俺は今、人生の中で徒競走や陸上とかを抜きにした、いや、抜きにしなくとも全速力で走っていたかもしれない。
ペース配分とか走り方のフォーム、これ以上は走れないと絶叫する筋肉や肺、周囲からの戸惑いの視線をすべて無視し京華を探していた。
先程までビルとビルの間の裏路地で俺と洋太、そして京華の3人でこれからの事やこれまでの事を整理し推理していた時に突如として、なんの音沙汰もなく京華はその場からいなくなった、いや、消えた?のか?
今のところ病院からの連絡は来ていない。
つまり最悪の事態だけは避けられた……って考えていいだろう。いや、楽観視するのは良くないか?
自分の思考を肯定しそして、否定する。そんな思考が京華が消えてからずっと頭の中を巡っている。
「──随分と慌てているようだね」
俺は急停止した。
その誰にかけられたのかもわからない声掛けに。
今京華がどんな状況かわからない、もしかしたら刻一刻を争わなければならない状況かもしれないというのに。
「どうしてそこまで慌てる必要がある?」
そこにはおじさんがいた。スーツを着てハット帽を被った、しかもだいぶ重ね着をしたように見える。
誰だ?このおじさん…どっかで見たことあるようなないような…
「妹を探しているんです。さっきまで一緒にいたんですけど急にいなくなってしまって」
────??
どうして俺は見ず知らずのおじさんにそんなことを話した?
「そうか、それは大変だね」
そしてまた俺はよくわからない感覚に襲われる。
──憤り?のようなものを感じる?なんでだ?
このおじさんはいかにも柔和そうな、憤りを覚えるようなところなど1つもないというのに──?
「でもね、そういう時は落ち着かないといけないよ。焦っても何一ついいことは無いからね。」
そのセリフにひどく既視感を覚える。
それと同時にさっきまでよりも強い憤りを感じる。
理解はできない、だが口が反射的に何かを言い返そうとすると。
「いない──?」
なんの偶然かさっきの京華と同じくおじさんは忽然とその場から姿を消していた。
四方八方見渡すがおじさんの姿は見れなかった。
が、その代わりに洋太がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「京華ちゃん見つかったか!」
ねぇねぇ、なんでお前あんなに走って息切れひとつしてないの?なに、サイボーグかなんかですか?
「いや、見つかってない。」
一応、さっきのおじさんのことはこいつには伏せておくことにした。
今は関係がない、というのもあるが。俺がちゃんと説明出来ないから。という理由の方がでかいな。
それにおじさんのおかげでだいぶ冷静になれた。
「それと、俺はこれから1度家に戻ってみる。家に先に帰った可能性も無くはないからな。
それでお前には1度京華が入院している病院に行ってきてほしい。京華を探すついでに、京華の体に異変がないかも見てきてくれ。」
俺は、自分が今考えられる最善の手を洋太に伝える。
「お、おう?わかった!」
いきなり冷静になった俺に少し戸惑いを見せる洋太だが、そこは合わせてくれるようだ。
幼馴染ってのはこういう時やりやすくて助かる。
「それと、もし連絡が必要な時は必ずメールじゃなくて電話をしろ。もしかしたら、あのおっさんの交錯があるかもしれないからな」
今のさっきまで忘れていたが洋太に俺の名前を使って本屋の前にいた作業着のおっさんはメールを送っている。
もしも、京華が突然いなくなった今の状況にあのおっさんが関与しているのだとしたら偽メールを送り俺たちを錯乱してくる可能性もある。
まぁ、その理由や目的は全くわからんのだが。
「お、おう。わかった」
『このカズやりづれぇー…』
「だから聞こえてるっつの。悪かったな!やりづらくて!」
「わりぃ…つい本音が……それよりもカズ、腹減ったからなんか食っていいか?」
「それを俺に聞くなよ…でもまぁ俺も腹減ってきたな。腹が減ってはなんとやらって言うしいいんじゃねぇの?」
さっきまで必死になりすぎてぜんぜん気にしていなかったが洋太に言われた瞬間に腹減ってきた。
こういうことっあるあるだよな!
「俺はそこのコンビニでなんか買うけど、カズもそれでいいだろ?」
「いや、俺は家で食うわ。じゃ、先行ってるぞー」
なんでリア充系のやつらって一緒に飯食うの当たり前っしょ!みたいな感じなんだろうな。
みんなでワイワイ食べるのも嫌いじゃないけど、人はそれぞれに好みってのがあるだよ。
それを理由に断ったら「はぁ?何こいつ空気読めな。うわー食う気なくなったわー。これどうしてくれんの?」みたいなさ、空気出すのやめてくれない?
いや、今のは食う気と空気をかけた訳じゃないからね?
