一時的ではなく永続――
これを手にする事が人類の悲願だと言ってもいいくらいだ。
若返りと老化では経験値の消費量は違う。
年齢は一年ごと上下させられるが若返りは老化の五倍コストがかかる。
「……第八位階……」
大儀式レベルの魔法にフリアーネは冷や汗をかいていた。
フールーダが最大で行使できるものが第六位階だと知られている。その二つ上なのだから驚くのも無理は無い。
「学生には手の届かないものだが……。どうせ無理に決まっている、とか決め付けないように」
「は、はい。ちょっと驚きました」
ちょっとどころではなかったようだが、ぷにっと萌えは優しく慰める。
魔導国にとって――というよりゲームの設定上――第十位階が最大だ。だから第八位階をどうにかする事は無理ではない。
方法については今は議論しないけれど――
「フールーダが今まで使っていた魔法はまた別のものにな……。……おっと呼び捨ては失礼ですな」
「そういえば……、かの御仁は魔導国では赤子も同然の扱い……とか?」
「……基本的に外野の弟子は取らなかったからね。不慣れなところがあるのは認めます。あと、私の弟子ではないから……呼び方は……気にしてなかった」
クリーチャーと同一視して呼ぶように――
当人が側に居れば敬称をつける。今のはたまたま失態を犯しただけだ。
他人を無闇にバカにする事はしないが、フリアーネ達にとっては偉大な先達にして教師だ。敬う分には
「君たちの先生に失礼な態度を……。こちらとしても不慣れな対応に苦慮して申し訳ないと思っています。……何しろよその国の人だから……」
「……ああ、なんとなく分かります。こちらこそ私の為にお時間を頂いているのに……」
いやいや――、と。
こんな土砂降りの中で勉強会をしようだなんて狂気の沙汰もいいところだ。
児童虐待で訴えられても仕方が無い。
風邪を引いてもちゃんとケアするよ、と胸の内で言う植物モンスター。
◆
端的に魔法名を告げた後、効果などを分かる範囲で説明していく。
戦闘用の魔法が多い為に実用性について実験する事が無かった魔法をぷにっと萌えは現地の人間に教えていく。
膨大な数の魔法をゲーム会社はどういう意図で実装していたのか――それを確かめるには『
そのGMが数百年も前に殺されていた、と――仮定しておく――すれば現代で自由に行動できる事にも納得がいくのだから困ったものだ。
運営の人間も一プレイヤーとして紛れて行動する事があるので、そういう事態がありえないわけではない。
こういう世界の為に実装したのだとすればもっと納得する。
もちろん推測だが、納得できない点もまたある。
ログアウトボタンの消失するタイミングだ。
運営終了と同時に――という都合のいい場面に立ち会えるプレイヤーなどたかが知れる。もっと前ならより大勢のプレイヤーを巻きこめたはずだ。
(……という議論は今更か……)
民間人に確かめる術が――仮にあったとしても抗える術があるとも限らない――
それに――と、思考が脱線してきた事に気付いて現実に戻る。
『
「……『
「はい」
メモに魔法名を記入するフリアーネ。
他の魔法もちゃんと説明文付きで書いていた。
魔法名は唱える時に必要になるし、効果をちゃんと把握しないと覚え難い傾向にある。――特に現地民にとっては。
「加齢によるペナルティを軽減する魔法となっています。フールーダ先生はおそらく
ゲームの
ぷにっと萌えが今まで説明してきた魔法もゲームの説明文に拠るものだ。
「あくまで身体的なペナルティ……、筋力低下とか。外見については保証されていません」
女性としては外見まで保証する魔法が欲しい筈だ。そうなれば先に述べた中にあるものを試すしかない。
経験値の消費は十年二十年ともなれば結構なものになる。
今の彼女だと一気に魔法が使えなくなるのではないかというくらいだ。
ぷにっと萌えだと一レベル分ほど――ただし、その失った分を取り戻すのはこの世界では計り知れない難行となっている、らしい。
これが一回だけなら軽微で済む。――異形種にとっては不死性の特徴によって使い道自体が無い。
人間であるフリアーネの場合は定期的に使いそうだ。――そうなれば毎回の行使に努力は欠かせないものとなる。
それを永遠に
星の寿命はさすがに想定していない筈だし、この世界が永遠に存在し続けているとも限らない――事に彼女は果たして気付けるのか、という問題もあったりする。
◆
魔法の説明に戻るぷにっと萌え。
この魔法には『
魔力系第四位階、第六位階、第七位階。――フールーダの手に届く範囲だ。
「お目当ての魔法は手にするには遠いかもしれないけれど……、実存は確認出来た。後はそこに至る努力をするだけなのだが……」
学生の身分で不可能に挑戦するようなもの――
第三位階の壁を突破し、英雄すら凌駕しろと言っているのだから。フリアーネにとってみれば無茶に過ぎる。
今回は学習のみで実践についてはまた今度、ということにしてもらう。
何ごとも一歩ずつの
