東方魔卿録   作:子アオ

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第29話『外道に終着する外道』

 

目が覚めて、体を起こす。

そして体を伸ばすと、体の所々がポキポキと音を鳴らした。

 

朝起きたらまずは顔を洗う。

早速洗面所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けると、そこにはまだ誰もいない。

洗面台が使われた形跡もないので、まだ誰も起きていないか。

蛇口をひねり、水を出す。

二、三度顔に水をかけて、タオルで拭き取る。

 

昨日あのようなことがあっても、普段の仕事は怠ってはならない。

しかし、失ったものの大きさは計り知れない。他の皆は大丈夫だろうか。

 

ふと、部屋に繋がる廊下から足音が聞こえてくる。

扉が開くと、すごい寝癖の小悪魔が目を擦りながらふらふらと入ってきた。

 

とりあえず寝癖を指摘しておく。

すると、小悪魔は

 

小悪魔「しょうがないじゃないですかぁ……ふぁ……昨日ほとんど寝れなかったんですよ……イルさんは…ふあぁ……どうでした……?」

 

「なんでイルと間違えてんだよ。目ぇ大丈夫か?」

 

小悪魔「ふぇ……じゃあザンドさんですね。おはようございます、ザン……ド……さ……。」

 

眠そうにしていた小悪魔の目が少しずつ見開かれていく。

完全に開いた次は、額から首にかけて血色が悪くなっていく。

 

次に口をわなわなと震わせて、恐ろしいものでも見たように後ずさること2歩。

となれば次は

 

 

 

 

 

小悪魔「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

叫び声。正直言ってかなりうるさい。

耳を塞ぐと同時に、アイツが事の説明をしていない事を察し、後でぶん殴ると決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大図書館にて。

 

大きなテーブルを4人が囲み、近くの床に正座している人間が2人。

 

小悪魔「………。」

 

小悪魔は完全に表情が引きつっている。先程から無言の状態である。

 

咲夜「……さて。」

 

ため息をつきながら話を切り出そうとする咲夜。朝だというのに相当の疲れが見て取れた。

 

美鈴「とりあえずは……。」

 

美鈴は状況がよく読めず、苦笑いを浮かべているのみである。

 

パチュリー「何がどうなっているのか説明してもらおうかしらねぇ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───貴方達!!一体それは何の冗談よ!!??」

 

パチュリーの怒号が響く。

正座している2人………イルとザンドはどちらも

 

こいつこんなでかい声出せるんだな

 

などと考えながらパチュリーの話を聞く。

 

 

パチュリー「まずザンド!!貴方どうなってるの!?

え?昨日完全に死んでなかった!?

それがなんで今日何事も無かったかのように顔洗ってんのよ!?」

 

パチュリー「そしてイル!!貴方なんでこんな大事なこと説明しないわけ!!おふざけってのもしていい場面とダメな場面あるでしょうが!!貴方アホ!?」

 

ひとしきり怒鳴ったあと、肩で息をし始める。

叫び過ぎてバテたのだろう。小悪魔が持ってきた水を飲んでいるあいだに、咲夜と美鈴が問い詰める。

 

咲夜「とりあえず何がどうなってるのか説明してちょうだい……朝からストレスよ……。」

 

美鈴「私もちょっとこれは呆れますね……説明、しっかりしてくださいよ?」

 

イル「じゃってさ、ザンド。」

 

ザンド「だってよ、イル。」

 

沈黙。

 

イル「いやあの土壇場でやれっつったのお前さんじゃろ!?そこお前さん説明が常識では!?」

 

ザンド「テメェに大体の部分を任せたオレが説明出来るわけねぇだろ!?」

 

パチュリー「さっさと説明しなさい!!」

 

パチュリーが本を2冊投げる。

 

そのそれぞれの角がイルとザンドの額に直撃し、2人して悶絶し始めた。

 

小悪魔「ほんとに……どうなってるんですか……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イル「まぁ、盛大に誤解を招く言い方をすると蘇生術じゃよね。」

 

ザンド「あぁ。」

 

さらっと説明したイルにパチュリーは絶句した。

動揺した頭をほったらかしてイルに質問を投げかけた。

 

パチュリー「生き返らせたとでも?そんなの禁忌もいいところだわ。」

 

咲夜「というか、そんなこと出来るのでしょうか……?」

 

イル「邪神っつーのは全部においてイレギュラーじゃしなぁ……幻想郷で神皇達がカードになってるのにワシらはこんな姿なのがそれの証明じゃ。」

 

ザンド「やり方としては、機能しなくなった体から魂だけ取り出して体の方を治す、って感じらしい。」

 

美鈴「いや、訳わかりませんけど……。」

 

小悪魔「というか、そんなことしていいんですかね……?」

 

イル「そんなのお前さん達の一般常識じゃろ?死んだ奴を生き返らせたりどうやっても死ぬ奴を完治させたりとか別にデメリットないんじゃし。」

 

ザンド「オメーら忘れてっかもしんねぇが、オレ達は邪神。異端のアルティメットであり、悪の権化の1つ。そっちとこっちじゃ価値観とかも多少は違うだろうよ。」

 

パチュリー「……納得いかないわ。」

 

ザンド「パチュリーは硬ぇなぁ。もうちっと雑な考え方しようぜ?」

 

小悪魔「そうは言っても……。」

 

イル「はい、この話終わり。」

 

咲夜「ちょっと、イル。勝手に終わらせないでちょうだい。」

 

