本屋の前にはやはり、異様な光景が広がっていた。
本屋の前にぶちまけられた赤いペンキを誰も気にせずに歩いている、しかもそのペンキは太陽の光を反射させているため、ペンキが乾かずに液体状態にあることが分かる。
「やっぱり誰もペンキに触れないっぽいな…」
「そうだねぇー」
と言いながら京華がペンキに触る。
すると、京華の手にペンキが付着する。
「あ、触れる」
───!!
ある程度は予想いていたとはいえやはり、驚いてしまう。
このペンキはやっぱり、この状況に深く関係している──?
京華の魂が体から離れた理由はこのペンキが入ったバケツが頭にぶつかったせいだ。つまり、このペンキもしくはバケツが京華を幽霊にしたと考えられる。
と、そこまで考えて違和感を覚える。
───バケツが──ない──?
作業着のおっさんが回収した──?
じゃあなんでペンキは放置したまんまなんだ?
洋太はペンキを触ることによって幽霊の京華が見えるようになった。京華もペンキに触ることが出来る。
ペンキを触った俺と洋太を幽霊の京華は触ることができるし触られることが出来る……京華の体にはペンキがかかることは無かった、だから幽霊の京華は自分の体に触れない──?
じゃあバケツは──?
とそこまで考えたところで頬に冷たいものが当たった。
「お兄ぃ?大丈夫?」
心配そうに俺の顔を見上げる京華がいた。しかも俺の頬に手を添えながら。
何この展開!!俺得すぎぃ!!天使!?天使が俺の目の前にいるよ!?
「あ、あぁ。大丈夫だ」
俺はできるだけ平静を装って返答する。
でも何故か京華はいたずら成功、みたいな笑顔を浮かべていた。
何をされたのかわからない俺は首をかしげて京華を見る。
「なんかした?」
「ふふぅん、秘密ー」
と可愛らしい笑顔を浮かべる京華。可愛いです!
京華は教えてくれないらしいので俺は諦めて、あらかじめ家から持ってきていたペットボトルを取り出す。
「とにかくこのペンキ持って帰るか」
ペットボトルの蓋を開け俺は自分の手でペンキをすくい、ペットボトルに注ぎ込む。
が、ペンキはペットボトルの底を貫通して行きコンクリートへと落ちていってしまう。
「やっぱりダメかぁ……」
俺は空のまんまのペットボトルを見つめながら呟く。
「ちょっとお兄ぃ?すごい注目されまくってるけど……?」
まぁそりゃそうだよな。何にもないところでこんな行動していたら不審者でしかないよな。
うぇえ!?やべぇ!超注目されてるぅ!?
俺はこれ以上の注目を集めないように静かに立ち上がり全速力で家へと向かった。
あれれぇ?おっかしいぞぉ?さらに注目度が上がってる気がするぞぉ?
─────────────────────────
あのあと、家までなんとか辿り着いた俺と京華。いや、なんとかたどり着いたのは俺だけだな、京華は余裕でたどりついている。いいなぁ!俺も幽霊になりたい!
家に入りリビングのソファに倒れ込む。
そこでふと時計を確認すると時刻は12時を過ぎていた。
「おぉ、もうそんな時間か……」
適当に飯食って、あと、走って汗かいちゃったしシャワーに先入っとくかな。
「京華ちょっとシャワー入ってくるわ」
そういって京華のためにテレビをつけて風呂場へと向かい、服を脱いで浴室に入る。
こういう時って「背中流しに来たよ♡お兄ちゃん♡」とかって言って京華が風呂場に乱入。とかっていうイベントが起こってもおかしくないと思うんだよね……京華がラノベを読み始めた時とかは俺はこれを結構本気で期待していた。いや、マジで。
だってさぁ、これって定番じゃん?水着来た状態でもいいから来てくんねぇかなぁ…
とか考えながら浴室を出る。
もちろんそこに衣服を脱ぎかけた京華がいて、ばったり遭遇してしまう。というイベントは起きなかった。いや、この場合普通は立場が逆か。
リビングに戻ると京華は相も変わらずテレビを見ていた。
「あ、お兄ぃおかえりー」
「たでーまー」
俺はリビングに設置してある時計を見た。
「そろそろ救急車呼ぶか」
「あ。それなんだけどさぁ……」
京華は何かを言いかけたが口元をもぎゅもぎゅさせたままで続きをいう気配がない。
何か言いづらいことなのか?別に救急車を呼ぶのも急がなきゃいけないわけじゃないし少し待ってみるか。まぁ、救“急“車なのに急がないのもどうかと思うが…
「えーっとさ…私の体すごい汗かいちゃっててさ…お兄ぃ…濡れタオルとかで拭いてくれない?」
ふむ…なるほどな。まぁ夏場なんだし寝汗をかくのは普通のことだよな。いや、でもそれを拭くのか?俺が?京華の体を?いや、でも俺しかいないかこの状況なら……ならいっそ拭かなくてもいいのでは?それは女子高生的には嫌か……そうなると俺は京華の生肌を必然的に見てしまうのだが……いや!俺はいいんだよ!?むしろ見たいぐらいだ!!最低だなこのクソ兄貴!!いや、でも一概にはクソ兄貴とは言えなくもないか?京華からの、本人からの頼みな訳だし、同意は得ている……いやいやいやいや、俺と京華は義理であっても兄妹なわけであって京華は俺の妹で俺は京華の兄なんだし、同意があってもそういうのは行けないのでは?いや、でも───
と、俺は約2秒のあいだにこの自己肯定と自己否定を何回も繰り返す。
「お兄ぃなんか顔が百面相みたいになってるよ?」
どうやら俺はその2秒間で100回ほど表情を変えていたらしい。俺の表情筋すげぇ!!
