───紅い床。
それが自分の目線と同じ高さにあるのを見て、自分が倒れているのが分かった。
手の甲で口を拭えば、血がついた。体がうまく動かない。
相当痛めつけられたか、重い1発を食らったのだろう。
うまく動かない身体に鞭をうって少し先を見る。
1枚のカードが、色を失った状態で落ちている。
さらにその先には、あの子が──
───いや、あの子のような何かが立っていた。
『この子の体は少々借りていくよ。僕が単身で現界するために必要だ。何、事が終わればすぐに返すさ。』
あの子……いや、コイツは何を言っているのだろうか
この風景は何を意味しているのだろうか。
『彼の事は気にしなくていい。どの道全て忘れていつもの日々に戻るのみだ。仲間が減った事にも気付かずに平和な毎日をまた送れるだろうよ。』
あの子の後ろの空間に穴が開く。あの子がそこに入っていく。
どこに行くの!?
待ちなさい!
声を出そうとしても、喉が機能しない。
空間が閉じる直前に見えたあの子の顔は、目の色も、表情も、全く別の『ナニカ』に塗り替えられていた。
レミリア「?……んぅ……。」
目が覚めると目に入ってきたのは紅い床ではなく紅い天井だった。
どうやら夢……いや、夢ではないか。あれは恐らく運命だろう。あそこまで鮮明に映るのはいつぶりだろうか。
不安になって、まずはフランの顔を見に行こうと体を起こした。
ザンド「やっと起きたか。にしても汗やべぇぞ?着替え持って来た方がいいか?」
レミリア「えっ………うわああああああああああああああ!!!???」
とっさに全力の腕力をもって枕をこの男の顔に叩き込んだ。
ザンド「……驚きすぎだろ。」
レミリア「貴方がいきなりいるからでしょう!?レディの部屋に無言で入るなこのケダモノ!!」
ザンド「はいはいレディレディ。」
こいつ……出会ったばかりの頃から感じていたが、この男には敬意の二文字が存在するのだろうか。
イルに聞いたところ
イル『アイツに敬意?んなもんあったら逆に怖いぞ?』
らしい。人を煽るような言動が所々に見られる。
クビにしてやろうか。
ザンド「んー……まぁ今回はオレも悪ぃな。すまん。」
と思っていたらいきなり謝られた。どういう風の吹き回しか。
ザンド「とりあえず着替えとタオル持ってくらァ。水もいるか?」
レミリア「………。」
ザンド「どうした?」
レミリア「いつものように煽りを入れてくるかと思っただけよ。」
ザンド「オレも顔色悪ぃ相手をからかうほどアホじゃねぇよ。」
そう言うとザンドは部屋を出ていった。
レミリア「……変な奴。」
ザンド「あ、そうそう。こないだデスピアズが来たんだよ。」
レミリア「邪神皇が?何故?」
ザンド「デカい戦いになるかも知れねぇから戦力補強しとけ、ってカードを渡された。オレとイルがな。」
フランの様子を見に行く途中、そんな会話をしていた。
邪神皇の奴も紅魔館に来たのなら主である私に顔を見せるくらいするのが礼儀ではないか、と思っていると。
ザンド「その日のその時間のお前爆睡してたからな。寝起きの機嫌が悪ぃ奴は寝かせとくのが一番だ。」
と言われてしまった。
そんな事はさておき、フランの部屋に入る。
すると、フランがベッドの上でゴロゴロしているのを発見した。
フラン「あれ?お姉様が私の部屋に来るなんて珍しいね。」
レミリア「え、えぇ。」
フラン「どしたの?」
……伝えづらい。今朝視たものの内容も中々形容し難いものなので、適当にお茶を濁しながら返答する。
レミリア「……最近、調子はどうかしら?」
何かよく分からないことを聞いてしまった。
隣でザンドが苦笑いしている。
フラン「調子って?」
レミリア「今は異変の調査中で色々と落ち着かないから、何か変な事が起きたりとかしてないか、と思ってね。」
フラン「心配性だなぁ。私はは全然元気だよ?変わった事も……あっ。」
ザンド「何かあったのか?」
フラン「昨日ワインで酔ったイルが
『研究つ~か~れ~た~~!!ワシを労って欲しいのじゃ~~!!』
って泣きついてきたんだよ!喋り方が変なになってて面白かった!」
ザンド「何してんだあの野郎……。」
レミリア「…コホン!