ここまでの説明で書ききれないことや不可解で理解しにくいところはぷにっと萌えが帝国語にて補足する。――投げっぱなしでは可哀相だし、雨の中こんなモンスターに付き合ってくれたのだから。――あと、顔を触ったことも少し関係するが――
最後に追加で『
これも位階は高いが知識の幅を広げるという意味で――
これだけ説明したのにもかかわらず、天気は無情に悪化したまま――物語的には晴れになっているところなのに、と不満を漏らすぷにっと萌えだった。
〈
系統:変成術 位階:魔力〈六〉、その他(
構成要素:音声、動作
距離:自身 目標:術者 持続時間:24時間
備考:中年および老年までの年齢による『筋力』、『敏捷力』、『耐久力』へのペナルティを無視することを除き、『
系統:変成術 位階:魔力〈七〉、その他(
構成要素:音声、動作
距離:自身 目標:術者 持続時間:24時間
備考:中年、老年、および70歳近くの年齢による『筋力』、『敏捷力』、『耐久力』へのペナルティを無視することを除き、『
系統:変成術 位階:魔力〈四〉、その他(
構成要素:音声、動作
距離:自身 目標:術者 持続時間:24時間
備考:術者は中年化による肉体的損傷を無視する。外見を若くしたり老衰による死亡を防ぐ事は出来ないが、効果中は『筋力』、『敏捷力』、『耐久力』へのペナルティを無視する。『知力』、『判断力』、『魅力』の年齢によるボーナスは維持される。
〈
系統:幻術(幻覚) 位階:魔力〈一〉、信仰〈一〉
構成要素:音声、動作
距離:自身 目標:術者 持続時間:1時間×術者レベル
備考:術者は『
〈
系統:変成術 位階:魔力〈七〉
構成要素:音声、動作、物質、焦点(経験値25%ほど)
距離:自身 目標:術者 持続時間:永続
備考:術者は自身の個人的な品物を集めて焦点具となった鞄の中に入れておく。その後、ダメージ減少の能力を得て、加齢速度が通常の三分の一となる。ただし、この鞄を破壊された場合は魔法の効果は即座に終了し、本来の年齢に戻ってしまう。(この魔法の効果中、寿命を超えていた場合は即座に老衰死する)
〈
系統:死霊術 位階:魔力〈三〉、信仰〈三〉
構成要素:音声、動作
距離:接触 目標:接触したクリーチャー、または物体 持続時間:瞬間、または10分×術者レベル
備考:目標を一時的に加齢し、『筋力』、『敏捷力』、『耐久力』へのペナルティを与える。ただし、ボーナスは得られない。年齢不詳のクリーチャーの場合は中年に進ませるものとして扱う。不死性のクリーチャーはこの魔法に完全耐性を持つ。物体、
〈
系統:変成術 位階:魔力〈四〉、その他(
構成要素:動作、焦点(金貨1枚の価値がある三日月形の銀)
距離:自身 目標:術者 持続時間:24時間
備考:術者の外見を3つの理想的な年齢段階に変異させる。青年期、成人期、老年期。いずれも外見は術者自身のものであり、別人になるわけではない。青年期は『敏捷力』、『耐久力』に強化ボーナスを得るが『判断力』にペナルティを受ける。成人期は『判断力』、『知力』に強化ボーナスを得るが『敏捷力』にペナルティを受ける。老年期は『判断力』、『知力』に強化ボーナスを得るが『筋力』、『敏捷力』にペナルティを受ける。『
〈
系統:防御術 位階:信仰〈四〉
構成要素:音声、動作、物質(銀貨5枚分のダイアモンドの粉末)
距離:接触 目標:接触した同意する生きているクリーチャー1体 持続時間:永続
備考:目標は睡眠状態となるとともに加齢を受けず、毒、病気の進行が停止する。また時間経過を把握でき、任意の時点で目覚める事が出来る。何らかの脅威が起きたり、敵意を察知した場合、その前に目覚める事が出来る。
〈
系統:変成術 位階:魔力〈一〉、その他(
構成要素:音声、動作
距離:接触 目標:接触したクリーチャー 持続時間:1時間×術者レベル
備考:目標の姿をより若い姿に変化させる。どのくらい若く見せられるのかを選択する事が出来る。ただし、年齢に関連付いた外見以外の詳細(髪の色を変更したり、大きさなどの姿そのものを変更するような)は変更できない。この魔法は年齢に基づく能力値の修正または年齢効果に影響は与えない。
〈
系統:変成術 位階:魔力〈二〉、その他(
構成要素:音声、動作、物質
距離:近距離(約10m+2m×術者レベル×2) 目標:クリーチャー1体 持続時間:10秒×術者レベル
備考:目標1体は2年×術者レベル分まで一時的に老化または若化する。これは術者が選択する。その後、年齢効果の作用を受けるが『記憶』、『経験値』、『レベル』には作用しない。『12歳未満にはならない』、『寿命は超えない』、『一部の技能判定に対してボーナスを得る場合がある』などの変更を受ける。
系統:変成術 位階:魔力〈八〉、その他(
構成要素:音声、動作、物質、経験値
距離:近距離(約10m+2m×術者レベル×2) 目標:クリーチャー1体 持続時間:永続
備考:目標は永続的な『
系統:変成術 位階:魔力〈五〉、その他(
構成要素:音声、動作、物質
距離:近距離(約10m+2m×術者レベル×2) 目標:一定距離内に収めた全てのクリーチャー 持続時間:10秒×術者レベル
備考:効果は『