「えーっと…とりあえず俺、戻りたいんだけど…」
いや、正確には京華が俺の体に入っているのが嫌だ。いや、これだと語弊があるな……京華が俺の体に入っているのはいいんだ、むしろ入ってください!って感じなんだが…これにも語弊があるか?
じゃなくて、京華INマイボディーは今幽霊状態?にある俺のことを「お兄ぃ」と呼ぶのだ……
何が嬉しくて自分の体に自分の声で「お兄ぃ」と呼ばれなきゃならんのだ!キモすぎて鳥肌が立つレベルむしろ、鳥になるまである。
「それはいいんだけどさ…どうやって?」
「俺が京華に触る?とかか」
さっきは京華に触られることで俺の体の中身が入れ替わったわけなのだが……
「やっぱダメかぁ〜」
触っても変化なし。それもそのはずで京華は幽霊の時に何度か俺に触っているのだ。その時にはなんの変化もなかった。
つまり、触る以外にトリガーがあるってことだ。
「さっきと同じ状況にするか……京華、目隠しして。」
「はいはーい」
その返事の仕方も京華が言ってると可愛いんだけどなぁ……俺の体がいうと単純に気持ち悪い。
「ん、したよ」
俺は俺の体の手の甲に触れる。すると──
「うおっ!」
──急に目の前が真っ暗になった。あと、ちゃんと地面に足がついている感覚があるし、体の質量も感じる。
「おぉー!ちゃんと戻ったぁー…」
「そんなに幽霊でいるの怖かった?」
え?逆に怖くないの?と聞き返しそうになったが質問を変える。
「逆になんで3回目でそんな慣れてるの?」
「なんとなく…?」
家の妹の適応能力が高すぎてやばい。
幽霊になるとかいう非日常を3回目で何となくなれるとか。ヤバスギィ!
まぁ、それはいいか。問題は俺が幽霊になった理由とか、方法とか、あとは京華が俺以外に誰の体に入れてしまうのか、を考えなくちゃなぁ…
めんどくさいなぁ……別に京華の事だし俺がこれを考えるのは全然いい。むしろ考えなくちゃいけないことだと思う。
でもさぁ?あの作業着のおっさんは何でこんなめんどくさい設定ばっかり増やすかなぁ……答え合わせの時とかものすごくめんどくさいじゃんかさぁ……
「ふぁあぁあぁあ………」
そこまで考えて俺は特大の欠伸を1つ。
なんか妙に眠い……昼過ぎてから大して時間経ってないのに……
やばいな…色々と考える前に救急車を呼んで京華の体を病院に運ばなきゃ…
俺はなんだかやけにだるい体を駆使し、ポケットに入れてあった携帯で電話する。
「あ、えっと、今朝から妹が何をしても起きなくて……眠った時間は昨日の夜11時とかですかね……はい、はい、えっと、住所は──────です。
はい、待ってます。」
なんとか眠気を押し殺して電話を終了させる…
あとは救急車を待って同乗して説明受けたりとか色々と許可とかしたりとか、しな……くちゃ……
そこで俺の視界は真っ黒に染まっり意識が途絶えた。
「え?お、お兄ちゃん───!?」
京華の慌てる声も聞こえているか聞こえていないのか分からなかった。
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次に目が覚めた時には俺は自室のベットの上にいた。
「あれ…?確か俺ベットの前で眠過ぎて倒れた気がするんだけど……」
京華がベットの上に上げてくれたのか?幽霊になるとそんなに力が強くなったりするのか?
「あ……京華……」
俺のベットの斜め上あたり、つまり空中で京華は眠っていた。
あれ?でも1階から音が聞こえるような気がするけど……俺、テレビつけっぱだったか?
そう思い京華を起こさないよう音を出さないで1階へと降りる。
「お、カズ。起きたか」
そこには我が家のリビングでくつろいでいる洋太の姿があった。
「なんでいるんだ?」
「京華ちゃんからさ“洋太くん!お兄ちゃんが倒れちゃった!“って言われて急いでここに来たら何故か救急車が家の前に止まってるしお前は寝てるしで……しかも俺、慌てっちまって救急車追い返しちまったぞ……」
と洋太は随分とねむそうに話した。不思議に思い時計に目をやると時刻は深夜の1時。眠くなるのも仕方が無いか。
いや、それより大切なことを今こいつ入っていたぞ…!
