天狗の集落の中のある建物、そのまたある一室。
お世辞にも広いとは言えない部屋には、中央に机1つと椅子2つ。
入口の側に机と椅子が1つずつ。
まるで取調室だ。実際にそうなのだが。
ヴァン「あれからどのくらいだろ……はぁ………暇ぁ………。」
ヴァンディールは中央の机に突っ伏していた。
お察しの通り、あの後この部屋に連れてこられたのである。
ヴァン「はぁ……お腹も空いたし……早く来て……。」
そんな事を言っていると入口の扉が開いて、中に人……もとい2人の天狗が入ってきた。
「お待たせしました……おや、随分とお疲れの様子で。」
先に入って来たのは、ヴァンを追いかけていた天狗の中には居なかった黒髪の天狗だった。
黒い羽、尻尾がない、など先程の彼らとは違う種族なのが分かる。
もう一方はさっきも見た『椛』と呼ばれていた少女。
数枚の紙と筆記具を持っているのを見ると、どうやら取調をされるらしい。
ヴァン「……取調……って感じかな?」
「その通りです。察しのよろしいことで。私は『射命丸文』、鴉天狗です。そしてあちらの彼女は『犬走椛』、白狼天狗です。」
文は自分と椛の自己紹介を終えると、ヴァンと向かい合う形で座った。
文「では始めましょうか。まずお名前と種族をお伺いしても?」
ヴァン「僕は『ヴァンディール』、長いから『ヴァン』でいいよ。種族は……って、種族まで聞く必要ある?」
文「まあ、一応ということで。」
ヴァン「そっか……うーん………種族かぁ……。」
頭を抱えるヴァン。それに文は少し不思議そうな顔をする。
文「ご自分の種族を把握されていない、と?」
ヴァン「そうじゃないんだけど……まあ、いいか。種族は邪神。出身はグラン・ロロだよ。」
文「なるほど……グラン・ロロですか……。幻想郷にもグラン・ロロ出身の方は居ますが、人の姿でこちらに来る方は初めてですね。」
ヴァンは文が何気なく言った言葉に食いついたのか、身を乗り出して文に問いかける。
ヴァン「僕以外にもいるの!?名前は!?どこにいるの!?」
文「い、いきなり食いつきましたね……。『神皇』を名乗るスピリットが約2名ほど確認されています。」
ヴァン「なんだ……アイツらか。いきなりゴメンね。続けて。」
文「いきなり冷めましたね……では次に。妖怪の山に侵入した目的は?」
ヴァン「目的っていうか、気がついたらここに居て………それで天狗さん達に見つかって逃げてたら、途中でそれが楽しくなっちゃってね……。」
『てへっ』というように舌を出しておどけるヴァン。文の『子供ですか』というツッコミに苦笑いする他無かった。
文「じゃあ次は……先程の赤い竜、あの竜との面識は?」
ヴァン「僕は見覚えないね。向こうは僕を知ってたっぽいけど、なんで知ってたのかもさっぱり。」
文「ふむふむ……あの竜とは初対面、と。」
首を縦に振って同意するヴァン。すると、文は『では最後に』、と言って質問した。
文「ヴァンさん、これからどうされるおつもりですか?」
ヴァン「……え?」
質問の意味が分からず困惑するヴァン。脇で記録をとっていた椛は意味が分かったのか、抗議するような口調で口を挟む。
椛「文様……流石にそれは……。」
文「私は大丈夫だと思いますけどね?確かに撹乱されたのは事実ですが、あの竜を追い払ったのが彼と言うのも同じく事実ですし。」
椛「ですが……。」
文「それに他の天狗達の報告を聞くに、一瞬で色々な場所に移動していたと聞きます。それなら貴方達の懲戒任務の助けにもなるのではないですか?」
しばらく2人のあいだに沈黙が流れる。ヴァンは未だによく分かってないような顔をしている。
そして、椛がジト目で口を開いた。
椛「……本音は?」
文「新しくやってきた新聞のネタを逃したくないです。」
椛「やっぱりそれじゃないですか……。」
呆れる椛に『まあ、性分ですから』とヘラっとした物言いをする文。
ヴァン「え、つまりどういうこと?」
文「こう見えて私、天狗の中では結構立場が上でして。なので私が口添えしてヴァンさんに衣食住を提供できるようにする、ということです。」
