明治の向こう   作:畳廿畳

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連・日・投・稿!



では、どうぞ








10話 明治流漫 其の弐

 

 

 

 

 

観柳邸を離れてから暫くして。

通りの角を曲がり、人目が無いことを確認すると

 

 

「……ッ、ぶはあぁぁ~!」

 

 

出来た、終わった、切り抜けた!

やってやったぜ、コンチクショー!

 

どっと肩から力が抜けて、大きな息が肺から溢れた。

 

話してる最中なんて胃が痛くて痛くて、吐きそうで仕方なかったよ。

周りの護衛なんか得物に手ェ掛けてるし、親玉の観柳なんて人を人として見てない目だし。

 

ホントなんなのあの館の住民どもは。

言葉一つ間違えてたら即殺しに掛かってきてたよ絶対。

 

観柳の言葉遮った時なんて、自分がしたことなのに心臓が縮み上がったわ。

ついでにあそこも縮み上がったわ。

そんな状態で不敵な感じを演出し続けるのって物凄く大変なのね。

平成の世で某悪徳刑事もののドラマ見てて良かったわ。

 

でも、それも終わった。

原作知識と入念の準備で、なんとか上手く事が運んだ。

初っぱなから躓いたらシャレにならんからな、マヂで肩の荷がスッと降りたよ。

 

とはいえ、まだまだ気は抜けない。

このまま時が過ぎれば原作が始まるから、それまでに奴を利用して色々と準備しなきゃならん。

貰える物は徹底して貰う。

 

骨の髄まで齧り尽くしてやる。

 

 

 

え?政界への癒着の援助?

 

当然するよ、だってしなきゃ見返りが貰えないんだもん。

回転式機関銃(ガトリング・ガン)とか超欲しいし。

車とか絶対に必要だし。

 

俺はあくまで場をセッティングするだけ。

ヤクにしろ西洋火器にしろ、それを欲するかはその人の心次第。

誘惑に抗えないような奴なぞ、遅かれ早かれいずれ不正を行うような輩なのだ(暴論)。

 

 

 

っと、他愛の無いことを考えていたらもう着いたようだ。

 

 

「ただいま帰りました」

 

「おぉ、お帰りなさい。夜中見廻り御苦労様でした」

 

 

出迎えてくれたのは、人の好さそうなチョビ髭丸眼鏡の署長こと浦村さん。

 

何を隠そう、此処は浦村さん一家の御宅で、俺は此処に住まわせてもらっているのだ。

 

 

「お帰りなさいまし。お勤め御苦労様でした。早速、御夕飯召し上がりますか?」

 

 

奥さんも玄関まで来てくれた。

 

この二人、血の繋がり無いのに超似てる。

眼鏡とか細目とか物腰とか。

なんなら兄妹じゃね?と思うほどに。

 

最初二人を見て笑いそうになったのは今でも内緒だ。

 

それはともかく、この二人には良くしてもらっている。

もう足を向けて寝れないほどに。

 

俺を薩摩から引っ張ってきて、あれよこれよと面倒を見てくれて、ちゃっかりと官職にまで就かせてくれたのだ(元敵兵を警察にするとか案外出来るもんなの?俺然り、斎藤然り、志々雄一派しかり。今でも謎だ)。

 

署長は警察になっても暇を見ては声を掛けに来てくれたし、奥さんは帰ってくれば温かい料理を作ってくれていて「おかえりなさい」と言ってくれるのだ。

 

 

全裸になって東京府中を走って廻れと言われても断れない。

なんなら逆立ちで廻れるレベル。

 

 

「ありがとうございます御母堂。早速頂戴します」

 

 

快諾してくれた奥方様が台所に向かうと、俺はいったん自室に行って着替えを済ます。

この世界で標準の黒い警服を脱ぎ、中のカッターシャツ擬きも脱いで一緒に吊るす。

その後、灰色の単の和服に身を包み、背中と服に挟まった長い髪を服から出すようにふわりと払ってから居間へと向かった。

 

居間には既に署長が座っていて、いつも通り向かい合うように腰を下ろすと、署長が尋ねてきた。

 