イル「どの道これ以上ワシらは話さんよ。ワシらだからやれる事じゃが、お前さんらまでやり始めるのはダメじゃ。」

 

美鈴「それは……ウロヴォリアスさんの事ですか?」

 

イルとザンドは答えなかった。恐らく無言の肯定だろう。

 

パチュリー「……もういいわ。この件に関してはもう触れない。」

 

パチュリーがもう面倒と言わんばかりに話を切った。

 

ザンド「そういやレミリアは?大丈夫なのか?」

 

ザンドがその話をした瞬間、場の雰囲気が沈んだ。

 

ザンド「?」

 

美鈴「その、お嬢様は……。」

 

イル「まだ起きとらん。」

 

ザンド「何?」

 

パチュリー「診た結果、もうすぐ起きるとは思うけど……今日か明日か、その辺りはなんとも……。」

 

ザンド「………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───少しアイツの部屋に行ってくる。1人でな。

 

イル「……はて、あいつは何をしにいったんじゃか……。」

 

美鈴「珍しく真面目な顔でしたからね……。」

 

小悪魔「……もし、目覚めたら…お嬢様、大丈夫でしょうか……。」

 

咲夜「……大丈夫、と、思いたいけど……。」

 

その後は誰も続けなかった。

もしレミリアが目覚め、現実を目の当たりにして自棄になってしまうのではないか。

全員がそれを案じていた。

 

パチュリー「……ザンドが部屋に行った時に起きていたら、彼に任せるしかないわね……。」

 

パチュリー「……私、部屋に戻るわ。イル、ちょっと着いてきて。」

 

イル「ん?いいぞー。」

 

そう言うと、パチュリーとイルは並ぶ本棚の奥に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イル「んで、どしたんじゃ?いきなり。」

 

パチュリー「……。」

 

イル「?」

 

パチュリーは突然振り返ると、ため息をついて口を開いた。

 

パチュリー「……二度と。」

 

イル「?」

 

パチュリー「二度と私達に変な隠し事をしないで。」

 

イル「……。」

 

パチュリー「……いい?」

 

パチュリーの問いからイルはしばらくパチュリーを見据えていた。

およそ10秒か。

 

イル「……驚かせて緊張をほぐしてやろうと思った、って言い訳は聞いてくれんかの?」

 

パチュリー「できないわね。むしろ疲れただけだったわ。」

 

イル「ははは、手厳しいのう……。まぁ、今回はワシが悪いしな。すまんかったよ。」

 

パチュリー「……分かればいいわ。」

 

イル「でも、それならわざわざ2人にする意味ないんじゃないかの?むしろあそこで言った方が良かったんじゃ?」

 

パチュリー「……それは。」

 

パチュリー「………なんとなくよ。なんとなく。」

 

そう言うと、パチュリーは足早に自室に戻っていった。

 

イル「………。」

 

残されたイルは少しの間そこに留まっていたが、しばらくして少し笑って、また先程の場所に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……海に沈んでいく感覚がした。

 

フランもウロヴォリアスも。

 

全部にアイツが奪っていった。

 

悲しい、等とは感じない。

 

ただひたすらに許せない。

 

私は、まだ戦わなきゃならない。

 

ウロヴォリアスが居なくとも、まだ。

 

せめて──フランだけは。

 

 

そう思い、水面に上っていく。

 

夢の中だからだろうか、行こうと思うだけで進むことが出来た。

 

もう数センチ。

 

そして、水面から顔を出して───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───なんだ、起きてたか。」

 

目が覚めると、声が聞こえた。扉の方を向くと、あの生意気な従者の声が。

 

ザンド「オレは配慮とか分かんねぇから色々ひっくるめて聞くが──大丈夫か?」

 

随分とストレートに聞くものだ。

 

だが、頭は冷静に言葉を選ぶ。心の方は今にも煮えくり返ってもおかしくはないが。

 

レミリア「……フランは。」

 

ザンド「連れてかれた。表現がこれであってるかは分からんがな。」

 

レミリア「………。」

 

その次の言葉を聞こうとしたが、ザンドの目を見ると

 

ザンド「………。」

 

言わせるなとばかりの目をしていた。

 

あぁ、知りたいことは全てわかった。

 

レミリア「……許さない。」

 

ザンド「……。」

 

レミリア「あのふざけた虚神とかいう奴を。そして何も出来なかった私を。」

 

レミリア「この戦いを、私にとって完全な形で終わらせるまで……許さない。何も……!!」

 

ザンド「……アイツが居ないとしてもか?」

 

レミリア「無論だ……それが私の責任だ……!!」

 

声を震わせてそう言うと、ザンドは低く笑って、こちらに歩いてくる。

 

ザンド「ダメになってたらどうしたもんかと思ったが、まぁ大丈夫そうだな。」

 

ザンド「戦いに落ち込む暇は無い。怒りでも憎悪でも、戦う動機があればいい。ないなら死ぬだけだ。」

 

レミリア「慰める気は微塵もない、と?」

 

ザンド「当然。オレに限らず、他の四魔卿も邪神皇もそうするだろうさ。」

 

ザンド「怪我どうにかしたら次は空いた戦力の穴埋めだ。感傷に浸る暇は与えねぇ。」

 

レミリア「上等だ……あの愚か者がした事の重さを思い知らせてやる!!」

 

ザンド「いいねぇ…………オレも、手伝ってやろうじゃねぇの。」

 

 

 

紅魔館に、2つの紅い炎が燃える。

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