とにかく、大丈夫そうなら安心したわ。何かあったら私か咲夜に言いなさい。なんとかするから。」
大丈夫だって言ってるのに、と言われながらも、部屋を後にした。
レミリア「ザンド。」
ザンド「んァ?」
レミリア「今日はいつもより長く探るわよ。イルを呼んできてちょうだい。」
ザンド「張り切ってんねぇ……ま、お前がやる気出すならオレ達が中途半端でいる訳にもいかねぇが。」
さっさと終わらせるに越したことはない。私はウロヴォリアスを叩き起こしに部屋に戻った。
ヴァン「………。」
椛「どうしたんですか?」
デスピアズから渡されたカードをゴロゴロしながら見ていると、椛さんから声をかけられた。
ヴァン「いや、デスピアズから渡されたカードを見てただけだよ……ってあれ?もうお昼?」
椛さんがおたまを手にしているので、思ったより早く時間が過ぎるな、とふと思う。
椛「はい、お昼ですよ。もうご飯出来てますので、一緒に食べましょう。」
ヴァン「うん!」
今日はなんだろうな、と楽しみを膨らませながら椛さんについていく。
ヴァン「ご馳走様でした!」
椛「ふふっ、お粗末さまでした。」
食べる度に思うのだが美味しい。ザンドのより美味しい可能性ありだね。
椛「そうやって美味しそうに食べてくれると私も嬉しいです。」
ヴァン「ふふふー。」
美味しいんだから美味しそうに食べるに決まってるのだ。
椛「……ところで、異変の方はどうですか?」
ヴァン「!」
椛さんからその話をしてくるのは珍しい。
僕も少々真面目な面持ちで答える。
ヴァン「……あれから取り立てた収穫は無いかな。ココ最近はそれにおかしな生物が森とかで見かけられてる。人里に被害は出てないけど、ちょっと雲行きは怪しいかも……。」
椛「そう、ですか……。」
ヴァン「でもバッチリ解決はしてみせるよ。なんたって僕達四魔卿と邪神皇総動員だからね!」
冗談めかして得意気に言ってみる。
でも椛さんにはあまりウケなかったらしく、不安気な顔をしていた。
椛「……無理はしないでください。万が一怪我したり、それこそ死んじゃったりしたら……。」
ヴァン「……。」
椛「……ヴァンさん、ホントに、無理はダメですよ?」
ハッキリ言って驚いた。まさか心配されるとは思わなんだ。
ちょっとむず痒くて、笑みがこぼれる。
椛「なんで笑うんですか……本気で心配してるんですよ?」
ヴァン「あはは、ごめんごめん。でも大丈夫だよ。
椛さんにそうやって心配されてるうちは、絶対に無理はしないし、五体満足で帰ってくるよ。」
椛「……約束ですよ?」
ヴァン「……うん。」
これは責任重大だなぁ…なんて思いながら僕は、この気持ちいいむず痒さを味わうのだった。
……あれ?ここ、どこだろう?
『──あぁ、お目覚めになりましたか?おっと、この状態ではいらっしゃいましたか、の方が正しいですね。』
……あなたは、だれ?
『──此度の異変の黒幕、とでも言いましょうか。』
ッ……!!
『──おっと、勘違いなさらぬように。この異変、最終的には幻想郷の利益になるものであります故。』
……どういうこと?
『──神皇がどういうものかはご存知で?』
ウロヴォリアスから、少しだけなら。
『充分でしょう。神皇はかのグラン・ロロを守護する12体の勇者……と言われています。ですが、幻想郷にとっては現在彼らは危険なのですよ。』
……危険?
『はい。彼らが幻想郷にいる事でグラン・ロロと幻想郷との繋がりが強くなります。さすれば、グラン・ロロのスピリットが流れ込んできます。
新しい土地というものを与えられた彼らは、その土地を奪い合うために周囲を顧みず戦うでしょう。』
……幻想郷が荒らされるってこと?
『頭の良い御方だ。おっしゃる通りです。その為に私は神皇を殺すためにこの地に参った次第……なのですが、それを貴方にお願いしたいのですよ。』
……えっ?
『ハッキリ言ってしまうと、ウロヴォリアスを殺して頂きたいのです。』
……嫌だよ!だってウロヴォリアスは……!
『貴方の姉の相棒。えぇ、それは承知しています。だからこそ、妹である貴方にお願いしたいのです。幻想郷とグラン・ロロの関係性が悪化しないためにも。』
嘘よ!それが本当だったらもうとっくに幻想郷は荒れてるはずでしょう!?
『……。』
幻想郷の為を思ってるならあちこちに変な生き物を歩かせたりしない!
それにお姉様達を襲う理由も無いわ!
『…チッ。』
…!?
『子供だからといって少々舐めすぎましたね。フェンに任せるべきだったか……まあいいでしょう。つまり貴方に協力の意思はないと。』
当たり前じゃない!
『承知しました。なら──
───その身体だけでもお借りしましょうか。』
……………え?
次の瞬間、私の体を絨毯のようなものが包んでいく。
……きゃっ!?
『この夢に入った時点で貴方の負けですよ。同意を得た上の方が波風も立たず、且つ確実なのですが、致し方ない。
───では、後は何卒よろしくお願い致します、
【▅▅▅▅▅】様。』