 

「それで、どうでした?武田観柳は」

 

「警察を目の敵にしている、とまではいかないですが、それでも警戒感が強いですね。今日もやっとこさ話ができた程度です」

 

「ふぅむ。個人的な友宜を結ぶには大分掛かりそうですか」

 

「逆に言えば、警戒するだけの何かが彼に有るということです。信頼を得られれば、直ぐにでも尻尾を掴めるでしょう」

 

「そうですね。まだ接触したばかりだ。ゆっくりと着実に彼の信を得ていってください。くれぐれも、警察であることはバレないようにね」

 

「はい。必ずや、動かぬ証拠を突き止めてみせます」

 

 

と、まぁこんな感じに俺は俺のしている事を伏せる。

嘘を言ってるわけじゃないから。

実際、奴が阿片を取り扱っている証拠は無いし、密売の現場も抑えていない。

奴の実態は原作知識で知っているけど、敢えてそれを説明することもしない。

 

 

だって仮にしたところで、警察は決して動かないのだから。

 

 

何故なら奴を捕まえれば日本経済に少なくない影響が生じる。

世界に名が知れ始めた初の日本人実業家が、汚職で逮捕など本来ならあってほしくない事態らしい。

官職の多くの人が、奴を捕まえることによるデメリットよりも野放しにするデメリットを選択しているのだ。

 

なんて、ふざけた事態が起きているからこそ、俺に白羽の矢が立ったのだ。

俺なら逮捕に失敗しても、経歴や外聞や外見が突出して異端だから、警察組織は俺を蜥蜴の尻尾切りで済ませようとするだろう、と。

 

尚のことふざけた話だが、まぁ事実だから仕方無い。

蜥蜴の尻尾になるつもりなんて毛頭ないから、ああやって俺にも美味しい話を抱き込んだわけなのだが。

 

 

ちなみに本来、観柳との接触時には変装するよう言われ、書生用の服装とカツラ、変装用の眼鏡と帽子等々を預かっているのだが、生憎と身に付けたことなどない。

 

警官の格好で突入しましたが、なにか?(ドヤァ)

 

 

……まぁ変装しなかった理由の半分は個人的な目的故なんだが、もう半分は意味がないと悟ったからだ。

奴の情報網は結構バカにならないから、変装など直ぐにバレるだろうと判断したのだ。

 

その点、上層部は観柳を甘く見すぎているきらいがある。

 

 

なんて事を浦村さんに話すことはせず、当たり障りのない話をしていると奥さんが食事を持って居間に入ってきた。

その後ろには手伝いをしている御息女がいる。

 

 

毎度のことながら……スゴく似てます。

 

ホントこの一家、髪型以外は瓜二つだな。

 

つまり署長も髪をパンチマーマからロングにすれば娘さんと同じ……アカン。

流石に似てないし、想像して気持ち悪くなった。

 

 

「さて、もう夕食だ。仕事の話は終わりにして、頂きましょう」

 

「はい……スミマセンでした」

 

「? さぁさぁ、お待たせしました。ほら、冴子も座って」

 

「……はい」

 

 

四人が車座に座って食卓を囲む。

俺の右手側には娘さんが座り、正面は変わらずに署長だ。

皆で手を合わせて挨拶をする。

 

 

「いただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

 

箸を手に取り、焼き魚の身を掬って口に運ぶ。

 

はぁ、旨い。

 

現代じゃ想像つかないけど、やっぱり東京は水の都なんだなぁ。

埋め立てられてない綺麗な東京湾の恩恵を海の幸として享受できるとは、いやはや生食文化が流行るわけだ。

 

うんうん、寿司はいいよねぇ。

出店であるらしいけど、今度探してみよう。

この時代の寿司は平成と大分違うんだろうなぁ。

それはそれで楽しめそうだけど、衛生面がちょっと不安かも……でも一度は食べてみたいものだ。

 

 

 

……うん

 

 

現実逃避は、もういいか。

 

右半身がチリチリと熱い。

 

娘さんの警戒心が空気を伝って肌に刺さる。

 

 

「……」

 

「…………」

 