文「もちろん、それなりに仕事はしてもらいますが。」
ヴァン「!……いや、でも……いいの……?」
文「構いませんよ。ただし後日取材に伺わせて頂くという条件付きですが。」
ヴァン「全然大丈夫だよ!ありがとう!」
椛「はぁ……全く……。」
文「そうと決まれば善は急げですね。上に提案しに行きましょうか。ヴァンさんもご同行よろしいですか?」
ヴァン「はーい。」
呆れてる椛を他所に、二人の間で勝手に話が進んでおり、椛が記録を片付け終わる頃にはもう二人共部屋を出てしまっていた。
椛「全く文様は……。」
ため息をつきながら、椛も後を追った。
あれから数刻、現在の時刻は夕方頃か。結論としては、ヴァンは天狗の集落に住むことを許可された。許可されたのだが───
椛「──どうして私の家なんですか!!!」
現在椛の自宅にいるヴァン、文、椛。
居住は許可されたのだが、肝心の家の空きが無く、監視の意味も含めて椛の家に居候することになった。
文「いやー…まさか空きがないとは予想外でしたねー。まあこういうのも引越しの醍醐味ということで。」
椛「醍醐味もへったくれもありませんし何より引越しですらありませんから!!」
思いきり抗議する椛と、それにたじろぐ文。ヴァンはそれを見ながら
ヴァン(椛さん毎日こんな感じで疲れてるんだろうな……。)
などと考えていた。今日の椛の疲れの原因が自分にもあるのを知っているのか否かは分からないが。
文「ま、まあまあいいじゃないないですか。この状況で彼を放り投げても後味悪いですし、男子が一緒に居るってだけで毎日楽しくあぁいひゃいいひゃいいひゃい!!!」
文が言い訳からからかいにシフトしようとしたところを、椛に左右の頬をおもいきりひっぱられて悲鳴をあげる。
椛の攻撃から脱出した文が、慌てた様子で2人に告げる。
文「じゃあそういう事で、私はこれからやる事あるので!ヴァンさんは後日また取材に来ますねー!!」
そう言ってとてつもない速さで飛んでいった。
椛「はぁ……もう……。」
椛が長いため息をついていると、ヴァンから声がかけられる。
ヴァン「あ、あの………椛…さん……?」
椛「……なんですか?」
ヴァン「……なんか、色々とごめんなさい……でも、なるべく迷惑にならないように迷惑かけないようにするから……ええと……」
後半少しおかしい文面になり、オドオドしだす。
椛はそれを見て少し吹き出した。
ヴァン「ど、どしたの?」
椛「いえ、何も。先程はああ言いましたが、特に嫌という事もありませんので。お気になさらず。よろしくお願いします。」
椛が笑顔でそう言うと、ヴァンがほっとした表情で
ヴァン「そ、そっか……よかったぁ……これからよろしくね。」
風の四魔卿、天狗社会に片足を突っ込む。
──幻想郷、そのどこでもない何処か。
光もほとんど届いておらず、目の良くない者はまともに足元も見えないだろう。
その中を赤い竜──ダイノブライザーが歩いていた。
ダイノ「少シアブナカッタナ……スクイ上ゲラレナケレバ殺ラレテイタ……。」
「……帰ってきたか。死んではないようだな。」
ダイノの前方から声が届く。姿形は確認できないが、複数ではないのは感じ取れた。
ダイノ「スマナイ……マサカ負ケルトハ……。」
「仕方ないな。相手の方が1枚上手だったということ。別段言及はしない。」
ダイノ「アリガタイ……奴ラハ?」
「幻想郷を調査させてるよ。何処にどんな奴が居るとか、把握しといて損ないからな。」
声の主がダイノの方に歩いてくる。目の前で止まると、ダイノの足に触れた。
「休むならその姿が丁度いいだろ。」
ダイノ「……アァ…。」
気がつくと、ダイノは竜ではなく人になっていた。ザンドのそれとはまた違う赤色の髪をした男だ。
「しばしの休息を命ず。気に備えよ。」
声の主がそう言うと、ダイノはその主の居た所の先に歩いていった。
「もうこれで退路なし……毒を食らわば皿まで、ってやつだな。」
声の主は誰にというわけでもなく呟いた。