いつもどうりくだらないことを考えながら俺は家へとかけていく。
その背中を洋太がさみしそうな目で見つめていたことを俺は知らないし知りたくも無かった。
─────────────────────────
「京華ー、京華ーいるかー」
すべての部屋の中を覗きながら俺は京華の名前を連呼する。
やっぱりいないか……
俺が洋太を病院に行かせ自分が家に行くと言ったのには理由がある。
まぁ、洋太がいくら親しいとはいえ誰もいないときに家にあげるにはやっぱり抵抗があったって言うのもあるが…
考え事をするなら家が一番落ち着くからってのが理由だ。その為に昼飯の誘いも断ってきたわけだしな。
「飯はー…炒飯とかでいいか。楽に作れるし」
きっと今も必死に京華を探してくれているであろう洋太には悪いが…レッツクッキング!アンド、シンキング!といこうか。
俺は着々と調理をしながら考える。京華のことを。
ビルとビルの間の裏路地で三人で話していた時唐突にいなくなった京華。さっきまでは考えなかった、いや、考えるのを避けていたこと。
京華の魂はもうこの世にいないのではないか、と。
病院からの連絡は来ていない、つまり京華が死んでしまったという訳では無い、だが。
あのメモ用紙に書かれていた”1ヶ月後には京華の魂が体に戻れなくなる”というもの。
この”1ヶ月”を信じる根拠はどこにもない、つまり 今 その状況にあってもおかしくないってことだ。
でもまぁ、京華の魂が体に戻れなくなるというのも信じる根拠はどこにもないわけだが…
「よし、完成!」
気づけば出来上がっていた炒飯を俺は黙々と食べる。意外と腹が減っていたようだ。
炒飯を平らげた皿洗いをしていると、ふと、思い出す。
「あのおじさんになんで俺はあんな怒ってたんだ?」
先程遭遇したハット帽を被ったおじさん。
俺は何故かわからないがあの人にすごく憤りを感じていた。
その理由を正そうとした時にはおじさんはいなくなっていて、入れ替わりのように洋太がこちらに走ってきたため考える時間もなかった。
「それにあのおじさんどっかで見たような気がするんだよなー…」
わからん……
とりあえず、その事は京華を探してからだ。
そう思い思考を切り替え俺は再び家から出た。
──ピリリリリリ──ピリリリリリ───
家の鍵をかけていると電話がなった。
「はい、もしもし。」
「あー、おれおれ」
「オレオレ詐欺には気おつけろって言われてるんで。切りますね。」
洋太からだと思ったがただのオレオレ詐欺だった。
俺の予想的中率は案外低いのかもしれん。
それにしても、学校で注意されててよかったわー。あともうちょいで騙されるところだったわー。
そう思い携帯の通話終了ボタンをおそうとした時。
「いや違ぇよ!洋太だよ!わかるだろ!?」
なんだ洋太か。俺の予想は案外的中率が高いのかもしれん。
「なんかあったのか?」
「なんもなかったけど一応報告──」
ポチッとな。
いちいちそんなことで電話してくるなよ。めんどくさい。
よし、どこを探すかな。
まだ本屋に行ってなかったしそこから行くか。
そう考えているうちも俺のポッケの中の携帯は振動しっぱなしだった。正直しつこかった。
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日が沈み、夜の世界と化した道路の上を俺と洋太は疲れきった表情で歩いていた。いや、俺だけが疲れきった表情をしていた。
こいつの体力化け物すぎぃ!!
あれから俺は本屋に行くも収穫は何もなし。
ペンキは散乱しっぱなしだったし、一応作業着のおっさんも探してみたがやはりいなかった。
そうしていると洋太が不意に口を開く。
「なぁ……カズ……もしかして京華ちゃんて……」
その先は言わなくても想像がつく、実際俺は何度か考えてしまっている……兄貴失格だよな……
でも、その先は絶対に口に出してはいけないと思う。口に出してしまえば取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
「なわけねぇだろ。京華は探せば必ずどこかに絶対にいる。あきらめてどうする!」
俺はそれを否定する。そして言い聞かせる、洋太にではなく自分自身に。
「だよな…そう…だよな…」
洋太もそれはわかってくれてはいるようだ。
心が、感情が理解するかどうかは別として。
でもまぁ、今日は夜遅いし、洋太には帰ってもらった方がいいよな。
元々洋太は俺が巻き込んでしまったんだ。こんな夜遅くまで付き合ってもらってしまっているのは良くないことだろ。
「洋太、もう遅いし帰ろ───」
──ピリリリリリ──ピリリリリリ──
俺の携帯電話がなった。
嫌な予感しかし無い、出たくない、見たくない!
そう叫ぶ感情を無視して俺の体は勝手に動く、携帯の画面を覗こうとする。
やめろよ!なぁ、やめてくれよ!
感情がさらに叫ぶ。ひどい嘔吐感がする。
俺の体は吐きそうになるのを必死に我慢し携帯の受話器ボタンを押した。
『もしもし。こちら───病院ですが。六車和人さんの携帯電話であっていますか?』
酷く落ち着いた女性の声が携帯から聞こえる。
洋太は携帯から漏れて聞こえてしまったのだろう。顔から血の気が引いているのがわかる。
俺も大して変わらない、いや、もっとひどい顔をしているかもしれない。
『今こちらで入院している京華さんですが──』
聞きたくない!やめろ!と言いかけた、が──
『──意識が回復いたしましたのでこちらに来られますでしょうか?』
──次の言葉で引っ込んだ。
え?京華の意識が回復した?どういうことだ?
京華の魂は今体から出てきている状態にあるはずだ。なのにどうやって京華がおきる?
もしかして、京華がさっきから見つからなかったのは体に戻っていたからなのか?
「はい、わかりました。今すぐ向かいます」
とにかく、直接見て確かめるしかないか。
電話を切り。洋太の方をむく。
「病院で京華が気がついたらしい、今から行くけど来るか?」
「はは、行くに決まってんだろ」
爽やかに笑ってそう言ってくれた洋太と一緒に俺達は病院へ向けて駆け出した。