「冴子。学校はどうだい?新しい友達も出来たかい?」

 

「……私、前の学校の方がよかったわ」

 

「そんなこと言わないで。新しい学校もいい所でしょ?」

 

「やっと女学校に行けるようになったのに、誰かさんの所為で急に潰れて師範学校行きだもの。仲良かった皆が来れなくなって、馴染めるわけないわ」

 

「ぅ……」

 

 

冷えた瞳でチラと此方を見て、胸に刺さることを仰る。

 

御息女の言葉は、至って真実なのだ。

 

西南戦争を含めて、明治初期に頻発した旧士族の反乱を鎮圧するため、明治政府は何度も国民を徴兵し、そして軍として派遣した。

その所為でかなりの財政難に陥ってしまい、維新後に設立された国営の学校は軒並み閉鎖されてしまった。

 

冴子嬢が通っていた東京女学校もその例に漏れず、敢えなく閉鎖されたのだ。

そこの生徒は、残った数少ない学校である東京女子師範学校に通うこととなったのだ。

だが如何せん距離と費用の問題から移れる学生は限られてしまい、仲の良かった学友とも離ればなれになってしまったのだ。

 

 

俺が戦争に参加して、その戦争が彼女の人生を変えたのは事実だから仕方ないけど……

毎晩食卓を囲む度に嫌味の一つ二つを言われるのは堪える。

 

 

「冴子。気持ちは分かるが、それを十徳くんにぶつけるのは筋違いだよ。彼は戦争に参加したけど、戦争を指導したわけじゃないんだから」

 

「多くのお父さんの仲間を殺したのに、一つ間違えればお父さんも殺されたかもしれないのに、それでも関係は無いの?」

 

「難しい事を言うようだけどね、内乱に参加した人たちを皆罰していたら、それこそ新政府がひっくり返る程の内乱が起きてしまうんだ。大目に見る事も大事なんだよ」

 

「じゃあ家に住まわせる理由はなんなの?大目も度が過ぎるんじゃなくて?」

 

「冴子……」

 

「もうお腹いっぱい。御馳走様でした」

 

 

半分ほどの御飯を残して、御息女は席を立って部屋に戻っていった。

 

 

「はぁ……毎度毎度スミマセン、十徳くん。あの娘も頭では君を理解しているんだけど、心の整理が追い付かないのか」

 

「いえ、私はぜんぜん気にしてません。それよりも、やっぱり私は官舎に住んだ方がよいのでは……」

 

「それはダメですよ、貴方は夫の命の恩人なんたから。一人で暮らされたら恩返しが出来ないのですもの」

 

「ですが……」

 

「急ぐ必要は無いですよ。娘との仲も、ゆっくりと結んでいってください」

 

 

ここから出ると言っても、やんわりと断られる。

いつものパターンだ。

ホントにこの夫婦は人が好すぎる。

 

とはいえ、御息女との仲か……

居心地の悪い夕食を頂くぐらいなら、仲を進展させて解消したい。

けど、あのツンケンした様子から見るに、出来る気がしないよな。

 

 

溜め息を一つ飲み込み、俺は冷えてしまった夕食を再び食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものように御息女から心を削られる夕食を済ませた俺は、縁側に座って夜空を見上げていた。

傍らには銘柄も分からないポン酒とポン刀。

 

旨くはないが不味くもないそれを、鈴虫の音と星空を肴に御猪口でチビチビと飲む。

空気も汚れておらず、町明かりも少ないため、見上げる星々は美しく映えていて、その中に凛と在る半月は幻想的ですらあった。

 

一方、空いてる手では結わずに腰まで延びてる己の銀の髪を弄る。

別段手入れなどしていないのだが、この髪は我ながら触り心地がいい。

少しばかりのリフレッシュ効果がある。

 

 

 

それにしても、毎晩の事とはいえ、あんなに警戒心剥き出しにされるのは辛いなぁ。

 

……いや、あれが普通の対応だよな。

御夫婦が優しすぎるだけで、普通なら親を殺す側にいた元敵兵を同じ屋根の下に迎い入れるなんて許容できるハズもない。

 

