俺は京華が寝ている病室のドアを開けた。結構勢いよく。それももたれ掛かるように。
だってしょうがないだろぉ…昼間から走りっ放しでおまけにこの病院まで洋太と半場競走みたいな感じで走ってきたんだからさぁ。
俺が開けたドアはかなり大きな音を立てて開いた。救いだったのは京華が一人部屋だったこと。あとは、廊下にいた看護士さんから白井目で目られただけだった。
ふえぇ…怖いよぉ…
「お兄ぃ遅かったね、洋太くん10分前ぐらいには来てたよ?」
「それは洋太が速すぎるんだよ…体力量がおかしい、ゲームバランス崩壊してる。」
「なんだよ、ゲームバランス崩壊って」
ははは、3人揃って笑い声をあげる。
非常に和やかな雰囲気だった。
「じゃねぇよ!?なんでそんな落ち着いてんだよ2人共」
すると、2人揃っていたずら大成功〜みたいな笑顔を向けてきた。なんかむかつく、特に洋太。
「最近お前が落ち着きを持ち始めたからな。その仕返しだ」
最近って言っても昨日からだからね?確かに昨日今日で色々あったからそう感じるのもわかるけども。
それに仕返しって意味わかんねぇよ。落ち着きの仕返しってなんか矛盾してね?
つか、俺が遅れた10分間でその打合せしてたの?もうちょっと壮大な仕掛けとか考えようぜ……
そんなことよりもやるべき事ない?
ということで、やるべき事をやる俺はその話題を京華に振る。
やっべぇー俺ってば優秀ー。
「京華、体は大丈夫なのか?それとー、あー、幽霊の時のことは…覚えてるか?」
「おい、無視するなよ」
とりあえず京華の状態を確認して。幽霊の時の記憶があるのかも聞いておく。
なかったらなかったで、まぁ、心配は残るが体に戻れたんだし大丈夫だろ。
あと、洋太が何か言っていたが無視する。
「幽……霊……?お、お兄ぃ?何言ってるの?ついに頭おかしくなっちゃった…?」
「そうか。…いや、何でもない。今のは忘れてくれ」
すごい棒読みだった。俺も、京華も。
ついでにいうと、京華は笑うのを必死に堪えているせいで声が若干震えていた。
端的に言うと、すごく嘘が下手くそだった。
だがそこも可愛い!
「まぁ、嘘だけどね。お兄ぃ騙されやすいね〜
あ、あと、体は特に何もなし。明日には退院出来るって」
ふふん、としてやったり顔で笑う京華。
どうやら今ので騙せたと思っているらしい。
流石の洋太もこれには少し驚いたらしい。口元を抑えて小刻みに震えていた。
「えぇーそうなのかー、嘘だなんて気づかなかったー。」
それでも騙された振りをする俺。お兄ちゃんの鏡と言っても過言ではないだろう。
『兄弟揃って大根役者だな…』
うるせ。内心で毒づく。
「それじゃあ少し早いけど、今日は俺と洋太は帰るこわ。もう面会時間もとっくに終わってるしな」
「え……っ」
そういった瞬間京華はすごくさみしそうな表情を一瞬だけ覗かせた。
がすぐに誤魔化すように外に顔を向けた。
でもこれだけはしょうがないからな……というわけで、京華にはあれを渡しておこう。
「テッテレー、ライトノベルー。
これを…お兄ちゃんだと思って…大切にしてやってくれ…」
「前後のセリフのミスマッチ感が半端ないんだけど……」
そう言いながらも京華はしっかりと受け取った。
その間洋太はツボにハマったのか大爆笑していた。
もしかしたら俺にはお笑いのセンスがあるのかもしれない。
「てか、なんでラノベもってるの?」
「え?ラノベ普通常備するだろ」
「普通しないけど?」
このバカお兄ぃは何を言っているの?みたいな目で見ないでぇ!