「いや、でもだな…いいのか?京華」
「まぁ、お兄ぃだしいいかなぁって」
ここを信頼されていて嬉しい!って捉えるか異性として見られていなくて悲しいって捉えるか少し悩むな……
いや、後者の方は明らかにおかしい。さっき自分で兄妹だって言ってただろ。
「そ、そうか。じゃあ京華の部屋いくか」
俺は立ち上がり洗面所へと向かう。
「えーっと、とりあえずタオルと……あとバケツに水も汲んでくか」
体を拭くんだし1回濡らしただけじゃ足りないだろうと思い俺はそこの浅いバケツを取り出す。
「あ、お兄ぃ乾いたタオル1枚持って行って」
「なんでだ?」
「目隠し用」
目隠ししたら体拭けなくないか?それに京華の禁域とかに手を突っ込んでしまう可能性も───よし、タオルはもう1枚持っていこう、いや、むしろ持っていかせてください!
濡れタオル、水の入ったバケツ、乾いたタオルを持ち、俺は京華の部屋へと上がる。
「おじゃましまーす」
俺はベットの横に座り濡れタオルをさらにもう一度絞り、顔や首、腕、足とパジャマから露出している部分を順に拭いていく。
「えっと…京華?もう目隠しした方がいいのか?」
「そうだね」
俺は持ってきていた乾いたタオル(ちゃんと透けないようになっている)で目を隠す。なんで透けるやつにしなかったのかなぁ!
「これなんにも見えないんだけど……危険じゃない?」
暗に触ってしまう可能性があるんだけど?と告げる。
そこはさすが妹と言うべきか、しっかりと意図が伝わったらしい。
「そこは大丈夫だよ。お兄ぃの手を借りて私が拭くから」
あぁ、なるほどね。それなら俺が見える必要も無いし触ってしまう危険性もないわけか。
べ、別に残念がってなんかいないんだからね!!
そうして、京華が俺の手の甲に触れた時に不思議な感覚を覚える。
───?体が妙に軽い?
ってか足が地面についてないような気がする……
自分の足元に目線を向けると俺は浮いていた。
それでもって俺の体が俺の横で驚いている仕草をしている。こんなところに鏡なんてあったかしらん?
─────はぁぁぁあああ!?!?!?
え?なに?俺死んじゃった?彼女も1回もできないうちに?可愛い可愛い京華を残して?死んじゃったの?
いや、違うな。少なくても俺の体は動いている。それによく見ると俺の右手から糸みたいなものが伸びて俺の体にくっついている。
それに───京華の姿が見えない。つまり…
「きょ、京華?なのか?」
「え?お、お兄ぃ?」
目隠しをしているため俺の体は俺を探してキョロキョロしている。ややこしいな!
しかも、自分の声でお兄ぃとか言っちゃってるよ……気持ちわりぃ……
「目隠し取れ……」
俺ははんば呆れて京華INマイボディーにいう。
目隠しをとった京華?俺?いや、京華でいいか。
「お、お兄ぃ!?」
本当に誰得なんだよこの状況………
普通さ、逆じゃない?京華が2人に増えるのなら幸せ2倍でみんなハッピー!なのにさぁ…
「も、もしかして死んじゃった!?私のせいで!?」
そう言って目尻に涙を浮かべる京華。これが京華の体だとときめいちゃうところなんだが男がやっても気持ち悪いだけである。
「あぁー泣くな!俺の体で泣くな…!」
俺に言われて京華は初めて自分の体が俺になっているのに気がついたのだろう。
「うわぁ!?お、お兄ぃになってる……?」
「それに、俺は多分死んでない。」
そう言いながら俺は右手から出ている糸のようなものを指す。
「???」
まだ分かってないっぽいな……
まぁそれは後でいいやとりあえずこの状態になったことで1ついいことがある。
「とにかく、今のうちに自分の体拭いちまえ。俺は部屋の外で待ってるから」
そう言い俺は京華の部屋を出ていく。
浮きながらの移動ってすごい違和感あるな……なんか、こっちに進もう。って思うと進む感じで歩くのとだいぶ違う……
あと、ドアをすり抜けるの超怖い。慣れるのに時間かかりそうだ……
とか、自分でもありえないほど俺は冷静に事に対処出来ていた。ぶっちゃけ自分が1番驚いている。
京華が俺の体を使って自分の体を拭いているうちに俺はできるだけ今の状況を整理する。あとで京華に説明するために。できるかどうか怪しいが。
まず、さっきの俺からでている糸だが、俺が俺の体から離れたぶんだけ伸びている。いや、俺の指がどんどん短くなっていることを考えると、俺の指が形状変化して糸になってるっぽいな……
つまり、俺は自分の体から離れすぎることが出来ないってわけか。
あとは、こうなった原因と、戻る方法とかも考えなくちゃな。
「お兄ぃーもういいよー」
じゃないと俺は自分の声で自分をお兄ぃと呼び続けることになっちまう。それだけは嫌だ!!絶対に!!
俺は再び京華の部屋に戻るためにドアノブに手をかけるが通り抜けてしまい、少し恥ずかしい思いをしたのでした。まる。