かといって此処から出ていく事も出来ない。

 

それは、ただ御夫婦が家に居てほしいと言ってくれるから、ではない。

もちろんそれもあるが、大事なのはそこじゃない。

もっと切実な理由で、俺は御夫婦の温情に付け込んで此処に住まわせてもらっているのだ。

 

 

でも、今日も今日とてその原因は起きないようだ。

 

 

徳利の隣に置いてあるポン刀を、また今日も使わずに済んだ。

 

それが分かっただけでも、今日は目っけ物だ。

 

 

 

 

溜め息を吐いてゆっくりと目を閉じた俺は、徒然と虫の音に耳を傾け続ける。

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

 

すこし、物語りをしようか。

 

 

 

 

一人の男の、一つの時代を駆け抜けようとした、とてもつまらない話だ。

 

 

彼は、歴史に名を残すほど高名でもなければ、指揮官クラスの高位な人だったわけでもなく、さりとてただの一兵士でもない、少しだけ名前と容貌が味方に知れ渡っていた、一人の反乱軍兵士だった。

 

外見も思想も先見性も異端で、反乱軍のなかでも当初よく浮いていた彼は、しかしその聡明な思考で自分らが起こす反乱の帰結を見てしまった。

 

この反乱は、いずれ敗北に終わる。

このまま戦えば、多くの仲間たちが死ぬだろう、と。

 

最初はよく喧嘩していたけど、いつしか仲良くなった仲間たちをみすみす死なす事など、彼にするつもりはない……その思いに嘘はなかった。

 

 

なかったけど

 

彼は反乱を止めようと動くことは、ついぞなかった。

 

 

この負けが見えた戦争は、反乱軍にとって無意味なのは確かだった。

もとより、反乱軍の勝利は、敵政府軍の撃滅か、敵首都への直撃しかない。

だが兵員も物資も敵政府軍の方が潤沢で、その規模は比べれば莫大。

ましてや首都までの道程を進軍するなど、とても現実的ではなかった。

 

海上輸送もまた、言うに及ばなかった。

仮に首都を襲撃し、その政府機能を崩壊させたとしても、あくまで出来るのは破壊。

その後の政権運営など、机上の空論すら無かった。

 

だから、始めから勝てないような戦争なのだ。

彼がそれを悟るのに、たいして時間は掛からなかった。

 

そして一方で、もう一つの事実に彼は気が付いた。

 

自分たち反乱勢力は、居てはいけないのだと。

 

皮肉かな、彼は己に宿る郷土愛と同じくらいにまた、愛国心もあったのだ。

近代日本が花開き、西欧列強に立ち向かうためには斯様な争いはすべきではないと思っていた。

 

そして、この戦いをもって、自分たちのような国家に属さない優れた戦闘集団は、滅ぶべきなのかもしれないと考えた。

 

考えて、しまった。

 

惜しむらくは、彼に相談相手が居なかったことか。

その悪魔的で、大局的で、個人を無視した考えを誰に話すこともできず、ずっと胸の内にしまっていた。

 

そして苦悩し、葛藤する。

この考えは、いけない、と。

これは悪魔の囁きだ、と。

だけど、考えれば考えるほど、その蠱惑的な思考を裏付ける思いに囚われてしまうようになってしまっていった。

 

失わせてはならない大切な仲間、されどその命を失うことにより得られる国益を、見てしまったのだ。

 

 

戦ってはダメだ。

立ち上がってはダメだ。

 

だけど、なくてはならない戦いなのかもしれない。

起きるべくして起きる戦いなのかもしれない。

 

戦争の近づく足音が次第に大きくなり、周りの人たちからの血気盛んな声も大きくなっていくなか、脱しようのないジレンマに陥っていた彼の心は、次第に疲弊していった。

 

その心労は、いかばかりか。

 

想像はできよう、共感もできよう。

もし身近に居たならば、その心情を慮ることもできるだろう。

 

だが、結局そのような者は誰もおらず、孤独だった彼は答えを導き出すことついに叶わず、一ヶ月の飲食を受け付けなかった結果……

 

 

 