洋太はまだ笑っていた。うるさい、そして近所──いや近室迷惑だし、そろそろ帰るかな。
「じゃあ、俺ら帰るわ。また明日の朝なー」
そう言いながら俺は洋太の頭を叩く。
いい加減うるさかった。
「いたっ──。じゃあね、京華ちゃん」
「うん、お兄ぃも洋太くんも気おつけて帰ってねー」
廊下に出ると看護師さんが俺達を白い目で見ていたが、スルーさせてもらった。
怖かった……怖かったよぉ〜…
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俺と洋太は一緒に歩いて帰ってきたのだが、道中何を話していたのか全く覚えていない。
これからどうするか、これからどうなるのかを考えていたら気づいたら家の前に立っていた。
習慣ってすごいよね!
「ただいまー、って誰もいないんでしたよねー。
なんか夜に家で一人だと謎にテンション上がって独り言増えちゃうよねー、あ、そういえば晩飯まだくってねぇや。なーに食べよっかなー♪パスタでも茹でて食べるかな。」
傍から見ればただの変質者でしかなかった。
パスタを茹でていると携帯が震えてメールが届いたことを知らせた。
『お兄ぃ、ちゃんと無事に家まで帰れた?
あと、明日のお昼は炒飯食べたいな。』
兄が家まで帰れたか心配してくれる健気な妹!
2行目からは、照れ隠しだな。いや、照れ隠しだよね?こっちが本命じゃないよね?
「おう、ちゃんと無事帰宅したぞ。
昼飯了解。おやすみー」
送信。っと、普段京華とはあんまりメールしないからドキドキしちゃう!早く返信こないかなぁ!
乙女チックになってしまう俺だった。まる。
そうしているうちに茹で上がったパスタを、皿にとってトマトソースは市販のものをかける。
「いただきます。」
パスタをそのまま黙々と食べていると、また、携帯がなった。
京華からの返信かと思ったがどうやら違うようだ。
『今日は色々あったけどさ、大丈夫か?』
差出人は洋太───になっているおじさんからのメールだ──と思う。
この会話はさっき一緒に帰ってきた時にしている。
はず、正直自身はないが…
だが今日の昼間俺は連絡を取る時は必ずメールではなくて電話でしろ。と言ったし実際に洋太はその後から俺には電話しかしていない。
『作業服のおっさんか?』
一応それだけ送っておく。
そしてその後すぐに洋太に電話する。
「あ、洋太か?」
『おお、どうした?カズ』
「俺のメール届いてる?」
『メール?何のことだ?』
洋太はメールのことを知らない──ということはおじさんに俺のメールは無事に届いたと思っていいだろう。
「いや、何でもない。じゃ、おやすみ」
『いや、ちょ──』
そう言って強制的に俺は電話を切る。
すると、もうメールが一件入っていた。
差出人の名前が作業着のおじさんと書かれたメールが。
『流石だね。少し君を侮っていたようだ。
もうこの件は解決した。そうは思わなかったのかい?』
あぁ、思いたかったさ。むしろそう思ってさっきまで浮かれまくってたさ。
だけれどな、あのメモ用紙に書かれてた”今回“っていう単語と、”1ヶ月”という期間を考えるとそうは考えられなかったんだよ。
しかもこうなると京華はまた体から魂が離れる可能性が出てくる。
メモ用紙の最後に書かれていた”京華さんの魂が体に戻れなくなる”のせいでな。
1ヶ月後、答え合わせの時には京華は体から魂が離れている必要がある。でなければ矛盾が生じてしまうからな。
「次はいつ京華の魂が体から離れるんだ?」
そう打って返信する。
が、すぐに返信が帰ってきた。
『君は僕が渡したメモを忘れてしまったのかい?
君達にはこの現象を理解してもらわなくてはダメなんだ。それを教えてしまうことはできないよ』
なるほどな。つまりそこを解決してしまえば、正解に近づけるってことだな。
にしても、この回りくどいヒントの出し方とかムカつく。
それに何でそんなことをする?
……わからん
まあ、いいや。今のところもう聞きたいこともないし。今日のメールは終了ってことで。
おじさんともメル友になれたしね!やったーわーい
そう思っているとまた携帯が振動した。
今度こそ京華からの返信かな?
『言い忘れていたが、次からはこのメールに返信しても僕ではなく、ちゃんと洋太君に届くよ』
……はぁ……
京華からおやすみの返信がこない……もう寝ちゃったのかしら。