「洋太……京華は俺のことを“お兄ちゃん“って呼んだのか!」
すると洋太は何故か、あっやべ!みたいな顔をしてから。
「そこは俺のアドリブだ」
と言った。マジかよー…そこは冗談でもそうだよ、って言っとけよー。
「てか、こんな時間まで家にいていいのか?」
「今日はお前の家に泊まっていくって言ってある」
「ん、そうか」
そういえば洋太がうちに泊まるのはいつぶりかなー、中学になってからは京華がいるからって理由でこなくなったんだっけ?
「飯は?」
「食った」
との事なので俺は自分の分の飯だけを作ろうと台所へ向かう。
他にも、救急車に京華を乗せなくて大丈夫だったのかとか言おうとしたが、まぁ何も報告なしってことは大丈夫なんだろ。
それから俺は飯を食い、客間に洋太用に布団をひいた。
「いつもの所に布団引いといたからー」
「悪いなー」
と、全く悪びれるつもりのない洋太の声を背に俺は自室へと戻る。多分京華がまだ俺の部屋で寝ているはずだ、リビングにも降りてこなかったし。
「京華ー?寝るなら自分の部屋で………」
あれ?京華がいない?どっかいったのか?
部屋の中を一通り探すも京華の姿は見当たらない。
それよりも昼間と似たような強烈な眠気が体を襲ってくる。正直もう動けない…
なんでだ?もしかして、幽霊化ってのは想像以上に疲れるものなのか?
それに京華は───部屋に戻ったのかな。多分そうだろう。と結論づけ俺はベットに倒れ込み意識を手放した。
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朝目覚めると2日連続で京華が俺の部屋にいた。
マジでぇ!?俺幸せすぎて死んじゃうんじゃないかしら!!
このまま狸寝入りしようと一瞬考えかけるがすぐにその考えを破棄する。
昨日の朝に京華が起こしに来る時点で何かあったと思えって言ってたしな。起きなくては。
それにしても、なにかない限り起こしに来てくれない妹ってどうよ?毎日来てくれても良くない?
「どうした!京華!また何かあったのか!」
とベットから飛び起きる俺。寝起きにしては素晴らしい。
「うん…あったっちゃーあったんだけど……なんで朝からそんなにテンション高いの?キモいよ?」
久しぶりに京華にキモいと言われてしまった…しかも若干引き気味で……辛い!
俺がうなだれていると京華が言葉を続ける。
「なんか朝起きたら戻ってた。体に」
その言葉を聞いて俺は弾かれたように京華の足元を見る。浮いていない、ちゃんと床に座っている……いや、正確にはちゃんとクッションを持ってきてその上に座っている。そこら辺ちゃっかりしているやつだ。
「そ、そうか…そりゃよかった…」
昨日病院に京華の体を運ばなかったのはむしろ良かったってことか……いや、洋太に感謝するわけじゃないが。
作業着のおっさんがメモに残した“1ヶ月“まであと4日。それまでに今回のことも前回のこと含めて理解しなくちゃいけないのだ。
でも実際言うとわからないことだらけだ……
それに、間違えた場合どうなるかわからない。今回京華は前回と同じく約1日で魂が抜けそして、戻った。もしかしたらそういう法則があるのかもしれない。それに京華の俺への憑依?の事だってある。他にもペンキのことや洋太のことなど、これら全てを理解しなくちゃいけない。
できるのか──?そんな考えが頭をよぎりそうになる……が、そんなことは考えても無駄だと思考を切り替える。切り替えるしかない。
この現象が俺自身に起こっているのであれば、もしかしたらどうでもよかったかもしれない。でもこれは、俺の大事な大事な家族の、妹の京華に起きていることなのだ。諦めることは出来ないし諦めることなんて許さない。
「お兄ぃ?顔、怖いよ?」
少し考えすぎていたのか京華からそんな言葉をかけられる。不甲斐ないばっかりだ。
「あぁ…すまん。ちょっとな」
今の考えを京華に話すつもりは無い。恩着せがましいと思ったせいもあるが何より。家族なんだ。助けるのは当たり前だろう?
そう思っていると、頭に、ふわりと柔らかくて暖かいものがのせられた。
「大丈夫だよ、お兄ぃ。お兄ぃなら何とかできるよ。それに……私だっているんだしさ」
京華はいつか言っていたセリフを言いながら俺の頭を優しく撫でてくれた。
「そう……だな…」
俺は短く同意する。京華がいるのは初めからわかっている。でも…最近の俺は少し自分で考えすぎている。その自覚はあった。でもまさかそれが京華にまで伝わっているとは……本当に…不甲斐ないな…
「よし!じゃあ飯にするか!京華1日中なにも食べてないだろ?」
「うん、お腹空いたー」
そうして俺と京華は揃って階段を降って行った。