生死の境をさ迷うほどに、暗く深い昏睡へと堕ちていった。

 

 

 

 

そこで、夢を見た。

 

 

 

一生忘れることのできない夢……いや、もしかしたらその夢こそが、自分が生きている本当の世界であり、そこにいた自分が見ている夢が、今までの薩摩での生だったのではとすら思った。

 

 

 

そう思えるほどに現実的で、妙に馴染んだ世界だったのだから。

 

その夢の世界は、きっと今の西欧文明すら凌駕するほどに圧倒的で、とても未来的だった。

 

 

 

 

眼前に広がるは、整備された道と、空を見上げんばかりに聳え立つ幾つもの高層建築物。

洋装に身を包んだ大量の人、人、人。

なんの労もなく勝手に進む摩訶不思議で多種多様な乗り物。

なかには視界に収まりきらないほどに馬鹿デカイものもあり、それらが人を乗せて高速で地上を、地中を走り回っている。

あまつさえ、空を行き交う物すらある。

 

驚くべきは、そこは自分がかつて居た世界と同じ日の丸を掲げている国だったということ。

 

 

そこにいる()()は、そんな未来の日の本に産まれたのだ。

 

 

両親の厳しくも暖かい愛情に支えられて、自分は幸せに生き、成長していった。

愛すべき伴侶を見つけ、溺愛する子らをもらい、大切な家族の為にと身を粉にして働いた。

やがて子らも家を発ち、自らも老い、脈々と受け継がれる子孫に思いを馳せながら、時には孫とも戯れ、残りの余生を全うした。

 

そして、長いようで短かった己の生も、やがて幕を下ろした。

 

 

何てことはない、いつの時代のどこ世界のどこの国にも、ごくごくありふれた普通の生だった。

 

本当に、ただの普通(しあわせ)の生だった。

その生に悔いは無かった。

今際の際に、自分は満足していたのだから、その思いに嘘はなかった。

 

 

 

そんな(じんせい)を終え、意識が段々と覚醒していく感覚に襲われるなか、満たされた心のままに一つだけ、ふと思った。

 

否、願った。

 

 

 

もしかしたら、此方の世の自分なら、彼方の世の己を託せるのではないかと。

 

 

それは、独善的で、此方の自分からしたら迷惑極まりない話だろう。

彼自身ですら、これは逃げだろうとすら思った。

 

 

だけど

 

 

例え、彼方の自分が戦闘のせの字も知らないままに生を終えたもやしっ子だったとしても。

 

例え、戦争の渦中になるであろう世界に来ようものなら、ただの動く的にしかならないとしても。

 

例え、いきなり体をすげ替えられて世も飛ばされるという、ふざけた事実を突き付けられたとしても。

 

此方の自分なら、否、此方の自分だからこそ、今の自分を上手く使ってくれる。

 

 

彼はそんな確信を抱き、そして願い続けた。

 

 

 

どうか神様、この願いを聞いてくれ。

 

 

この不甲斐ない自分では、()()を上手く使えなかった。

 

勝手に苦悩し、磨耗し、磨り減っていった無様な自分に代わって。

此方の自分ならきっと上手く使ってくれる。

 

この不出来で欠点だらけの身体を貸したい。

この命をもう一人の若かりし頃の自分に預けたい。

 

さすればきっと、薩摩にも、日の本にも、大きな光明となるから。

 

弱くて、甘くて、(ぬる)くて、泣き虫で、お人好しで。

それなのに、自分なんかよりも太く強い心を持つ彼に、全てを託したい。

 

 

 

どうか神様、この願いを聞いてくれ。

 

 

 

 

どうか……どうか…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして

 

 

 

 

深い眠りから()が目覚めたとき、狩生十徳という男の心には、青崎真世という男の心が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、そんなつまらない話。

 

 

 

 

 

 

 

違うようで同じ人間である、狩生十徳(あおざきまよ)の、明治を駆け抜ける物語。

 

 

 

 

 

 

 








署長の御息女の名前は勝手に決めました

本来の名前を知らないんですが、なんなのでしょうか



なお、彼女はヒロイン二番目候補です



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